オピニオン
2018.08.06
「北朝鮮はミサイルの製造を続けている。」
「北朝鮮は、米国が朝鮮戦争の終結宣言に応じないので非常に不満であり、非核化の作業を進めていない。」
「北朝鮮は最近、国連の制裁やぶりにますます熱心になり、海上での積み荷の積み替え(瀬取り)を盛んにしていると国連で報告されている。」などである。
さらに8月2日に行われたASEAN外相会議の際に垣間見られた北朝鮮の姿勢もかなりの関心を集めた。
これらは、多かれ少なかれ根拠があるようだが、北朝鮮の非核化に関し現在最も重要なことはいわゆる高官協議である。実は、その中には、実務者の協議や「作業部会」とも呼ばれている小規模で、専門的な問題を扱う場も含まれている。
高官協議については、さる7月初めにポンペオ国務長官が平壌を訪問して以降、何も発表されておらず、米朝双方とも情報を出さないので実情が分からないのだが、米朝両国がしようとしていることは推測が可能である。
それに比べると、本稿の冒頭に掲げたさまざまな観察や分析は、あえて言うなら、「周辺的な問題」である。それには、米朝間の駆け引き、政策決定者でない人たち、南北両朝鮮の考えが影響していると思う。
また、最初に掲げたウランの濃縮については、以下で述べるように目下米朝で協議中であり、結論が出る前に北朝鮮が自発的に一部を濃縮施設の解体を実行しなくても何ら不思議でない。
米国としては北朝鮮と詰めなければならないのは、大きく言って次の4項目である。
① 北朝鮮による核兵器廃棄の「決定」。
② 決定の実行。核弾頭の解体、関連施設の廃棄、平和目的利用への転換、核廃棄物の処理などを含む。
③ 非核化の「申告」。「非核化」の決定と実行について北朝鮮政府がIAEA(国際原子力機関)に行う。
④ 申告の「検証」。申告内容が正確かの検証。
①核兵器廃棄の「決定」
金正恩委員長はトランプ大統領との会談に先立って、「非核化」の意思を示していたことは周知である。トランプ大統領との会談でも、改めてその考えを説明したはずだ。
会談後の共同声明では、「金正恩委員長は、朝鮮半島の非核化についての確固とした、揺るぎのないコミットメントを再確認し」「北朝鮮は非核化に向けて進むことにコミットする」と記載された(第3項)。
にもかかわらず、政治体制の違いから、北朝鮮は「非核化」の決定を正式に行ったかどうか、不明である。そこで、米側としては、正式の決定が、いつ、どのような内容で、どのような手続きで行われるかを確認する必要がある。余談だが、その確認が行われるまで、ワシントンなどでは、北朝鮮は本気で「非核化」を実行する意思がないという懐疑論が消えないだろう。
なお、北朝鮮の現憲法は北朝鮮を核保有国と明記しており、「非核化」すればその改正が必要となる。憲法改正を行うのは最高人民会議であり、北朝鮮はこれを予定より早く開催するともいわれている。いずれにしても、憲法改正自体はここでいう「非核化」の決定でなく、確認的なことであろう。
②決定の実行
決定には様々な内容が含まれているが、なかでも重要なことは核兵器の廃棄である。北朝鮮が何発保有しているか、また、どこに、どのような状況で保管しているか。廃棄はいつ、だれが、どこで、どの順番で行うか。廃棄した核兵器は北朝鮮内で処分するか、国外へ搬出するか。米側としてはこれらを確定する必要がある。
1980年代の末に保有していた核兵器を廃棄した南アフリカ共和国の場合、自国ですべての核兵器を廃棄した後に発表したので、これらが問題になることはなかったが、これから「非核化」する北朝鮮の場合には、後で述べる「検証」においてこれらの事実関係についての情報開示が求められる。
これに対して、北朝鮮側では米側の要求に応じるのに抵抗する力が働く恐れがある。たとえば、人民軍や労働党の強硬派が、「主権」にかかわることとして説明を拒む事態である。これは米国としてとくに知りたいことであろう。
核兵器を製造するのに使用された施設の廃棄も重要問題だ。関連施設の数は多い。ウランの鉱石から核兵器を製造するまでにはかなりの数の工程がある。例えば、自然な状態で存在するウランを濃縮すること、そのため気化などの加工が必要である。また濃縮されたウランは金属状に加工される。冷却施設や、実験場も必要だ。
米国は人工衛星などで関連施設の存在をある程度把握しているが、完全ではない。協議においては北朝鮮側からすべての関連施設の現状と廃棄について説明を受ける必要がある。
「非核化」の実行上、北朝鮮による原子力の平和利用も問題となる。平和利用は核兵器不拡散条約(NPT)でもすべての国に認められている権利であるが、兵器用と平和利用用の境界が明確でないことがあるので、協議の対象とせざるを得ないのだ。
