2023 - 平和外交研究所 - Page 2
2023.12.16
欧州理事会のミシェル議長の報道官は、この決定は全会一致で決まったと説明した。ウクライナの加盟交渉開始にハンガリーは反対していたが、拒否権は発動しなかった。採決にあたってオルバン・ハンガリー首相は一時的に会議場から退出したのである。ハンガリー以外の26カ国はこの行動を評価した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「これはウクライナにとっての勝利だ。欧州にとっての勝利だ。動機を与え、活力を与え、強さを与える勝利だ」と述べた。
アメリカのサリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も、EUの「歴史的な」動きを歓迎。ウクライナとモルドヴァの「EUおよび北大西洋条約機構(NATO)加盟の願望を実現するための重要な一歩」だと述べた。
ただし、EU首脳会議は数時間後、ウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援について採決を行ったが、これにはハンガリーが拒否権を発動したため、否決された。
日本政府はEUのウクライナとモルドヴァとの加盟交渉決定を評価し、歓迎すべきである。
G7はロシアによる侵略を受けているウクライナを支援している。さる3月に行われた広島サミットにおいて、G7首脳は声明を発表し、冒頭で「我々G7首脳は、ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領の選択により始められたウクライナという主権国家に対する軍事侵略及び戦争に敢然と抵抗しているウクライナ国民及び同国政府を支持し続けることを引き続き決意している」、末尾で「我々は、引き続きウクライナ国民及び同国政府を支持する。我々は、第三国に対するものを含め、我々の措置の影響を引き続き評価し、また、ウクライナに対する攻撃の責任をプーチン大統領及び彼の体制に問うために更なる措置をとる用意がある」と表明した。
EUのウクライナとモルドヴァとの加盟交渉決定は「ウクライナに対する攻撃の責任をプーチン大統領及び彼の体制に問うための更なる措置」である。
日本国政府は、日本国としても、またG7議長国としてもこの決定を評価・歓迎すべきである。
(The following was translated automatically)
On January 14 , EU member states decided to officially start accession negotiations for Ukraine and Moldova , and also made Georgia an official candidate for membership. Ukraine and Moldova applied to join the EU in February 2022 , immediately after Russia launched a full-scale invasion of Ukraine, and were approved as candidate countries in June 2023 . Georgia also applied at the same time , but was not given the status of a candidate for membership.
A spokesperson for European Council President Michel said the decision was taken unanimously. Hungary opposed the start of Ukraine’s accession negotiations, but did not exercise its veto. During the vote, Hungarian Prime Minister Orban temporarily left the conference room. 26 countries other than Hungary appreciated this action.
“This is a victory for Ukraine. This is a victory for Europe. A victory that motivates, energizes and strengthens,” Ukrainian President Volodymyr Zelenskiy said.
U.S. National Security Advisor Sullivan also welcomed the EU’s “historic” move. He said it was an “important step towards realizing Ukraine and Moldova’s aspirations to join the EU and the North Atlantic Treaty Organization (NATO).”
However, a few hours later , the EU summit voted on 50 billion euros (approximately 7.8 trillion yen) in military aid to Ukraine, but this was rejected after Hungary exercised its veto.
The Japanese government should evaluate and welcome the EU ‘s decision to negotiate accession with Ukraine and Moldova .
The G -7 supports Ukraine, which is being invaded by Russia. At the Hiroshima Summit held in March, the G7 leaders issued a statement that began by saying, “We, the G7 leaders, dare to stand against the military invasion and war against the sovereign nation of Ukraine, which was initiated by the choice of Russian President Vladimir Putin.” “We remain determined to continue to support the people of Ukraine and their government in the resistance,” at the end, “We continue to support the people of Ukraine and their government in the resistance. We remain determined to continue to support the people of Ukraine and their government in their resistance. We will continue to assess the impact of our actions and stand ready to take further steps to hold President Putin and his regime accountable for the attack on Ukraine .”
