平和外交研究所

2020年

2020.12.30

中国の外交にかかる暗雲

 中国は新型コロナウイルスの感染拡大をほぼセロに近いレベルまで抑え込み、また、そのことを背景に外交面でも強い姿勢をみせている。しかし、一方では、各国との協力関係は弱体化し、孤立化しつつあるとの見方も出てきている。中国外交については今後もそのような両面を見ていく必要がある。米国のバイデン新政権はトランプ政権のような派手なポーズは取らないとしても対中姿勢が軟化するとは思えない。

 そんな中、ドイツが中国重視のアジア太平洋政策の修正に乗り出した。クランプカレンバウアー独国防相による、中国の南シナ海での覇権主義的行動の批判はそのような方針転換を象徴的に物語っていた(12月27日付時事)。同氏は、15日の岸信夫防衛相とのオンライン対談でインド太平洋に軍艦を派遣すると表明した。独政府が9月に策定した「インド太平洋指針」にも、中国の南シナ海での領有権主張を否定した仲裁裁判所判決への言及など、中国に対する厳しい見方が示された。

 新しいインド太平洋戦略を策定した欧州諸国としては、2018年のフランス、今年になってドイツ、さらににオランダが続いている。

 中国に対して厳しい姿勢をみせる以前はどういう状況であったかというと、ドイツは西側諸国としてユニークであったが、ある程度の許容量をもって中国と接してきた。西側諸国として中国へ最初に大規模な投資をしたのは、フォルクスワーゲンによる上海での工場建設であった。

 メルケル首相は2005年の就任以来、12回訪中した。きわめて異例の多さである。当初、メルケル氏は文化的に関心があったのと同時に、中国は大化けするかもしれないとみていたのではないかと推測している。そしてドイツの企業はドイツ政府の親中姿勢を背景に、競って中国側と大型契約を交わし、中国はドイツにとって輸出入総額で最大の貿易相手国になった。

 この間、ドイツは中国に対して日本との和解を勧めてきた。表面的な友好でなく独仏間のように心底からの和解を勧めたのだが、これは両刃の剣であった。中国は、日本に対してはドイツの例を出して圧力を加えるのがつねであったが、ドイツから説得されることは好まなかった。

 2017年12月13日、中国が南京事件80年記念の行事を行った日であったが、ドイツとフランスの在中国大使は連名で、英フィナンシャル・タイムズ紙中国語版に独仏の和解の経験を語る一文を投稿した。その中には、「犯罪を犯した者は自らの罪を認め、被害者は許さなければならない」との趣旨の言及があった。
 中国としては、「日本は罪を認めなければならない」というのは好都合であったが、「中国は日本を許さなければならない」というのは癇に障ったのであろう。人民日報系の環球時報12月28日付が掲載した評論は、両大使の寄稿は「中国内政に対する粗暴な干渉」「中国人に対する無礼なお説教である」と述べるなど、不愉快極まりないという感情があふれていた。

 ドイツにとって重要な問題は、日中が和解することとならんで、中国が民主化することであり、この時点では民主化についてもまだ希望を失っていなかったと思われる。積極的に民主化を予測するまでは至らなかったが、中国が改革開放を進め、経済発展するに伴いいずれ民主化に向かうという期待感があったのである。

 このような期待感は西側の主要国の間で共有されており、日本も天安門事件に際しては中国を孤立化させないよう努めるのがよいと説得していた。先般公開された外交文書公開から民主化について淡い期待があったことが窺えた。

 しかし、結局ドイツは中国に失望することとなった。特に政治面であるが、ドイツが対中姿勢を転換した理由は以下のことであったと思われる。
 第1に、日中の和解についてのドイツによる説得に、中国は耳を傾けようとしなかった。
 第2に、南シナ海での中国の拡張的行動に関する国際仲裁裁判所の判断を中国は一顧だにせず、中国の利益に沿わない国際法など順守しない姿勢を示した。
 第3に、EUにおいて、中国は独仏などの言いなりにはならないというハンガリーなどを後押ししている。東南アジアにおけるカンボジアと同じような役割を果たさせているのである。
また、イタリアを中国の一帯一路に組み入れるなど、中国はEUの一体性に反する行動を取っている。
 第4に、中国は、国際的な公約であった香港の現状を尊重するとのコミットメントを強引に反故にしてしまった。
 第5に、中国は民主化に向かわない。ドイツの外交筋は、中国は経済発展を遂げても民主化に至らない「異質な国」であると述べているという。

