平和外交研究所

11月, 2015 - 平和外交研究所 - Page 2

2015.11.25

(短文)ASEAN首脳会議と南シナ海問題2

 11月25日、東洋経済オンラインに「中国の南沙支配は、もはや身動きが取れない ASEANサミットでは”中国批判”が多数派に」を寄稿した。
 当研究所HP23日付の一文に次の2点が加わっている。
 
 第1に、米国の各国に対する働きかけを「国際的な連帯の形成」としてとらえた。日米などの今後の課題は、すべてのASEAN諸国と韓国をこの連帯に参加させることである。この連帯は中国による違法な行動に対し各国が協力・共同して対抗することを目指しており、軍事的な包囲網の形成ではない。
 第2に、ASEAN首脳会議(東アジアサミットなど域外国との会議を含む)は東アジアで最も重要な政治協議の場になりつつある。

2015.11.23

ASEAN首脳会議と南シナ海問題

 11月21~22日、マレーシアで開催された今年のASEAN首脳会議(東アジア・サミットなど域外国との会議を含む。)では、エネルギー・環境、教育、財政などASEANの伝統的域内協力についても協議されたが、とくに南シナ海問題に注目が集まった。
 なかでも米中の対立である。米国は、中国による岩礁埋め立て工事強行を国際法違反、ないしその疑いが濃厚と判断し、中国にそのような行為を中止するよう求めてきた。しかし、中国は聞き入れようとしないので米国は艦船を12カイリ以内へ立ち入り、航行させる一方、関係各国にも中国が国際法違反の行為を控えるよう説得することを求めてきた。今般のASEAN会議やその直前のAPEC会議は、米国にとって関係国へのさらなる働きかけのために格好の場となり、逆に中国としてはそれにいかに反撃するかが問われていた。
 たしかに米中の対立は注目されたが、それだけでなくより広い視野から見ておく必要がある。
 中国による埋め立て工事など一連の行動を問題視し、国際法を尊重するよう求めたのは米国だけでなかった。各国も続々と同様の見解を表明したと言われている。東南アジア諸国は中国との関係において一枚岩でない。今次会議でも、カンボジアなど一部の国は中国との関係に配慮する発言を行った。また、積極的に態度を表明はしなかった国もあったが、その他の国、大多数の国は中国の行動に批判的な見解を表明した。
 この事実は、南シナ海における中国の行動が地域の安定にとって問題を起こしており、また、国際法に違反しているという点で各国のコンセンサス形成に一歩近づいたことを示している。領土問題は多くの場合複雑で簡単には黒白がつけられないが、これほど多数の国の見解が一致することはまれである。

 ASEAN以外では韓国と台湾の態度が問題だ。台湾については、本HP11月15日付で問題点を指摘した。
 韓国については、朴槿恵大統領がさる10月中旬、オバマ大統領から、「中国に国際法違反の行為があれば声を上げてほしい」と要請されたのに対し、朴槿恵大統領は明確に返答しなかった。今次ASEAN会議でも朴槿恵大統領の発言は注目されなかった。韓国は中国の行動に批判的な表明をしなかった国の一つだったようだ。

 一方中国は比較的穏健だった。ASEANと中国との間でかねてから制定が望まれていたが、実現していなかった「行動規範」、つまり、南シナ海においての各国の行動の準則について、中国の李克強首相は早期締結への協議を加速すべきだと発言した。中国は「協調的だった」と評する報道もあり、中国は状況が厳しいことを客観的に見はじめている可能性もある。
 もっとも、中国は埋め立て工事は何ら問題ないとする態度を変えたのではない。南シナ海の問題は域内国同士の話し合いで解決すべきだという主張、すなわち米国などを締め出す主張もやめていない。
ASEANの内部資料によると、中国は航行・通信の安全や救難救助などのため「協力メカニズム」を構築する提案をしているそうだ。しかし、この構想を認めると、中国が埋め立て工事で作った人工島が協力の拠点になる恐れがあるとASEAN側は警戒している。

 安倍首相は、会議後の記者会見で「海の平和と安全を守り、航行の自由を確保するため、各国が国際法に基づいて責任を持って行動し、緊張関係を生み出す行動を厳に慎むことで、強いコンセンサスが得られた。共通のルールの上に関係国が対話を重ねることによって、相互の信頼を培っていくことができると考える」と説明した。会議では当然このように発言したのだろう。極めて適切な発言だったと思われる。
 今後、日本は米国、豪、NZなどと協力して、国際法の尊重とルールに基づいた紛争の解決に関するコンセンサスが東南アジア諸国でも形成されるよう努めていくべきだ。また、その関係で韓国に対する働きかけも必要だ。可能であれば、来る日韓中の首脳会談でもそのことを話し合うべきである。
 中国は今後も協調的であり続けるか、即断はできないが、日本も各国も、国際的に争われている岩礁の埋め立て工事や力で現状を変更することなど国際法に違反する行為を認めないことを明確に表明し続けることが肝要だ。今次ASEANの首脳会議はこのようなアプローチが有効であることを示唆しているように思われる。

2015.11.21

(短評)今年のAPEC首脳会議と中国

 マニラで開催されていたAPEC首脳会議は、19日、宣言を採択して閉幕した。今回の会議では、南シナ海問題がどのように扱われるか、関心が持たれていたが、議題になることはなかった。
 南シナ海の問題には排他的経済水域や資源の開発などに関係があり、APECで議論されても場違いというわけではなかったが、政治問題に深入りするのはAPECとして好ましいことでなかっただろう。
 しかし、オバマ大統領にとって今次会議は南シナ海問題をめぐってアジア・太平洋の諸国との連帯を強化する格好の場であり、とくに議長国のフィリピンを支持する姿勢をアピールした。東南アジア諸国の対応については、19日に当研究所のHPにアップした「オバマ大統領はシンガポールを訪問すべきだ」を参照願いたい。

 今回の会議が南シナ海問題を取り上げるのではないかと注目された一つの理由は、中国が会議の開催前から警戒心を高め、事前に議長のフィリピンに対し王毅外相が取り上げないよう働きかけていたからである。もし、会議で議論されれば中国による埋め立てなどが批判の対象となり、下手をすると中国にとって四面楚歌のような状況になりかねなかった。
 中国は、一方で各国の抗議を無視して拡張的行動をとりながら、他方では、中国がどのように各国から見られ、どのように扱われるか非常に気にしている。もし評判が気になるなら、国際法に従ってふるまえばよかった。そうしておれば中国の声望はさらに上がったであろうが、そうしはしない。

 APECの今次首脳会議がテロを強く非難し、国際社会の結束強化を呼びかけ、テロ対策に万全を期すよう呼びかけたのは当然だ。
 おりしも会議開催中に、中国人がISによって殺害されたことが判明し、習近平主席は19日、「テロは人類共通の敵だ。中国はあらゆる形式のテロに断固反対し、たたきのめす」と強く非難する談話を発表した。
 ISの野蛮な行為は中国にも及ぶようになったのだ。中国は、新疆自治区のウイグル族の処遇をめぐってISから敵視されており、テロ対策は中国にとっても喫緊の課題になっている。

 APEC首脳会議は、昨年は、日中関係が改善されるきっかけとなるかに注目が集まった。今年は南シナ海問題に焦点が当てられそうになった。いずれもこの会議が招いたことでないのはもちろんだが、今後も政治問題の影響を強く受ける傾向は続くと思われる。

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