平和外交研究所

7月, 2014 - 平和外交研究所

2014.07.31

周永康の訴追

周永康元政治局常務委員に対する規律検査委員会の調査が7月29日、決定された。事実上の訴追開始である。習近平政権は腐敗退治に力を入れ多数の者を摘発してきたが、周永康はそのなかで最高位の人物であり、しかも司法や公安の担当であった。
胡錦濤政権時代政治局常務委員は9人で、「チャイナ・ナイン」と呼ばれ、絶大な権力を握っている。それに対する訴追など不可能に近く、改革開放が始まってからの30年間でも政治局常務委員の摘発はなかったであろう。重慶市長であった薄熙来は政治局員であったが、常務委員会入りする前に失脚した。

周永康は反腐敗運動のなかで標的となっていると何回も、種々のメディアで言われてきた。ほんとうに確認できることは少なかったが、今回の決定は噂が正しかったことを示している。噂を信じてよいなど、口にすべきことではないし、噂を過信して事実とみなしてはいけないが、中国に関しては、少なくとも要注意の問題であると考えておく必要がありそうだ。
噂が当たることは以前からあった。中国では事実が噂となって出てくるのは、言論の自由がなく、厳しい統制下に置かれていることと関係がある。噂と中国政府が発表することとどちらが正しいか、このようなことは他の国ではありえない質問であるが、中国では発表と言っても事実を歪曲できない発表と、プロパガンダとしての発表があるので、公式の発表と言っても信用できない場合がある。

訴追は周永康で打ち止めとなるか。ほとんどすべての中国ウォッチャーは、否定するだろう。さらに、曾慶紅元国家副主席まで追及の手が伸びるかが問題である。ここでまた噂を持ちだしたい。
「2003年3月、江沢民は国家主席を胡錦涛に譲ることに応じたが、腹心の曽慶紅政治局常務委員兼中央書記処書記を国家副主席とすることを胡錦濤に呑ませた。胡錦涛は鄧小平が生前、将来の中国共産党総書記に指名していた人物で、江沢民の系列ではない。江沢民の代理人である曽慶紅は何かと胡錦涛に立てついた。
2007年、第17回党大会に際して、曾慶紅とその仲間は、第1期の任期を終える胡錦涛は留任せず、曾慶紅に譲るべきだと主張したため、争いが生じた。反撃に転じた胡錦涛は曾慶紅の家族による汚職の事実を調べ上げ、党内で味方を増やして曾慶紅にその要求を諦めさせた。曾慶紅が要求を諦める代わりに出した条件は、賀国強と周永康を政治局常務委員に入れることであり、9人の常務委員のうち江沢民派は呉邦国、賈慶林、李長春、賀国強、周永康の5人となり多数を占めた。
この結果胡錦涛・温家宝コンビは重要問題について政令が出せなくなり、国内では「胡温政令不出中南海(胡錦濤と温家宝の政令は中南海(中国要人の執務場所)から外に出ない)」と揶揄された。
17回党大会では、江沢民派は薄熙来を常務委員にしたかったが、党内で支持が弱く実現しなかった。その代わりの妥協として習近平を認めた。江沢民や曾慶紅には、いずれ時が来れば習近平に迫って権力の明け渡しを要求する、場合によっては武力を行使してでもそれを実現しようという考えがあった。
習近平は政権成立以来腐敗問題で曾慶紅や周永康をきびしく追及しており、三中全会で最高権力機関である「国家安全委員会」を設立したのも江沢民派の牙城であった「政法委員会(司法と公安を牛耳る)」を徹底的に破壊するためである(注 胡錦涛もこの委員会を解体しようとしたと言われていた)。」
この噂に示されていることは権力闘争に他ならない。すさまじい闘争がすでに始まっているのであるが、さらに江沢民に及ぶことがあるか中国ウォッチャーならずとも気になることであろう。

