中国
2018.01.30
これは、昨年12月18日に起こった、中国軍機による日本と韓国の防空識別圏への進入に引き続く問題行動であった。
また、1月11日には、中国海軍の潜水艦と艦艇が尖閣諸島周辺の日本の接続水域に入った。小野寺防衛相が、「両艦が同時に尖閣の接続水域を航行するのを確認したのは初めて」と述べた悪質な行動であった。
29日の中国軍機の飛行をどう見るか。
中国軍機の飛行をモニターしていた日本の航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させた。これは中国軍機の飛行が我が国に対して脅威でないことを確かめることが目的であった。中国やロシアの軍機が日本の防空識別圏へ進入するのはこれまでに何回もあったことである。
中国機が日本海に飛行するのは国際法的には問題ないが、友好的な行動ではない。
また、今回の飛行は、河野外相が李克強中国首相および王毅外相と会談した日(1月28日)の翌日のことであり、微妙なタイミングであった。この二つの出来事が関連している証拠はないが、これまでの中国軍の行動から推測して、日本との関係改善をけん制しようとした可能性は排除できない。
なお、日本では、政府がそのような重要な会談を行っているときに、自衛隊機が相手方の嫌がる飛行をすることはあり得ない。
当研究所は、1月15日、「中国は日本に何をしようとしているのか」と題して、中国海軍はなぜ問題の行動に出たのか。台湾問題と関連があるかもしれないという仮説を交えて論評した。今回の飛行は台湾問題と関連はなさそうだが、中国軍が政府とどのような関係にあり、どのような行動をとろうとしているかは、今後も引き続き注目すべきであろう。
なお、日本では、北朝鮮に関しては、指導者の発言や軍の行動を事細かく取り上げ、かつ、その背景にある政治的意図を探ろうとする傾向があるが、中国軍については、政治的意図の推測はほとんど行われない。今回の飛行の報道も事実関係中心の、たんたんとしたものであった。
しかし、中国軍の非友好的行動はまけずおとらず危険なものである。
中国軍機による我が国の防空識別圏への進入
中国軍機が1月29日、対馬海峡を北上して日本海に入った後、折り返して東シナ海方面へ飛び去った。機種はY9情報収集機。日本の領空には侵入しなかったが、日韓両国それぞれの防空識別圏内を飛行した。これは、昨年12月18日に起こった、中国軍機による日本と韓国の防空識別圏への進入に引き続く問題行動であった。
また、1月11日には、中国海軍の潜水艦と艦艇が尖閣諸島周辺の日本の接続水域に入った。小野寺防衛相が、「両艦が同時に尖閣の接続水域を航行するのを確認したのは初めて」と述べた悪質な行動であった。
29日の中国軍機の飛行をどう見るか。
中国軍機の飛行をモニターしていた日本の航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させた。これは中国軍機の飛行が我が国に対して脅威でないことを確かめることが目的であった。中国やロシアの軍機が日本の防空識別圏へ進入するのはこれまでに何回もあったことである。
中国機が日本海に飛行するのは国際法的には問題ないが、友好的な行動ではない。
また、今回の飛行は、河野外相が李克強中国首相および王毅外相と会談した日(1月28日)の翌日のことであり、微妙なタイミングであった。この二つの出来事が関連している証拠はないが、これまでの中国軍の行動から推測して、日本との関係改善をけん制しようとした可能性は排除できない。
なお、日本では、政府がそのような重要な会談を行っているときに、自衛隊機が相手方の嫌がる飛行をすることはあり得ない。
当研究所は、1月15日、「中国は日本に何をしようとしているのか」と題して、中国海軍はなぜ問題の行動に出たのか。台湾問題と関連があるかもしれないという仮説を交えて論評した。今回の飛行は台湾問題と関連はなさそうだが、中国軍が政府とどのような関係にあり、どのような行動をとろうとしているかは、今後も引き続き注目すべきであろう。
なお、日本では、北朝鮮に関しては、指導者の発言や軍の行動を事細かく取り上げ、かつ、その背景にある政治的意図を探ろうとする傾向があるが、中国軍については、政治的意図の推測はほとんど行われない。今回の飛行の報道も事実関係中心の、たんたんとしたものであった。
しかし、中国軍の非友好的行動はまけずおとらず危険なものである。
2018.01.23
これに対し、中国政府は、これまで通り強く反発したが、在米の中国語新聞『多維新聞』(1月22日付)は以下のような論評を行っている。内容から推測して中国軍から分析資料の提供を受ける一方、米軍にも取材した結果だと思われる。
「米海軍はトランプ大統領の就任前(2月中)に、航行の自由作戦の実施を申請したが、国防省は許可しなかった。
トランプ大統領就任後の4月に、米海軍は改めて許可を求めたが、国防省はこの時も拒否した。国防省は航行の自由作戦の実行状況の公表方法を変え、1年間を通しての報告に切り替えようとしていたとも言われていた。