兵器用と平和利用用の混在は様々な局面で現れてくる。たとえば、ウランの濃縮は兵器のためにも、また、平和利用のためにも行われ、そのための施設は完全に分離されていない。したがって、兵器用の濃縮施設を廃棄するといっても、では平和利用の濃縮はどうするかが問題となる。
③④申告と検証
「非核化」を実行すれば、北朝鮮はIAEA(国際原子力機関)に対して、「非核化」の顛末を記した「申告」を行うことになる。「申告」の主たる目的は、「非核化」の決定が正しく実行されたか、政府の「申告」に虚偽やその他の誤りがないことを「検証」するためであり、「検証」はIAEAによって行われる。どの国でも、核兵器を保有しない国でも、核分裂性物質は厳格に管理されているはずだが、「申告」が正しく行われるとは限らない。
「検証」は高度に専門的、技術的な問題だが、その詳細について双方で決めておかないとうまくいかない。「検証」が途中で失敗し、とん挫した例はいくつもある。かつての北朝鮮やイランがそうであった。
「検証」では、核兵器や関連施設の中に存在する「核分裂性物質」、具体的にはウラン235(U235)と途中で生成されるプルトニウムの増減を調べ上げ、「申告」から漏れている「核分裂性物質」はないことが確認される。つまり、1国内の「核分裂性物質」の量がすべて、兵器用か平和利用用かをとわず、また、全工程を通して確認されるのだ。そのための調査を「査察」というが、煩雑になるのを避けるため本稿では「査察」も含め「検証」と呼ぶこととする。
例えば、核兵器1発を解体した場合、約50キロのU235が取り出されるのだが、そのことが正確に記録され、正しく保管されていることを確認されるのである。
「検証」のために、すべての関連施設は完全に開放するよう求められる。そして、壁に付着して残る物質がないかということまで調べられる。
これは普通の感覚では考えられないようなことであり、いわば、他人が家の中に入り込んできて、「裸になってください」と言われるようなものだ。「検証」とはそういう世界なのであるが、それに対する理解がないと抵抗が起こるのも当然だ。だから「検証」はよくとん挫する。
したがって、「検証」は円滑に実施されなくなる危険があるという前提に立って、その場合にはどう対処するかまで決めておかなければならない。
南アの場合も、「検証」は何回も困難に逢着したが、その都度検証チームは南ア政府の全面的な協力を得たので「検証」を貫徹できたという。
今回の平壌協議に先立ち、複雑な「検証」のための作業部会を米朝間で立ち上げたことは正しいステップであった。このことには北朝鮮も同意していたはずだが、それでもポンペオ長官が提出した要求は、あまりも一方的で、多すぎると映ったのであろう。だから「一方的に強盗のように要求してきた」と非難したのだ。もっと上品な表現はあったかもしれないが、北朝鮮の気持ちは率直に表現していたと思う。
しかし、「強盗」であろうと何であろうと、「検証」を最後まで貫徹しなければそれまでの努力はたちまち無に帰する。米国としては何としてでも徹底した「検証」を確保しなければならない。北朝鮮の「強盗」声明は、米国がなすべきことを実行している証である。
以上のようなことは技術的、専門的な性質が強く、結論を出すには時間がかかるが、米朝双方がそのために作業を進めているか否かが最大のカギである。
よく「CVID、すなわち完全な、検証可能な、不可逆的な、核廃棄」に北朝鮮がコミットしているかいなかが問題にされるが、CVIDという言葉の有無をもって米朝協議が進展しているかいないかを判断することはできない。内容が問題なのだ。それはつまるところ、まさに本稿で述べたようなことである。
北朝鮮の非核化をどうみるべきか
6月の米朝首脳会談後、北朝鮮の非核化に関しいくつかのことが話題になってきた。「北朝鮮は今もウランの濃縮を進めている。」「北朝鮮はミサイルの製造を続けている。」
「北朝鮮は、米国が朝鮮戦争の終結宣言に応じないので非常に不満であり、非核化の作業を進めていない。」
「北朝鮮は最近、国連の制裁やぶりにますます熱心になり、海上での積み荷の積み替え(瀬取り)を盛んにしていると国連で報告されている。」などである。
さらに8月2日に行われたASEAN外相会議の際に垣間見られた北朝鮮の姿勢もかなりの関心を集めた。
これらは、多かれ少なかれ根拠があるようだが、北朝鮮の非核化に関し現在最も重要なことはいわゆる高官協議である。実は、その中には、実務者の協議や「作業部会」とも呼ばれている小規模で、専門的な問題を扱う場も含まれている。
高官協議については、さる7月初めにポンペオ国務長官が平壌を訪問して以降、何も発表されておらず、米朝双方とも情報を出さないので実情が分からないのだが、米朝両国がしようとしていることは推測が可能である。
