平和外交研究所

1月, 2016 - 平和外交研究所 - Page 4

2016.01.17

(短評)台湾の総統選


 1月16日、台湾で行われた総統選挙で民進党の蔡英文候補が圧勝した。立法院でも民進党は大勝し、約3分の2の議席を獲得した。
 台湾人の間で「我々は中国人でない、台湾人だ」という意識が非常に強くなっていたことがほとんどそのまま選挙結果となったと言える。また、経済面では台湾企業がむしろ中国から撤退する傾向になり、中国との関係が大事だから国民党に投票しなければならないという状況ではなくなってきたことも民進党勝利の大きな要因だ。

 蔡英文新総統にとって課題は山積しているが、なかでも台湾の安全保障をめぐる情勢が複雑化していることは大きな問題であり、新総統は微妙なかじ取りを要求される。
 台湾の安全を脅かすのは中国であるが、その脅威は米国によって食い止められていた。この状況は今後も変わらないが、実際に台湾を困難な立場に陥れる危険があるのは台湾が独立に向けて走り出すことであり、そのため民進党が警戒されていた。
 しかし、米国と中国の間には南シナ海をめぐって矛盾があることが中国の拡張主義的行動によって露呈された。その結果、国民党にも米国と矛盾する面があることが表面化してきた。国民党は中国と同様、南シナ海に対する領有権を主張しているからだ。
 一方、民進党にはそのような大国主義的主張はないので、米国を怒らせ危険はない。
米国は今後、南シナ海に関して矛盾のない民進党に対しどのような態度を取るだろうか。
米国にとって最も望ましいのは、台湾が独立に走ることを完全に止め、かつ、南シナ海に対する領有権主張を止め、さらに南シナ海に関して米国が進めている国際的連帯に台湾が加わることである。これは日本から見ても同じだ。
蔡英文新総統が米国と完全に同調すると台湾の立場は堅固になる。しかし、そこまで舵を切れるか。南シナ海問題については、フィリピンの仲裁裁判への提訴に反対してきたことなど台湾として積み重ねてきたことがある。また、米国への接近は中国の不満を惹起する。
蔡英文新総統は基本に立ち返って台湾の安全保障戦略を再構築しなければならない。
2016.01.14

(短評)北朝鮮に対する対応が不十分であったなら、同じことを繰り返すべきでない

 北朝鮮の核実験に関し、国連安保理での協議、韓国の対応(北向け放送の再開)、米軍機の示威飛行(B52など)、日米韓のハイレベル高官による協議などが伝えられている。
 米国はこれまでの対応が不十分であったと言いつつ、中国が北朝鮮への働き掛けを強化する必要があることを強調している。日本と韓国も同意しているそうだが、これは、今までしてきたことと同じだ。今までの方法が不十分であったと言いながら、同じことを繰り返すのは不可解だ。
 中国の北朝鮮に対する働きかけがほんとうに核実験を止めさせる力を持ちうるのは、中国が北朝鮮と全面的に対決し、どちらが勝っても構わないというくらい覚悟を決めてかかる場合しかないとは考えないのか。
 3カ国の担当者はあくまで冷静に、「中国がのめる範囲内で北への圧力を強化してもらう」と言っているそうだが、これではそのような効果は期待できない。
 制裁措置にしても、強化すれば北朝鮮は困る(困るのは一層増す)だろうが、核開発は止めないだろう。北朝鮮という国の生存がかかっているからだ。少なくともそれが彼らの認識だ。
 これまで実施された措置、これから実施されると伝えられている措置では北朝鮮の核開発を止められない。しかも北朝鮮に対する報復と圧力を目的とする措置、いわゆる「北風」ばかりだ。北朝鮮の核実験は国際社会から強い反応を招くことになることを悟らせるなどとも言われているが、北朝鮮はそんなことを承知の上で核開発を続けているのではないか。それが暴挙と思われても。
 
 北朝鮮がなぜ核開発にこだわるのか、その原因と理由を探求し、核開発を止めさせるべきだ。カギは米国にある。中国ではない。世界中で忙しい米国としてそのことを認めたくないのは分からないではない。個人的には同情も覚えるが、事実は曲げられない。
 当研究所は以上のような考えを何回か発表してきた。最近では、1月11日の「北朝鮮の核実験「水爆かどうか」より大事なことは」がある。
2016.01.13

