平和外交研究所

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朝鮮半島

2017.11.06

朝鮮通信使の「世界の記憶」登録

 10月30日、ユネスコで「朝鮮通信使」に関する記録と「上野三碑」が「世界の記憶(以前は「世界記憶遺産」と呼ばれていた)」に選ばれた。
 「朝鮮通信使」とは江戸時代、前後12回にわたって朝鮮朝廷から徳川幕府に派遣された使節のことである。日本と李氏朝鮮との交流は室町時代から行われていたが、戦国時代に途絶えてしまった。そして、秀吉の朝鮮出兵により両国間の関係は極度に悪化した。
 江戸時代になって徳川幕府は朝鮮からの使節派遣を求め、1607年、秀忠将軍の時に第1回目の「朝鮮通信使」が実現した。それから1811年の第12回まで継続された。

 「朝鮮通信使」という名称だが、外交使節にほかならず、朝鮮朝廷は大規模な使節団を派遣した。多い時には約500人にも上った。
 随員の中には文化水準が非常に高い人が含まれていた。当時の日本人は通信使一行との交流に熱心であり、宿泊先に駆けつけ、自作の詩を朝鮮側の随員に見せたり、詩や文章を書いてもらったりしていた。現在、関連資料は日韓両国にまたがる40カ所に残されている。

 「朝鮮通信使」は我々の想像力をかきたててくれる。いくつか挙げてみると、

〇日本は江戸時代、原則鎖国であり、オランダと中国(明と清)にだけは例外的に門戸を開いていたと説明されることが多いが、朝鮮との交流は、政府間の交流の意味でも、また、貿易の点でもこれら両国に引けを取らないものであった。しかし、我が国ではそのような位置づけは与えられていない。「朝鮮通信使」のことは最近ようやく話題になることが漸増してきたが、オランダや中国とはまだまだ比較にならない扱いである。「朝鮮通信使」は日本史の中で正しく位置付けられるべきであり、また、日本の外交史としても語られるべきではないか。

〇使節は朝鮮からだけ派遣され、日本からは送られなかった。日本側で朝鮮との交流の窓口になっていた対馬藩からは使者が朝鮮に派遣され、将軍からの書簡(「国書」と呼んでいた)を持参したこともあったが、幕府の使節とはみなされていなかった。かりに、幕府の使節だとしてもその規模は朝鮮からの使節とは比較にならない小規模であったし、朝鮮朝廷としても幕府の使節とみなしていなかったのではないか。

〇幕府は自ら使節を派遣せず、平たく言えば、朝鮮側を呼びつけた格好になった。
朝鮮側としては、日本の状況を知りたく、また、日本に連れ去られていた朝鮮人を連れ帰りたかったが、幕府に呼びつけられた形で訪日することについては抵抗があり、できるだけ平等の形にしたかった。そのためであろう、朝鮮朝廷は、日本側に正式の要請状を提出するよう求めた。「国書」と呼ばれていたものである。「国書」問題は対馬藩の努力により、何とか解決したが、その間に、幕府も朝鮮朝廷もたがいにメンツにこだわり、両方から圧力を受けた対馬藩は対応に苦慮した。同藩では「国書」の偽造まで行った。
 朝鮮側は第3回目まで「朝鮮通信使」でなく、「回答兼刷還使」と呼称していた。「回答」は、日本側からの要望に応えて使節を派遣するのだということ、「刷還使」は朝鮮人を連れ帰ることが目的だと言っているのである。
 朝鮮側にはそのような抵抗はあったが、結局は幕府の要望に応じた。両国間の力関係は対等でなく、特に武力面では日本側が優位にあったからだと思われるが、はたしてそのような理解でよいか。

〇幕府は、朝鮮からの使節を大名の参勤交代のように見ていたわけではなく、一国の正式の使節にふさわしい接遇をしなければならないと考え、関係する拡販に丁重に接待するよう命じていた。各藩にとってそのための負担は非常に重かったそうだ。
 また、幕府が第1回通信使で約1300人の朝鮮人の帰国を認めたのは、一定程度朝鮮側を尊重する気持ちがあったからではないか。

〇朝鮮出兵の際、日本側が連れてきた朝鮮人は数千名から一万名を超える数であったらしい。そのうち、第3回の通信使(1624年)までに帰国できたのは6000~7500人に上ったと言われている。南蛮などに奴隷として売られた者、滞在の長期化で日本に家族ができた者もあったというが、実情はどうだったのか。さらなる調査研究が必要ではないか。

 「朝鮮通信使」に関する資料が「世界の記憶」に登録されたことはよろこばしい。これを機会に、日朝交流史と日本外交史の研究がさらに進むことが期待される。
2017.10.17

米国が北朝鮮・中国とディールする?

