平和外交研究所

中国

2013.10.07

倪玉蘭弁護士の釈放

中国の人権活動家、倪玉蘭弁護士が2年半の拘禁から釈放された。同氏は強制収用などから住民を守る活動をしていたために当局に逮捕され、暴行を受けたために両足に障害が残り、現在も車いす生活である。同氏自身強制収用の被害者であり、釈放後も北京市公安局西城分局に対して財産の返還、賠償などを要求していくと外国の報道機関に語っている。
以上のことを海外の中国人新聞である多維新聞が報道している(10月6日)。
同氏の逮捕については米政府も懸念し、2011年2月、Gary Locke駐中国大使が、「米国は同氏とその夫の逮捕およびその健康状態、彼らの娘の法の手続きによらない(extrajudicial)軟禁を懸念しており、夫妻の釈放とその家族への制限を解くことを訴える(call on)」との声明を行なった経緯がある。
中国で拘束されている人権活動家や民主化運動家は他にも多数いるが、関心を持って見守っていきたい。

2013.10.02

習近平にとっての難問ー革命か経済成長か

キヤノングローバル戦略研究所のホームページに10月1日掲載されたコラム

今年の11月に、第18期3中全会という中国共産党の重要会議が開催される。約1年前の第18回全国代表大会で習近平体制が成立してから第3回目の中央委員会全体会議という意味である。3中全会というのは歴史上何回もあったが、重要な会議になることが多く、なかでも1978年12月に、鄧小平の指導下で改革開放政策を決定した第11期3中全会は有名である。
現在、第18期3中全会に向けて準備が進められているが、習近平主席は経済成長路線(厳密には政治体制改革と区別されるが、本稿では両方を含めて「経済成長」)をいっそう強化するか、それとも革命を重視するかの間で非常に困難なかじ取りを強いられている。改革開放を大胆に進め、驚異の経済成長を実現し、世界が注目する大国となった中国としてさらに富国強兵策を推し進めそうにも思われるが、ことは簡単でないらしい。深刻な格差、腐敗、社会不安などを問題視し、それへの対策を訴える強力な革命路線重視勢力が存在することは薄熙来の逮捕・裁判の背景にはっきりと見て取れた。
革命か、経済成長かという問題は、中華人民共和国の建国以来、時々の状況に応じて多少の違いはあるが、何回も繰り返されてきた問いであり、「左か右か」、「紅か専か」「放か収か」などと表現されたこともあった。
習近平は就任以来経済面での一層の改革に熱意を示す反面、革命路線も重視してきた。その一つは反腐敗闘争であり、それを担当する規律検査委員会に対し、「ハエだけでなく虎もたたけ」と督励した。最近、国有資産監督管理委員会主任(大臣クラス)の蒋潔敏および中国の誇る世界的巨大企業、中国石油天然ガス集団公司(CNPC)の幹部4名(蒋潔敏はCNPCの前会長であった)や人民検察院検察長の曹建明など大物に対して汚職調査を開始したことは、まさに虎への攻撃であり、習近平の実績としてカウントされるであろう。
もう一つは、特権を持たない大衆への配慮を重視し、役人風を吹かせたり、地方に接待を強要したりしてはならないなど従来の悪習を改善することを求める八項目の注意規定を定めたことである。これは中国で「整風」と呼ばれている。これまた歴史的に何回も行なわれてきたことであり、現在、「医療から教育まで、国有企業から中央政府まで、官から民まで」中国社会のいたるところで「整風」が展開されているという報道もあるが、どこまで実行されているかが問題であり、行政の現場で抵抗があるのはもちろん、学者にも批判的な者がいるそうである。政権成立から半年後のさる6月に政治局の特別会議を開いたのも、このような努力が順調に進んでおらず、関係各部門に発破をかけようとしたからであると見られている。
反腐敗運動にしても、「整風」にしても程度問題であるが、もっと厳しい路線対立が習近平を悩ましている。今年の4月、党中央は「9号文件」なるものを発出していた。これは公表されていないが、後に一部の学者がニューヨーク・タイムズ紙にリークしたそうである。同文件は、「普遍的価値」「新聞の自由」「公民社会」「公民の権利」「中国共産党の過ち」「権貴資産階級(権力と富を持つ特権階級のこと)」および「司法の独立」を話題にすること禁止した。これらを少しまとめて普通の日本語で表現すると、一つは「民主化要求は許さない」であり、これは昔からの問題で、一党独裁である限りそういうことであるのは驚くに値しないが、もう一つの「毛沢東の過ちも、特権階級のことも論じてはならない」ということであれば政治を語るのはほぼ不可能になる。あまりに厳しい締め付けなので、「七不講」という綽名が付けられている。
8月19日、中国は「全国宣傳思想工作会議」を開催した。この会議では、とくにインターネットがやり玉に挙げられ、かなり激しい議論になったらしい。この会議に関連して、北京日報は、「西側の反中国勢力はインターネットを利用して「中国の打倒」を図っている。我々がこの戦場においてそのような試みを制止し、打ち勝てるか、思想工作と政権の安全に関わっている。この陣地を我々が占領しなければ、彼らに取られてしまう」「思想工作は、硝煙が見えなくても、死活にかかわる点では同じことであり、戦って初めて生存を確保することができる」などといった評論を掲載している。誇大表現が好まれる国であることは斟酌しなければならないが、他の国には理解不可能な、政権の維持についての懸念さえにじみ出ている。
ごく最近、中国政府はインターネットで民主化を訴える人物を相次いで逮捕しているが、このような路線闘争と危機意識がその背景となっていると見るべきであろう。また、日本に派遣していた中国人(複数)を拘留しているのも、政府から見て彼らが期待にこたえていないということもさることながら、そのような思想工作面での締め付けと関係があると思われる。国内が緊張すると、その波及は直接関係していないことにまで及ぶのは過去に何回もあったことである。
このように、革命路線を重視する勢力は強くなっている状況のなかで、習近平主席のかじ取りは政権発足当時よりはるかに困難になっている。第9号文件を習近平が許可したのは明らかであるが、そのなかで示された厳しい締め付けはすべて習近平の本心なのだろうか。習近平は、「毛沢東思想を無視すれば天下大乱に陥る」などと述べて革命重視に同調しているが、「毛沢東思想の30年と鄧小平理論の30年を統合しなければならない」とも述べている。この場合の「毛沢東思想の30年」とは革命路線であり、「鄧小平の30年」とは経済成長重視であり、どちらも重要だと言っている。
人民日報などは、「幹部は旗幟を鮮明にすべきである」とさかんに呼びかけている。間接的ではあるが、習近平主席に対してもっと明確な態度を取るよう促していると解せないこともない。左とも右ともはっきりしないのは共産党の総書記としてよいことかもしれないが、状況はかなり微妙である。1980年代、鄧小平は大胆に改革開放せよと檄を飛ばしながら、民主化運動に対して流血の弾圧をも辞さなかった。現在はそのときと状況が違うが、革命か経済成長かという路線をめぐる争いがあることは変わらないようである。

