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2019.07.05

安倍プーチン大阪会談

 2019年6月29日、G20大阪サミット終了後に行われた安倍首相とプーチン大統領の会談について、今後、参照することもあり得るので主要点を記しておく。

会談後の記者会見におけるプーチン大統領の北方領土問題についての発言。
「もちろん、安倍首相と平和条約問題に関する話をしました。外相同士の、簡単ではなく、センシティブな問題に関する対話も軌道に乗せたことを確認しました。その対話は続いていきますし、これからは露日関係を質的に新しいレベルにするために地道な作業を進めます。(以下はその作業の説明であり、省略)」

安倍首相の発言
「私とプーチン大統領は2018年11月にシンガポールで共に表明した1956年共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させるとの決意の下で精力的に平和条約交渉が行われていることを歓迎し、引き続き交渉を進めていくことで一致しました。
(中略)本日は私とプーチン大統領との間で、こうした交渉の経過や今後の展望を含め、率直に議論を行いました。戦後70年以上残された困難な問題について、立場の隔たりを克服するのは簡単ではありません。しかし乗り越えるべき課題の輪郭は明確になってきています。私とプーチン大統領は、日露関係強化の戦略的重要性と平和条約締結が、それを大きく後押しすることを誰よりも深く理解しています。そのために着実に歩みを進めていかなければなりません。それを可能にするのは、私とプーチン大統領の強い決意です。そのことを本日、プーチン大統領との間で確認しました。日露両国は、私とプーチン大統領との間で引き続き着実に前進していくことができると信じています。ありがとうございました。スパシーバ。」

 両者の発言から何を読み取るべきか。両首脳ともに、今次会談で平和条約交渉が進んだとは一言も言わなかった。安倍首相は「引き続き交渉を進めていくことで一致した」とか、「乗り越えるべき課題の輪郭は明確になってきている」とかは述べたが、これらは体裁を繕った発言に過ぎない。進展があればそのことを間違いなく説明しただろう。進展があったにもかかわらずそう言わないのはありえないことである。今回の会談で平和条約交渉が進まなかったのは明らかだ。

 関連する諸事実にも注意が必要である。

 プーチン氏は、日本に北方領土を引き渡す考えはないことを、今次首脳会談のわずか1週間前にロシア国内で発言していた。
 6月20日にはロシア軍の爆撃機が日本の領空を侵犯した。

 にもかかわらず、安倍氏は国会や記者会見などで「北方四島」「日本固有の領土」といった、ロシアが嫌がる表現を使わないようにしてきた。

 しかも、ロシア軍の爆撃機による日本領空の侵犯については、いつも行っている抗議をしなかった。プーチン氏との会談を間近に控えていたためではなかったか。

 これら関連の諸状況をも併せ考えると、日露両国の平和条約交渉(北方領土問題を含む)は、常識的にはあり得ないひどい状況にあると考えざるを得ない。

 日本政府には、先人の努力を無視せず、また、功を焦ることなく堂々と交渉し、北方領土問題を解決していただきたい。

2019.07.03

韓国向け輸出の規制

 日本政府は7月1日、韓国への輸出を規制する措置を発表した。具体的な内容は、韓国の主要産業である半導体製造などに使われる化学製品3品目の輸出を難しくすることと、安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する優遇措置を廃止することである。

 規制される3品目とは、スマートフォンやテレビのディスプレーに使われるフッ化ポリイミド、半導体基板に塗る感光材のレジスト、半導体洗浄に使うフッ化水素であり、いずれも日本企業が世界的に高い生産シェアを持っている。輸出しないことにしたのではなく、企業ごとに一定期間を定めて包括的に許可を与えるというこれまでのやり方を変え、輸出1件ごとに審査や許可を必要にすることであるが、韓国企業にとっては大きなダメージとなろう。

 輸出手続きの簡略化については、日本政府は従来(2004年以来)安全保障上問題がない国は「ホワイト国」として、貿易管理上優遇措置を認めていたが、今回、韓国を「ホワイト国」のリストから外すこととした。とくに問題になるのは、本来民生用だが軍事転用が可能な技術や製品、いわゆる「汎用品」であり、今後は、3品目以外でも韓国に輸出する際には、原則個別に許可が必要になる。そうなると輸出に強いブレーキがかかることは必至である。
 
 日本政府は、今回の規制措置は元徴用工問題への対抗措置ではないと否定する一方で、韓国政府が仲裁など日韓請求権協定で決められている解決に応じようとしないことを問題視していることも述べている。政府はこのようによく分からない説明をしているが、今回の規制は韓国政府が責任を果たさないことへの対抗措置であることは誰の目にも明らかである。もし韓国政府の側に問題がないのであれば、今回の規制措置はまったく理由が立たない。

