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2020.02.08
米国が小型核を配備した理由は、ロシアがすでに小型核を保有しており、また、中国も核兵器の近代化や拡大をしていることであり、ロード国防次官は声明で「(小型核の実戦配備は)米国の拡大抑止(核の傘)を支え、潜在的な敵に限定的な核使用は何の利点もないことを示す」と説明した。つまり、ロシアや中国が小型核を配備、あるいはその方向に向いているので、米国も小型核の配備が必要なのだということであろう。
しかし、このような戦略は有効か、はなはだ疑問である。
そもそも小型核が開発されたのは、核兵器は破壊力が大きすぎて使用できないからである。小型核、たとえば広島へ投下された原爆の3分の1のエネルギーである5キロトン程度であれば使用可能だと考えられており、今回配備されたのはその程度の威力だとみられている。
しかし、その程度の威力であれば核兵器に頼る必要はない。最近は、通常爆弾でもMOAB(Massive Ordnance Air Blast大規模爆風兵器)など、核兵器と間違われるほど強烈な威力の爆弾が開発されている。しかも、核兵器は小型であっても放射能汚染を起こす。
抑止、つまり、相手が攻撃を仕掛けてくると相手は壊滅的打撃をこうむることを知らせることにより攻撃を思いとどまらせる点では、こちら側は威力が大きい方がより有効であり、小型核による理由はない。
また、実際問題として、敵方が5キロトンならこちら側も5キロトンで対抗することにはならない。今まで世界中の人々が恐れてきたのは、核には核、すなわち、どちらか一方から核攻撃が行われれば、他の一方は核により反撃するしかないということであり、そのような状況において、爆弾の威力を比較することにはならない。小型核にはやはり小型核で対抗するというのは机上の空論に過ぎない。
小型核の配備は政治的な問題も引き起こす。敵方から見れば、米国が小型核を持つと米国から攻撃をしやすくなると思う危険があることだ。そうすると、彼らは核兵器の威力をさらに向上させようとするだろう。つまり、核軍拡競争となる。
米国の核は攻撃用でなく、抑止のためだというのは日本のように米国の同盟国は比較的容易に信じられるが、ロシアや中国は日本のようには考えないだろう。
また、小型核の配備は米ロ間の戦略兵器削減交渉にも悪影響を及ぼす。この交渉は冷戦時代から核の恐怖におびえる世界にとって唯一といってよい前向きの努力であった。この交渉を今後前に進められなくなるとマイナス効果は計り知れない。
小型核は、核不拡散条約(NPT)においても、長年議論され、2000年の再検討会議では「非戦略核兵器(小型核のこと)の削減」が合意されていた。NPTで合意したことを反故にすることがいかに危険か、あらためて述べる必要はないだろう。
日本としては、小型核の配備を深刻な問題として捉えなければならない。そして、この際、核軍拡競争には反対することを表明すべきである。その相手は今回小型核を配備した米国に限らない。すべての国に対して呼びかければよい。
本年4月から5月にかけ、5年に1回のNPTの再検討会議が開かれる。その際にも日本は明確な態度表明が必要となる。
小型核の配備
米国防総省は2月4日、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)用に爆発力を抑えた低出力の小型核弾頭を実戦配備したと発表した。トランプ政権が2018年2月に発表した、新型の小型核弾頭の開発を戦略の柱に据えるとの新方針を実行に移したものであるが、第二次大戦終了後、続けられてきた核の拡散防止と核軍縮のための懸命な努力に逆行し、世界を再び核軍拡競争に陥れかねない危険な行為である。米国が小型核を配備した理由は、ロシアがすでに小型核を保有しており、また、中国も核兵器の近代化や拡大をしていることであり、ロード国防次官は声明で「(小型核の実戦配備は)米国の拡大抑止(核の傘)を支え、潜在的な敵に限定的な核使用は何の利点もないことを示す」と説明した。つまり、ロシアや中国が小型核を配備、あるいはその方向に向いているので、米国も小型核の配備が必要なのだということであろう。
しかし、このような戦略は有効か、はなはだ疑問である。
そもそも小型核が開発されたのは、核兵器は破壊力が大きすぎて使用できないからである。小型核、たとえば広島へ投下された原爆の3分の1のエネルギーである5キロトン程度であれば使用可能だと考えられており、今回配備されたのはその程度の威力だとみられている。
しかし、その程度の威力であれば核兵器に頼る必要はない。最近は、通常爆弾でもMOAB(Massive Ordnance Air Blast大規模爆風兵器)など、核兵器と間違われるほど強烈な威力の爆弾が開発されている。しかも、核兵器は小型であっても放射能汚染を起こす。