2013.09.30

最近の路線闘争 2

約1週権前に路線闘争含みの論争をまとめたが、その続き。
○1950年代前半の高崗問題。親ソ派で、一時は中国東北地方を支配下に収めた。スターリンが死亡した後、毛沢東との対立が表面化し、独立王国を作ったと批判され、失脚した。最近の議論は高崗の名誉回復に関するものが多い。
○周永康(2012年秋まで政治局常務委員)に関する議論。追及の手が及んでいるとするものが多い。その子に対する調査が開始したとも報道された。石油閥であり、最近調査が開始された蒋潔敏国有資産監督管理委員会主任(大臣クラス)の先輩格。習近平の反腐敗闘争の目玉になる可能性がある。
○薄熙来関係。蒋潔敏は薄熙来を支援したそうだ。そのほか、薄熙来が重慶で活躍していた頃、前期の政治局常務委員6人が相前後して重慶を訪れ、薄熙来が唱えていた「革命を重視し、悪者をたたく(唱紅打黒)」ことに賛成したと司馬南(学者)が指摘した。このツィッター(微博)は、しかし、既に削除された。習近平も6人の一人であったことはよく知られている。
○毛沢東は教条主義を戒め、徹底した調査を呼びかけた、と毛の擁護と取れる論評もある。
○趙紫陽(天安門事件で学生に同情し過ぎて失脚した中共総書記)が、80年代の保守派(左派)の主要人物の鄧力群といかに対抗したかを論じるもの。これは、現在左派の影響力が強まっていることに対し、戦うことを呼びかけたものか。
○その他。わいろ送るにも、受け取るにも最近代理人を介して行なうようになっている。また、それには専門家・学者や退職した幹部が好まれるという(北京青年報 9月23日)。

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