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2014.03.06

ウクライナとロシアのエネルギー依存関係など

ウクライナとロシアのエネルギー面での依存関係などに関する、渋谷祐氏((有)エナジー・ジオポリティクス代表・ 早稲田大学資源戦略研究所事務局長・主任研究員)の研究です。

「1.ウクライナは地理的にロシアと欧洲の間に位置するため、天然ガス幹線パイプラインの通過国のレバリッジ(梃)をたびたび交渉上使った。
しかし、ロシア産ガスをドイツと東欧に運ぶそれぞれ南北の迂回パイプライン(一部着工予定)が完成したため、ウクライナのレバリッジは効かなくなっている。
他方、シェールガス革命のためロシア産ガスはEU市場では販売不調で、ウクライナ通過量は大幅減少を記録した。(戦略的な価値はともかく、ウクライナのエネルギー地政学的な価値は相対的に低下した)
2.ロシアは「関税同盟」や投資参加の目的から、破たん寸前のウクライナに肩代わりして天然ガス輸入代金支払い問題や債務リスケ問題に取り組み、2013年12月包括的金融支援協定に調印した。しかしヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領が逃亡したため、その有効性・責任能力が問われている。
3.EUは、EUの加盟国であるスロバキアなどからウクライナ向けに逆走するガス・パイプライン計画を早急に進めるべきである。豊富なシェールガスなどを活用する方法がある。
4.欧米諸国政府の主張する対ロ経済制裁の論議は「EU協定の枠組み」の中の当事者に限られるべきである。日本はウクライナにおける主要な資源投資のステークホルダー(利害関係当事者)ではない。(対イラン制裁決議とは全く異なる性格)
5.ウクライナ問題を理由に東シベリア・サハリンの資源開発計画に影響は及ぶべきではない。
ウクライナ領土を通るロシア産ガスとサハリンガスはそれぞれリスクの性格が異なる。ウクライナは多国間の通過リスク(陸上)があるが、サハリン(LNG)は二国間取引に限定。
6.ウクライナとロシア間の領土問題は日本とロシア間の北方領土返還交渉とは直接リンクしない。(なお、黒海と内海であるアゾフ海の入り口であるケルチ海峡付近の国境画定と共同開発協定の成り行きは注目される。)

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2014.03.05

クリミア半島へのロシアの出兵

ウクライナ領クリミア半島へのロシアの出兵を米欧は激しく非難している。これに対しプーチン・ロシア大統領は軍事介入した理由について「ロシア語を話す人を保護するために必要であった」と強調したが、それがまた批判の火に油を注ぐ結果となったようだ。
たしかに「ロシア語を話す人」を保護することは「ロシア国籍の人」よりはるかに広く、ウクライナのロシア系住民で国籍がウクライナである人も含まれる。自国民の保護は他国への介入の理由として認められることはありうるが、「同じ言葉を話す人を保護する」ことを介入の理由として認めることは第二次大戦後なかったと思われる。もし、そのような理由を認めると、間違いなく世界は大混乱に陥る。たとえば、かつてマレイシアで中国系の人が攻撃されたことがあったが、その場合中国が介入することを認めるということである。プーチン大統領が主要国の首脳に電話をかけまくって説明してもとうてい理解してもらえないだろう。各国のメディアは酷評している。
しかし、プーチン大統領に味方するわけではないが、その言わんとしたことは「ロシア国籍の人」という意味であったか、確かめる必要はある。もっとも、「ロシア国籍」であるとしても、クリミヤへの出兵が直ちに求められるのではない。それは妥当なことであったか、検討はそこから始まる。
日本では欧米と同様、ロシアの行動は認められないという見方が強い。同じ価値観、同じ民主主義の国家として当然である。なかには、プーチン大統領の日本訪問が予定されており、領土問題など難問を抱えている日本としてプーチン大統領の不興を買いたくないという気持ちが働くことをことさらに指摘する人もいるが、それは別の問題で、そんな子供のような態度ではロシアから馬鹿にされるのが落ちである。日本としては主張すべきことを遠慮してはならない。今年の主要国サミットはロシアで開催される番だそうで、こんな状況では欧米と同様参加を再検討するのは当然である。
一方、ここ一両日のことであるが、米国の民間のみならず、政府もウクライナの政変に関与していたことが報道されている。日本政府は、米国政府からほんとうのことを聞かされていることを望みたいが、これは希望でしかない。米国はそのようなことをしないとは私は思わない。つまり、関与したと断定する材料は日本の一国民として持ち合わせていないが、米国はしていないとも断定できない。
よく分からないのは米国だけでない。もちろんである。米ロ間には我々として不可解なことが起こっている。ロシアが関与して問題を起こしたこともある。ロンドンで滞在中のロシア人が毒殺された事件なども闇の中である。要するに、米ロ間ではそのように第三国には分からないことが起こっていることも忘れるべきでない。その上で米欧と協調すべきである。
中国は、これまでウクライナ問題にあまり表だって関心を見せなかったが、ロシアの出兵を支持しているようである。これも問題である。中国は、これまで他国への介入について主権の尊重を訴え、人道的理由や自国民保護などを理由に介入することには反対してきた。今回ロシアを支持することは、これまで中国が唱えてきたことより、ロシアとの連帯、あるいは共同行動のほうが重要であることを自ら示す結果になるのではないか。要するに、中国が主張してきたことは口実に過ぎなかったということになるのではないか、ということである。

ウクライナの情勢不安定化はソチ・オリンピックに隠れていたためか、日本のメディアなどの注目度は低かったきらいがある。ロシアの出兵から事態は大きく展開し始めた。すでに明らかになっていることも多いが、今後も諸方面の動向には注意を払う必要がありそうだ。

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2014.03.04

習近平の権力集中

「中央ネット安全情報化指導小組」が2月28日第1回会議を開催したことが報道され、このような組織が作られていること、習近平がこの小組の組長、李克強と劉雲山が副組長となっていることが判明した。(大公網、同日)
習近平は、2012年11月に中国共産党第18回全国代表大会で中央委員会総書記に選出され、翌年3月には国家主席に就任。また軍事面においても事実上新政権の発足と同時に党と国家の中央軍事委員会主席に就任するなど順調に滑り出していた。
そして党大会から1年後の第3回中央委員会全体会議(3中全会)で新設された「全面深化改革領導小組(深改小組)」の組長に就任した。
さらに、同じく新設の「国家安全委員会(国安会)」の主席も兼ねることとなった。国安会は対外的な問題にも関わるが、国内秩序の維持をつかさどる武装警察や公安機関の元締めとなる。関係諸機関間の調整を行なう点では以前からあった中央国家安全領導小組と同様であるが、政策決定も行なう。
かくして習近平は、党総書記・国家主席であると同時に、新設の国政改革を進める機関と内外の安全を確保する機関の長となるなど権力を一身に集めた。
しかるに、今回の「中央ネット安全情報化指導小組」組長就任はさらなる権力集中である。習近平は昨(2013)年来、言論統制の強化を基本方針の一つとして取り組んできており、この小組の新設もそのためである。

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