平和外交研究所

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2013.11.20

CTBTOの役割の増大

CTBTO(包括的核実験禁止条約機関)のLassina Zerbo事務局長が11月19日、都内で講演を行なった。
CTBTOとは、CTBT(包括的核実験禁止条約)の実効性を担保するために設置された国際機関であり、平たく言えば、条約に違反して核実験が行われないよう地震波や放射能を測定して監視する機関である。CTBTは1996年に採択されたが、残念ながら核大国や北朝鮮、インド、パキスタンなどが批准、あるいは署名していないため今でも発効していない。
一方CTBTOは、地震波や放射能の測定は条約が発効する前から必要であることが認識され、いち早く設立されたのであるが、条約本体が発効していないので監視制度は今一つ本気になれず、実質的にはもう一つの機能であるCTBT発効の準備が主になっており、わずかに北朝鮮が核実験を行なった場合などに地震波を探知し、その有用性をアピールするのがやっとであった。
しかし、Zerbo事務局長によれば、このようなCTBTOは今や様変わりしているそうである。その一つは原子力の平和利用を確保するご本尊であり、「核の番人」と呼ばれる国際原子力機関(IAEA)との関係である。CTBTOは元来核実験の有無を監視することが目的であり、違法な核開発を監視するのは国際原子力機関(IAEA)の役目と、両者の機能も各国の認識も明確に分かれていた。さらに言えば、IAEAは予算も人員も足りないくらいフル操業しており、知名度も非常に高かったが、CTBTOはあまり知られておらず、CTBTOの関係者にとってはいかにその有用性を各国に理解させるかが仕事の一つとなっていた。
しかし、CTBTOが行なう地震波や放射能の測定は核実験の探知目的以外にも役に立つ。そのことが劇的に示されたのが福島の原発事故であった。それ以前はIAEAとCTBTOは全く別の機関で相互の関係は薄く、それぞれの職員の意識もそのような事情を反映しておたがいに協力する気持ちはあまりなかったらしい。
IAEAのDepartment of Nuclear Safety and Securityの次長は次のように語っている。
「福島の事故は科学の世界に予期せぬ効果(collateral benefits)をもたらした。CTBTOとIAEAを近づけ、IAEAがCTBTOを始め他の国際機関と協力する機会を与えてくれたからである。福島で事故が発生して1時間以内に、CTBTOが収集したデータが提供された。その後そのような情報提供は恒常的に行なわれている。今や、IAEAの福島事故モニタリング・データベースに集められている計測結果のうち、百万以上が他の機関から提供されたものである。」
IAEAのもっとも重要な役割であり、得意とすることは、各国の核関連施設に対して行なう核物質および放射能に関する査察である。言わば、IAEAは事故や事件が起きないよう努めている。
一方、CTBTOは核実験や事故が起こった後にその監視能力を発揮する。福島事故の場合も、国際監視制度(IMS)の下にあるわが国の監視施設が探知したデータがウィーンの国際データセンターに送付された。
CTBTOの活躍は核や放射能に限られない。2004年に津波が東南アジアを襲ったことがきっかけとなって早期警戒システムの確立が必要であることが世界的に認識され、CTBTOによる地震波の観測は津波対策にとっても不可欠の存在となっている。世界気象機構(WMO)協力が緊密になっているのも当然である。
このようなCTBTOの役割拡大は、大きく見て、情報化が急速に進展しつつある世界で当然のことかもしれないが、理屈だけでなく現実にそれが起こっていることは重要であり、日本としてそのような変化にどのように対応していくかも問われるのではないかと思われる。

