平和外交研究所

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2016.03.25

(短評)オバマ大統領は広島を訪問するか

 オバマ大統領の広島訪問の可能性について、3月23日の時事通信は次の通り報道している。
「米国務省のゴットメラー国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は22日、ワシントン市内で記者団と懇談し、オバマ大統領が伊勢志摩サミット(5月26~27日)に合わせて被爆地の広島を訪れる可能性について「ホワイトハウスで検討されている。推測はしない」と語った。
 ゴットメラー次官は昨年8月、ケネディ駐日大使と共に広島、長崎の式典に出席した。次官は記者団に対し「大統領は広島を訪問できれば光栄だと語っている。いつ、どのように実現するかは彼が決めること」と話した。
 一方、複数の米政府高官は取材に対し、「ケリー国務長官が4月に広島を訪問し、その反響を見るまで大統領訪問の可否を決めることはない」と述べた。米国内では原爆投下に肯定的な意見が根強く、大統領の訪問は退役軍人らの反発を招く恐れもある。」

 23日、菅官房長官はゴットメラー次官の発言に関し、「世界の指導者に被爆の実情に触れてもらうことは極めて重要だ」と記者会見で述べた。オバマ大統領は広島を訪問されるのがよい、という意味だ。この発言に全面的に賛成する。

 オバマ大統領の広島訪問の可能性と意義について、本研究所のHP2013年8月16日に「オバマ大統領は被爆地を訪問するか」を掲載した。詳しくはそちらを見ていただきたいが、要点は次の通りであった。
○米国大統領の被爆地訪問が実現すれば画期的な出来事となる。
○日本も米国もいまだに「戦後」から完全には脱却できないでいる。
○米国の大統領として被爆地を訪れることは米国内で政治問題化する危険がある。被爆地で謝罪を強いられるのではないかという猜疑心もある。しかし、そのような心配は無用となるだろう。
○米国の大統領が諸々の困難を克服して広島、長崎を訪問し、原爆死没者の霊を慰め、世界の恒久平和を祈念することにははかりしれない意義がある。「原爆の投下国としての米国とその被害を受けた国としての日本(ルース前米国大使の言葉)」という両国間の距離を縮めることにも、また、米国が「戦後」から脱却することにも資するであろうが、もっとも重要なことは、米国の大統領として、核兵器の抑止力としての意味は認めつつも、核兵器が人類に何をもたらし、どのような意味を持っているのかを、原爆がさく裂した地に立って考えてもらうことである。それは核の廃絶や拡散防止を議論する国際会議に出席するより何倍もの効果があるだろう。
2016.03.24

核セキュリティに関する国際的取り組みを継続すべきである

核セキュリティ・サミットが3月31日~4月1日、ワシントンで開催される。これに関連して、昨23日、外務省の相川軍縮不拡散・科学部長に環境安全学研究所の氏田代表と平和外交研究所の美根代表の連名で提言を提出した。

核セキュリティに関する国際的取り組みを継続すべきである(提言)
2016年3月23日
平和外交研究所代表 美根慶樹
環境安全学研究所代表 氏田博士

 核セキュリティ・サミット(NSS)は、オバマ大統領が2009年、プラハ(チェコ)において,核テロが地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威との認識のもとに提唱したものであり、その目的は、テロリストによる核物質や核の利用施設への脅威をいかに防ぐかについてトップレベルで議論し、国内的・国際的な対策を強化していくことにある。
 今回のサミットは第4回で、最後の会合と言われている。
 
 テロの脅威は各国においても、また国際的にも対策の強化が図られており、これまで国内の法制、国際条約、取り締まりの強化のための訓練、教育、情報交換、危険な状況の識別(原発、核物質の運送、国境など)、国際原子力機関や各国の関係機関の役割(保障措置や計量管理)、財政的・人的貢献などが講じられ、あるいは強化されており、総じて、テロ対策はかなり前進していると言える。
 NSSは、これら技術的な性格が強いテロ対策の強化について各国の首脳が自ら関心を持って関わるのを可能にしてきた。第3回のハーグ会合では、首脳自らがシミュレーションに参加した。