 最近、北朝鮮をめぐって二つの噂が流れている。一つは、米国が北朝鮮の核保有を認めるというものであり、他の一つは、米国が中国と共同で北朝鮮の核を強制的に管理下に置くというものである。この二つのうわさは一方は北朝鮮の核保有を認め、他方は認めないので正反対であるが、両方とも荒唐無稽な話である。

 前者の、米国が北朝鮮の核保有を認めるメリットは何か。まずこれが明確でない。噂では、米国はその代わりに北朝鮮からICBMの開発をしないとの約束を取り付けるとも言われている。メリットらしきものはこれだけであるが、これも少し冷静に考えれば怪しいものだ。ICBMの開発をしないことをどのように確保できるか。米国は北朝鮮の姿勢を強く批判しており、信頼を置いていない。そのような状況下で、北朝鮮のICBMを開発しないという約束だけは信用してよいというのだろうか。米国と北朝鮮の間に信頼関係がなくてもよいというのではないが、信頼関係は単一の政策で実現できない。お互いに確かめ合いながら進んで行って初めて信頼関係が築かれるのであり、時間もかかる。つまり、(闇)取引は1回できても信頼関係は簡単にできないということだ。

 デメリットはメリットのおそらく何十倍にもなるだろう。

 第1は、米国が戦後外交の重要な柱としてきた核不拡散について、北朝鮮を例外として認めることになる。そういうと、印度とパキスタンではすでに核開発が行われている(1998年に核実験)という意見が出てくるかもしれないが、これら両国はそもそもNPTに参加しておらず、核不拡散違反の問題は生じない。北朝鮮はNPTに参加していたし、1992年に韓国と共同で朝鮮半島の非核化を宣言していた。

 第2に、日本の米国に対する信頼を失い、日本を核武装化に追いやることになりうる。北朝鮮とは友好関係を築けるかもしれないが、日本との関係で被るダメージは計り知れない。
日本と米国の安保条約は戦後の国際政治を安定させるのに大きな役割を担ってきたが、これが揺らぐと日本の安全保障政策はもちろん、東アジアの安全保障状況は根本的な見直しを迫られることになる。

 第3に、米国は中国からも信頼されなくなる。中国は北朝鮮を壊滅させることを望んでいないが、北朝鮮の核を積極的に認めているのではない。にもかかわらず、米国が北朝鮮の核を認めるとこれまで米国が中国に働きかけてきたこと、たとえば、北朝鮮に圧力を強化することなどを米国が自ら否定する、あるいは無効化することになる。

 一方、米国が中国と共同で北朝鮮の核を管理下に置くこともおなじくらい奇妙な考えである。

 第1に、物理的、技術的に可能か疑問である。北朝鮮は米国からの攻撃に備えており、地下に、しかも複数の場所に軍事施設を隠している。米中が合同で作戦すれば、そのうち半分くらいは、これは腰だめの数字に過ぎないが、破壊できても、半分は残る。

 第2に、中国は北朝鮮の隣国であり、北朝鮮が混乱に陥るとその影響は中国東北部に及ぶ。中国では、かりに核戦争が起こったら、中国東北部で甚大な損害が発生することを恐れている。
しかも、中国にとっては北朝鮮の核は脅威でない。前述したように、北朝鮮の核は嫌悪していても、怖いとは思っていない。

 第3に、韓国や日本にも影響が及び、甚大な損害が発生する。

 第4に、かりに米中がそのようなことを始めれば、国際社会から非難されるのは避けがたい。

 以上、列挙したのは主要な問題点だけである。国家の命運にかかわるような問題をインテリジェンスや秘密工作で左右することはできない。秘密を保つことさえ困難だろう。

2017.10.06

北朝鮮政策に関する米政権内の不協和音

 北朝鮮に関する政策、とくに米国として北朝鮮との対話に臨むべきか否かに関して、トランプ大統領とティラーソン国務長官の発言が食い違ってきている。とくに目立ってきたのはティラーソン長官が中国訪問中の9月30日、「北朝鮮との対話ルートがある」、「状況は真っ暗と言うわけではない」、「北朝鮮との対話の可能性を模索している」などと発言してからであった。対話ルートの存在は、国務省も「北朝鮮当局者は非核化について交渉に興味がある、もしくは用意があるという様子を、まったく示していない」と慎重な姿勢を示しつつであったが、確認はしたという。
 米国が北朝鮮と対話のルートを維持していることはかねてから知られていたが、さらに、10月19-21日にモスクワで開催される核不拡散をテーマにした国際会議において、北朝鮮外務省の崔善姫米州局長が米国のシャーマン元国務次官ら会談する可能性があるとも言われている。

