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2022.03.03

ウクライナへのロシア軍の侵攻を非難する国連決議

 3月3日、国連総会の緊急特別会合で、ウクライナへのロシア軍の侵攻に関する決議が採択された。

 賛成は欧米や日本など合わせて141か国、反対はロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリアの5か国であり、国連加盟国の大多数がこの決議に賛成したことの意義は大きい。

 ただし、35か国は棄権し、その中に中国とインドが含まれていた。中国がロシア軍の侵攻について表立って非難しなかったのは何ら驚くに当たらない。インドの棄権については、パキスタンとの関係が原因であるとの見方が有力だが、本稿では深入りしない。

 「国際の平和」はもっぱら安保理が扱う問題だが、ロシアの侵攻について安保理はロシアの拒否権のため対応できず、代わりに国連総会が決議を行った。このような総会決議は1982年に行われたのが最後であり、40年ぶりのことであった。

 本決議の内容については、ロシアを非難し、完全かつ無条件での軍の即時撤退を求めたこと、また、ロシアによる核戦力の準備態勢強化の示唆を非難したこと、さらに、住宅や学校など民間施設への攻撃や民間人の犠牲者の報告に深い懸念を表明したことなどは評価できる。

 だが、本決議はロシア軍の侵攻を食い止め、除去することまでは呼びかけなかった。

 NATOはこれまで、ウクライナがNATOの加盟国でないことを理由に、今次侵攻に対して武力を行使できないとの立場であった。

 しかし、国連の決議でロシアの侵攻を食い止め、除去し、民間人への攻撃を防ぐことなどを要請されると、軍事作戦が可能となる。これまで、そのような例が、ユーゴ(コソボ紛争を含む)、イラク、アフガニスタン、朝鮮半島などであった。ただし、朝鮮半島以外は安保理の決議であった。

 安保理と総会の決議は同じでない。とくに、安保理決議は加盟国に対して義務的であるが、総会決議は義務的でない。しかし、総会決議を受けてどのように行動するか決まっているわけでもない。ウクライナの場合も、NATOが国連総会決議で行動できると判断することもありうる。

 ただし、ロシアとの武力衝突が核戦争を惹起しないよう細心の注意が必要なので、NATOとしては、武力の行使については極めて慎重な態度を取っている。米国のバイデン大統領は、軍事力行使をにおわせることもせず、経済制裁のみを公言している。賢明な姿勢だと思う。将来、どのように展開するか分からないが、防衛のためであっても武力を行使したとたん、ロシアは自分たちの行動は棚に上げて、米国やNATOを非難することが予測されるからである。

 ともかく、経済制裁と今回の総会決議で事態が収拾されればよいが、さらに状況が悪化し、被害が拡大していけば、第2の決議を成立させる動きが出てくるはずである。その中では、国連加盟国に対し、必要な手段を講じて状況の悪化を止めるよう呼びかけが行われる可能性がある。以前の例では、安保理決議であったが、「あらゆる手段」により決議を履行すべしとされたことがあった。ウクライナの場合、そのような文言はあり得ないだろうが、選択肢はいくつもありうる。

2022.02.28

ウクライナの危機を救う国連決議

ウクライナの政府・軍はロシア軍による侵攻を受け、劣勢に立たされている印象が強い。ロシアによる宣伝の影響もあろうが、ウクライナが危機的状況にあることに変わりはないようだ。そんななか、米英の国防当局による「ウクライナ軍の抵抗は強く、ロシア軍は兵站の問題もあり苦しんでいる」との発表は一縷の望みを抱かせる。
 
 国連で待ちに待たれた決議に向けて動き始める可能性が出てきた。安全保障理事会では拒否権のため実質的な内容の決議は成立しないが、総会では決議の採択が可能であり、現在その方向で動いているのである。もちろん安易に楽観的になることはできない。決議は成立すると決まっているわけでない。成立したとしても、その内容いかんが問題となる。そのような不確実性はあるが、国連総会の緊急特別会合が40年ぶりに開催されることになったことの意義は大きい。

 この会合が開かれれば、総会としての決議採択を目指すことになる。総会決議には拒否権は認められていないので大多数の国連加盟国の意思に沿った決議が採択されると見てよい。
 
 総会緊急特別会合は現地時間(米国東部時間)で2月28日の予定なので、日本では3月1日中に決着がつく。会合が紛糾して長引くことはありうるが、決議が近日中に採択されると期待してよいだろう。

 国連総会決議が採択されると、各国はウクライナ情勢の鎮静化、平和の回復のため行動を取りやすくなる。NATOが今まで動いていないのはNATOの憲章(大西洋憲章)上、ウクライナがNATOの加盟国でないことが基本的な制約であったが、国連決議が採択されると、米欧諸国は国際法的なお墨付きを得て行動することが可能となる。

 これまで国連の決議を実行するためにNATOはユーゴスラビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、マケドニア、イラク、アフガニスタン、リビアなどで行動した。すべてNATOの域外である。

