平和外交研究所

中国

2013.11.01

「巡視組」の相次ぐ派遣

中国は最近「巡視組」を中央、地方の各機関に派遣している。指導者の不適切なふるまいに関する手紙、電報、訴えなどを受理し、とくに幹部の選抜・任用に関する訴えについて調査し、対応することが主要な任務である。三中全会を控えての事前準備を兼ねていると思われる。
中国は民衆の声を吸い上げ、その不満に対処するため、「信訪」(手紙による直訴)および「上訪」(上京しての直訴)の制度を設けているが、あまり機能していない。訴えようとする人が北京へ行っても、強制的に連れ戻されるなど、悪辣な役人はあの手この手で妨害しており、権力も金もない民衆は結局泣き寝入りさせられることが多いそうである。
一方、巡視組は中央から行政機関や地方政府へ派遣される。「上訪」などとは逆の方法で民衆の不満を和らげる制度である。2003年に創設され、中央規律検査委員会と中央組織部の監督下に置かれている。我が国の金融検査に類似していると言えば分りやすいかもしれない。しかし、いまだに腐敗の根は絶てないことを見れば、この制度もどのくらい効果的であるが疑問の余地はあるが、上海市長の陳良宇を摘発したのも巡視組だったそうである(中国の百科サイト「百度百科」)。
現在行われているのは巡視組派遣の第2陣であり、いくつかの組に分かれている。そのうちの1つは「中国三峡集団」(三峡ダム建設のため設立された公司)に派遣され、また、商務部にも新華社にもそれぞれ別の巡視組が派遣されている。
第2陣の巡視対象は、山西、吉林、安徽、湖南、広東、雲南の各省、新華社、国土資源部、商務部、三峡集団であり、第1陣とほぼ同数である。期間は2ヵ月。
百度百科は「2013年は密に派遣されている」と解説している。つまり、習近平政権はこれを多用しているのである。
第1陣の巡視組が派遣された貴州省では、省共産党委員会常務委員の廖少華が摘発された。その際調査にあたった巡視組組長は、まだ権力とカネを取引する指導者がいる、と語ったそうである。

2013.10.30

三中全会の開催日の決定

10月29日の中共中央政治局会議で、三中全会は11月9~12日に開催されることが決定された。
これに呼応するかのように、中央軍事委員会は、各部隊、各組織に「巡視隊」派遣を決定した。決定文を見ると、腐敗の摘発が主要な目的らしく、「ハエだけでなく虎も叩け」の標語も出てくる。
一方、最高人民法院も同日、数項目からなる「意見」を発表した。その要点は、次のようなものであり、相変わらず司法の根本にかかわる問題が存在していることがうかがわれる。
「意见」の要点(抜粋)
独立した審判の確保と「保護主義(かばいあいなどを指すのであろう)」を排すること。
違法な裁判の禁止。
裁判以前に家屋などを強制的に撤去することを禁止。
専門家による解決の確保(専門家でない者、すなわち裁判官でない者が問題を解決することを指しているのであろう)。

2013.10.29

天安門広場での車の炎上事故

昨日(28日)、北京の天安門広場で四輪駆動車が歩道に突っ込み、巻き添えになった者を含め5人が死亡した。乗っていた人が旗を振りながら暴走していたことが目撃されており、単なる事故ではなかったらしい。中国当局も事故でなくウイグル族により引き起こされた事件であったとの見方である。
中国各地で大小の事件が頻発しており、いわゆる「群体性事件」のように多数の人が参加するケースから個人の焼身自殺や爆破のような事件まで多種多様であるが、いずれも中央・地方の政府に対する抗議行動であることはほぼ間違いない。
天安門広場ではこれまで1989年の事件のように大規模なデモが起こっており、北京の当局は対応に慣れている。今回の事件も、現場での処理活動はもちろん、被疑者の身元や、「違法な容疑車両」を追っていることを手際よく発表している。
しかし、中国政府はどのような気持ちで見ているのだろうか。11月に開催される中共の三中全会ではいくつかの問題が取り上げられる、あるいは取り上げられるべきであると指摘されているが、そのなかで、個人や集団の抗議事件に直接かかわりうる問題としては、不動産の価格などに関係する「マクロコントロール」、工業用地の確保など土地問題、都市住民と差別されている農民の戸籍、村民を犠牲にする地方政府の歳入確保などの諸問題がある。つまり、三中全会での主要議題と目されていることの多くが抗議事件と関係があるのだ。
しかるに、今回の事件がウイグル族のような少数民族によって引き起こされたとなれば、民族問題が原因であるという印象が強くなり、その分だけ、中国で広く存在する内政問題であるという性格がかすんでくる。
中国政府がこのようなことを認識していたか否か、もとより知る由はないが、一般論としては、政府は、重要会議を控えて政治状況が不安定であるという印象を国民に与えないよう努めるであろうし、また、抗議する側としては、まさにそのために事件を起こしたのかもしれない。いたずらに想像を重ねることは控えなければならないが、中国の政治には日本などでは想像もできないような不安定性がある。

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