「永世中立国」スイス憲法にみる安全保障と日本の平和憲法

 年の初め。スイスの憲法と比較しつつ、日本の新安全保障法制を改めて見てみました。THE PAGEに1月11日アップされたものです。 

「スイス憲法における軍隊の規定
 スイスの憲法は、民兵によって構成される軍隊を持つこと(第58条)、すべてのスイス人は兵役の義務を負うこと(つまり徴兵制、第59条)などを定めています。
 スイスと日本はともに平和に徹することを国是としており、スイスの「永世中立」は、日本国憲法が第9条で日本が「国際紛争」に巻き込まれることを厳禁していることと対比できます。
 実は、スイス憲法には「中立」とはどこにも書いてありません。古い話ですが、1815年、ナポレオン戦争後のヨーロッパの新秩序を決定したウィーン体制においてスイスの中立が周辺の諸国との条約において規定されたのです。
 そうなったのは、スイスが当時軍事強国であり、スイスと同盟した国が軍事的に優位に立ち、そうなるとヨーロッパが不安定になるので、スイスを中立にしておくのがよいと考えられたのです。また、スイスとしても中立は望むところだったので各国の考えを受け入れました。

 第二次大戦後の日本を取り巻く国際環境は違っており、アジアの周辺国の間には日本の立場についてスイスのような合意はありませんでした。
 日本は、安全の確保のためには国連に依拠するのがよいと考えましたが、国連は拒否権のために重要な問題について決定できませんでした。これでは日本を防衛できません。そのため、1951年、日本が連合国と平和条約を締結した際に米国と安全保障条約を結び、1957年には、国連が機能するに至るまで日米安保条約に依拠することとするという「国防の基本方針」を定めました。これは現在も有効です。
 日本国憲法と日米安保条約の間に矛盾はないか、「国際紛争に巻き込まれない」ことと米国に依拠することの間に矛盾はないかいう問題はこの時から発生しました。

スイスでは2013年に徴兵制廃止をめぐって国民投票が行われたが否決
 スイスは徴兵制を維持している珍しい国ですが、宗教上などの理由から撤廃すべきだという意見は以前からあり、国民投票が行われ、否決されたこともありました。2013年には、徴兵制は現実離れしている、国費の無駄遣いだなどという理由で再び国民投票が行われましたが、やはり維持すべきだという結論になりました。

日本では昨年、集団的自衛権の行使を認める安保法制をめぐり議論噴出
 日本では、2014年、それまで認められなかった集団的自衛権の行使を認めるべきだという考えの下に安全保障関連法案が提出されました。「自衛」は本来自国を防衛することが目的ですが、集団的自衛の場合、一定の要件を満たせば他国の防衛のために自衛隊が出動することになります。そのため、改正法案は憲法違反であるという考えが多数の憲法学者及び国民から出ましたが、結局、改正法案は国会で承認され、成立しました。
 日本が自衛力を持ったのは1954年からです。「自衛」は憲法の禁ずる「国際紛争」ではないので、自衛隊を持つことは憲法と矛盾しないと判断されました。
 日米安保条約も日本を防衛することのみが内容となりました。米国に日本を守る義務を負わせる一方、日本は米国を守る義務はないのは条約として異例ですが、日本の憲法の下ではやむをえないことでした。

 今度は安保法制の改正により集団的自衛権の行使も認められることになり、他の国が武力攻撃された場合でも自衛隊を派遣することが可能になりました。要件は非常に厳格ですが、それでも日本国憲法の厳禁する「国際紛争に巻き込まれる」ことにならないかが問題となりえます。
 とくにその危険が大きいのが、武力攻撃・存立危機事態法の「存立危機事態」と、新しい国際支援法による多国籍軍への自衛隊の派遣です。後者は、2003年のイラク戦争の際に、憲法に触れないよう特別法で活動範囲を「非戦闘地域」に限るなどして自衛隊を派遣した例がありますが、一般に「多国籍軍」と呼ばれる場合は平和維持活動と異なり、紛争は終わっていません。そこへ自衛隊を派遣することは、憲法の「国際紛争に巻き込まれてはならない」という定めに反する危険が大きいと思います。

 ともに平和を国是としているが、徴兵制を維持して自国軍で安全保障をまかなおうとするスイスと日本では、安保環境も法制度も違っている。
 日本の場合は、スイスのように周辺諸国の間でコンセンサスがないだけに安全保障の在り方は複雑になりますが、日本国憲法が厳禁する「国際紛争に巻き込まれること」は日本の国是であり、これを揺るがせないよう努めるべきでしょう。安保条約に依拠して自衛する、あるいは国際貢献をするのは問題ありませんが、この一線を越えてはなりません。
 自衛隊による米軍への協力や多国籍軍への参加の可能性が増大してきた現在、日本国憲法、日米安保条約および改正安保法制の関係を明確にしておく必要があります。

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