The EU’s decision to negotiate membership with Ukraine and Moldova is “a further step to hold President Putin and his regime accountable for the attacks on Ukraine.”
The Government of Japan, both as Japan and as the G7 Presidency , should evaluate and welcome this decision.
EUとウクライナ・モルドヴァとの加盟交渉
EU加盟国は12月14日の首脳会議で、ウクライナとモルドヴァの加盟交渉を正式に開始すると決定し、またジョージアを正式な加盟候補国とした。ウクライナとモルドヴァは2022年2月、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した直後にEUへの加盟申請を行い、2023年6月、加盟候補国として承認されていた。ジョージアも同時期に申請していたが、この時は加盟候補国にならなかった。欧州理事会のミシェル議長の報道官は、この決定は全会一致で決まったと説明した。ウクライナの加盟交渉開始にハンガリーは反対していたが、拒否権は発動しなかった。採決にあたってオルバン・ハンガリー首相は一時的に会議場から退出したのである。ハンガリー以外の26カ国はこの行動を評価した。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、「これはウクライナにとっての勝利だ。欧州にとっての勝利だ。動機を与え、活力を与え、強さを与える勝利だ」と述べた。
アメリカのサリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も、EUの「歴史的な」動きを歓迎。ウクライナとモルドヴァの「EUおよび北大西洋条約機構(NATO)加盟の願望を実現するための重要な一歩」だと述べた。
ただし、EU首脳会議は数時間後、ウクライナに対する500億ユーロ(約7.8兆円)の軍事支援について採決を行ったが、これにはハンガリーが拒否権を発動したため、否決された。
日本政府はEUのウクライナとモルドヴァとの加盟交渉決定を評価し、歓迎すべきである。
G7はロシアによる侵略を受けているウクライナを支援している。さる3月に行われた広島サミットにおいて、G7首脳は声明を発表し、冒頭で「我々G7首脳は、ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領の選択により始められたウクライナという主権国家に対する軍事侵略及び戦争に敢然と抵抗しているウクライナ国民及び同国政府を支持し続けることを引き続き決意している」、末尾で「我々は、引き続きウクライナ国民及び同国政府を支持する。我々は、第三国に対するものを含め、我々の措置の影響を引き続き評価し、また、ウクライナに対する攻撃の責任をプーチン大統領及び彼の体制に問うために更なる措置をとる用意がある」と表明した。
EUのウクライナとモルドヴァとの加盟交渉決定は「ウクライナに対する攻撃の責任をプーチン大統領及び彼の体制に問うための更なる措置」である。
日本国政府は、日本国としても、またG7議長国としてもこの決定を評価・歓迎すべきである。
(The following was translated automatically)
On January 14 , EU member states decided to officially start accession negotiations for Ukraine and Moldova , and also made Georgia an official candidate for membership. Ukraine and Moldova applied to join the EU in February 2022 , immediately after Russia launched a full-scale invasion of Ukraine, and were approved as candidate countries in June 2023 . Georgia also applied at the same time , but was not given the status of a candidate for membership.
A spokesperson for European Council President Michel said the decision was taken unanimously. Hungary opposed the start of Ukraine’s accession negotiations, but did not exercise its veto. During the vote, Hungarian Prime Minister Orban temporarily left the conference room. 26 countries other than Hungary appreciated this action.
“This is a victory for Ukraine. This is a victory for Europe. A victory that motivates, energizes and strengthens,” Ukrainian President Volodymyr Zelenskiy said.
U.S. National Security Advisor Sullivan also welcomed the EU’s “historic” move. He said it was an “important step towards realizing Ukraine and Moldova’s aspirations to join the EU and the North Atlantic Treaty Organization (NATO).”
However, a few hours later , the EU summit voted on 50 billion euros (approximately 7.8 trillion yen) in military aid to Ukraine, but this was rejected after Hungary exercised its veto.