それに比べると、本稿の冒頭に掲げたさまざまな観察や分析は、あえて言うなら、「周辺的な問題」である。それには、米朝間の駆け引き、政策決定者でない人たち、南北両朝鮮の考えが影響していると思う。
また、最初に掲げたウランの濃縮については、以下で述べるように目下米朝で協議中であり、結論が出る前に北朝鮮が自発的に一部を濃縮施設の解体を実行しなくても何ら不思議でない。
米国としては北朝鮮と詰めなければならないのは、大きく言って次の4項目である。
① 北朝鮮による核兵器廃棄の「決定」。
② 決定の実行。核弾頭の解体、関連施設の廃棄、平和目的利用への転換、核廃棄物の処理などを含む。
③ 非核化の「申告」。「非核化」の決定と実行について北朝鮮政府がIAEA(国際原子力機関)に行う。
④ 申告の「検証」。申告内容が正確かの検証。
①核兵器廃棄の「決定」
金正恩委員長はトランプ大統領との会談に先立って、「非核化」の意思を示していたことは周知である。トランプ大統領との会談でも、改めてその考えを説明したはずだ。
会談後の共同声明では、「金正恩委員長は、朝鮮半島の非核化についての確固とした、揺るぎのないコミットメントを再確認し」「北朝鮮は非核化に向けて進むことにコミットする」と記載された(第3項)。
にもかかわらず、政治体制の違いから、北朝鮮は「非核化」の決定を正式に行ったかどうか、不明である。そこで、米側としては、正式の決定が、いつ、どのような内容で、どのような手続きで行われるかを確認する必要がある。余談だが、その確認が行われるまで、ワシントンなどでは、北朝鮮は本気で「非核化」を実行する意思がないという懐疑論が消えないだろう。
なお、北朝鮮の現憲法は北朝鮮を核保有国と明記しており、「非核化」すればその改正が必要となる。憲法改正を行うのは最高人民会議であり、北朝鮮はこれを予定より早く開催するともいわれている。いずれにしても、憲法改正自体はここでいう「非核化」の決定でなく、確認的なことであろう。
②決定の実行
決定には様々な内容が含まれているが、なかでも重要なことは核兵器の廃棄である。北朝鮮が何発保有しているか、また、どこに、どのような状況で保管しているか。廃棄はいつ、だれが、どこで、どの順番で行うか。廃棄した核兵器は北朝鮮内で処分するか、国外へ搬出するか。米側としてはこれらを確定する必要がある。
1980年代の末に保有していた核兵器を廃棄した南アフリカ共和国の場合、自国ですべての核兵器を廃棄した後に発表したので、これらが問題になることはなかったが、これから「非核化」する北朝鮮の場合には、後で述べる「検証」においてこれらの事実関係についての情報開示が求められる。
これに対して、北朝鮮側では米側の要求に応じるのに抵抗する力が働く恐れがある。たとえば、人民軍や労働党の強硬派が、「主権」にかかわることとして説明を拒む事態である。これは米国としてとくに知りたいことであろう。
核兵器を製造するのに使用された施設の廃棄も重要問題だ。関連施設の数は多い。ウランの鉱石から核兵器を製造するまでにはかなりの数の工程がある。例えば、自然な状態で存在するウランを濃縮すること、そのため気化などの加工が必要である。また濃縮されたウランは金属状に加工される。冷却施設や、実験場も必要だ。
米国は人工衛星などで関連施設の存在をある程度把握しているが、完全ではない。協議においては北朝鮮側からすべての関連施設の現状と廃棄について説明を受ける必要がある。
「非核化」の実行上、北朝鮮による原子力の平和利用も問題となる。平和利用は核兵器不拡散条約(NPT)でもすべての国に認められている権利であるが、兵器用と平和利用用の境界が明確でないことがあるので、協議の対象とせざるを得ないのだ。
兵器用と平和利用用の混在は様々な局面で現れてくる。たとえば、ウランの濃縮は兵器のためにも、また、平和利用のためにも行われ、そのための施設は完全に分離されていない。したがって、兵器用の濃縮施設を廃棄するといっても、では平和利用の濃縮はどうするかが問題となる。
③④申告と検証
「非核化」を実行すれば、北朝鮮はIAEA(国際原子力機関)に対して、「非核化」の顛末を記した「申告」を行うことになる。「申告」の主たる目的は、「非核化」の決定が正しく実行されたか、政府の「申告」に虚偽やその他の誤りがないことを「検証」するためであり、「検証」はIAEAによって行われる。どの国でも、核兵器を保有しない国でも、核分裂性物質は厳格に管理されているはずだが、「申告」が正しく行われるとは限らない。
「検証」は高度に専門的、技術的な問題だが、その詳細について双方で決めておかないとうまくいかない。「検証」が途中で失敗し、とん挫した例はいくつもある。かつての北朝鮮やイランがそうであった。