 ところが、トランプ大統領は1日、「素晴らしい国務長官のレックス・ティラーソンに、リトル・ロケットマンと交渉しようとしているのは時間の無駄だと伝えた」「レックス、労力を無駄にしないで。やらなくてはならないことをやるから!」などとツイートした。リトル・ロケットマンとはトランプ大統領が先に国連総会で行った演説で用いた言葉であり、金正恩委員長のことである。
 国務長官による北朝鮮との対話を模索する努力を「時間の無駄」と切り捨てたのは、トランプ政権でなければ起こりえない醜態である。日本で同じことが起こったならば、閣内不一致として大騒ぎになったであろう。
 
 トランプ大統領が北朝鮮との対話を「時間の無駄」と言い始めたのは、安倍首相の影響があったからではないかと思われる。安倍首相は9月17日付『ニューヨーク・タイムズ』紙に北朝鮮との対話は時間の無駄だという趣旨の投稿を行い、また、20日には国連総会で同様の趣旨の演説を行った。これだけでも異例であるが、さらに安倍首相は、電話でトランプ大統領に対し、「時間の無駄」だと強調したのではないか。
 安倍首相は9月3日、記者会見で、「北朝鮮情勢を受けて、この1週間でトランプ大統領と3度、電話首脳会談を行いました。今日の電話首脳会談においては、最新の情勢の分析、そして、それへの対応について改めて協議を行いました。
 北朝鮮が挑発行動を一方的にエスカレートさせている中において、韓国を含めた日米韓の緊密な連携が求められています。今後、日米韓、しっかりと連携しながら、さらには国際社会とともに、緊密に協力して北朝鮮に対する圧力を高め、北朝鮮の政策を変えさせていかなければならない、その点で完全に一致したところであります。
 様々な情報に接しているわけでありますが、我々は冷静にしっかりと分析をしながら、対応策を各国と連携して協議し、そして、国民の命、財産を守るために万全を期していきたいと思います。」と述べていた。
 これが公表されているすべてであり、これだけでは安倍首相がトランプ大統領に「時間の無駄」を説得したか明確でないが、1週間に3回の米国大統領との電話会談は異様である。

 一方、マティス長官は10月3日、上院軍事委員会での公聴会に出席し、「国防総省はティラーソン氏の外交解決策を引き出す努力を完全に支持するが、米国と同盟国の防衛を今後も重視する」と発言した。トランプ大統領のツイッターとは正反対の態度を示したのであり、トランプ大統領が主要閣僚から信頼されていないことが浮き彫りになった。
 
 ティラーソン長官はかねてから辞任のうわさがあり、今回の大統領との発言の食い違いをきっかけに4日、記者からあらためて辞任の可能性について問われ、「辞任を検討したことはない。トランプ大統領が掲げる議題(agendaであり、意味としては「問題」により近い)に現在も就任時と同様にコミットしている」と述べたと伝えられた。
 しかし、米国のメディアはティラーソン氏の辞任の可能性に強い関心を見せ、NBCニュースは、「ペンス副大統領を含む政権高官が7月、ティラーソン氏に辞任しないよう説得していた。国防総省で開かれた安全保障チームと閣僚らとの会合でティラーソン氏はトランプ氏を「能なし(moron)」と呼んで批判した」などと報じた。
 この報道に関し、ティラーソン氏は国務省で急遽記者会見し、「辞任を検討したことはない」とし、「トランプ大統領が自身の目標達成に向け役に立つと考える限り、国務長官のポストにとどまる」「トランプ氏は賢明な人物だ。彼は結果を出すことを要求する」などと述べた。また、トランプ氏を「能なし」と呼んだかについては、「そのような取るに足らない事項については語らない」とし、直接的な言及は避けた。
 ティラーソン氏を説得したと言われたペンス副大統領は、声明を発表し、「辞任を巡りティラーソン氏と話し合ったことは一度もない」と述べた。そしてトランプ大統領はツイッターでNBCに対し謝罪を要求した。これに対しNBC側は、「ティラーソン長官は報道内容の主要な点について直接否定していないため、NBCは謝罪しない」とツイートした。NBCの今回の報道には複数の記者が関わったそうだ。
 感想に過ぎないが、北朝鮮問題に関し、トランプ大統領は安倍首相の見解をほぼそのまま受け入れる一方、国務長官や国防長官からはまったく違った見解が示される形になっている。このような状況ははたして今後も続くのか。危惧を覚えてならない。

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