平和外交研究所

2016年1月

2016.01.30

(短評)北朝鮮の核実験とケリー国務長官の訪中

 ケリー国務長官は忙しい日程を割いて北京を訪問し、1月27日、王毅中国外相他と会談した。ダボス会議からラオスとカンボジア訪問、それから中国という強行日程であった。テーマは、北朝鮮が4回目の核実験したことに関する安保理決議(決議成立に手間取っている)と北朝鮮への圧力を強化するよう中国に要請することであった。

 ケリー長官は北朝鮮による今回の核実験後、「これまでの制裁は機能しなかった。同じやり方を続けるわけにはいかない」と発言した。そしてケリー長官が選択した新しい方法は、安保理で強い内容の決議を成立させることと中国に対し北朝鮮への圧力を強めることであった。具体的には中国から北朝鮮に対する石油の供給などを制限、ないし停止することだ。

 これが新しい方法か。とてもそうは思えない。北朝鮮への圧力を強めるよう中国に対してこれまで何回も要請してきた。しかし、これでは北朝鮮の核開発を止められない。
 米国の不満はよくわかる。安保理の決議を忠実に実行すれば中国はもっと徹底的に圧力を加えるべきだからだ。しかし、それでは限界があることが米国も承知のはずだ。了承しているという意味ではない。
 米中の最大の違いは、中国が北朝鮮を崩壊させるおそれがあることに中国として加担できないという立場であるのに対し、米国にはそのような考えはない点にある。北朝鮮が石油を中国から得られなくなって国内が混乱し、国家として成り立たなくなっても、米国は「そのようなことは米国が望んだわけでなく、北朝鮮自身が選んだことだ。危険な状況に陥るのが嫌なら、核開発や核実験をやればよい。米国は北朝鮮が核開発を止めれば経済面で協力するとも言っている」という考えだ。米国の方法はいわゆる「北風」なのだ。
 この米国の立場に日本を含め多くの国が賛同している。
 しかし、中国は、ある程度は米国の要請に応じるが、その通りにはしないだろう。中国は時々、北朝鮮が不安定なのは米国のせいだと言うことがある。朝鮮戦争以来の状況を指しているのだ。このことはあまり報道されないが、中国は北朝鮮が体制の維持を最大の目標としていることを知っている。

 ともかく、ケリー長官の努力は尊敬に値するが、その方法はこれまでと同じであると言わざるを得ない。今まで以上に中国に強く促すということ以外新しいことはないのではないか。

2016.01.29

(短評)核軍縮作業部会への参加

 昨年、国連で「核軍縮に関する作業部会」の設置が決まった際、日本は棄権したが、2月から始まるこの作業部会には参加する方針を固めたと報道されている。「棄権」は形式的には中立だが、全体の状況の中で見るとかなり否定的な感じである。
 「核軍縮」とは「核を廃絶すること」を意味しているが、いっぺんにそれを実現することはできないので「廃絶の方向に向かって前進すること」などプロセスも含まれる。
 
 5つの核兵器国はすべてこの作業部会の設置に反対した。その理由については、核兵器の使用禁止や違法性の確立などを目指すことを警戒したと説明されている。この説明の通りだろうが、核兵器国は、核兵器を削減するにしても自分たちのペースで進めたい、核兵器を持たない国からせっつかれるのは好まないというのが本心だろう。
 なかには中国のように、核兵器の削減は圧倒的に大量の核兵器を保有している米国とロシアが先に実行すべきであるという立場の国もある。つまり、そのようにならなければ中国は核軍縮を実行しないというわけだ。

 核兵器国の考えは、核軍縮に積極的でないとして批判される。しかし、核兵器国は、現在の国際情勢において核は抑止力として必要だと考えている。この立場の違いは核軍縮に関する議論において常に現れる問題であり、これから始まる作業部会においてもそのような立場の違いは出てくるだろう。
 核兵器国はいずれもこの作業部会に出てこないだろうが、積極的に核軍縮を進めるべきだという国としても核兵器国の立場を無視することはできないので、やはりこの違いは大きな問題となる。
 