「検証」では、核兵器や関連施設の中に存在する「核分裂性物質」、具体的にはウラン235(U235)と途中で生成されるプルトニウムの増減を調べ上げ、「申告」から漏れている「核分裂性物質」はないことが確認される。つまり、1国内の「核分裂性物質」の量がすべて、兵器用か平和利用用かをとわず、また、全工程を通して確認されるのだ。そのための調査を「査察」というが、煩雑になるのを避けるため本稿では「査察」も含め「検証」と呼ぶこととする。
例えば、核兵器1発を解体した場合、約50キロのU235が取り出されるのだが、そのことが正確に記録され、正しく保管されていることを確認されるのである。
「検証」のために、すべての関連施設は完全に開放するよう求められる。そして、壁に付着して残る物質がないかということまで調べられる。
これは普通の感覚では考えられないようなことであり、いわば、他人が家の中に入り込んできて、「裸になってください」と言われるようなものだ。「検証」とはそういう世界なのであるが、それに対する理解がないと抵抗が起こるのも当然だ。だから「検証」はよくとん挫する。
したがって、「検証」は円滑に実施されなくなる危険があるという前提に立って、その場合にはどう対処するかまで決めておかなければならない。
南アの場合も、「検証」は何回も困難に逢着したが、その都度検証チームは南ア政府の全面的な協力を得たので「検証」を貫徹できたという。
今回の平壌協議に先立ち、複雑な「検証」のための作業部会を米朝間で立ち上げたことは正しいステップであった。このことには北朝鮮も同意していたはずだが、それでもポンペオ長官が提出した要求は、あまりも一方的で、多すぎると映ったのであろう。だから「一方的に強盗のように要求してきた」と非難したのだ。もっと上品な表現はあったかもしれないが、北朝鮮の気持ちは率直に表現していたと思う。
しかし、「強盗」であろうと何であろうと、「検証」を最後まで貫徹しなければそれまでの努力はたちまち無に帰する。米国としては何としてでも徹底した「検証」を確保しなければならない。北朝鮮の「強盗」声明は、米国がなすべきことを実行している証である。
以上のようなことは技術的、専門的な性質が強く、結論を出すには時間がかかるが、米朝双方がそのために作業を進めているか否かが最大のカギである。
よく「CVID、すなわち完全な、検証可能な、不可逆的な、核廃棄」に北朝鮮がコミットしているかいなかが問題にされるが、CVIDという言葉の有無をもって米朝協議が進展しているかいないかを判断することはできない。内容が問題なのだ。それはつまるところ、まさに本稿で述べたようなことである。
2018.07.17
ポンペオ国務長官による3回目の平壌訪問(7月6~7日)後は、とくにその感が強くなった。
ポンペオ長官は、金英哲副委員長との会談は、「誠実で生産的な話し合いだった」「(非核化は)複雑な問題だが、かなり詳細に次のステップについて話し合った。ほぼすべての分野で進展があった。」「北は完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)にコミットすると再度約束した」などと、ほぼ全面的に肯定的評価していることを示した。国務長官としての立場上、「会談はうまくいかなかった」と言えないのは当然だが、そのことを差し引いても、同長官は北朝鮮を信頼しているようである。
一方、北朝鮮メディアは、「北朝鮮は、今月27日の朝鮮戦争休戦協定65周年を契機に政治的な戦争終結宣言を行う問題や、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産中断を実証するミサイルエンジン燃焼実験場の閉鎖、朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨返還を巡る実務協議の開始などを提起した」「双方は、互いの信頼と尊重に基づき、段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ。(米韓が発表した合同軍事演習の一部延期は)我々が実施した核実験場の不可逆的な廃棄と比べものにならない」「米国は一方的で強盗のような非核化の要求をしてきた」「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」などと、概して批判的な報道・論評を行った。「非核化への我々の意思が揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」とも付言した。
