2015 - 平和外交研究所 - Page 7
2015.12.03
中国は11月にAIIBの設立協定を批准した。それより前に3カ国がすでに批准している。払い込み資本の合計が授権資本の50%以上になり、かつ10カ国以上が批准すれば正式に成立する。
総裁候補の金立群は北京商報(12月2日付)のインタビューに答え次のように述べている。
「1年間の貸与額は100~150億ドルにするのが目標だが、来年は初年度で、しかも最初のプロジェクトは第2期に始まるので、15~20億ドルとなるだろう。
通貨はやはりドルが主だが、人民元がSDR資格を得たので将来はその使用が徐々に増加していくだろう。
アジア開発銀行(ADB)および世界銀行(WB)とは相互補完的に協力を行う。競争するのではない。中央アジア、南アジアおよび「一帯一路」の地域などがAIIBの融資先になるだろう。当面の融資分野は、エネルギー、交通など従来型の案件が多くなると思う。
ADBなどとの協調融資については話し合いが続行中だ。アジアの投資需要は非常に大きく、共同で応えていきたい。」
北京商報は金立群の談話を補足する形で、次の趣旨を述べている。
「資本金だけで見れば、AIIBはADBと大差ない。しかし、その審査基準はより緩やかで、融資要請に対しより柔軟に対応できる。
楼継偉財政部長はAIIBの審査規則はWBなどとは違ったものになるだろうと発言したことがある。
ADB側には必ずしもAIIBとの協力に積極的でないところもある。日本は、貸与限度額を50%増加し、また、2017年から年間の貸与額を現在の1・5倍にしようとしている。
「一帯一路」とAIIBは双子の兄弟だが、中国がAIIBの貸与対象になることはない。
今年の5月、地震に見舞われたネパールはAIIBに資金援助が可能か打診してきた。
中国独自の「シルクロード基金」の最初のプロジェクトは中国パキスタン間の水力発電であった。」
この記事は参考になるが、AIIBが「一帯一路」と双子だと言う一方で、中国を融資対象としないと断る感覚は理解困難だ。「一帯一路」は中国が独自で決めたことであり、場所は中国の外にあるとしても中国のプロジェクトではないか。
(短評)アジアインフラ投資銀行の開設準備
アジアインフラ投資銀行(AIIB)の開設準備は、12月末の発足に向けて予定通り進んでいるようだ。中国は11月にAIIBの設立協定を批准した。それより前に3カ国がすでに批准している。払い込み資本の合計が授権資本の50%以上になり、かつ10カ国以上が批准すれば正式に成立する。
総裁候補の金立群は北京商報(12月2日付)のインタビューに答え次のように述べている。
「1年間の貸与額は100~150億ドルにするのが目標だが、来年は初年度で、しかも最初のプロジェクトは第2期に始まるので、15~20億ドルとなるだろう。
通貨はやはりドルが主だが、人民元がSDR資格を得たので将来はその使用が徐々に増加していくだろう。
アジア開発銀行(ADB)および世界銀行(WB)とは相互補完的に協力を行う。競争するのではない。中央アジア、南アジアおよび「一帯一路」の地域などがAIIBの融資先になるだろう。当面の融資分野は、エネルギー、交通など従来型の案件が多くなると思う。
ADBなどとの協調融資については話し合いが続行中だ。アジアの投資需要は非常に大きく、共同で応えていきたい。」
北京商報は金立群の談話を補足する形で、次の趣旨を述べている。
「資本金だけで見れば、AIIBはADBと大差ない。しかし、その審査基準はより緩やかで、融資要請に対しより柔軟に対応できる。
楼継偉財政部長はAIIBの審査規則はWBなどとは違ったものになるだろうと発言したことがある。
ADB側には必ずしもAIIBとの協力に積極的でないところもある。日本は、貸与限度額を50%増加し、また、2017年から年間の貸与額を現在の1・5倍にしようとしている。
