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2014.03.12

尖閣諸島の法的地位

キヤノングローバル戦略研究所のホームページに掲載されたもの。

「尖閣諸島のことは食傷気味に感じている人が多いかもしれない。たしかによく話題に上るが、関連の資料や文献が多過ぎるためか、基本的な事実が見えにくくなっているのではないかと思われる節がある。
まず、外務省の説明を見てみると、「サンフランシスコ平和条約において,尖閣諸島は,同条約第2条に基づきわが国が放棄した領土のうちには含まれず,第3条に基づき南西諸島の一部としてアメリカ合衆国の施政下に置かれ,1972年5月発効の琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(沖縄返還協定)によりわが国に施政権が返還された地域の中に含まれています。」となっている。
そこで平和条約第3条を開けてみると、そこには「尖閣諸島は米国の施政下に置かれる」とは記載されていない。第3条には「尖閣諸島」という言葉はまったく出てこないのである。外務省の説明が間違っているのでないことはもちろんであるが、今から振り返ってみるとちょっと不親切なところがある。この問題に関してはかつて国会で何回も説明されたが、そこでも同じことであり、基本的にはここに引用した外務省説明の趣旨が繰り返されたに過ぎなかった。
不親切なところの一つは、尖閣諸島という言葉が出てこないにも関わらず、記載されていると誤解されそうな説明になっていることである。
もう一つは、この説明には、尖閣諸島がサンフランシスコ平和条約でどのように決定されたかということと、それから20年後のいわゆる沖縄返還の時にどう処理されたかということが一緒に書いてあるので、分かりにくくなっていることである。特別の知識を持っている人ならいざ知らず、普通の人ではこの説明を正しく理解するのは困難ではないかと思われる。
平和条約は、たしかに戦争で敗れた日本が放棄する領土とそうでないものを分け、それぞれをどのように処理するか規定した。放棄するほうが第2条である。放棄しないが、米国の統治に委ねられることとなったのが第3条であり、その対象は、①北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島および大東諸島を含む)、②孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島および火山列島を含む)、③沖ノ鳥島および南鳥島であった。このうち②と③は尖閣諸島から1千キロ以上離れているので尖閣諸島がそのいずれにも含まれないことは明らかである。したがって、①の「北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島および大東諸島を含む)」に尖閣諸島が含まれるか否かが問題であり、外務省説明は含まれるという立場なのである。
なぜそう言えるか。米国は沖縄統治を開始するに際して、「北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島および大東諸島を含む)」の範囲を緯度と経度で示し、それを公に布告した。1953年12月25日付の「米国民政府布告第27号」である。条約に記載されている「南西諸島」にしても「琉球諸島」にしても多数の島から構成されており、この2つの島名だけでは米国の統治に委ねられる範囲を特定できない。したがって、布告を出して確認しようとしたのは米国として当然であり、また必要であった。
この布告は、沖縄を統治していた「米民政府」の長官命令として発出されたので、形式的には行政行為のように見えるが、平和条約第3条の解釈に関わるものであり、したがって、この布告は米民政府の行政(の一環)であると同時に平和条約第3条を解釈するという二つの性格を兼ねていた。
米国はこの範囲画定を米国だけで行なうこと、いわゆる有権解釈はできなかった。米国の統治に委ねられる範囲は条約で定められており、その解釈を単独の締約国が決定することはできないからである。したがって、この布告は、米国としての考えを示して他の締約国に異議がないか確認するものであった。
平和条約第3条の範囲を確定したものはこの布告以外にはなく、きわめて重要な資料である。これがあるので、「沖縄」や「尖閣諸島」が平和条約第3条の「北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島および大東諸島を含む)」に含まれることが明確になっているのである。
平和条約が戦後の日本の領土の再画定において決定的であることは言うまでもない。極端に言えば、古代から日本の領土であっても、かりに平和条約が第三国の領土に決定していたら、経緯のいかんにかかわらず、日本の領土ではなくなったであろう。
なお、米国は沖縄を返還する際、尖閣諸島は日本の領土であることを確認しなかったことを問題視する議論があるが、平和条約第3条の範囲が1953年布告によって明確に確定されたという事実が変わるものではない。沖縄返還時の米政府の説明も、この事実に抵触しないよう慎重に言葉を選んでいた。
現在、米国は第三国の領土紛争に関与しないという方針であり、尖閣諸島に関しても、一方では日米安保条約が適用されると明言しつつ、領有権をめぐって争いがあれば当事者同士で解決すべきであるという立場を取るかもしれないが、日本としては、尖閣諸島が第3条に含まれることは日本によってではなく、平和条約とその履行において米国の主導により連合国によって画定されたという事実を主張できる。日本は現在、尖閣諸島が日本固有の領土であると主張しているが、国際的にもそのことは決定されていたのであり、経緯的には連合国も当事者であった。いつの日か、国際司法裁判所でこの問題が審議される場合には、日本は当然米民政府布告のことを主張するであろうし、有力な根拠となると思われる。」