The Japanese government should evaluate and welcome the EU ‘s decision to negotiate accession with Ukraine and Moldova .
The G -7 supports Ukraine, which is being invaded by Russia. At the Hiroshima Summit held in March, the G7 leaders issued a statement that began by saying, “We, the G7 leaders, dare to stand against the military invasion and war against the sovereign nation of Ukraine, which was initiated by the choice of Russian President Vladimir Putin.” “We remain determined to continue to support the people of Ukraine and their government in the resistance,” at the end, “We continue to support the people of Ukraine and their government in the resistance. We remain determined to continue to support the people of Ukraine and their government in their resistance. We will continue to assess the impact of our actions and stand ready to take further steps to hold President Putin and his regime accountable for the attack on Ukraine .”
The EU’s decision to negotiate membership with Ukraine and Moldova is “a further step to hold President Putin and his regime accountable for the attacks on Ukraine.”
The Government of Japan, both as Japan and as the G7 Presidency , should evaluate and welcome this decision.
2023.12.02
北朝鮮の軍事力が今回の成功により一段と向上したことは間違いない。いまや、北朝鮮の衛星が上空から世界の軍事施設を見るようになってきたのであり、いずれ1メートル、さらに数十センチのものも見分けることとなるだろう。北朝鮮のこのような軍事能力の向上は日本にとって重大な脅威となるが、米国の国防総省(ペンタゴン)にとっても由々しい事態であるに違いない。もっとも、北朝鮮は以前から米国などの衛星で動向を逐一フォローされており、脅威も感じていたのだろうが、これからは、というか、いずれは米国とも対等に近い立場で偵察しあうことになるのだろう。
我々はどのように対応すべきか。米政府は30日、大量破壊兵器プログラムに使われる資金や技術の制裁逃れを助長しているとして、外国を拠点とする代理人らを新たに対象とする追加制裁措置を発表した。
米国の宇宙軍司令部は「北朝鮮の偵察衛星が活動できないようにすることもできる」との考えを示したと報じられた。具体的な方法については、韓国メディアは「レーザーなどを利用して、衛星に搭載されているカメラの機能などを作動しないようにすることや、衛星を破壊することを意味する」と報じている。しかし、これは極めて危険なことであり、米軍としてもそう簡単にできることでない。もしそんなことをすれば、地球を周回している米国の衛星も攻撃を受け、宇宙は収拾のつかない大混乱に陥るからである。