抑止、つまり、相手が攻撃を仕掛けてくると相手は壊滅的打撃をこうむることを知らせることにより攻撃を思いとどまらせる点では、こちら側は威力が大きい方がより有効であり、小型核による理由はない。
また、実際問題として、敵方が5キロトンならこちら側も5キロトンで対抗することにはならない。今まで世界中の人々が恐れてきたのは、核には核、すなわち、どちらか一方から核攻撃が行われれば、他の一方は核により反撃するしかないということであり、そのような状況において、爆弾の威力を比較することにはならない。小型核にはやはり小型核で対抗するというのは机上の空論に過ぎない。
小型核の配備は政治的な問題も引き起こす。敵方から見れば、米国が小型核を持つと米国から攻撃をしやすくなると思う危険があることだ。そうすると、彼らは核兵器の威力をさらに向上させようとするだろう。つまり、核軍拡競争となる。
米国の核は攻撃用でなく、抑止のためだというのは日本のように米国の同盟国は比較的容易に信じられるが、ロシアや中国は日本のようには考えないだろう。
また、小型核の配備は米ロ間の戦略兵器削減交渉にも悪影響を及ぼす。この交渉は冷戦時代から核の恐怖におびえる世界にとって唯一といってよい前向きの努力であった。この交渉を今後前に進められなくなるとマイナス効果は計り知れない。
小型核は、核不拡散条約(NPT)においても、長年議論され、2000年の再検討会議では「非戦略核兵器(小型核のこと)の削減」が合意されていた。NPTで合意したことを反故にすることがいかに危険か、あらためて述べる必要はないだろう。
日本としては、小型核の配備を深刻な問題として捉えなければならない。そして、この際、核軍拡競争には反対することを表明すべきである。その相手は今回小型核を配備した米国に限らない。すべての国に対して呼びかければよい。
本年4月から5月にかけ、5年に1回のNPTの再検討会議が開かれる。その際にも日本は明確な態度表明が必要となる。
2020.02.03
対人地雷は、敵国の兵士だけでなく農民や子供なども無差別に殺傷する危険な、非人道性の高い兵器であり、1990年代初頭から禁止する動きが国際的に強くなり、97年に対人地雷禁止条約(オタワ条約)が成立した。
米国、ロシア、中国などは軍の要求が強いので対人地雷も全面的に禁止することには踏みきれず、禁止条約に参加していない。
米国は人道問題に無関心なのではなく、クリントン政権は規制を強めるのにイニシアチブを発揮したこともあったが、全面禁止には賛成しなかった。
米国の主張は、一度埋めた対人地雷をいつまでも放置しているから市民に危険が及ぶのであり、一定の時間が経過すれば埋設地雷が自動的に破壊されるようにすれば、あるいは埋設したものが不必要と判断すれば地雷を掘り起こさなくても破壊できるようにすれば問題はほとんど解消できるというものであった。しかし、これに対して多くの国はコストがかさむことを理由に賛成しなかった。
そのような議論を経た後、軍縮に熱心なオバマ大統領は2014年に、対人地雷の使用禁止に踏み切った。条約に参加したのではなく、米国独自の方針として、朝鮮半島だけは例外としつつ禁止したのであったが、オバマ氏の決断は世界中で称賛された。
トランプ氏は、オバマ氏の決定を覆し、米軍は今後「例外的な状況下」において、世界各地で自由に地雷の設置が可能となると説明している。
中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱と言い、また今回の対人地雷使用規制の解除と言い、トランプ政権は軍縮にいちじるしく後ろ向きである。核兵器の小型化も検討しているという。小型化すれば使いやすくなるというのが賛成論の理由であるが、それは核兵器戦争を惹起する危険極まりない考えである。それはともかく、先端技術を搭載した新世代の地雷は、米軍の安全保障を高めるとトランプ政権は主張しているが、米国と対立する国はやはり対人地雷で対抗するだろう。米国だけの安全が保障されることなどありえない。
米国内でもこのようなトランプ政権の姿勢を批判する論者は少なくないが、その意見が政策に反映されることは当面望めないようである。
対人地雷の使用規制をかなぐりすてるトランプ政権
トランプ米大統領は1月31日、対人地雷の使用規制を緩和すると発表した。これもオバマ前大統領が立てた方針を覆すものである。対人地雷は、敵国の兵士だけでなく農民や子供なども無差別に殺傷する危険な、非人道性の高い兵器であり、1990年代初頭から禁止する動きが国際的に強くなり、97年に対人地雷禁止条約(オタワ条約)が成立した。
