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2015.11.05

日韓首脳会談と慰安婦問題

11月5日、東洋経済オンラインに一文が掲載されました。
要点は次の通りです。

○慰安婦問題に関する話し合いでは、日韓の事務方が事前に想定していたよりも突っ込んだやりとりになったことがうかがわれる。
○しかし、日韓両首脳が「早期解決」を達成せよと事務方にはっぱをかけるだけでは物事は進まない。
○慰安婦問題の核心は「国家補償」をするか否かである。
○国際仲裁で解決する方法は、韓国政府が拒否しているが、可能である。
○あくまで日韓間で解決を目指すならば、「国家補償」か、それ以外の方法かについて両国の首脳が直接判断するほかない。
○朴槿恵大統領は一歩も二歩も踏み込んで問題の所在を認識し、そのうえで「国家補償」でなければならないか判断する必要がある。
○安倍首相にも「国家補償」ができるか否かについて朴槿恵大統領と正対する覚悟と準備が必要だ。
2015.11.03

(短評)日韓首脳会談‐慰安婦問題

 日韓首脳会談が11月2日、開催されたことは喜ばしい。会談の時間は予定を大幅に超過して約1時間40分となった。そうなった理由は慰安婦問題であり、日韓の事務方が事前に想定していたよりも突っ込んだ話し合いになったことがうかがわれる。
 今次首脳会談では、日韓関係の改善に向け一歩どころか、二歩踏み出したと評価できるが、慰安婦問題については、次のような理由からシナリオ通りに事が運ぶか一抹以上の不安がある。
 まず、韓国側がかねてから要求していた「国家補償」について、日本側は、請求権問題は解決しているという立場であり、この日韓請求権協定の解釈をめぐる溝がどのように解消されるのかめどが立たないからである。
 第2に、韓国政府が日本政府と何らかの具体的な解決案について合意することが可能か、疑問だからである。この点は、これまでの経緯を知らないと理解困難かもしれないが、韓国政府は元慰安婦やその支持者たち、それに憲法裁判所(大法院)が政府間の合意に従わず、不満を唱えたり、再交渉を要求したりしても韓国内の問題にとどめ、日本政府との間では問題としないことを確保できるか、確信がないと日本側と合意するわけにいかないという事情がある。
 第3に、慰安婦問題からいわゆる徴用工の問題に波及しないか、日本政府は有形または無形の確証を得たいだろうが、韓国側はそれに応じることができるか疑問だからだ。

 このような疑問はあるが、首脳会談では具体的にどのような話し合いが行われたのか情報の開示が期待される。
2015.10.30

中国による東シナ海でのガス田開発

7月22日、菅義偉官房長官は、東シナ海の日中中間線の中国側海域で、中国が海上プラットフォームの建設を進めていると指摘し、東シナ海のガス田開発施設関連の資料を公表しました。海上プラットフォームとは、海底から石油や天然ガスを採掘するために海上に構築された構造物で、機械の保存や労働者の滞在にも使われます。
 日本政府は2013年6月までに、中国が「白樺」「樫」「平湖」および「八角亭」の4カ所のガス田を開発しているのを確認していましたが、今回発表された資料によると、それ以降12基の海上プラットフォームが建設されていることがわかります。
 場所はすべて日中の中間線より中国側で、日本側に入ってきていませんが、なぜ中国はそのように多数の海上プラットフォームを相次いで建設するのか、注目を集めました。

 この海域でのガス田開発は、日本と中国の境界線をどこに引くかについて両国の意見が違っているため実行できないでいましたが、2007年、両国の首脳が境界画定が実現するまでの過渡的期間、「双方の法的立場を損なうことなく協力する」ことにつき意見が一致しました。翌年6月には、両国は共同開発区域を設定しその中で共同開発を行なうことと、中国企業による白樺(中国名:「春暁」)ガス田開発に日本企業が参加することについて原則的に合意しましたが、その後共同開発地点の特定も日本企業の白樺ガス田開発への参加も実現しないままで推移してきました。
 この間中国側は、「白樺」以外に「樫」「平湖」および「八角亭」のガス田を独自で開発してきました。いずれも中間線より中国側よりであり、中国としては「日本側の主張を尊重して」とは言いませんが、何も問題ないと主張しています。今回公表された12基のプラットフォームもこれまでと同様中間線より中国側にあります。
 これに対し、日本は、ガス田は地下で日本側とつながっている可能性があり、中間線より中国側であっても一方的に開発するのは認められないと主張しています。また、最近の日本政府の発表に刺激されてか、中国側には海上プラットフォームを軍事的に利用しようとする意図があると指摘する声も日本で上がっています。
 両国の政府がいったん合意したことが実現しないのは、日中関係の悪化が影響していることも一つの原因でしょうが、開発を行なうのは企業であり、政府間で協力の仕組みを作っても日中両国の企業が積極的に取り組まなければ開発は困難です。つまり、共同開発、あるいは中国側プロジェクトへの日本企業の参加が実現するには経済的な合理性が必要です。
 この関連で日中両国の事情はかなり異なっています。
 中国が4カ所のガス田開発を始めたのは2004年からであり、すでに商業生産の段階に入っています(フェーズ1)が、生産量は低迷し、期待外れの結果であったと言われています。
 日本の常識では、フェーズ1の結果にかんがみればこんな投資はできないでしょうが、中国では状況が異なっており、2013年、中国国家発展改革委員会は、新たに300億元(日本円で約6000億円)を予算措置しました。「黄岩フェーズ2/平北」開発プロジェクトと呼ばれています。中国海洋石油総公司(CNOOC)はこの政府の指示の下に12基のプラットフォームを建設しているのです。CNOOCは中国でも有数の国有企業であり、2014中にその幹部が相次いで汚職容疑で摘発されています。フェーズ1の結果が芳しくなかったことをCNOOCとその背後にある国務院が追加投資することによって所期の目標達成を目指した可能性は十分にあります。
 一方、両国政府が合意した共同開発が進まない日本側の理由は、日本ではこの海域の開発が商業的に見合うものか、懐疑的な見方が強いからだとも言われています。
 もちろん、中国は海洋大国化戦略や「一帯一路」戦略などの下に驚くほど積極的に プロジェクトを推進しているのも事実であり、ガス田開発も大きな方向としては共通しているのでしょう。その意味では、ガス田開発の政治的側面にも注意が必要ですが、CNOOCは米国の証券取引委員会の監視を受けており、株主との関係でそう勝手なことはできません。もっとも、CNOOCが提出している財務報告には16カ所の開発に関する記載は全くなく、そのため虚偽記載ではないかと外国の投資家の間で噂が出ているそうです(エナジー・ジオポリティクス 「新・ジオポリ」第 144 号=2015 年 7 月号)。

 このように見ていくと、海上プラットフォームの追加投資については、現在の時点で軍事的な意図を喧伝する根拠がないのはもちろん、中国が利己的に行動していると過度に強調するのも問題です。中国の脅威を正しく認識することは重要ですが、日本側においては中国の脅威をいたずらに誇張しないよう注意する必要もあります。
 ガス田開発問題については、軍事的・経済的な側面に注意を払う必要がありますが、政府間では既定の方針通り、共同開発のための話し合いを進めるべきだと思います。そうすることは両国間の不必要な誤解を避けることにもつながるでしょう。

(THE PAGEに10月30日掲載)

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