平和外交研究所

ブログ

朝鮮半島

2021.02.13

北朝鮮労働党大会と中央委員会総会ー経済の立て直しが急務

 北朝鮮労働党の大会が1月5日~12日、中央委員会総会が2月8日~11日に開催された。北朝鮮の経済状況は制裁、新型コロナウイルス防疫のための国境封鎖および自然災害の「三重苦」にあるといわれるだけに、経済発展をいかに進めるかが両会議を通じて最重要の議題となったのは当然であった。2020年の北朝鮮の対中貿易額は、厳格なロックダウン(都市封鎖)を受けて、前年比で80%以上減少したという。

 金総書記は複数回報告を行った。党大会冒頭(5日)の報告で、昨年までの国家経済発展5カ年戦略の目標はほぼ全ての部門で未達だったと認めることから始まった。
 総会では「自立度を高め、国内生産を増やすべきだ」、「(新たな5カ年)計画は党のイデオロギーと指針を正確に反映しておらず、イノベーションと賢明な戦略が欠けている」、「内閣は各省が提出した数値を機械的に合算しており、一部のセクターの計画は非現実的なほど壮大だ。他のセクターは、すでに容易に達成可能で、達成して当然の目標を引き下げている」、「官僚は保身と敗北主義に陥っている」などと強い批判を交えて発言した(引用は国営の朝鮮通信社)。

 総会では、首都平壌に今年1万戸の住宅を建設することが発表された。しかし、それは一部の問題であり、北朝鮮では金総書記の意を受けて新5か年計画の全面的練り直しが行われているものと思われる。

 総会に提出された新計画の原案はよほど出来が悪いと思われたのであろう。担当の経済部長は1月の党大会で就任したばかりの金頭日(キム・ドゥイル)であったが、呉秀容(オスヨン 元副首相)に交替となった。金頭日は党大会で政治局委員兼書記に選出されており、これだけの地位の者が1か月後に更迭となるのは異例の人事である。

 また、金総書記が、検察など法執行機関の役割を強め、「特に経済活動で現れる、あらゆる違法行為との法的闘争を強力に展開する」と述べたことも注目される。全ての部門において絶対的な服従が求められている北朝鮮であるが、不正が起こっていることが窺われる。

 なお、経済問題でないが、約1年前に李容浩に代わって外相になった李善権(リ・ソングォン)は今次総会で政治局員へ昇格となった。同氏は軍人出身であり、2000年代半ばから南北の軍事会談で北朝鮮側の代表を務め、16年12月には対韓国政策を担う祖国平和統一委員会委員長に就任していた。南北が対話を進めた18年には平昌冬季五輪に合わせて訪韓したほか、軍事境界線にある板門店で韓国統一相との協議に臨んだこともあった。韓国では対外強硬派として知られている。

 北朝鮮の対米姿勢は、現在のところバイデン新政権の出方を見守っている状態にあり、とくに目立った動きはないが、李善権新外相がどのような役割を果たすのか注目される。

2021.01.22

文在寅政権の対日姿勢は変わったか

 韓国の文在寅大統領は1月18日、年頭の記者会見で日韓関係の改善に関する発言を行った。これまで文大統領は菅首相に親しげに呼び掛けるなど、ある程度前向きの気持ちを表したことはあったが、今回は率直に、日韓関係を悪化させている問題に言及した。文氏は日本との関係改善を望んでいると思われる。

 文大統領の発言のうち評価できる点と評価できない点を確認しておく。

評価できる発言
〇 日本政府に元慰安婦らへの賠償を命じた韓国の地裁判決について、「正直、困惑している」。
(注 文大統領が韓国の裁判所の判決について否定的な考えを示したのは初めて。)

〇 2015年の日韓慰安婦合意については、「韓国政府は、両国間の公式合意と認めている」。
(注 文大統領はこれまで公式の合意と認めないかのように振舞っていた。)

〇 元徴用工訴訟について、日本企業の資産が「現金化されるのは、日韓関係に望ましいとは思わない」。
(注 文大統領がこのような発言を行ったのは初めて。)