米国、ロシア、中国などは軍の要求が強いので対人地雷も全面的に禁止することには踏みきれず、禁止条約に参加していない。
米国は人道問題に無関心なのではなく、クリントン政権は規制を強めるのにイニシアチブを発揮したこともあったが、全面禁止には賛成しなかった。
米国の主張は、一度埋めた対人地雷をいつまでも放置しているから市民に危険が及ぶのであり、一定の時間が経過すれば埋設地雷が自動的に破壊されるようにすれば、あるいは埋設したものが不必要と判断すれば地雷を掘り起こさなくても破壊できるようにすれば問題はほとんど解消できるというものであった。しかし、これに対して多くの国はコストがかさむことを理由に賛成しなかった。
そのような議論を経た後、軍縮に熱心なオバマ大統領は2014年に、対人地雷の使用禁止に踏み切った。条約に参加したのではなく、米国独自の方針として、朝鮮半島だけは例外としつつ禁止したのであったが、オバマ氏の決断は世界中で称賛された。
トランプ氏は、オバマ氏の決定を覆し、米軍は今後「例外的な状況下」において、世界各地で自由に地雷の設置が可能となると説明している。
中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱と言い、また今回の対人地雷使用規制の解除と言い、トランプ政権は軍縮にいちじるしく後ろ向きである。核兵器の小型化も検討しているという。小型化すれば使いやすくなるというのが賛成論の理由であるが、それは核兵器戦争を惹起する危険極まりない考えである。それはともかく、先端技術を搭載した新世代の地雷は、米軍の安全保障を高めるとトランプ政権は主張しているが、米国と対立する国はやはり対人地雷で対抗するだろう。米国だけの安全が保障されることなどありえない。
米国内でもこのようなトランプ政権の姿勢を批判する論者は少なくないが、その意見が政策に反映されることは当面望めないようである。
2020.02.01
第1は、世界保健機関(WHO)の対応である。WHOは1月22日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にあたるかどうか検討した結果、現在の情報だけでは判断が難しいと緊急事態宣言の発令を延期した。新型コロナウイルスの発生が公表されたのは昨年の12月8日であった。そしてそのウイルスによる肺炎は急速に拡大していった。しかし、1月22日になっても、WHOとして「緊急事態」を宣言するには判断材料が乏しかったというのであった。
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は1月27日に北京を訪れ、翌日に習近平主席以下と会談した。事務局長は感染拡大防止のため中国当局がとっている「並外れた対策」をたたえた。中国共産党の機関紙『人民日報』によると、テドロス事務局長は「中国が疫病の感染予防に対して行っている努力とその措置は前代未聞なほど素晴らしい。中国は感染予防措置に関して新しいスタンダードを世界に先んじて打ち出すことに成功している」とさえ言ったそうだ。中国政府の感染対策を支持すると表明したのはよいことであったが、このように中国の偉大さを喧伝する過度の称賛は適切でないと思う。
さらに、テドロス事務局長は「現在中国にいる外国人の退避は推奨しない」とも発言した。その時日本も含め各国は武漢在留の自国民本国に緊急帰国させる準備を始めていたが、テドロス事務局長はそのような発言をしたのであった。これはWHOの事務局長として適切な発言であったか。困った自国民が多数いるときに、緊急帰国できるよう取り計らうのは各国政府の責任であり、その努力に水を差すような発言はすべきでなかったのではないか。
テドロス事務局長は北京を訪れたが、肝心の武漢へは行かなかった。これも不可解なことであった。現場より、中国政府との話し合いを重視したとみられるだろう。
世界保健機関(WHO)は30日になって、新型コロナウイルスによる感染の拡大は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)に該当すると宣言した。その時点では、WHOによると、感染者数は7818人、死者は約170人に達していた。この宣言はもっと早く出すべきでなかったか。
要するに、WHOのこれまでの対応については、緊急事態と認定するのが遅すぎたこと、テドロス事務局長の言動はバイアスがかかっていると判断されること、さらには中国政府の意を受けて発言している疑いが濃厚であることなどの問題があるのだ。
第2の問題は、台湾の扱いだ。これについては、Newsweek1月27日号に掲載されたTHE DIPLOMATの24日付記事を以下に再掲させていただく。