「一帯一路」とAIIBは双子の兄弟だが、中国がAIIBの貸与対象になることはない。
今年の5月、地震に見舞われたネパールはAIIBに資金援助が可能か打診してきた。
中国独自の「シルクロード基金」の最初のプロジェクトは中国パキスタン間の水力発電であった。」
この記事は参考になるが、AIIBが「一帯一路」と双子だと言う一方で、中国を融資対象としないと断る感覚は理解困難だ。「一帯一路」は中国が独自で決めたことであり、場所は中国の外にあるとしても中国のプロジェクトではないか。
2015.12.02
台湾の防衛政策
「台湾の防衛政策は南シナ海をめぐって自己矛盾に陥っている。その扱いを誤れば米国との関係が不安定化し、台湾の命取りになりかねない。台湾を中国の脅威から守るためには、武力統一を認めないという米国のコミットメントが不可欠であり、それを揺るがせないためには南シナ海に対する領有権主張は過去の遺産として放棄することが望ましい。そして、中国の違法な行動に対抗する国際的連帯の形成に努めている米国と日本に参加することが台湾の利益になるはずだ。」という趣旨の一文を東洋経済オンラインに寄稿した(12月1日)。
2015.11.30
一方、トルコはロシア機がトルコの領空を侵犯し、トルコ側からの警告を無視したと主張し、謝罪に応じないので、ロシアはトルコに対する制裁としてビザなし渡航の停止、トルコからの輸入の制限、文化交流の中止、トルコ企業のロシア国内での活動の制限などを実施する方針だ、あるいはすでに実施したと伝えられている。
この間、トルコのエルドアン大統領はプーチン大統領との会談を希望しているが、プーチン大統領は応じていない。しかし、パリで開催されるCOP21に両人とも出席するので会談が実現するかもしれないと言われている。
ロシアかトルコか、いずれの主張が正しいか我々には分からない。ただ、トルコは事件についてNATOで説明しなければならないので、虚偽の報告は困難になる一方、ロシアにはこのような制約はないという違いがあるとは言えるだろう。
一方、かりにロシア機がトルコ側を挑発したとしても、しょせん十数秒間の侵犯であり、それを撃墜するのは適切であったか疑問であることも指摘できそうだ。
今回の事件についてはこのようなことを含め、多くの人が様々な感想を抱いているだろうが、私は次のような原則を忘れないことが重要だと考える。
第1に、上空や海上で起こったことの真相は分からない。日本の領海内でも海難事件が発生することがあるが、当事者の主張が対立するのは珍しくなく、真相の究明は裁判で初めて可能になる。裁判結果が出てもなお疑問が出ることもある。ましてや、国際間で起こった事件については、真相の究明は困難だ。
したがって、事件にかかわる国の政府は、自国民の行為は絶対正しかったという前提に立たないで真相を究明する姿勢が必要だ。自国民を批判するのではない。誰にでも間違いは起こりうるということを国際間でも忘れないということだ。
第2に、どの国の政府も国内の(偏狭な)ナショナリズムの突き上げをうまく処理する必要がある。ナショナリズムに迎合する行動をとらないことが肝要だが、実際にはその点で疑問があることがあり、ひどい場合には、ナショナリズムをあおる結果になる行動も見られる。
第3に、国際の平和と安定を脅かす問題であれば、国連の安保理が取り上げ、事態の収拾を図る。これが国際社会の仕組みなので、それを利用すべきである。安保理以外に法的な判断をする国際司法裁判所、仲裁のための国際仲裁裁判所もある。さらに地域的な安全保障の仕組みを利用できる場合もあろう。今回の事件についてはまだそのような国際的仕組みに頼るまでに至っていないようだ。
以上のような原則から現在のロシア・トルコ間の紛糾を見ると、双方ともお互いに相手方の要求を一定程度受け入れる余地がありそうだ。プーチン大統領は、トルコ側の謝罪を前提条件としないでエルドアン大統領と会談すべきであるし、エルドアン大統領は、トルコ側に非は全くなかったと突っぱねないで、トルコ側にも行き過ぎがあったかもしれないという前提で対応する余地があるように思われる。