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2013.11.18

無人攻撃機を規制しよう

軍縮学会ニュースレター15号(11月13日付)に寄稿した一文

 「最近、軍事用の無人機のことを聞く機会がめっきり増えてきた。米海軍の無人実験機X-47Bが空母への着陸に成功したニュースが伝えられた翌々日には、F16戦闘機が超音速の無人飛行に成功したことが発表されるといった具合である。戦闘機が地上や艦船からの操縦で自由自在に動けるようになるのも遠い将来のことではなさそうである。
無人機は長らく偵察用に使われていたが、最近は攻撃用に使われるようになった。これが大問題である。しかも、情報技術の発達により、パイロットは数千キロも離れた場所にいながら、無人機のテレビカメラから送られてくる映像を見て目標に狙いをつけ、攻撃する。言わばゲーム感覚で人を殺傷することになるそうである。
無人機の開発と利用が最も進んでいるのはやはり米国であり、何十種類もの無人機を合計1万機以上使っている。
中国も潤沢な資金を使って無人機開発を進めており、すでに「藍狐」「翼龍」など数種類の無人機を完成、ないしそれに近いところまで開発している。中国の開発能力は米国を凌ぎつつあると、米国防省の国防科学委員会が警鐘を鳴らしたこともあった。偵察用だけでなく、攻撃用も開発しているらしい。「中国は、13人の中国人を殺害したミャンマーの麻薬ボスを無人機で殺害しようと検討した。最終的には生け捕りにすることにしたが、中国の無人機技術がそこまで進歩したことを示唆している」とNY Timesが報道したこともあった(2013年2月20日付 中国の『環球時報』の記事を報道したもの)。
北朝鮮も無人機の訓練を行なっているそうである。韓国はグローバル・ホーク偵察機を購入する話し合いを続けている。この種の偵察機は現在グアムに配備され、北朝鮮に関する情報収集などを行なっている。また、日本の防衛省は、来年度予算でグローバル・ホークの調査費を要求する方針であると伝えられている。無人機の開発・取得合戦になりつつあるのだ。
無人機の性能がよくなったと言っても、パイロットが現場で目視して判断するのとは違っており、子供や女性を兵士と誤認して攻撃する事故が多発している。家族を殺害された者には強い憎しみが生まれるだろうし、そうなれば無人機を使用する側も安全でなくなるかもしれない。また、遠隔操作を行なう兵士の側でも、心理的な葛藤を覚え、神経に異常をきたす者がいるそうである。
 米国の大統領補佐官は、無人飛行機を使った対テロ作戦はあくまで合法的なものだと米国の立場を説明している(2012年4月30日 IHT)が、無人機攻撃により深刻な人道問題が起こっていることは、どの国も目をつぶることのできない事実である。
無人機による攻撃を規制しなければならないという考えが強まってきたのはごく最近のことであるが、国連が無人機問題に強い関心を抱いているのは心強い。また、Drones Campaign Network、Global Drones Watch、Network to Stop Drone Surveillance and Warfare (NSDSW)などのグループやネットワークは無人機規制を進める運動を熱心に展開している。彼らは今年の9月、ニューヨークで無人機規制集会を開催し、国連総会に対してメッセージを送り、各国政府に積極的な取り組みを促した。
しかし、規制するとなると、無人機が汎用品であることが問題となる。農薬を散布するにも無人機が利用されている。米国では税関の国境警備局に導入され、密輸業者や不法移民の発見に使われている。災害状況の調査など科学的データを収集するのにも無人機が使われている。趣味のラジコンも無人機である。このような民生用無人機は必要なものであり、規制すべきでない。米連邦航空局は無人機の利用増大に備えて、関連の規制を2015年に緩和するそうである。
では、軍事用ならば規制してよいかというと、それにも問題がある。偵察用も攻撃用と同様規制すべきであるという意見もあるが、無人機による写真撮影は自然災害の例などを見ても今や不可欠であり、本質的にこれと異ならない偵察用の無人機を禁止するのは現実的とは思えない。
無人機がミサイルのように直接目標に体当たりするようになりつつあることは前述した。ミサイルについては拡散を防止するメカニズムは作られているが、兵器として禁止されているわけでない。無人機だけを規制できるかということも、これまた問題になるであろう。
 無人機による攻撃を規制すると言っても、このような諸困難があるが、なんとかして問題点を絞り込み、規制を実現すべきである。今後どのような工夫ができるか。個人的には、たとえば電子媒体に残っているデータを国連などに提出させることなどは一案と思っている。軍としては攻撃の実態を明るみに出すことになり、当然激しく抵抗するであろうし、簡単でないのは承知の上であるが、安全な環境にいながら敵を攻撃する代償と考えれば、あながち荒唐無稽でないのではないか。
 ともかく、この問題に多くの人たちが関心を持ち、また積極的に関与していくことが期待される。」

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2013.11.17

特定秘密保護法案

特定秘密保護法案の問題点。
政府が一定のことを国民に知らせないことはどこの国でもありうる。何を秘密にするかについて、特定秘密保護法案は「我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがある」場合に特定秘密として指定するとしているが、これではあまりに抽象的であり、指定されることが多くなりすぎる恐れがある。
日本の各省庁では以前から秘密の指定を行なっており、名称は必ずしも一致していないが、「取り扱い注意」という軽い指定から「秘密」「極秘」など異なる段階の指定があり、実際には指定が時間の経過とともに増加する傾向がある。官僚にとって、しかるべき秘密の指定を怠れば責任を追及されるが、過剰指定のために責任を追及されることはまずないからである。
また、米国ではconfidentialもあればsecretなど異なる段階の秘密指定があり、米国から秘密の情報を提供される場合、そのいずれかが示されるが、日本側では secretが「特定秘密」にあたるとして扱うのか。しかし、それでは「特定秘密」の範囲が広くなりすぎないか。また、米側では程度の低い秘密指定であっても、日本側では「特定秘密」に指定する必要がある場合があるのではないか。
秘密指定の有効期間は、特定秘密保護法案では5年が原則とされているが、延長が可能であり30年を超えて指定が解除されない場合もあることが規定されている。しかるに秘密指定を解除する際に、日米の間には違いがあるのではないか。
米国では公文書の公開に強い力が働く。政府と民間の関係が日本と異なることが背景にあろう。官尊民卑でない。「お上」の感覚は少ない。知る権利の主張が強いなどの事情である。
日本の官僚は秘密指定の際には熱心になるが、秘密指定の解除には無関心である。米側から公文書が公開されても日本側からは依然として秘密にされる場合がこれまで何回もあった。日本の現代史研究者が公開された米国の公文書によって研究を進めることは現在でもよくある。
さらに、米国の場合、違法な情報リークがある。米国は日本の秘密保護の制度が弱いと思っているかもしれない。制度という点では、公務員法はたしかに弱いかもしれないが、重要な情報が漏れるのは日本側からだけであったか。WikileaksやSnowdenの問題などは、米国政府が絶対に認めないだろうが、だからといって、米国政府の説明をうのみにするべきでない。
どうしても特定秘密保護法を制定するのであれば、5年の指定有効期間経過後は原則すべて公開、秘密の扱いを続けるのであれば、裁判所などの許可を条件にするべきである。現在は内閣が決めれば延長は可能になっているが、日本の省庁が延長を申請してきた場合に内閣が拒否することなどありえない。日本の内閣と省庁との関係を知っている者であれば、常識であろう。かりに、有識者とか、「第三者機関」などであっても、本当に独立・中立であるのはきわめてまれではないか。

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