表題<中国の圧力でWHO会合出席もかなわず、感染対策の国際的な議論に加われない台湾。非常事態に蔡英文が情報共有を訴えるが>
台湾でもコロナウイルスによる新型肺炎の感染が確認され、当局は直ちに、発生源とされる武漢住民の台湾入りを全て禁じた。WHO(世界保健機関)から排除されているために最新の情報が入らず、不安が高まっているからだ。
中国政府は1月23日に武漢および隣接2都市を封鎖し、住民が市外に出るのを実質的に禁じた。台湾と武漢を結ぶ直行便も、既に全て運航停止している。
台湾の公衆衛生当局は1月21日、武漢で働いていて20日に台湾に戻った55歳の女性の感染が確認されたと発表した。ほかにも感染の疑いのある人が多数いるという。
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は22日に中国政府に対し、このウイルスの拡散状況に関する情報の提供を求める一方、国際空港での防疫体制を最大限に強化していると述べた。
しかし現状では、中国本土と台湾の間に公衆衛生上の情報を共有する正式な仕組みはない。独立志向とされる民進党の蔡が2016年に総統に選出されて以来、中国側は台湾と政府レベルの対話を全て打ち切っている。
蔡はWHOに、この問題に関する緊急の専門家会議に台湾が加わるのを認めるよう要請した。中国政府の圧力により、今の台湾はWHOから排除されている。過去には総会にオブザーバーとして参加していたが、蔡政権の誕生以降はそれも許されていない。
中華圏では1月24日に春節(旧正月)の連休が始まり、住民の移動が活発になっている。ウイルス感染の可能性がある武漢市民が既に市外に出ている可能性があり、国際社会もこれを懸念している。
それでも「一つの中国」
中国本土で働く台湾住民は100万人超とみられ、その多くは春節の連休中に帰省するだろう。その中にはiPhone製造などを手掛ける台湾資本のフォックスコン(鴻海科技集団)の従業員もいる。ただし同社は、今のところ武漢工場で感染の疑われる者はいないとしている。
一方で台湾当局は対策本部を立ち上げ、緊急対応チームをつくり、マスメディアやソーシャルメディアを通じた情報発信を強化している。
しかし台湾はこんな事態になっても、中国政府の反対でWHOの会合に出席できずにいる。かつてSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したときも、2人の死者が出るまでWHOの専門家は台湾に来てくれなかった──医師でもある陳建仁(チェン・チエンレン)副総統は記者会見でそう語った。
それでも台湾の衛生当局はSARSの蔓延をどうにか抑えた。それだけの実績があるのに、今も感染対策の国際的な議論に加われない。
これはひどい。昨年5月にスイスで開かれたWHO総会でも、24カ国が台湾の参加を支持する意見を表明したが認められなかった。中国外務省はこの非常事態に及んでも、「一つの中国」の原則を認めない限り台湾の国際機関への参加は認められないと繰り返すのみ。「中国政府は誰よりも台湾人民の健康を気に掛けている」と言われても台湾人は誰も信じない。
政治的信条も国境も越えて広がるのがウイルスの脅威なのだが……。
新型コロナウイルスによる肺炎の蔓延に関するWHOの問題発言など
新型コロナウイルスが猛威を振るっている。様々な問題があるが、特に次の2点に注目した。第1は、世界保健機関(WHO)の対応である。WHOは1月22日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にあたるかどうか検討した結果、現在の情報だけでは判断が難しいと緊急事態宣言の発令を延期した。新型コロナウイルスの発生が公表されたのは昨年の12月8日であった。そしてそのウイルスによる肺炎は急速に拡大していった。しかし、1月22日になっても、WHOとして「緊急事態」を宣言するには判断材料が乏しかったというのであった。
WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は1月27日に北京を訪れ、翌日に習近平主席以下と会談した。事務局長は感染拡大防止のため中国当局がとっている「並外れた対策」をたたえた。中国共産党の機関紙『人民日報』によると、テドロス事務局長は「中国が疫病の感染予防に対して行っている努力とその措置は前代未聞なほど素晴らしい。中国は感染予防措置に関して新しいスタンダードを世界に先んじて打ち出すことに成功している」とさえ言ったそうだ。中国政府の感染対策を支持すると表明したのはよいことであったが、このように中国の偉大さを喧伝する過度の称賛は適切でないと思う。