 しかし、核の安全対策はまだ十分でない。とくにテロ以外の原因で起こる核の事故とそれへの対処についても、福島第一原発事故以来さらに認識が高まってきているように、国際的に検討を進め取り組みを強化することが必要である。
 これまでにさまざまな事故、あるいは事故につながる問題が起こっている。順不同だが、少なからぬ原発が活断層の上に建設されている。事故処理に携わる職員が放射線量を測定する計器を携行しない。核物質の取り扱いを定めたマニュアルを無視して作業する。事故報告が隠蔽される。監督官庁や原発の安全性を検討する責任がある原子力安全委員会でさえも十分に機能していない恐れがある。
 中でも大きな問題は、放射性廃棄物の処理場がないこと、将来にわたっても見つけられる見通しが立たないことだ。
 福島原発の事故処理においてもさまざまな問題が発生している。汚染水の海中への漏えいは何とか食い止められると言われているが、はたしてそうか。
 
 テロの脅威および事故で発生する脅威の双方を通じて問題となるのが人間の能力の限界である。テロはそこを狙って攻撃する。具体的には人間そして組織の脆弱性を利用して、ある行動へと誘導する心理学において「承諾誘導」呼ばれる手法なども含まれる。それには、「返報性」、「コミットメントと一貫性」、「社会的証明」、「好意」、「権威」、「希少性」の6 種類のテクニックがあると指摘されている。事故もまた、最近は組織事故と呼ばれるように、人と組織の問題が原因となって発生している。

 今回の核セキュリティ・サミットは最後だそうだが、核の安全に関する国際的な取り組みを継続・強化することは次の2つの理由から必要である。
 第1は、以上に述べてきた核の事故と人間の脆弱性について国際的な取り組みを強化する必要があるからだ。
 第2の理由は、核セキュリティの検討であれば、NPT(核兵器不拡散条約)に参加していない核保有国(インド、パキスタン、イスラエル)も参加可能になり、NPTの限界をカバーできるからである。
 
 核を人間が利用するようになって以来、各国が重視したことは核軍備競争から、平和利用、核不拡散、核の抑止力と変化・拡大してきた。今後はこれらに加えて核の安全が国際社会の目指すべきこととなるのではないか。
2016.03.22

ドローンの規制に関する法律はできたが

 首相官邸など重要施設を無人飛行機(ドローン)による攻撃から守るための規正法は3月17日、ようやく成立した。「ようやく」というのは、この法律案が衆議院で承認され参議院に送られた後、8カ月余り結論が出なかったからだ(継続審議になっていた)。参議院で修正・承認されたのが今年の3月16日、翌日に衆議院で可決され成立した。
 この法律案は、2015年6月12日、古屋圭司議員らにより衆議院に提出され、さらに原発や防衛省なども防護の対象とする修正案が泉健太議員らによって提出された。最初の提案も修正提案も重要なものだ。

 法律の正式名称は「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」である。
 防護の対象は、国会、首相官邸、外国の大使館、それに原発など「原子力事業所」とその周囲おおむね300メートルの地域である。
 これら地域は厳しい監視の下に置かれ、例えばその上空ではドローンを飛ばすことはできなくなった。
 危険なドローンが防護施設内に侵入してきた場合、どうしても必要であればそのドローンを破壊することも可能になっている。同法第8条2項の「対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、同項の小型無人機の飛行の妨害又は破損その他の必要な措置をとることができる。」という規定であり、テロ攻撃の場合は、瞬時に判断し危険を防がなければならないので重要な規定だ。
 共産党と社民党はこの法案に反対した。委員会での質問で塩川鉄也議員は、「飛行による危険や被害の内容を問わず、規制対象が不明瞭な「小型無人機」を飛ばしただけで直ちに懲役刑をふくむ刑罰を科すことは「刑罰法規としての合理性を欠く」と述べている。
 ドローン規制は過剰にならないようにしなければならないのは当然だ。理想論を言えば、さらに議論が深められ、全党一致で承認されればよかったとも思われるが、主要国サミットが間近になっているのでそうも言っておれなかったのかもしれない。しかし、それならなぜ参議院で長い間継続審議となったのかという疑問もわいてくる。

 ともかくドローンの規制法が成立したのは一歩前進だ。しかし、このような規制でテロ攻撃を防げるか、疑問が残る。この法律は、たいして早くない速度のドローンを警察官が発見するとそれを操縦している者に対して規制対象から離れるよう指示することなどを定めている。そのように丁寧に対応することは必要だろうが、仮定の話として高速のドローンにより爆発物が運ばれたら、とてもそのようなことをする時間的余裕はない。必要なら破壊できるといっても、その判断は瞬時に行う必要がある。
 
 かつて、都内の某所から発射されたロケット弾が東宮御所近くに落下したことがあった。これは30年も前のことである。操縦可能なドローンの危険性はその比でない。
 一方、規制を強くすると国民生活への影響が大きくなるのは問題だが、規制法ができたからと言って安心するのは早すぎる。

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