 日本は作業部会でどんな貢献ができるか。この相反する2つの考えについて、いずれか一方のみを優先させることは困難だろうが、2つの考えがあることは前提にして議論すべきことがあると思う。具体的には、核兵器の非人道性についての認識を深めることである。かねてからわたくしが主張していることだが、核兵器と通常兵器は、放射能の問題は別として、質的な違いはないと思っている人が世界にはかなりいるのが現実だ。
 核兵器の非人道性についてはこの作業部会に先立って国際会議が数回開催されてきたが、まだまだ不十分だ。今年のG7外相会議は広島で開催されるそうだが、これは良い考えである。
 外相会議ではさらに、核兵器の非人道性を議題として取り上げ、率直に議論してほしい。非公式の場でもよい。フランスなど核兵器の非人道性を認めることに難色を示す可能性が高い国とどのような議論をして説得するべきか、よく検討して臨んでもらいたいものだ。

2016.01.28

中東へ進出する中国

 習近平中国主席が1月19日からのサウジアラビア、エジプト、イランを歴訪し、巨額の借款供与や原発輸出を発表して注目を浴びた。中国の最近の対中東積極外交の主要点を取りまとめてみた。

(資源外交から「一帯一路」)
 中国の中東への進出は資源獲得の目的から始まった。石油天然ガス集団など中国の企業は採掘権を獲得、巨額の投資(採掘や精製、関連のインフラ建設など)、石油の引き取りなどを行う。
 産油国には万の台の中国人労働者が送り込まれる。リビアの内乱の際は3万人あまりの中国人が避難した。
 最近はこの他原発輸出が目立ってきた。
 中東諸国への援助供与も増大しており、その関係で、中国はアラブ諸国と協力フォーラム、「中国-アラブ諸国協力フォーラム(China-Arab States Cooperation Forum)」を2004年に設置して意思疎通を図っている。
 今は、資源獲得の看板を下ろしたわけではないが、「一帯一路」構想を語り、中東諸国の参加を求めている。この構想は対象地域や対象事業など明確になっていない部分があるが、資源の開発・取引も含むのだろう。
 習近平主席は今回の歴訪中行く先々でこの構想について力説した。

 アフガニスタンは産油国でないが、中国からイスラム世界に通じる拠点であり、「一帯一路」の重要な一角だ。パキスタンのグワダル港から陸路で新疆自治区へ通じるルートはアフガニスタンのタリバーンの脅威にさらされており、このルートの安全には中国とパキスタン両政府に加えてアフガニスタン政府との協力が不可欠だ。
 アフガニスタンと中国については当研究所HP2015年2月23日の「中国の「海上シルクロード」続き3」を参照願いたい(これを検索するには、「中国の「海上シルクロード」続き3」と「平和外交研究所」をキーワードにする)。

(中国とイスラム過激派)
 中国の中東外交においてイスラム、とくに過激派との関係が問題であり、手を焼いているようだ。
 新疆自治区の過激派(?)がISで軍事訓練を受け、戦闘に参加していると、中国の呉思科・中東問題特使が発言したこともある。
 ISはテロの脅威の一種であり、テロ対策を強化する必要があるという点では各国と利害は一致している。
中国とイスラムについては、当研究所HP2014年8月27日付の「イスラム国での中国の評判」を参照願いたい。