制裁の強化は合理的な対応だとみられている。だが、これも簡単でない。核実験やミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対して、国連安保理で2006年10月以降10数回の制裁決議が採択されている。毎回、制裁措置は強められているが、中国やロシアが反対に回ることが多かった。
北朝鮮が6回目の核実験を強行した際には、決議案は全会一致で採択された(決議第2375号:2017年9月採択)。
2017年11月に北朝鮮が新型のICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験だとして、弾道ミサイルを発射した時にも制裁決議が全会一致で採択された(決議第2379号: 2017年12月採択)。
しかし制裁決議はどのていど効き目があったか。北朝鮮が米国との交渉において、なんとか制裁の撤廃、あるいは緩和を実現しようとしたのは事実である。2019年2月のハノイにおけるトランプ大統領・金正恩総書記の第2回会談では、制裁の緩和が最大の争点であった。
この会談は失敗に終わったが、北朝鮮はその後も必要物資を何とか、どこからか調達してきた。国民が塗炭の苦しみにあえいでいるのは100%でないかもしれないが、事実である。にもかかわらず、北朝鮮は執拗に弾道ミサイルを発射し、偵察衛星まで打ち上げに成功したのである。軍事面だけでない。平壌などでは自動車が増えており、一部の民間人はそれを利用している。このような事実にかんがみると、北朝鮮に対する制裁措置の効果を測るのは難しいといわざるを得ない。
今年も師走、北朝鮮をめぐる情勢を大きくまとめてみると、北朝鮮だけが政策目的を実現するため盛んに動いており、一定の成果を挙げている。その政策が各国にとっては認められないものであっても突き進んでいる。
一方、日本や米国は政策を持たないわけではないが、その実現のため動いているとは思えない。北朝鮮がミサイル実験や偵察衛星の発射などを行うのでその非難に明け暮れたのは事実であるが、その効果は、前述したように、小さい。
米国の場合は政権ごとに対北朝鮮政策が異なる。現バイデン政権は北朝鮮問題に熱意をもって臨んでいるとは思えない。中国との関係、ウクライナ侵攻とロシアとの対峙、パレスチナのガザ問題などの急務があるので、北朝鮮に割ける余力はないという事情も確かにあるが、それにしても現政権はトランプ前政権とくらべて北朝鮮に関心を向けていない。米国は来年大統領選挙であり、次の政権になると北朝鮮政策が変わるか、保証の限りでないが、少なくとも現政権ではこれまでのやり方を踏襲すること以上は期待できないと思われる。
北朝鮮問題の現況
北朝鮮は今年の5月と8月、偵察衛星打ち上げに失敗したが、11月21日「万里鏡(マンリギョン)1号」を地球周回軌道に投入することに成功した。北朝鮮メディアは、金正恩総書記の満面の笑顔とともに、日米韓の米軍基地や米ホワイトハウスなどの主要施設の撮影に成功したことを連日伝えている。ただし、施設の画像はまだ放映していない。もろもろの事情があるのだろうが、画像の精度が低いためかもしれない。北朝鮮の軍事力が今回の成功により一段と向上したことは間違いない。いまや、北朝鮮の衛星が上空から世界の軍事施設を見るようになってきたのであり、いずれ1メートル、さらに数十センチのものも見分けることとなるだろう。北朝鮮のこのような軍事能力の向上は日本にとって重大な脅威となるが、米国の国防総省(ペンタゴン)にとっても由々しい事態であるに違いない。もっとも、北朝鮮は以前から米国などの衛星で動向を逐一フォローされており、脅威も感じていたのだろうが、これからは、というか、いずれは米国とも対等に近い立場で偵察しあうことになるのだろう。
我々はどのように対応すべきか。米政府は30日、大量破壊兵器プログラムに使われる資金や技術の制裁逃れを助長しているとして、外国を拠点とする代理人らを新たに対象とする追加制裁措置を発表した。
米国の宇宙軍司令部は「北朝鮮の偵察衛星が活動できないようにすることもできる」との考えを示したと報じられた。具体的な方法については、韓国メディアは「レーザーなどを利用して、衛星に搭載されているカメラの機能などを作動しないようにすることや、衛星を破壊することを意味する」と報じている。しかし、これは極めて危険なことであり、米軍としてもそう簡単にできることでない。もしそんなことをすれば、地球を周回している米国の衛星も攻撃を受け、宇宙は収拾のつかない大混乱に陥るからである。