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2014.03.11

尖閣諸島ー大日本管辖分地図

3月6日付の環球時報の記事を同日付の新華社電が伝えている。
要点は次のとおりである。
○1894年3月5日に発行され、1895年5月19日修訂再販された『大日本管辖分地図』中の「沖縄県管内全図」には尖閣諸島が日本領であることを示す記述はなく、またそのなかの地図で示されている日本の領域の境界によれば、明らかに尖閣諸島は日本領土の外にある。
○この地図は1895年4月17日に下関条約が署名された後に発行されたものである(注 日本が主張している、尖閣諸島は日清戦争の結果獲得したものでないということへの反論であろう)。
○この地図は、国際法のcritical dateにしたがって尖閣諸島の帰属を決定するのに重要な参考資料となる。国際法のcritical date とは領土問題について争いが起こる期日を指し、法律上当事者が主張する法律関係が存在するか否かを確定する期日を指す。つまり、期日以前の帰属状況が確認されれば、期日以後の行為は無効である(不起作用)。
○中日間の尖閣諸島に関する争いのキーとなる期日は日清戦争の前後である。これより以前、中国と古代琉球の間に島の領有に関する争いはなく、またいわゆる「無主地」なるものもなかった。尖閣諸島は中国の版図に編入されてすでに500年以上になる(これは問題の記述なので原文を記載しておく「因为在此之前,中国和古代琉球国之间既无岛屿领土争议也无所谓“无主地”。钓鱼岛被纳入中国版图已逾500年」)。

思うに、この記事の中で事実関係を比較的正確に伝えているのは『大日本管辖分地図』に関する部分だけである。
国際法理論の説明が正しいか。しばし不問にしよう。
問題は日清戦争以前、尖閣諸島は中国に属していたとする記述であり、これは現在中国が言っていることの繰り返しに過ぎない。しかるに、尖閣諸島は中国領でなかったことを示す中国の資料として、明国朝廷の公式日誌「皇明實録」や「大明一統誌」や各地方誌がある。後者は、明国の「領域」は「東のかた海岸に至る」つまり海岸までと明記しているのである。
詳しくはキヤノングローバル戦略研究所ホームページ所掲の溝口修平研究員の一文(石井望長崎純心大学准教授の研究を紹介したもの)を参照されたい。

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2014.03.10

ウクライナ情勢と各国の対応

3月10日、国際問題に明るい友人とウクライナ情勢に関し意見交換した。

米国がロシアに対しもっとも厳しい態度を取っている。まだ情勢がはっきりしない段階であったが、制裁措置を取ることを決定した。しかし、その対象となる個人、組織はまだ具体的にリストアップされていない。ケリー国務長官はラブロフ外相にそのことをリマインドしており、米国としてはロシアが柔軟な姿勢を取ることを希望し、また、制裁措置の決定がその邪魔にならないよう配慮している。今回オバマ大統領が早すぎるとも思われる措置を取ったのは、中間選挙を控えているからであり、シリアで化学兵器が使用されたことが明らかになれば軍事行動をとると言っておきながら、実際には踏み出せず、批判を浴びたことが背景にある。また、米国はウクライナでの政変に多少関与していたこともあり、ロシアに対してただ批判する立場にないのではないか。

そもそも今回の政変はEUと安定化協定を結ぶ問題に端を発したが、EUが制裁措置をまだ決定していないのは、ドイツなどロシアからのエネルギー供給に依存度が高い国が強硬策には慎重であるのと、また、ウクライナの暫定政府はチェチェンに近い極右勢力の影響を受けているのではないかという問題があり、ネオナチの台頭に神経をとがらす西欧諸国として暫定政権を無条件に支持しにくい面がある。

中国は、当初ロシア支持と言われたこともあったが、実際には明確に中立の態度である。習近平はプーチンとの電話会談でさすがに丁寧な応対であったが、クリミア半島への派兵を支持するとは言わなかった。中国として、もしロシアを支持すれば、人道・人権問題を理由に外国が介入することに強く反対してきた姿勢が一貫しなくなるからである。中国の事情にかんがみれば、主権の尊重を盾に外国勢力の干渉を防がなければならないのは今後も変わらない。

日本は、ウクライナとの関係が薄く、直ちに態度表明をしなければならない問題はなさそうである。ウクライナ問題はロシア対国際社会の対立と割り切るのは困難なことを前提に、米国やEUとの協力、G8としての立場、さらには国連などでどのように対応するかである。慎重な姿勢が求められる。メディアには、今秋予定されているプーチン大統領の訪日を控え、また、領土問題で進展を図らなければならない日本としてプーチン大統領の不興を買うことはしないほうがよいという趣旨の見解があり、そのような手心を加えるのがよいか疑問であるが、結論的にはロシアに対して、軍事行動には明確に批判的態度を維持するのは当然として、全体的には慎重に見守る必要がある。

ウクライナをめぐって、今後新しい冷戦に発展する恐れがあるとは思えない。エネルギーをめぐって西欧と相互依存関係が深くなっているし、テロ対策などもグローバルに取り組む必要があり、かつての冷戦に立ち返ることは考えられない。

クリミアでの住民投票は当面注意を要する。南オセチアの例に照らしてみると、一度動き出すとなかなか止められないかもしれない。しかし、日本を含め西側としてはロシア兵の監視下での住民投票を認めるわけにはいかない。クリミアにはロシア系住民が多いが、タタール人が多くロシア系は一枚岩ではない。

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