〇 歴史問題が日韓関係全体に影響し、「他の分野の協力まで止めようとする態度は賢明ではない」。

評価できない発言
〇 解決策は「原告が同意できるものでなければならない」。
(注 この発言は問題である。このような考えに立つ限り、ソウル地裁の判決、2015年の両政府間合意、日本企業資産の現金化問題について、大統領としてどんなに積極的なことを述べても、帳消しになってしまう。また、「日韓両政府が協議して原告が同意できる解決策を見出そう」という主張であれば、今までと基本的には変わらない。)

 韓国政府はこれまで判決は変えられないと主張してきた。文大統領も同じ考えだったようだが、今回の発言はかなり趣が異なる面もある。ともかく、韓国政府は代替案を示す必要がある。例えば、強制執行の結果、日本の政府や企業が損害を被れば韓国政府が補償を行うことなど。

 今回の発言から少しはなれるが、文大統領は韓国の外交を立て直そうとしているのではないか。米国でバイデン新政権が発足する直前に外相を康京和(カン・ギョンファ)氏から鄭義溶(チョン・ウィヨン)氏へ交代させたのもその一環であろう。

 一方、日本側としても注意を要する点がある。今回の文大統領の発言を喜んではならない。発言には積極的な面とともに問題があることはすでに述べたが、特に、日本が注意しなければならないのは第三国から評価される対応が必要なことである。日本の立場が強くなればなるほど、注意が必要である。第三国には元慰安婦問題に同情的な人は少なくない。国際法での主権免除理論を振りかざすことは賢明でない。日本政府は説明の仕方を工夫すべきである。

 また、日本政府は、半導体製造に必要な物資の対韓輸出についての規制強化措置を撤廃すべきである。日本側(経産省)はこれは国内措置だと主張してきたが、徴用工問題に関して韓国に加えた圧力であったことは明らかである。水面下では、今でも日本側から「韓国が態度を改めない限り、撤廃しない」とささやいているのではないか。
 なお、韓国政府は日本政府の管理強化の要求に応じて必要な措置をすでにとったという。もし日本政府としてそれが不十分ならば、輸出管理の範囲内で解決を図るべきである。
2021.01.18

慰安婦問題の解決は国際司法裁判所で

 韓国のソウル中央地裁は1月8日、元従軍慰安婦の女性12人が日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、請求通り1人当たり1億ウォン(約950万円)の支払いを命じる判決を言い渡した。

 日本政府は、国際法上、国家は外国の裁判権に服さない(「主権免除」の原則)ことを理由に訴訟への関与を拒否してきた。が、ソウル地裁は、慰安婦の動員や管理は「反人道的な犯罪行為」で、主権免除を適用すべきでないとの原告側主張を受け入れたのである。

 その後、日本政府は国際司法裁判所(ICJ)への提訴を検討し始めたと伝えられている。ICJでの解決が実現すればもちろん、実現する以前においてもよい方策である。

 2012年、李明博韓国大統領が竹島へ上陸した際、野田首相よりICJでの解決を提案したことがあった。しかし、韓国は同意しなかった。ICJについては、事前に「義務的管轄権」を受諾していれば、いちいち同意しなくてもICJへ行くことになるが、韓国はそれを受け入れていなかったのであり、現在も同じ状況である。

 慰安婦問題についてはこれまでICJでの解決を提案していなかったが、今回韓国の裁判所が日本政府に賠償を命じる判決を下したので、韓国側から法的な解決を主張し始めたのであり、ICJでの解決を求めるのがふさわしい状況になった。

 韓国政府は、しかし、竹島の例などにかんがみても慰安婦問題についてもICJでの解決に応じないかもしれないが、日本政府としてはICJでの解決を主張し続けることにより、公平な姿勢であることを示すことができる。

 また、韓国側でもICJでの解決が望ましいとする意見が出てきている。韓国国民大学の李元徳教授は「平和的に解決するには、両国の合意のもと国際司法裁判所(ICJ)で判断するしかないだろう」との意見である(朝日新聞1月9日付)。日本政府としてはICJでの解決がよいとする韓国の論者にも働きかけ、韓国政府と共に提訴するのが望ましい。

 日本では強い姿勢で韓国に臨むべきだとか、相星孝一・新駐韓大使の赴任を遅らせるべきだとか、次期駐日大使として来日予定の姜昌一氏の受け入れを拒否すべきだとかの主張があるようだが、いずれも問題の解決には役立たない。相星大使は現地へ行き、今後の対応策を至急検討すべきである。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.