今回の事件は単独で見るべきでなく、ISとの戦いとの関連、さらにはウクライナ問題に関して西側諸国が制裁措置を取ったこととの関連など事件の背景にある複雑な諸要因についての考慮も必要だろうが、上にあげた3点は両国に当てはまる基本原則だと思われる。
(短評)トルコによるロシア機撃墜
トルコによるロシア機撃墜事件をめぐって両国関係が悪化し、ロシアはトルコに謝罪を求めるとともに、ISの石油をトルコが購入していると非難している。一方、トルコはロシア機がトルコの領空を侵犯し、トルコ側からの警告を無視したと主張し、謝罪に応じないので、ロシアはトルコに対する制裁としてビザなし渡航の停止、トルコからの輸入の制限、文化交流の中止、トルコ企業のロシア国内での活動の制限などを実施する方針だ、あるいはすでに実施したと伝えられている。
この間、トルコのエルドアン大統領はプーチン大統領との会談を希望しているが、プーチン大統領は応じていない。しかし、パリで開催されるCOP21に両人とも出席するので会談が実現するかもしれないと言われている。
ロシアかトルコか、いずれの主張が正しいか我々には分からない。ただ、トルコは事件についてNATOで説明しなければならないので、虚偽の報告は困難になる一方、ロシアにはこのような制約はないという違いがあるとは言えるだろう。
一方、かりにロシア機がトルコ側を挑発したとしても、しょせん十数秒間の侵犯であり、それを撃墜するのは適切であったか疑問であることも指摘できそうだ。
今回の事件についてはこのようなことを含め、多くの人が様々な感想を抱いているだろうが、私は次のような原則を忘れないことが重要だと考える。
第1に、上空や海上で起こったことの真相は分からない。日本の領海内でも海難事件が発生することがあるが、当事者の主張が対立するのは珍しくなく、真相の究明は裁判で初めて可能になる。裁判結果が出てもなお疑問が出ることもある。ましてや、国際間で起こった事件については、真相の究明は困難だ。
したがって、事件にかかわる国の政府は、自国民の行為は絶対正しかったという前提に立たないで真相を究明する姿勢が必要だ。自国民を批判するのではない。誰にでも間違いは起こりうるということを国際間でも忘れないということだ。
第2に、どの国の政府も国内の(偏狭な)ナショナリズムの突き上げをうまく処理する必要がある。ナショナリズムに迎合する行動をとらないことが肝要だが、実際にはその点で疑問があることがあり、ひどい場合には、ナショナリズムをあおる結果になる行動も見られる。
第3に、国際の平和と安定を脅かす問題であれば、国連の安保理が取り上げ、事態の収拾を図る。これが国際社会の仕組みなので、それを利用すべきである。安保理以外に法的な判断をする国際司法裁判所、仲裁のための国際仲裁裁判所もある。さらに地域的な安全保障の仕組みを利用できる場合もあろう。今回の事件についてはまだそのような国際的仕組みに頼るまでに至っていないようだ。
以上のような原則から現在のロシア・トルコ間の紛糾を見ると、双方ともお互いに相手方の要求を一定程度受け入れる余地がありそうだ。プーチン大統領は、トルコ側の謝罪を前提条件としないでエルドアン大統領と会談すべきであるし、エルドアン大統領は、トルコ側に非は全くなかったと突っぱねないで、トルコ側にも行き過ぎがあったかもしれないという前提で対応する余地があるように思われる。
今回の事件は単独で見るべきでなく、ISとの戦いとの関連、さらにはウクライナ問題に関して西側諸国が制裁措置を取ったこととの関連など事件の背景にある複雑な諸要因についての考慮も必要だろうが、上にあげた3点は両国に当てはまる基本原則だと思われる。
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