習近平自身に腐敗問題はないか。今のところ噂はなさそうである。しかし、習近平に近い人たちのなかには問題のある人がいるかもしれない。中国では、どこから見ても政治的、道徳的に潔白な人間で通すことは容易でない。習近平についても薄熙来の問題が表面化する以前には重慶市を訪れ、薄熙来の業績を称賛したことがある。習近平が薄熙来と近い関係にあるというわけではないが、攻撃しようと思えばいろんなことが可能である。文化大革命の頃には、親どころか祖父の代まで調べられ、攻撃材料にされたことがあった。

2014.07.30

オスプレイの佐賀空港への配備

ThePAGEに7月29に掲載された。

7月22日、政府は明2015年度に陸上自衛隊へ導入予定の垂直離着陸輸送機オスプレイを佐賀空港に配備する計画を明らかにし、武田副防衛相が古川佐賀県知事を訪れ、受け入れを要請しました。また、同副防衛相は米海兵隊オスプレイの佐賀空港利用についても理解を求めました。
オスプレイは固定翼機とヘリコプターの両方の機能を持っているため長い滑走路がなくても離着陸でき、また、航続距離は長く、沖縄から飛び立って1回補給を受ければ朝鮮半島、中国大陸東部、南シナ海をノンストップで往復できる大変便利な輸送機です。一時期米国で事故が数回起こったので安全性について疑問を持たれましたが、その問題もクリアできたようであり、今や米軍では広く使用されており、普天間基地にも配備されています。さる7月20日に札幌で行われた航空ショーに参加するため同基地から飛び立ったオスプレイが横田、岩国基地を経由していったことを覚えている方も多いでしょう。
 米軍のオスプレイの佐賀空港配備問題は普天間基地の移設と関連があります。米国はかなり以前から普天間基地の移設先として佐賀空港が候補地になるという考えを持ち、日本側に非公式に打診していました(屋良朝博『砂上の同盟 米軍再編が明かすウソ』沖縄タイムズ 2009年)。日本政府はそれに応じず、普天間基地を名護市辺野古へ移設する方針を変えていませんが、それが実現するまでの間オスプレイを佐賀空港に配備できれば有効なつなぎの策となります。
 陸上自衛隊のオスプレイ導入は離島の防衛体制強化の一環です。陸上自衛隊は2018年度までに約3千人規模の水陸機動団を新設する方針であり、その中核となるのは西部方面普通科連隊(「西普連」約700人)です。米軍の海兵隊がモデルで、隊員は技能・体力に優れ、レンジャーの資格を持つ者も多数含まれています。エンジン付きゴムボートなどを使って厳しい訓練を行なっており、隊長は「海からの上陸は難しく、失敗したら死ぬことを海兵隊から学んだ。それを骨身に染み込ませる訓練でもある」と説明しています(『西日本新聞』7月16日付)。
佐賀空港に配備されたオスプレイは西普連の部隊を短時間に尖閣諸島まで輸送できます。また、北九州には演習場が多数存在します。これは自衛隊にとってのみならず、米軍にとってもオスプレイを佐賀空港に配備するメリットです。佐賀空港は強襲揚陸艦の母港である米軍佐世保基地にも近く、相乗効果は大きいでしょう。
さらに、佐賀空港は朝鮮半島には沖縄より近く、北朝鮮の脅威に備えるためにも便利です。わが国の防衛体制強化のために同空港の重要性は増してきています。
一方、同空港は1998年の開港以来赤字続きであり、自衛隊や米軍の利用が始まれば空港経営にとって強力なテコ入れになるとも考えられています。そもそも佐賀空港は無駄な土木工事の典型とコキおろす人も居たくらいであり、また地盤沈下の問題もあります。他方、中国(上海)とのLCC航空路開設などにより利用客は増えているというデータもあり、滑走路を現在の2千メートルから4千メートルに延長したいという要望もあるなど複雑な面もあります。
 オスプレイの配備実現にとって最大の問題は地元の理解が得られるかであり、佐賀空港建設の際に県と地元漁協が結んだ公害防止協定の付属覚書には、「県は佐賀空港を自衛隊と共用する考えを持っていない」と記されています。この約束によれば佐賀空港にオスプレイを配備するのは困難になりますが、離島や朝鮮半島との関係で防衛体制を強化することは佐賀県にとっても軽視できないことであります。また、オスプレイは紛争だけでなく災害救助にも活躍しており、昨年11月、フィリピンが巨大台風によって大きな被害を受けた際、普天間から米海兵隊のオスプレイがかけつけ、避難民や支援物資の輸送に貢献しました。このような能力を持つオスプレイが身近にいることは、地元の佐賀県のみならず周辺の地域にとっても安心材料となります。
 古川知事は武田副防衛相との会談後の記者会見で、「賛否は全く白紙。これからやり取りは続けていこうと思う。」と述べ、さらに、協定との関係について「(自衛隊との共用が)事前協議の対象になるとも記されており、ありえませんと書いてあるわけではない」との認識を示したと伝えられています。かなり前向きの発言でした。
 古川知事は国の政策に理解があることで知られています。玄海原発の再開問題についても全国で一番早く、「安全性の確認はクリアできた」として再開を容認する姿勢を示した経緯があります。今回の政府からの要請に対しても同知事の対応は早く、前向きでした。県庁内にはすでに「佐賀空港自衛隊使用対策チーム」が新設されています。
 政府はオスプレイの配備決定を急いでいます。今年の秋には沖縄県の知事選挙が行われ、普天間の辺野古移転を容認する仲井真現知事は3選を目指して立候補する構えです。また、今後の日米防衛協力のために新指針(ガイドライン)が今年中に策定される予定です。こうした重要日程を控え、政府は概算要求が示される8月末までに佐賀県の理解を得たい考えです。しかし、決定に至るまでの道は決して平たんでありません。古川知事も、政府の考えるような日程には拘束されないとして楽観論に傾くのを戒めています。
原発と佐賀空港へのオスプレイ配備は別問題です。しかし、結論を得るのを急ぐあまり誠実な対応ができなくなると、政府と佐賀県が地元住民と対立するという、原発と同じ構図の状況に陥る恐れがあります。オスプレイの佐賀空港への配備は政府と佐賀県の姿勢が再度厳しく問われる問題です。