さらに、テドロス事務局長は「現在中国にいる外国人の退避は推奨しない」とも発言した。その時日本も含め各国は武漢在留の自国民本国に緊急帰国させる準備を始めていたが、テドロス事務局長はそのような発言をしたのであった。これはWHOの事務局長として適切な発言であったか。困った自国民が多数いるときに、緊急帰国できるよう取り計らうのは各国政府の責任であり、その努力に水を差すような発言はすべきでなかったのではないか。
テドロス事務局長は北京を訪れたが、肝心の武漢へは行かなかった。これも不可解なことであった。現場より、中国政府との話し合いを重視したとみられるだろう。
世界保健機関(WHO)は30日になって、新型コロナウイルスによる感染の拡大は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)に該当すると宣言した。その時点では、WHOによると、感染者数は7818人、死者は約170人に達していた。この宣言はもっと早く出すべきでなかったか。
要するに、WHOのこれまでの対応については、緊急事態と認定するのが遅すぎたこと、テドロス事務局長の言動はバイアスがかかっていると判断されること、さらには中国政府の意を受けて発言している疑いが濃厚であることなどの問題があるのだ。
第2の問題は、台湾の扱いだ。これについては、Newsweek1月27日号に掲載されたTHE DIPLOMATの24日付記事を以下に再掲させていただく。
表題<中国の圧力でWHO会合出席もかなわず、感染対策の国際的な議論に加われない台湾。非常事態に蔡英文が情報共有を訴えるが>
台湾でもコロナウイルスによる新型肺炎の感染が確認され、当局は直ちに、発生源とされる武漢住民の台湾入りを全て禁じた。WHO(世界保健機関)から排除されているために最新の情報が入らず、不安が高まっているからだ。
中国政府は1月23日に武漢および隣接2都市を封鎖し、住民が市外に出るのを実質的に禁じた。台湾と武漢を結ぶ直行便も、既に全て運航停止している。
台湾の公衆衛生当局は1月21日、武漢で働いていて20日に台湾に戻った55歳の女性の感染が確認されたと発表した。ほかにも感染の疑いのある人が多数いるという。
台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は22日に中国政府に対し、このウイルスの拡散状況に関する情報の提供を求める一方、国際空港での防疫体制を最大限に強化していると述べた。
しかし現状では、中国本土と台湾の間に公衆衛生上の情報を共有する正式な仕組みはない。独立志向とされる民進党の蔡が2016年に総統に選出されて以来、中国側は台湾と政府レベルの対話を全て打ち切っている。
蔡はWHOに、この問題に関する緊急の専門家会議に台湾が加わるのを認めるよう要請した。中国政府の圧力により、今の台湾はWHOから排除されている。過去には総会にオブザーバーとして参加していたが、蔡政権の誕生以降はそれも許されていない。
中華圏では1月24日に春節(旧正月)の連休が始まり、住民の移動が活発になっている。ウイルス感染の可能性がある武漢市民が既に市外に出ている可能性があり、国際社会もこれを懸念している。
それでも「一つの中国」
中国本土で働く台湾住民は100万人超とみられ、その多くは春節の連休中に帰省するだろう。その中にはiPhone製造などを手掛ける台湾資本のフォックスコン(鴻海科技集団)の従業員もいる。ただし同社は、今のところ武漢工場で感染の疑われる者はいないとしている。
一方で台湾当局は対策本部を立ち上げ、緊急対応チームをつくり、マスメディアやソーシャルメディアを通じた情報発信を強化している。
しかし台湾はこんな事態になっても、中国政府の反対でWHOの会合に出席できずにいる。かつてSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したときも、2人の死者が出るまでWHOの専門家は台湾に来てくれなかった──医師でもある陳建仁(チェン・チエンレン)副総統は記者会見でそう語った。
それでも台湾の衛生当局はSARSの蔓延をどうにか抑えた。それだけの実績があるのに、今も感染対策の国際的な議論に加われない。
これはひどい。昨年5月にスイスで開かれたWHO総会でも、24カ国が台湾の参加を支持する意見を表明したが認められなかった。中国外務省はこの非常事態に及んでも、「一つの中国」の原則を認めない限り台湾の国際機関への参加は認められないと繰り返すのみ。「中国政府は誰よりも台湾人民の健康を気に掛けている」と言われても台湾人は誰も信じない。
政治的信条も国境も越えて広がるのがウイルスの脅威なのだが……。
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