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朝鮮半島

2025.04.10

尹錫悦大統領罷免後の韓国 雑感

 2025年4月4日、憲法裁判所は裁判官全員一致の判断で尹錫悦大統領に罷免を宣告した。昨年12月に尹大統領が行った「非常戒厳」は違法、違憲であり、罷免の理由とされた。韓国の憲法は戦時やこれに準ずる国家非常事態においては非常戒厳を出せると定めている。尹氏は野党による相次ぐ弾劾訴追などで国政がマヒしたので非常戒厳は合法的な措置であったと主張したが、憲法裁判所は「政治的、制度的、司法的な手段を通じて解決しなければならない」とし、また尹大統領が戒厳令を発布するのに必要な閣議を経なかったことも違法だとした。

 尹氏は直ちに失職し、6月3日に次期大統領が選出されることになった。現職大統領の罷免は2017年の朴槿恵氏に続いて2人目である。

 尹氏は内乱を首謀した罪でも起訴されており、4月14日に初公判が予定されている。

 この一連の出来事に関し、韓国社会は分断しているとよく耳にする。韓国では非常戒厳令以降大統領の「罷免派」と「罷免反対派」の対立が激しくなり、大統領を支持するはずの与党「国民の力」のなかにも罷免派が多くなったという。

 分断は韓国社会に限ったことでない。西欧諸国も移民問題が原因で国内の分断が激しくなっている。米国でも先般の大統領選挙に際して「分断」が深刻だと叫ばれた。日本では現在「分断」はあまり問題にならないが、かつては保守と革新の分断が深刻な問題であった。

 与党と野党の分断は、民主主義の政治思想とその実践をめぐっても表れている。尹氏は大統領に就任以来民主(自由を含む)が重要であることを繰り返し述べてきた。そして与党側は、野党のあまりにも激しい行動により行政府がまひし、国政運営がままならない状況に立ち至った、野党は予算を政争の手段として利用したなどと主張した。

 一方、野党側は尹氏の「独善的」な政治手法を批判し、尹氏は韓国の民主主義を傷つけた、市民から政治の自由や報道の自由を奪おうとしたなどと批判し、国民の多数はこのような野党の声に賛同した。しかし、韓国の野党が民主的かと言えば、同調するには躊躇を覚える。

 今回の弾劾をめぐって大統領を拘束するのにいとも簡単に国家機関が動き出したこと、またそのような動きを多数の国民が支持したことは衝撃的であった。かりに大統領に非があったとしても一国のリーダーであり、それなりに敬意を払われるべきであろう。

 韓国では1980年代末のいわゆる民主化以降、金泳三、金大中、廬武鉉、李明博、朴槿恵、文在寅、尹錫悦が大統領に就任した。個人的には有能な人物であるが、家族などを含めるとほとんどすべての人が追及され、訴追された。一人や二人ならば例外とみなすこともできようが、ほとんどすべての大統領となるとそうはいかない。

 韓国民の行動が激しいことも目に付く。国会では2019年4月、選挙法改正や高位公職者の不正を捜査する機関の設置に関する法案が原因で与野党が激しくぶつかり合い、乱闘が起きたこともあった。怒声が飛び、つかみ合うなどしたため「動物国会」の再現だと揶揄されたこともあった。

 李在明氏は23年8月福島第1原発の処理水の海洋放出に抗議してハンガーストライキを始めた。もっともこれには国民は積極的に支持しなかったので、国民の方が冷静であったとも考えられるが、李在明氏はその後も野党の指導者として活動しているので、全くの徒労でなかったのかもしれない。

 韓国は民主国家の制度を備えているが、全体的に違和感を覚えることが少なくない。政治が不安定なのかなとも思う。尹大統領は国際法を重視し、日本など近隣諸国との関係を大切にしてきただけに罷免は残念であった。

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