制裁の強化は合理的な対応だとみられている。だが、これも簡単でない。核実験やミサイルの発射を繰り返す北朝鮮に対して、国連安保理で2006年10月以降10数回の制裁決議が採択されている。毎回、制裁措置は強められているが、中国やロシアが反対に回ることが多かった。
北朝鮮が6回目の核実験を強行した際には、決議案は全会一致で採択された(決議第2375号:2017年9月採択)。
2017年11月に北朝鮮が新型のICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験だとして、弾道ミサイルを発射した時にも制裁決議が全会一致で採択された(決議第2379号: 2017年12月採択)。
しかし制裁決議はどのていど効き目があったか。北朝鮮が米国との交渉において、なんとか制裁の撤廃、あるいは緩和を実現しようとしたのは事実である。2019年2月のハノイにおけるトランプ大統領・金正恩総書記の第2回会談では、制裁の緩和が最大の争点であった。
この会談は失敗に終わったが、北朝鮮はその後も必要物資を何とか、どこからか調達してきた。国民が塗炭の苦しみにあえいでいるのは100%でないかもしれないが、事実である。にもかかわらず、北朝鮮は執拗に弾道ミサイルを発射し、偵察衛星まで打ち上げに成功したのである。軍事面だけでない。平壌などでは自動車が増えており、一部の民間人はそれを利用している。このような事実にかんがみると、北朝鮮に対する制裁措置の効果を測るのは難しいといわざるを得ない。
今年も師走、北朝鮮をめぐる情勢を大きくまとめてみると、北朝鮮だけが政策目的を実現するため盛んに動いており、一定の成果を挙げている。その政策が各国にとっては認められないものであっても突き進んでいる。
一方、日本や米国は政策を持たないわけではないが、その実現のため動いているとは思えない。北朝鮮がミサイル実験や偵察衛星の発射などを行うのでその非難に明け暮れたのは事実であるが、その効果は、前述したように、小さい。
米国の場合は政権ごとに対北朝鮮政策が異なる。現バイデン政権は北朝鮮問題に熱意をもって臨んでいるとは思えない。中国との関係、ウクライナ侵攻とロシアとの対峙、パレスチナのガザ問題などの急務があるので、北朝鮮に割ける余力はないという事情も確かにあるが、それにしても現政権はトランプ前政権とくらべて北朝鮮に関心を向けていない。米国は来年大統領選挙であり、次の政権になると北朝鮮政策が変わるか、保証の限りでないが、少なくとも現政権ではこれまでのやり方を踏襲すること以上は期待できないと思われる。
2023.11.23
アンワル・マレイシア首相とは海上保安機関間の共同訓練の実施、日本によるOSAの実施に向けた調整を加速化させることを確認しあった。
11月15日には米サンフランシスコでAPEC首脳会議の傍ら、タイの新任のセター首相と会談し、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため協力していきたい」と話し合った。間接的ではあるが、安全保障面での協力も含まれている。
12月には東京で日本とASEANの特別首脳会議が開かれる。それに先立って11月15日、日本とASEANの防衛相会合がインドネシアで開かれた。
東南アジア以外の諸国とも安全保障協力が進んでいる。韓国では尹錫悦大統領が2022年5月に就任し、日本との関係を改善する意欲を示し、尹大統領は2023年3月来日し、岸田首相と会談した。日韓両国の関係は戦後最悪の状態になったといわれていたが、正常な軌道に戻り始めた。
日韓の関係は安全保障面でも顕著に改善した。文在寅前大統領時代は日本の自衛隊と韓国軍の関係も悪化し、日本の護衛艦が自衛艦旗の「旭日旗」を掲げて韓国の港に入港することが妨げられ、また、両国間の防衛協力にとって欠かせない軍事情報保全協定(GSOMIA)が運用されない状態に置かれていたが、いずれも正常化された。
航空面でも協力が進んでいる。さる10月、日韓は米国とともに日韓両国の防空識別圏(ADIZ)が重なる空域で初の合同空中訓練を行った。
安全保障面で日韓の関係が改善したことには米国が強く促した結果であった。日韓両国はともに米国と同盟関係にあるが、日韓の関係が疎遠な状態では米国の東アジアにおける安全保障戦略が円滑に機能しなかった。
