平和外交研究所

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2015.11.19

オバマ大統領はシンガポールを訪問すべきだ


 11月18~19日、マニラでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれた。APECは本来経済問題について意見交換する場であるが、今年は南シナ海での中国の行動がホットな問題となっている中で、南シナ海問題がどのように扱われるか注目されていた。中国の埋め立て工事は排他的経済水域に関係してくるので、政治問題として片付けられない面がある。
 米国のオバマ大統領はかねてから各国の指導者に対し、中国に国際法を守るよう促すことを求めており、今回の首脳会談の場でも、あるいは会議の外で、各国の首脳に改めて働きかけたようだ。また、オバマ氏自身、マニラに到着直後、米国が供与し、現在フィリピン海軍が主力艦(旗艦?)として使用しているフリゲート艦に乗り込み、南シナ海の問題を重視している姿勢を強調した。
 オバマ氏は、米沿岸警備隊の巡視船など新たに2隻をシンガポールに供与することを約束し、また、周辺国に安全保障能力の協力強化のため今後2年間で計2億5900万ドル(約320億円)の支援を実施する方針だと伝えられている。
 今回の会議ではフィリピン、ベトナムなど中国と直接南シナ海問題で対立している国、あるいはインドネシアのように米国の方針に理解を示している国との関係でどのような動きがあるか注目されるのは当然だ。

 シンガポールは南シナ海問題ではあまり注目されないが、米国にとって重要なパートナーである。シンガポールは民族的には中国に近いが、国家としては、とくに機能的には米国に近く、米国との友好関係は各分野に及んでいる。
 米国のシンクタンクCSISのMurray Hiebert研究員は11月12日付で、オバマ大統領はシンガポールを早期に訪問すべきだとして、要旨次のように述べている。参考になる論考だ。
○シンガポールは独立以来、自由貿易の促進、安全保障の強化、地域協力の推進、人材養成などの面で米国に最も近い友好国である。
○オバマ大統領は2009年に短時間立ち寄っただけである。時間をかけて公式に訪問し、シンガポール政府高官をはじめ、経済界の指導者、青年、市民社会などと対話し、米国がシンガポールを重視していることを示すべきである。
○オバマ大統領はミャンマーとインドネシアにはすでに2回ずつ訪問している。また、11月中にフィリピンとマレイシアを訪れる。いずれも過去18カ月間で2回目だ。タイには2013年に訪問した。
○2016年は米・シンガポール外交関係樹立50周年であり、ぜひ行くべきだ。ASEAN首脳会議の機会を利用するのもよい。
○シンガポールは米国がアジアで自由貿易協定を結んだ最初の国であり、その協定は数ある自由貿易協定のなかで最も成功したものである。米国のシンガポールへの投資は2014年、1800億ドルに達した。これは対中投資の2倍、対印投資の6倍に相当する。シンガポールからの対米投資もストックで210億ドルに上っている。3600以上の米国企業がシンガポールに進出し、その多くは東南アジア地域の本部となっている。世界銀行の報告では、シンガポールはビジネス環境面でつねに世界一、または二番目にランクされている。
○シンガポールは、フィリピンのクラーク空軍基地とスービック湾海軍基地から米軍が撤退を迫られて以来、安全保障面で東南アジアの最も重要なパートナーとなっている。2005年に締結された両国間の協定に基づき、米軍はシンガポールの施設の利用が可能になっている。米軍は東南アジア地域における活動のため兵站拠点をシンガポールに置いており、また、空軍機と艦船は交代でチャンギ海軍基地を利用している。
○シンガポールは2014年末、東南アジア諸国で初めて米国などの対IS空爆に参加した。アデン湾の海賊対策やアフガニスタンのISAFにも参加している。
○米国はシンガポールに対する最大の武器供給国であり、また、毎年千人以上のシンガポール兵を訓練のため受け入れている。シンガポールは米国が主催する各種の演習に参加している。

2015.11.17

プーチン大統領との平和条約交渉

プーチン大統領の年内訪日が延期された。同大統領との平和条約交渉は今後どのように展望できるか。東洋経済オンラインに「「日ロ平和条約」は、長くて困難な道である 「プーチン訪日延期」の正しい読み方」を寄稿した。要点は次のとおりである。