 軍事顧問の派遣、装備の支給などはもちろん、NATOの戦闘機が爆撃したこともあった。そこまで決議の解釈として行えたのだ。

 仮にウクライナに関して決議が成立すれば、人道上の理由からの緊急行動、平和の回復・維持のための行動として戦闘機が出動することも可能となる。具体的な様相を予想するのは困難だが、国連決議はウクライナ問題を解決する大きな糸口となりうる。
2022.02.22

ロシアによる東部ウクライナ2州の承認と軍の派遣

 ロシアのプーチン大統領は2月21日、親ロシア派が支配しているウクライナ東部の「ドネツク州」と「ルガンスク州」の独立を認める大統領令に署名した。両州のロシア人勢力とロシアは両州をそれぞれ「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」と呼称している。

 翌22日、プーチン氏は「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」に平和維持のための軍部隊を派遣するようロシア国防省に指示した。ロシア軍は以前からこの日に備えていたのですでに軍の侵攻は開始しており、ロシア軍の両州への展開は短時間のうちに完了するだろう。

 ロシアは今まで両州からの独立承認要請に応えないでいたのだが、ついに両州のウクライナからの独立を認め、軍を派遣したのである。8年前に、クリミアを併合したのと同じことが起こりつつあるのであり、両州はいったん独立の「人民共和国」となるが、いずれロシアに併合されるだろう。要するに、ロシアは両州をクリミアと同様、強引な方法で奪いつつあるのだ。

 これに対して西側はどう対応するのか。

 ウクライナにとって東部2州の独立は反乱に他ならない。ウクライナ軍はロシア人勢力と戦ってきたが、それはウクライナ国内の反乱軍を鎮圧するためであった。ウクライナは両州の独立を認めないので、今後も反乱軍勢力との戦いが続くことになる。だが、これからはロシア軍が駐留しているのでウクライナ政府にとっては厄介な問題が増えることになる。

 ウクライナ政府も国際社会も東部2州におけるロシア軍についていかなるステータスも認めない。「平和維持軍」だとロシアは自称しているが、そのような子供だましで動く各国ではない。ただ問題は、国際法上違法な軍事行動をいかに排除するかであり、それは21世紀の今日、簡単なことでない。軍事面でどのような展開になっていくか、予測は困難である。

 ロシアが今回うまく立ち回ったとする見方がある。ロシアとウクライナのロシア系住民は独立し、ロシアに統一されることにより目的を達することになる点ではその通りであろう。

 一方、ロシアがこれまで忌み嫌ってきたウクライナのNATOへの加盟問題に影響は出ないか。ウクライナのNATO加盟はロシアの安全保障を損なうという反対理由を西側は認めたことはないが、この主張は国際社会に一定程度訴える力があった。しかるに、東部2州の独立・ロシアへの統一が完成してしまうと、ロシアの主張はいずれ説得力を持たなくなり、逆に西側の主張が強くならないか。これまで東部2州は問題はあったが、ウクライナの一部であり、同国のNATOへの加盟に反対する勢力が同国内に存在したことの証であった。東部2州が独立してしまうと、ウクライナ内のNATO加盟反対勢力はその分少なくなる。とすれば、ウクライナとしてNATO加盟は比較的容易になるのではないか。
 ロシアはその場合でも反対し続け、ウクライナが従わないとまたどこかの地方を奪うのだろうか。東部2州は別にしても、ウクライナにはロシア語を話す住民が首都キエフをはじめ各地に存在する(全国で十数%)。彼らと東部2州のロシア人勢力を同一視することはできないが、ロシアの出方いかんでは危険な存在に化するかもしれない。

 欧米諸国はロシアに対し「手を出すな」と言い続けてきた。バイデン米大統領は、ロシアがウクライナに侵攻すれば、同盟国とともに「ロシアにとって大惨事になる」ような大規模な経済制裁をかけるとしてきた。その中には、ロシアの金融機関や主要産業を標的とした措置が想定されていた。だが、米国がロシアの決定後いち早く発表した経済制裁は、親ロシア派支配地域に対し米国との経済取引を禁じる内容で、ロシアに対する制裁ではなかった。バイデン大統領はロシアに対する大規模な制裁には慎重な姿勢を崩しておらず、可能な限りロシアに対する説得を続けようとしているのであり、そのことは評価できる。

 しかし、力で現状を変更されてしまった悪影響は計り知れない。欧州のみならず、東アジアへの影響も深刻である。なかでも台湾について、誤ったメッセージを与えることにならないかという、超特大の問題もある。この地域で現在のバランスが崩れると日本は直に深刻な影響を受ける。それは日米関係の危機にもなりうる。

 ウクライナ東部の2州問題とは別に、力による現状変更の試みがどのような危険をもたらすか、また自由主義世界として何ができるか、日本は米国とはもちろん、EU・NATOとも緊密な協議を通じて事態を見極める必要がある。日本は、北方領土問題を控えているのでロシアとの関係を悪化させたくないという考えが永田町の一部にあるそうだが、牙をむいて本性を現したロシアに手心を加えるのは、国際社会から評価されない、危険極まりない考えである。

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