 今回の規制措置についてはWTOに提訴され、負ける危険が大きいと指摘されている。それも大事なことだが、要するに、韓国に対してこのような規制をするのが適切かが問題である。

 第1に、日本側の規制措置は、徴用工問題に関する韓国政府の対応(のまずさ)と比し、バランスが取れているか。バランスの取れない措置を取ってはならないことは国際関係の常識である。

 第2に、韓国政府は徴用工問題などについてこれまで理不尽な対応をして来たが、今回の規制措置により、日本政府はもっと問題のあることをすることになる。つまり、立場は逆転する。

 第3に、今回の措置に踏み切ったことについては、日本側に「韓国政府を懲らしめてやろう」という気持ちがあるのではないか。この観察が正しければ、日本政府は国際的に支持されないどころか、強い反発を受けるだろう。

 第4に、今回の措置について外交当局はどのような役割を果たしたのか疑問がわいてくる。この疑問はとりもなおさず、日本政府に対する疑問である。日本政府には国際感覚を軽視しないよう求めたい。

 第5に、今回の措置はできるだけ早期に撤廃すべきである。少しのきっかけでもよい。

2019.06.29

G20大阪サミット

 G20大阪サミットは、安倍議長と日本政府および大阪府・市の関係者の努力で、29日、無事終了した。大会議を開催・運営するのは日本が得意とすることである。それを期待にたがわず実行したのであるが、米国を含む各国からプロフェッショナルな、つまり立派な会議運営であったと称賛されたことは積極的に評価できる。

 首脳宣言が発出されたことは過大評価も過小評価もすべきでない。「自由で公正かつ無差別な貿易・投資環境の実現に努める」と明記されたことは積極的に評価できる。しかし、「保護主義と戦う」ことに言及できなかったのは評価できないが、そうなるだろうことは今次会議開催前から予想されていたことであり、何ら驚くべきことでない。
 
 宣言ではまた、海に流出するプラスチックごみを2050年までにゼロにする日本提案,「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有したと明記された。また、技術の急激な進展にともないデータ通信の安全が脅かされている問題を取り上げ、「信頼性に基づく自由なデータ流通」の重要性が指摘されたことも積極的に評価できる。今後、データ流通の国際ルールを作成するため「大阪トラック」が始められることになった。
 
 米中首脳会談は各国から強い関心がもたれており、決裂すれば米国は残っている3500億ドル分の中国からの輸入について第4弾の関税引き上げに踏み切ると懸念されていたが、それは行われなかった。トランプ大統領と習近平主席が結論を出したのではない。関税引き上げは当面しないこととする一方、米中両国は交渉を続けることとなった。ようするに、大阪では休戦したのであった。

 米中両国はかねてからの主張を変えていない。習主席は、今後米中両国が「協調と協力」を重視すべきことを訴えたのに対し、トランプ大統領は貿易が公平に行われるべきことを強調した。「協調と協力」は誰も反論できないことであり、また、「公平」は大阪宣言にも明言されたことである。要するに、両首脳とも直接相手から反論されない言葉で自国の主張を繰り返したのであった。

 トランプ大統領は今次会議終了後、韓国を訪問し、板門店にも足を延ばすことになっている。トランプ氏は金正恩委員長と同地で「2分間でもよいので会おう」との意向を表明しており、果たして実現するか、トランプ氏の記者会見でも質問された。これに対しトランプ氏はまだ決定していないとしたが、会うことになる可能性が高いと思っている印象であった。

 トランプ氏は、女性のエンパワメントについても活発な議論があったことを紹介した。娘のイバンカを連れてきたのはそのためであろう。この問題は、G7としては昨年のカナダ首脳会合で取り上げられた経緯がある。その時トランプは興味を示さなかったといわれていた。

 日米安保条約は日米首脳会談では話題にならなかったが、トランプ大統領の記者会見では質問が出た。トランプ氏は、同条約を解消しようとは考えていないとしつつ、「ただ、同条約は不公平だ。米国は日本を守る義務があるのに日本は米国を守る義務がないというのは不公平だ、仮に米国が攻撃されたら日本にも助けてもらう必要があると思う」とだけ述べていた。この問題のセンシティビティはトランプ大統領も理解しているようだが、今後も貿易不均衡などの関連で口にすることはあり得る感じであった。

 

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