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2016.01.13

「永世中立国」スイス憲法にみる安全保障と日本の平和憲法

 年の初め。スイスの憲法と比較しつつ、日本の新安全保障法制を改めて見てみました。THE PAGEに1月11日アップされたものです。 

「スイス憲法における軍隊の規定
 スイスの憲法は、民兵によって構成される軍隊を持つこと(第58条)、すべてのスイス人は兵役の義務を負うこと(つまり徴兵制、第59条)などを定めています。
 スイスと日本はともに平和に徹することを国是としており、スイスの「永世中立」は、日本国憲法が第9条で日本が「国際紛争」に巻き込まれることを厳禁していることと対比できます。
 実は、スイス憲法には「中立」とはどこにも書いてありません。古い話ですが、1815年、ナポレオン戦争後のヨーロッパの新秩序を決定したウィーン体制においてスイスの中立が周辺の諸国との条約において規定されたのです。
 そうなったのは、スイスが当時軍事強国であり、スイスと同盟した国が軍事的に優位に立ち、そうなるとヨーロッパが不安定になるので、スイスを中立にしておくのがよいと考えられたのです。また、スイスとしても中立は望むところだったので各国の考えを受け入れました。

 第二次大戦後の日本を取り巻く国際環境は違っており、アジアの周辺国の間には日本の立場についてスイスのような合意はありませんでした。
 日本は、安全の確保のためには国連に依拠するのがよいと考えましたが、国連は拒否権のために重要な問題について決定できませんでした。これでは日本を防衛できません。そのため、1951年、日本が連合国と平和条約を締結した際に米国と安全保障条約を結び、1957年には、国連が機能するに至るまで日米安保条約に依拠することとするという「国防の基本方針」を定めました。これは現在も有効です。
 日本国憲法と日米安保条約の間に矛盾はないか、「国際紛争に巻き込まれない」ことと米国に依拠することの間に矛盾はないかいう問題はこの時から発生しました。

スイスでは2013年に徴兵制廃止をめぐって国民投票が行われたが否決
 スイスは徴兵制を維持している珍しい国ですが、宗教上などの理由から撤廃すべきだという意見は以前からあり、国民投票が行われ、否決されたこともありました。2013年には、徴兵制は現実離れしている、国費の無駄遣いだなどという理由で再び国民投票が行われましたが、やはり維持すべきだという結論になりました。

日本では昨年、集団的自衛権の行使を認める安保法制をめぐり議論噴出
 日本では、2014年、それまで認められなかった集団的自衛権の行使を認めるべきだという考えの下に安全保障関連法案が提出されました。「自衛」は本来自国を防衛することが目的ですが、集団的自衛の場合、一定の要件を満たせば他国の防衛のために自衛隊が出動することになります。そのため、改正法案は憲法違反であるという考えが多数の憲法学者及び国民から出ましたが、結局、改正法案は国会で承認され、成立しました。
 日本が自衛力を持ったのは1954年からです。「自衛」は憲法の禁ずる「国際紛争」ではないので、自衛隊を持つことは憲法と矛盾しないと判断されました。
 日米安保条約も日本を防衛することのみが内容となりました。米国に日本を守る義務を負わせる一方、日本は米国を守る義務はないのは条約として異例ですが、日本の憲法の下ではやむをえないことでした。

 今度は安保法制の改正により集団的自衛権の行使も認められることになり、他の国が武力攻撃された場合でも自衛隊を派遣することが可能になりました。要件は非常に厳格ですが、それでも日本国憲法の厳禁する「国際紛争に巻き込まれる」ことにならないかが問題となりえます。
 とくにその危険が大きいのが、武力攻撃・存立危機事態法の「存立危機事態」と、新しい国際支援法による多国籍軍への自衛隊の派遣です。後者は、2003年のイラク戦争の際に、憲法に触れないよう特別法で活動範囲を「非戦闘地域」に限るなどして自衛隊を派遣した例がありますが、一般に「多国籍軍」と呼ばれる場合は平和維持活動と異なり、紛争は終わっていません。そこへ自衛隊を派遣することは、憲法の「国際紛争に巻き込まれてはならない」という定めに反する危険が大きいと思います。

 ともに平和を国是としているが、徴兵制を維持して自国軍で安全保障をまかなおうとするスイスと日本では、安保環境も法制度も違っている。
 日本の場合は、スイスのように周辺諸国の間でコンセンサスがないだけに安全保障の在り方は複雑になりますが、日本国憲法が厳禁する「国際紛争に巻き込まれること」は日本の国是であり、これを揺るがせないよう努めるべきでしょう。安保条約に依拠して自衛する、あるいは国際貢献をするのは問題ありませんが、この一線を越えてはなりません。
 自衛隊による米軍への協力や多国籍軍への参加の可能性が増大してきた現在、日本国憲法、日米安保条約および改正安保法制の関係を明確にしておく必要があります。
2016.01.03