 もっともドイツとしても中国との経済関係を重視する姿勢は当面不変であろう。EUと中国は投資協定を交渉中であり、年内にも妥結の可能性があるという。

 しかし、政治面でのドイツの中国政策の転換は日本外交にとっても重い意味がある。日本にとって、ドイツはEUの主要国である上に、日中関係においても一定の役割を果たしうる。ドイツがインド・太平洋外交について新ガイドラインを取りまとめ、わが国など自由資本主義体制を取る国との連携強化を打ち出したことはもちろん歓迎である。
 日本とドイツは政治面で完全に立場が一致しているわけではない。人権問題に関しては、表面的にはともかく、日本とドイツでは温度差がある。そんなことも含め、日本としては、中国との関連でドイツをどのように位置づけるべきかあらためて検討が必要である。

2020.12.24

外交文書公開と中国の民主化問題

 12月23日、外務省は1989年6月4日の天安門事件に関する外交文書を公開した。完全な公開でなく、一部は未公開のままになっている可能性があり、今回公開された文書から何が読み取れるか、研究者もメディアも苦心して取り組んだことが伝わってくる。

 天安門事件はあらためて説明の必要はないくらい周知の歴史的問題であるが、要するに、学生らが民主化を求め、天安門広場を占拠したのに対し、中国政府は退去を求めたがデモ隊は従わなかったため武力を行使して鎮圧した事件である。多数の死傷者が出たことから、西側諸国では中国に制裁を加えるべきだという声が強くなった。

 そのなかで、日本政府としてどのような姿勢を取るかが問われたのであったが、日本政府は制裁には消極的であった。外からの圧力で中国を変化させることには限界があるとみていたからである。公開された文書の中には、「圧力を加えれば中国はかえって理性的対応をしなくなる」という懸念があったことも示されている。このような日本政府の見解は、今振り返っても常識的であるし、日本政府が各国に対して圧力をかけないよう説得に努めたのは当時の状況においては適切であったと思われる。

 しかし、日本外交のあり方、今後の日中関係の観点からは、さらに踏み込んだ分析が必要である。

 天安門事件が起こった際、西側諸国が制裁など強い措置をとろうとした背景には冷戦が終了しつつあるという事実があった。ゴルバチョフソ連共産党書記長が1985年に登場して以来の国際政治の変化であり、天安門事件の5か月後にはベルリンの壁の撤去が始まり、その翌月(12月)にはマルタでブッシュ米大統領とゴルバチョフソ連共産党書記長の会談が行われるという流れであった。

 西側諸国としては、中国だけが民主化の波に取り残されているとの見方が強く、天安門事件に際しては中国政府に強い圧力をかけるのがよいと鼻息が荒くなったのである。

 当時日本政府は、中国が改革開放を進め、経済発展していけば、西側諸国に対しても合理的に対応するようになり、民主化の問題も、一遍には無理だとしても徐々に進展していくだろうという見方が強かった。中国をいつまでも特殊な国だとみるべきでないとも考えられていた。これらは口に出して表明されることは少なかったが、日本政府の中で主流の考えであり、協力することにより中国の変化を促すことができると考えられたのであった。

 しかし、30年を経過した現在、そのような見方が持てる状況ではなくなっている。中国は経済的には世界第2位になっている。軍事力も年々大幅に増強しており、世界の軍事強国の一つになっている。政治力も飛躍的に強くなっている。日本政府としては以前と同じ姿勢をとることはできない。