豪州は日米印の3か国とともに4か国戦略対話(Quadクアッド)を形成する重要な一角を占めている。クアッドはワクチン、インフラ、気候変動、重要・新興技術などの幅広い分野の協力であり、直接安全保障にかかわる仕組みでないが、日本は豪州を米国に次ぐ「準同盟国」と位置づけている。日本の防衛省は航空自衛隊の戦闘機をオーストラリア空軍基地に一定期間派遣する「ローテーション展開」の検討に入っており、早ければ来年度にも段階的に始める方針だ。ただし法的根拠が乏しく、事実上の海外配備との指摘もある。
豪州は南シナ海に面してはいないが、近接しており、その安全を確保するうえで米国および東南アジア諸国とともに重要な役割を担える立場にある。
インドや欧州諸国はロシアや中国とも関係が深いが、日本との協力関係は着実に進んでいる。英国、ドイツ、フランス、イタリアは艦船や航空機を日本に派遣し、自衛隊との共同訓練を行っている。
以上のようにアジア太平洋の安全保障はさまざまな形で進展し、すでに複雑な状況になっている。わが外務省は「我が国は、日米同盟の強化に加え、二国間及び多国間の安全保障協力を重層的に組み合わせることで、地域における安全保障環境を日本にとって望ましいものとしていく取組を進めている」と説明している。
本稿では細かいところまで立ち入った議論はできないが、このようにアジア太平洋の安全保障協力が進展してきたのはこの地域で問題が多くなっているからである。中国が歴史的根拠なく、また国際仲裁裁判の判決を無視して南シナ海のほぼ全域を自国領とし、その主張に基づく地図を作製・配布し、他国の行動に制約を加えようとしているのは最たる例である。
一方、日本として考えておくべきことがある。日本は2015年に一連の安保法制を行い、集団的自衛権の行使を認めるという憲法上極めて疑わしいことまで敢行した。その問題は解消されていない。各国と協力してアジア太平洋の安全保障体制を強化するのは当然であるが、協力が拡大すれば集団的自衛権の行使が広がる危険がある。
日本は安保法制により、「他国に対する武力攻撃」であっても「我が国と密接な関係にある国」であり、この攻撃により「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるものを排除するため」であれば自衛隊は武力を行使できると定めた(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律)。こうして憲法解釈を拡大し、集団的自衛権を行使できる場合を定めたのである。
アジア太平洋の安全が脅かされる事態が増大している今日、各国と協力することは必要であるが、自衛隊の海外における武力行使についてこの要件で認める、あるいは縛りをかけることは適切かという問題である。
最後に念のために付言しておくが、憲法の改正をよくないことと頭から否定すべきでないと思う。憲法は必要に応じて改正すべきである。日本の現状に照らせば、極端に聞こえるかもしれないが、集団的自衛権行使の可否も、改めて、真正面から検討すべきである。国会では憲法改正の理由として自衛隊を国防軍と正式に認めるべきだからと議論されることがあるが、それはしょせん自衛隊の名称の問題でないか。憲法で定めるべきはもっと根本的な、各国との安全保障面での協力のありかたである。
日本と諸外国(米国以外)の安全保障協力
日本は最近各国と安全保障面での協力を強化している。岸田首相はフィリピンおよびマレーシアを歴訪し、マルコス・フィリピン大統領とは、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練をする際の入国手続きなどを簡略化する「円滑化協定」の締結に向け、正式交渉入りで合意。日本が「同志国」の軍隊に防衛装備品などを無償で提供するため2023年度に創設した「政府安全保障能力強化支援(OSA)」でも、フィリピンに6億円分を初適用することで合意した。アンワル・マレイシア首相とは海上保安機関間の共同訓練の実施、日本によるOSAの実施に向けた調整を加速化させることを確認しあった。
11月15日には米サンフランシスコでAPEC首脳会議の傍ら、タイの新任のセター首相と会談し、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため協力していきたい」と話し合った。間接的ではあるが、安全保障面での協力も含まれている。
12月には東京で日本とASEANの特別首脳会議が開かれる。それに先立って11月15日、日本とASEANの防衛相会合がインドネシアで開かれた。