(短評)ロシアの新安全保障戦略

 12月31日、プーチン大統領が承認した「ロシアの新安全保障戦略(以下「新戦略」)」は、2009年に策定された「2020年までの国家安全保障戦略(以下「旧戦略」)」を大きく改訂するものであり、現在のロシアの国際情勢認識をよく反映している。
 旧戦略は、プーチン大統領がエリツイン時代の混乱を収束させ、新政権としての基本認識を打ち出すために2002年に起案を命じたが、ロシアの安全保障戦略にとって最も重要な米国の状況がアフガニスタンやイラクなどでの戦争のため流動的であり、様子を見守っていたのだろう。チェチェンやグルジアなどロシア国内の問題の処理に忙殺されていたことも影響していたかもしれない。ともかく、旧戦略が承認されたのはオバマ政権が発足した後であった。
 今回の改訂は、クリミア併合以降、ロシアを巡る国際環境が格段に厳しくなったからである。G8からは排除された。ロシアはG8には戻らないと強がりを言っているが、客観的にはロシアの国際的地位が著しく悪化したことは明らかだ。ロシアと米欧の関係が冷戦時代をほうふつさせる程度にまで悪化しているのはロシアにとっても問題であり、新戦略の策定はそれを物語っている。
 一方、旧戦略が検討されていたころ、中国はまだ高度成長のさなかであり、旧戦略は中国との関係に注目しつつも中国をロシアにとって特別の存在であるという認識にはしていなかった。
 旧戦略の特徴は世界を多極化していると捉えていたことだ。米国一国の影響力増大を嫌うロシアとして好ましい状況であるという気持ちもあったのだろう。ロシアは中国と合同軍事演習を始めていたが、米国をけん制する姿勢は抑えていた。米国を刺激しすぎないようにとの配慮はあったのだ。 

 新戦略では中国とインドの位置づけががらりと変わり、力を入れて描写した。とくに、中国については「全面的なパートナー関係と戦略的な協力関係を発展させる。世界と地域の安定のカギだと考える」と持ち上げた。今やロシアとしては世界は多角化しているということではすまなくなっており、それに代わって中国との関係が重要だと言っている。
 なお、日本については旧戦略も同様であったが、新戦略は何も言及しなかった。上述したようなロシアの世界情勢認識からすればそうなるのだろう。

 それはともかく、新戦略のもう一つの特徴は、「『色の革命』の扇動」「伝統的なロシアの精神的・道徳的価値の破壊」「汚職」などもロシアにとって脅威だとしたことである。「色の革命」とはウクライナの「オレンジ革命」などのことであり、これを扇動する者がいると言っているだが、どういうことか気になる言及だ。
2015.12.09

(短文)核廃絶に関する日本提出決議の採択

 12月8日、国連総会において我が国が107カ国の共同提案国を代表して提出した核廃絶決議案が採択された。我が国は毎年この決議案を提出しているが、今年は一つの特徴があった。
 世界の指導者に被爆地訪問を促していることだ。目的は、被爆地を訪問することにより、核兵器がいかに恐ろしい、非人道的な兵器であるかを理解してもらうことにある。
 日本ではなかなかわかりにくいことだが、世界の人たちは、核兵器が非人道的だということを必ずしも理解していない。軍縮に携わっていても分かっていない人がいる。何回も繰り返して恐縮だが、わたくしは軍縮大使時代、核の非人道性を分かっていない欧州のある主要国の大使と激論を交わしたことがある。

 さる5月、NPT(核兵器不拡散条約)の、5年に1回の重要会議(「再検討会議」と言う)で、日本は同じ文言を会議の結論に入れようと努めたが、中国が猛反対したため成功しなかった。
 しかし、日本政府はそれであきらめることなく、今回の国連総会でふたたび試み、成功した。粘り強い努力のたまものだったと言えるだろう。

 この被爆地訪問と同じく核兵器の非人道性を確認・確立しようという動きが、この決議とは別に過去2年来続けられてきた。非人道性確認国を拡大する運動であり、こちらも賛同国が増加し、また核兵器国も米英仏などはNGOの強い後押しを受けて拒絶反応を示さなくなっていたが、
 他方、運動に参加する国が増加していくと核兵器の使用禁止に発展する恐れがあると警戒心を高めていた。
 国連総会で我が国が主導した決議案に、昨年まで米英仏などは賛成していたが、今回は「棄権」した。半歩後退である。そのように態度を変えたのは、やはり非人道性確立運動に警戒していたからである。
 

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