 とくに、民主化の要求については、中国における状況は経済発展とは裏腹に、当時より悪化している。日本政府と鄧小平とは民主化についても一定程度の対話は可能であったが、今や習近平主席の下で民主化の要求は徹底的に抑え込まれている。時折出てくる民主派の弁護士などは容赦なく投獄されている。また、言論は、メディアもインターネットも厳しく統制されている。香港での民主化要求にも習近平政権は矛先を向け、香港を中国化してしまった。

 そんな中にあって、日本政府として中国の民主化についてどのような姿勢で臨むべきか。中国の状況はかつてのように比較的楽観的な見方では済まなくなっている。かといって日中関係は民主化だけで成り立っているわけでなく、さまざまな側面を考慮しなければならない。また、米国ではバイデン新政権が近く発足する。日本政府としては多角的な観点から対中関係を戦略的に構築していく必要がある。

2020.11.27

王毅中国外相の尖閣諸島に関する発言

 11月24・25日、王毅中国外相が来日し、茂木外相と会談した。会談で話し合われたことにケチをつける気持ちは毛頭ないが、尖閣諸島についての共同記者会見でのやり取りは後味の悪いものとなった。

 同会見において茂木外相は「尖閣諸島周辺海域に関する日本の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めるとともに意思疎通を行っていくことを確認した」と語った。最近、尖閣諸島の接続水域内に中国の公船による侵入が顕著に増加していることを背景にした発言であった。
 
 一方、中国の王毅外相は「我々も釣魚島(尖閣諸島の中国名)の情勢を注視している」とし、「一部の真相が分からない日本漁船が釣魚島周辺に入っている。中国側としてはやむを得ず、必要な反応をしなければならない」と反論した。また王外相は「希望も持っている」とし、双方が事態を複雑にする行動を避けることや対話を通じた解決を呼びかけ、「双方の努力で東シナ海を平和、協力の海にしていきたい。両国の利益に合致するものだ」とも語った。

 日本の漁船の行動に問題があったとの認識を示しつつ、中国側の行動は日本の漁船に触発された受動的なものであったとの趣旨を述べた王氏の発言は非常に問題であったが、同時に巧妙に計算されたものであった。

 茂木氏は、その場で日本の漁船を擁護する発言を行うべきであった。具体的な表現に細心の注意が必要であることはもちろんである。特に、王氏は日本の漁船の何が問題であったかについて、「日本漁船が釣魚島周辺に入っている」と、肝心のところはぼやかしていた。かりに茂木外相が、「日本漁船が日本の領海に入るのは当たり前である」とでも言えば、王氏から、「私は領海の問題を避けて発言したのに、茂木外相は領海を問題にした」と逆襲されるかもしれない。そうなれば中国側の思うつぼである。
 中国で日本漁船が領海内に入ってくると言っているのは、海警局の関係者であり、非公式の発言である。
 
 つまり、日本側から日本の領海のことを言及しないよう注意しつつ、日本漁船を擁護する必要があるのだ。念のために付言しておくが、日本側が日本の領海について中国側に問題提起すべきでないのは、日本は、尖閣諸島は日本の領土であることになんら問題はないと認識しているし、実効支配しているからである。

 日本国内で王外相の発言を問題視する気持ちはよく分かる。日本共産党の志位委員長の怒りに満ちた、しかし鋭い発言を産経新聞が大きく報道するという驚天動地のことも起こっている。が、相手はズルしゃもであり、単純な反発は日本の国益にならない。

 ともかく、具体的には、日本側は「日本の漁船の行動に何ら問題はないと認識している」とし、かつ「中国側には国際法を順守するよう求める」とだけ表明するのがよい。
 この2点について中国側と議論するためでない。中国側が問題発言をするので、反論として述べておくのであり、いわゆる言いっぱなしでよい。もし中国側がさらに反発してきても、日本側としては同じことを繰り返すのがよい。

 今回の発言はともかく、今後も同様の事態が発生する恐れがある。それに備えて日本側は反論を用意しておくべきである。

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