東南アジア以外の諸国とも安全保障協力が進んでいる。韓国では尹錫悦大統領が2022年5月に就任し、日本との関係を改善する意欲を示し、尹大統領は2023年3月来日し、岸田首相と会談した。日韓両国の関係は戦後最悪の状態になったといわれていたが、正常な軌道に戻り始めた。
日韓の関係は安全保障面でも顕著に改善した。文在寅前大統領時代は日本の自衛隊と韓国軍の関係も悪化し、日本の護衛艦が自衛艦旗の「旭日旗」を掲げて韓国の港に入港することが妨げられ、また、両国間の防衛協力にとって欠かせない軍事情報保全協定(GSOMIA)が運用されない状態に置かれていたが、いずれも正常化された。
航空面でも協力が進んでいる。さる10月、日韓は米国とともに日韓両国の防空識別圏(ADIZ)が重なる空域で初の合同空中訓練を行った。
安全保障面で日韓の関係が改善したことには米国が強く促した結果であった。日韓両国はともに米国と同盟関係にあるが、日韓の関係が疎遠な状態では米国の東アジアにおける安全保障戦略が円滑に機能しなかった。
豪州は日米印の3か国とともに4か国戦略対話(Quadクアッド)を形成する重要な一角を占めている。クアッドはワクチン、インフラ、気候変動、重要・新興技術などの幅広い分野の協力であり、直接安全保障にかかわる仕組みでないが、日本は豪州を米国に次ぐ「準同盟国」と位置づけている。日本の防衛省は航空自衛隊の戦闘機をオーストラリア空軍基地に一定期間派遣する「ローテーション展開」の検討に入っており、早ければ来年度にも段階的に始める方針だ。ただし法的根拠が乏しく、事実上の海外配備との指摘もある。
豪州は南シナ海に面してはいないが、近接しており、その安全を確保するうえで米国および東南アジア諸国とともに重要な役割を担える立場にある。
インドや欧州諸国はロシアや中国とも関係が深いが、日本との協力関係は着実に進んでいる。英国、ドイツ、フランス、イタリアは艦船や航空機を日本に派遣し、自衛隊との共同訓練を行っている。
以上のようにアジア太平洋の安全保障はさまざまな形で進展し、すでに複雑な状況になっている。わが外務省は「我が国は、日米同盟の強化に加え、二国間及び多国間の安全保障協力を重層的に組み合わせることで、地域における安全保障環境を日本にとって望ましいものとしていく取組を進めている」と説明している。
本稿では細かいところまで立ち入った議論はできないが、このようにアジア太平洋の安全保障協力が進展してきたのはこの地域で問題が多くなっているからである。中国が歴史的根拠なく、また国際仲裁裁判の判決を無視して南シナ海のほぼ全域を自国領とし、その主張に基づく地図を作製・配布し、他国の行動に制約を加えようとしているのは最たる例である。
一方、日本として考えておくべきことがある。日本は2015年に一連の安保法制を行い、集団的自衛権の行使を認めるという憲法上極めて疑わしいことまで敢行した。その問題は解消されていない。各国と協力してアジア太平洋の安全保障体制を強化するのは当然であるが、協力が拡大すれば集団的自衛権の行使が広がる危険がある。
日本は安保法制により、「他国に対する武力攻撃」であっても「我が国と密接な関係にある国」であり、この攻撃により「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるものを排除するため」であれば自衛隊は武力を行使できると定めた(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律)。こうして憲法解釈を拡大し、集団的自衛権を行使できる場合を定めたのである。
アジア太平洋の安全が脅かされる事態が増大している今日、各国と協力することは必要であるが、自衛隊の海外における武力行使についてこの要件で認める、あるいは縛りをかけることは適切かという問題である。
最後に念のために付言しておくが、憲法の改正をよくないことと頭から否定すべきでないと思う。憲法は必要に応じて改正すべきである。日本の現状に照らせば、極端に聞こえるかもしれないが、集団的自衛権行使の可否も、改めて、真正面から検討すべきである。国会では憲法改正の理由として自衛隊を国防軍と正式に認めるべきだからと議論されることがあるが、それはしょせん自衛隊の名称の問題でないか。憲法で定めるべきはもっと根本的な、各国との安全保障面での協力のありかたである。
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