ポンペオ長官は、金正恩委員長のトランプ大統領あて親書を預かって帰国した。それを読んだトランプ氏は7月12日、自身のツイッターで親書を公開し、「とてもすてきな手紙だ。(米朝交渉は)素晴らしく進展している!」とつぶやいた。親書で正恩氏は、「(トランプ氏の)精力的で並外れた努力に深く感謝する」「シンガポールで我々が署名した共同声明は、本当に意義深い旅の始まりだった」「新しい未来の朝米関係を開こうという、私と大統領閣下の強い意思、誠実な努力と比類なきアプローチは必ずや実を結ぶと私は固く信じている」と述べている。
正恩氏の書簡の内容はポンペオ長官の説明と平仄があっており、北朝鮮メディアの報道・論評だけが非常に違っている。常識的には、金委員長の書簡やポンペオ長官の説明のほうが重要だが、北朝鮮メディアは、北朝鮮内部に存在する不満をさらけ出す形で、今後の交渉を有利に導こうとする北朝鮮政府の考えを代弁して可能性もある。注目すべきは次の諸点だ。
「非核化への我々の意思が、揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」というのは一種のブラッフであり、これで米側が影響されることはないだろう。あまり賢明な言葉とは思われない。
「米朝双方は段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ」というのは、北朝鮮のメディアが繰り返していることだ。そういいたい気持ちは分からないではないが、そもそもそれは不可能であり、北朝鮮がそう言えば言うほど米国は北朝鮮の「非核化」の決意を疑うことになるだろう。現在米朝で協議していることは北朝鮮の「非核化」であり、それに匹敵すること、たとえば、米国の「非核化」は問題になっていない。問題になっている米韓合同演習や在韓米軍は北朝鮮の「非核化」に比べるとはるかに簡単なことであり、米朝双方が一つ一つ片付けていけば、米側の「球」はたちまち枯渇してしまうだろう。要するに、北朝鮮の「非核化」のためには、米側で一つの措置を講じれば北朝鮮側ではその何十倍もの数の措置が必要となる。これを不平等と言っても意味はない。
「米国は一方的に強盗のような要求をしてきた」というが、これも「非核化」のために必要な「検証」の実態にかんがみると、仕方がないことである。「検証」のための「査察」は、本来、他人が家に入り込んできて「裸になってください」と言われるようなことなのである。これについては、稿を改めて説明する。
「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」と北朝鮮は言うが、米国は、「北朝鮮の非核化が実現してから、あるいはそれと同時に平和条約を締結したい。安全の保証(security guarantees)も与えたい」という考えなのであろう。
米朝両国はシンガポールの共同声明で「朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努力する」ことを約した。平和体制の構築は、そのように努力して実現すべきものであり、そのうちの一部を切り出して交渉するようなことでないと米国は考えているのではないか。
以上のように一つ一つ北朝鮮メディアの言い分を見ていけば、賛成できることはあまりない。しかし、理屈はどうあろうと、目標を達成するには交渉が一方的な形にならないよう工夫する必要がある。そういう意味では、たとえば、平和宣言などは妥協の余地がありそうだ。
北朝鮮メディアの論評は政府の考えを代弁しているか
北朝鮮メディアの報道と論評は、以前は北朝鮮政府の考えそのものとみなして差し支えなかったが、米朝両国が首脳会談開催に向けて動き出して以来必ずしもそうではなくなってきた。我々としては、報道や論評をそのまま受け取るのではなく、言外の意味を読み、また、少し時間をかけその後の状況を合わせてみなければ真相は分からなくなってきている。ポンペオ国務長官による3回目の平壌訪問(7月6~7日)後は、とくにその感が強くなった。
ポンペオ長官は、金英哲副委員長との会談は、「誠実で生産的な話し合いだった」「(非核化は)複雑な問題だが、かなり詳細に次のステップについて話し合った。ほぼすべての分野で進展があった。」「北は完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)にコミットすると再度約束した」などと、ほぼ全面的に肯定的評価していることを示した。国務長官としての立場上、「会談はうまくいかなかった」と言えないのは当然だが、そのことを差し引いても、同長官は北朝鮮を信頼しているようである。