しかし、この方針はすぐに元へ戻った。5月には米艦がスプラトリー諸島ミスチーフ礁の12カイリ内を航行した。7月には日本を基地とするミサイル駆逐艦がパラセル諸島の12カイリ内を航行した。米艦は8月にもスプラトリー諸島ミスチーフ礁付近を航行した。さらに10月にもパラセル諸島付近を航行した。
トランプ大統領はアジア歴訪の際にインド太平洋戦略を打ち出した後、南シナ海問題を米中間貿易問題および北朝鮮問題との取引材料に利用するようになった。12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」では、中国を戦略的競争相手と位置づけ、中国の不公正貿易を許さない、厳しく対応するという方針を示した。トランプ大統領は習近平主席との1月16日の電話でも貿易不均衡への不満を表明した。トランプ氏は南シナ海問題を、中国との貿易不均衡を是正するためのカードにしている。
中国も考えるべき点がある。米艦による航行の自由作戦には警戒が必要だが、過度に気にすべきでない。中国が米艦の行動に強く反発すれば、米国はこのカードが効いていると取るだろう。中国は、より高い見地から対応すべきである。少なくとも、今回の事件について、外交部は「米艦はスカボロー礁から12カイリ内を航行した」と発表する一方、国防部は「スカボロー礁の近接海域を航行した」というような発表のずれはなくすべきである。」
米艦艇による南シナ海スカボロー礁海域での航行
2月17日、米軍のミサイル駆逐艦「ホッパー」がスカボロー礁から12カイリ内を航行した。「航行の自由作戦」の一環である。これに対し、中国政府は、これまで通り強く反発したが、在米の中国語新聞『多維新聞』(1月22日付)は以下のような論評を行っている。内容から推測して中国軍から分析資料の提供を受ける一方、米軍にも取材した結果だと思われる。
「米海軍はトランプ大統領の就任前(2月中)に、航行の自由作戦の実施を申請したが、国防省は許可しなかった。
トランプ大統領就任後の4月に、米海軍は改めて許可を求めたが、国防省はこの時も拒否した。国防省は航行の自由作戦の実行状況の公表方法を変え、1年間を通しての報告に切り替えようとしていたとも言われていた。
しかし、この方針はすぐに元へ戻った。5月には米艦がスプラトリー諸島ミスチーフ礁の12カイリ内を航行した。7月には日本を基地とするミサイル駆逐艦がパラセル諸島の12カイリ内を航行した。米艦は8月にもスプラトリー諸島ミスチーフ礁付近を航行した。さらに10月にもパラセル諸島付近を航行した。
トランプ大統領はアジア歴訪の際にインド太平洋戦略を打ち出した後、南シナ海問題を米中間貿易問題および北朝鮮問題との取引材料に利用するようになった。12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」では、中国を戦略的競争相手と位置づけ、中国の不公正貿易を許さない、厳しく対応するという方針を示した。トランプ大統領は習近平主席との1月16日の電話でも貿易不均衡への不満を表明した。トランプ氏は南シナ海問題を、中国との貿易不均衡を是正するためのカードにしている。
中国も考えるべき点がある。米艦による航行の自由作戦には警戒が必要だが、過度に気にすべきでない。中国が米艦の行動に強く反発すれば、米国はこのカードが効いていると取るだろう。中国は、より高い見地から対応すべきである。少なくとも、今回の事件について、外交部は「米艦はスカボロー礁から12カイリ内を航行した」と発表する一方、国防部は「スカボロー礁の近接海域を航行した」というような発表のずれはなくすべきである。」
2018.01.15
しかも、中国が力を入れている「一帯一路」構想へ日本が積極的に関わる姿勢を示し、中国側も日本の姿勢を評価しているときにである。日本に対する友好的な態度と非友好的な行動がこれほど同時に表れるのはまず記憶にない。
中国海軍はなぜこのような行動に出たのか。この際考えられる原因を、仮説を交えることになるが、考えてみたい。
まず、日本の海上自衛隊の行動に中国海軍は不満を抱いているか。とくに、防衛省が海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」を空母に改修し、航空自衛隊がステルス機能を持つ最新鋭戦闘機F35Bを導入して搭載する検討をはじめたことと関係があるか。
中国紙は「いずも改修」を警戒して報道している。中国海軍としても注目しているだろう。しかし、そもそも「いずも」が導入された時は、報道はあったが、中国海軍が今回のようないやがらせの行動に出ることはなかった。
中国海軍は早くから遠洋へ進出するのに力を入れており、空母の配備を始めた。中国が日本の「ヘリコプター空母」を問題にするなら、日本は中国の「正規の空母」を何倍も問題にできただろう。「ヘリ空母」は「正規の空母」に比べれば大人と子供くらい違う。中国はさらに2017年4月、2隻目の「正規の空母」を就航させた。日本よりはるかに先へ行っているのであり、巨大な正規の空母を2隻も持ちながら、空母と言えるかはっきりしない日本の「いずも」に難癖をつけられるわけがないのだ。
海上自衛隊は北朝鮮に対する制裁措置の徹底のため、「黄海」での任務に就くことになった。「黄海」は中国と朝鮮半島の間に位置する公海であり、日本の艦船が活動するのに何ら問題はないが、中国は外国船が「黄海」を通行することを嫌う。それは国際法では認められない身勝手な主張に過ぎず、日本が行動を控える理由はないが、注意は必要である。