○これまで日本は、重い大八車=「日ロ号」を坂道を押し上げるように努力してきた。油断しているとすぐに転げ落ちる大八車だ。
○エリツイン大統領時代、「日ロ号」は最も高いところまで押し上げられた。
○プーチン大統領からは、「日ロ号」を下げようとしているかのような発言が、非公式には行われている。
○「日ロ号」がズルズルと落ちている状態で合意を急ぐのは禁物だ。ロシアが本当に日本との条約をまとめる熱意を持つようになり、かつ、強い政治力で交渉できるようになるまで、慎重に、粘り強く対応していく必要がある。
 
2015.11.15

(短評)台湾の南シナ海についての立場は台湾の安全を害する

 
 ハーグの国際仲裁裁判所は10月29日、南シナ海での中国との紛争に関するフィリピンによる提訴について管轄権を認める決定を行った。平たく言えば、同裁判所は、提訴された案件について門前払いしない、審理すると決定した。
 これに関し、台湾外交部は31日と11月2日の2回にわたって、決定は台湾として承服できず、受け入れられないとの声明を発表した。これは、台湾がフィリピン側に立たなかったこと、したがって、少なくとも結果的に中国側に立ったことを意味している。

 台湾は、中国による埋め立て工事で問題になっている南沙諸島において、「太平島」を実行支配している。フィリピンや中国は数カ所占拠しているが、台湾はこれだけである。南沙諸島では最大だが、他のところと同様元は岩礁であり、フィリピンの提訴が認められると「太平島」を領土とは言えなくなる恐れがあるので、台湾外交部は声明を出したのだ。

 台湾の立場は微妙である。台湾は国民党政府として中国より早くから南シナ海全域を中華民国の領域だと主張していた。いわゆる「十一段線」の主張であり、中国はこれを継承して少し手を加え「九段線」として主張しているのだ。
 しかし、台湾は米国の航行の自由を妨げるようなことは一切控えていた。南シナ海は台湾海峡、さらには東シナ海とつながっており、米国がこの海域で活動できなくなれば台湾の安全を確保することはできない。しかるに、南シナ海は台湾のものだという主張を貫徹すれば、現在の中国のように米国と衝突する恐れが大きい。安全保障を米国に強く依存している台湾としてそれはできないのでその主張を米国にぶつけることは控えていた。中国が南シナ海に対して権利を主張した場合にも台湾の外交部は意見を公表することはなかった。
 ところがフィリピンの提訴をきっかけに、台湾外交部は矛盾に満ちた立場をさらけ出してしまった。フィリピンの主張が認められれば、「太平島」の支配に影響が出ると恐れたのだろうが、それは台湾の自殺行為になる可能性がある。米国が嫌うことを台湾海峡と続いている海域でしておきながら、台湾をあくまで守ってほしいと頼むことに等しいからだ。台湾は自らの安全保障を重視して、米艦が12カイリ内へ立ち入った際に支持声明を出すべきであった。

 来年初頭の総統選挙で国民党は政権を失う公算が高い。いずれ民進党は南シナ海の問題についてどのような立場であるか問われることになろう。民進党には国民党のように中国大陸を奪回したいという気持ちはないが、領土問題については台湾人も感情的になる可能性がある。
 台湾の世論(の一部?)はフィリピンの提訴に憤っている。人気サイトのWe talkではフィリピンの提訴に対し、台湾は抗議していく場所がない、つまり国連の一員でないのを嘆く声が上がっている。
 国民党系の聯合報(11月2日づけ)は、政府はフィリピンの提訴に対してただ「認められない、受け入れられない」としか言い返せないでいると、その弱腰を批判している。

 台湾における米国の代表事務所(AIT)が台湾の指導者にしきりに接触し、みだりに動くべきでないと話していると伝えられているが、実際にはそれ以上のこと、つまり、台湾が南シナ海に対する歴史的主張にこだわると、米国の台湾防衛に対するコミットメントにも悪影響が出ることなども指摘しているのではないかと推測される。
 一方、中国では台湾の立場を歓迎する声が上がっている。ごく自然な成り行きだ。
 以上のことにかんがみれば、国民党の歴史的「十一段線」主張は、同党の復活の可能性を摘み取ってしまう問題となりうると思われる。

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