2014.07.29

ロシア軍による砲撃を示す写真の発表

オランダが中心になって進めているウクライナでの事故調査は親ロシア派の協力が得られず進展していない。現地入りもまだ実現していないようである。一刻も早く事態が打開されることを望むが、米国務省は7月27日、ロシア軍が自国領からウクライナに砲撃をしている証拠だとする衛星写真を公開した。写真は7月20日から26日にかけ撮影されたものだそうで、ロシア領内の砲撃部隊がウクライナ領に向けロケット砲を発射した地上の痕跡とウクライナ領内に着弾した跡が写っている。
マレイシア機の撃墜事件と直接の関係はないが、米国はかねてからロシアに対して親ロシア派を抑制する努力が欠けているとして非難をしており、今回はそれどころか、ロシア軍自身が関与していることを示す証拠としてこれらの写真を発表したのである。ロシアは米欧の非難に対していちおう反論はしているが説得力はないとする見方が多い中で、今回の写真発表はロシアの立場をさらに悪化させる可能性がある。
写真は国際紛争を少なくするのに役立つと思う。今回発表された写真には解説がついているが、それを読んでも素人にはよく分からないところがある。しかし、将来は上空の衛星などから取る写真の精度はどんどん向上していくであろう。そのうち動画が発表されることも考えられる。そうなると格段に分かりやすくなる。
写真ですべてが分かるのでないことはもちろんである。地中、海中のことはまだ見ることはできないし、生物兵器や化学兵器も上空からの写真には映らない。しかし、表面だけのモニターでも、かくれて武力を使おうとする勢力には強い抑止力となるのではないか。
東シナ海や南シナ海なども上空からよく監視を続けてもらいたいし、国連では写真の活用による国際の平和と安定を図ることを奨励する措置を取るのがよいと考える。一部の国ではすでにある程度実行しているようであり、日本も以前から衛星による情報収集に力を入れてきた。衛星による撮影技術を向上させ、素人でも分かる写真や動画を提供してもらいたい。

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