もっとも可能性が高いのは、軍による習近平主席への牽制である。
習氏による軍改革はかなり進展した。とくに制度面の改革は確かに進展した。しかし、まだ大きな問題が残っていることは、現役総参謀長房峰輝の失脚(2017年8月)、中央軍事委員会政治工作部主任の張陽の自殺(11月?)が示唆していた。前者は軍人のトップ、後者は中央軍事委員会において共産党の指示を受ける部門のトップである。
習氏は、軍内の急激な改革に反発する勢力をまだ一掃できていないのである。また、退職した元軍人が待遇に不満であること、徴兵に従わない者が社会問題になるほど多くなっていることなどの問題も表面化している。
軍人は表向き習近平に逆らうことはできないが、不満は軍内で広く共有されており、軍は、日本との緊張関係を作り出すことにより、自らの重要性をアピールしようとしているのではないか。
さらに、台湾問題も絡んでいる可能性がある。台湾の統一は、習近平政権の第1期目に進展しなかったので、2期目に残された最大課題となっている。中国は尖閣諸島を台湾の一部とみなしているので、そこで問題を起こすことは台湾問題の解決のために軍の役割が重要であることを訴えるのに都合がよいのである。つまり、尖閣諸島で問題を起こすことは中国海軍にとって一石二鳥となるのである。
最後の点は仮説に過ぎないが、今後時間をかけて検証していく必要がある。
中国は日本に何をしようとしているのか
1月11日、中国海軍の潜水艦と艦艇が尖閣諸島(沖縄県)周辺の日本の接続水域に入った。小野寺防衛相は「両艦が同時に尖閣の接続水域を航行するのを確認したのは初めて」と述べており、今回の中国海軍の行動はかつて例を見ないほど悪質である。しかも、中国が力を入れている「一帯一路」構想へ日本が積極的に関わる姿勢を示し、中国側も日本の姿勢を評価しているときにである。日本に対する友好的な態度と非友好的な行動がこれほど同時に表れるのはまず記憶にない。
中国海軍はなぜこのような行動に出たのか。この際考えられる原因を、仮説を交えることになるが、考えてみたい。
まず、日本の海上自衛隊の行動に中国海軍は不満を抱いているか。とくに、防衛省が海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」を空母に改修し、航空自衛隊がステルス機能を持つ最新鋭戦闘機F35Bを導入して搭載する検討をはじめたことと関係があるか。
中国紙は「いずも改修」を警戒して報道している。中国海軍としても注目しているだろう。しかし、そもそも「いずも」が導入された時は、報道はあったが、中国海軍が今回のようないやがらせの行動に出ることはなかった。
中国海軍は早くから遠洋へ進出するのに力を入れており、空母の配備を始めた。中国が日本の「ヘリコプター空母」を問題にするなら、日本は中国の「正規の空母」を何倍も問題にできただろう。「ヘリ空母」は「正規の空母」に比べれば大人と子供くらい違う。中国はさらに2017年4月、2隻目の「正規の空母」を就航させた。日本よりはるかに先へ行っているのであり、巨大な正規の空母を2隻も持ちながら、空母と言えるかはっきりしない日本の「いずも」に難癖をつけられるわけがないのだ。
海上自衛隊は北朝鮮に対する制裁措置の徹底のため、「黄海」での任務に就くことになった。「黄海」は中国と朝鮮半島の間に位置する公海であり、日本の艦船が活動するのに何ら問題はないが、中国は外国船が「黄海」を通行することを嫌う。それは国際法では認められない身勝手な主張に過ぎず、日本が行動を控える理由はないが、注意は必要である。
もっとも可能性が高いのは、軍による習近平主席への牽制である。
習氏による軍改革はかなり進展した。とくに制度面の改革は確かに進展した。しかし、まだ大きな問題が残っていることは、現役総参謀長房峰輝の失脚(2017年8月)、中央軍事委員会政治工作部主任の張陽の自殺(11月?)が示唆していた。前者は軍人のトップ、後者は中央軍事委員会において共産党の指示を受ける部門のトップである。
習氏は、軍内の急激な改革に反発する勢力をまだ一掃できていないのである。また、退職した元軍人が待遇に不満であること、徴兵に従わない者が社会問題になるほど多くなっていることなどの問題も表面化している。
軍人は表向き習近平に逆らうことはできないが、不満は軍内で広く共有されており、軍は、日本との緊張関係を作り出すことにより、自らの重要性をアピールしようとしているのではないか。
さらに、台湾問題も絡んでいる可能性がある。台湾の統一は、習近平政権の第1期目に進展しなかったので、2期目に残された最大課題となっている。中国は尖閣諸島を台湾の一部とみなしているので、そこで問題を起こすことは台湾問題の解決のために軍の役割が重要であることを訴えるのに都合がよいのである。つまり、尖閣諸島で問題を起こすことは中国海軍にとって一石二鳥となるのである。
最後の点は仮説に過ぎないが、今後時間をかけて検証していく必要がある。
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