一方、北朝鮮メディアは、「北朝鮮は、今月27日の朝鮮戦争休戦協定65周年を契機に政治的な戦争終結宣言を行う問題や、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産中断を実証するミサイルエンジン燃焼実験場の閉鎖、朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨返還を巡る実務協議の開始などを提起した」「双方は、互いの信頼と尊重に基づき、段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ。(米韓が発表した合同軍事演習の一部延期は)我々が実施した核実験場の不可逆的な廃棄と比べものにならない」「米国は一方的で強盗のような非核化の要求をしてきた」「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」などと、概して批判的な報道・論評を行った。「非核化への我々の意思が揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」とも付言した。
ポンペオ長官は、金正恩委員長のトランプ大統領あて親書を預かって帰国した。それを読んだトランプ氏は7月12日、自身のツイッターで親書を公開し、「とてもすてきな手紙だ。(米朝交渉は)素晴らしく進展している!」とつぶやいた。親書で正恩氏は、「(トランプ氏の)精力的で並外れた努力に深く感謝する」「シンガポールで我々が署名した共同声明は、本当に意義深い旅の始まりだった」「新しい未来の朝米関係を開こうという、私と大統領閣下の強い意思、誠実な努力と比類なきアプローチは必ずや実を結ぶと私は固く信じている」と述べている。
正恩氏の書簡の内容はポンペオ長官の説明と平仄があっており、北朝鮮メディアの報道・論評だけが非常に違っている。常識的には、金委員長の書簡やポンペオ長官の説明のほうが重要だが、北朝鮮メディアは、北朝鮮内部に存在する不満をさらけ出す形で、今後の交渉を有利に導こうとする北朝鮮政府の考えを代弁して可能性もある。注目すべきは次の諸点だ。
「非核化への我々の意思が、揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」というのは一種のブラッフであり、これで米側が影響されることはないだろう。あまり賢明な言葉とは思われない。
「米朝双方は段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ」というのは、北朝鮮のメディアが繰り返していることだ。そういいたい気持ちは分からないではないが、そもそもそれは不可能であり、北朝鮮がそう言えば言うほど米国は北朝鮮の「非核化」の決意を疑うことになるだろう。現在米朝で協議していることは北朝鮮の「非核化」であり、それに匹敵すること、たとえば、米国の「非核化」は問題になっていない。問題になっている米韓合同演習や在韓米軍は北朝鮮の「非核化」に比べるとはるかに簡単なことであり、米朝双方が一つ一つ片付けていけば、米側の「球」はたちまち枯渇してしまうだろう。要するに、北朝鮮の「非核化」のためには、米側で一つの措置を講じれば北朝鮮側ではその何十倍もの数の措置が必要となる。これを不平等と言っても意味はない。
「米国は一方的に強盗のような要求をしてきた」というが、これも「非核化」のために必要な「検証」の実態にかんがみると、仕方がないことである。「検証」のための「査察」は、本来、他人が家に入り込んできて「裸になってください」と言われるようなことなのである。これについては、稿を改めて説明する。
「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」と北朝鮮は言うが、米国は、「北朝鮮の非核化が実現してから、あるいはそれと同時に平和条約を締結したい。安全の保証(security guarantees)も与えたい」という考えなのであろう。
米朝両国はシンガポールの共同声明で「朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努力する」ことを約した。平和体制の構築は、そのように努力して実現すべきものであり、そのうちの一部を切り出して交渉するようなことでないと米国は考えているのではないか。
以上のように一つ一つ北朝鮮メディアの言い分を見ていけば、賛成できることはあまりない。しかし、理屈はどうあろうと、目標を達成するには交渉が一方的な形にならないよう工夫する必要がある。そういう意味では、たとえば、平和宣言などは妥協の余地がありそうだ。
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