(中国と米国-矛盾か、協力か)
 中国の中東への進出を米国は歓迎するか。これにも両面がある。
 米国はイラクやアフガニスタンで戦争し、いずれの地でも数千人に上る死者を出した。しかし、中国はこれらの戦争に参加しないまま両国との経済関係を深め、イラクでも、アフガニスタンでも主要な貿易相手国となっており、イラクでは最重要パートナーだと言われることもある。米国にとって中国は「ただのり」だとオバマ大統領が言った。
 中東諸国の側でも、米国との従来からの友好関係は維持しつつ、中国の進出を歓迎する傾向がある。習近平主席が訪問したサウジとエジプトはいずれも米国の伝統的中東外交の柱であり、巨額の軍事援助を行ってきた。しかし、サウジはISに対する空爆には参加しつつも、イランと和解する傾向を示す米国には不満を抱いている。その背景には、イランの核問題が解決して国際社会に受け入れられるようになるに伴い、スンニ派の代表格であるサウジとシーア派の代表格であるイランとの対立が生じ、サウジ内でのシーア派の指導者ニムル師の刑執行をきっかけに断交にまで発展したという問題がある。

 一方、米国と中国の間で利害が一致することもある。
 イスラム過激派およびテロの問題だ。米国が過激派組織ISに対する空爆をイラクで開始したのが2014年8月。翌9月にシリアへも攻撃を開始するのだが、その間にオバマ大統領のライス補佐官が訪中し、オバマ米大統領が構築を目指している有志連合を支持するよう中国に要請した。
 これに対して、中国はテロとの戦いを強化することは重要だと理解を示しつつ、中国が関わることについては、「興味を示した」とも伝えられたが、慎重な姿勢を崩さなかった。テロとの戦いについても一般論であり、米国の空爆を支持したのではなかった。
 中国の立場は過激派組織ISとの関係では米国やその他各国とも類似しているが、他国の領域内で軍事行動をすることについては非常に慎重であり、旧ユーゴ、イラク、リビアなどでの米欧諸国の行動には、安保理で反対、あるいは棄権してきた。イラクとシリアの場合も同じ姿勢なのだろう。

 2016年1月11日、アフガニスタンにおける和平実現のためにアフガニスタン、パキスタン、米国、中国の協議が行われ、共同声明も発出された。
 アフガニスタンでは、タリバーンとアフガニスタン政府の話し合いが2015年7月から中断しており、タリバーンと政府軍および米軍との戦いは一進一退、あるいはタリバーンの攻勢が強くなっている面もある。10月には北部の主要都市クンドゥズが、一時的であったがタリバーンに占領され政府側は強い衝撃を受けた。
 アフガニスタン政府を支援していた米軍など各国軍はすでに撤退済みか、残っていても数は大幅に減少している一方、アフガニスタン政府の軍・警察は腐敗のため十分機能しておらず、状況は厳しい。
 このような状況の中で中国がより積極的な役割を果たすことは米国としても望むところだ。
 中東における米国と中国の関係は今後も、対立と協調の両面から注意していく必要があろう。
 なお、当研究所HP2014年9月8日付の「米・中・イスラム国関係」を参照願いたい。

(イスラエルとパレスチナ)
 中国は中東和平にも積極的に取り組む姿勢を見せており、2014年にはパレスチナとイスラエルに呉思科特使を3回派遣し、また、王毅外相は同年8月初め、エジプトを訪問した。
 同地で王毅外相が発表した中東和平5項目提案では、イスラエルとパレスチナによる即時停戦、イスラエルによるガザ地区の封鎖解除、拘留パレスチナ人の解放、イスラエルの安全への懸念重視、パレスチナ人の独立と建国への正当な要求と合法的権利の支持など、イスラエルとパレスチナ双方の立場に配慮していた。
 イスラエルとパレスチナの問題は相次ぐ紛争に見舞われている中東でも最大の難問であり、国連は別として、これまで和平問題に関与できるのは米国と、欧州諸国がそれに時折加わる程度であった。
 この問題に中国は本腰を入れて取り組もうとしているのか。和平提案だけで判断することはできない。今後の展開を見守る必要がある。
 この問題に関するHPの論考としては次がある。
 2014年月8月5日「中国の中東和平5項目提案」
 2015年9月25日「中国とイスラエルの関係」

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