平和外交研究所

4月, 2019 - 平和外交研究所 - Page 3

2019.04.13

北朝鮮の非核化に関する文在寅大統領の役割-トランプ大統領との会談

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月11日、トランプ米大統領とホワイトハウスで会談した。今回の訪米の最大目的は、北朝鮮の非核化についてトランプ大統領と協議し、韓国としての役割をあらためて確認する、あるいは固めることであっただろう。メディアにおいてもそのような見方が一般的であった。文大統領は米朝の「橋渡し」を試みたとも評された。

 しかし、この目的は達成されなかった。去る2月末のハノイにおける米朝首脳会談は物別れに終わり、北朝鮮は非核化を実行するか、赤に近い黄色信号が点いたなかで文大統領は善意の第三者的役割を果たそうとしたのだが、結局それはできなかった。文大統領はトランプ大統領の固い態度。つまり、「包括的非核化」があくまで必要であり「段階的前進」は問題であることをあらためて印象付けられる結果に終わったのであろう。

 文大統領が第三者的役割を果たすうえで最大の問題は、トランプ大統領に対して金委員長の主張を容れるよう説得するか、逆に、金委員長に対してトランプ大統領の主張を受け入れるよう説得するかであり、これまではトランプ大統領に説得を試みてきた。

 しかし、米国の立場は大きく異なっている。そもそも核問題については韓国に役割はないと米国はみなしている。もちろん実際の会談では外交儀礼を完全に無視するわけにいかないので間接的な表明になるだろうが、米国の立場は明らかである。韓国が米国にとって有益なことをするのであれば歓迎するだろうが、そうでない限り、余計なことはしないでほしい、という姿勢である。

 それでも金正恩委員長が昨年の新年の辞で、平昌オリンピックへの参加を表明して以来、韓国として金委員長のメッセージを米国に伝えるなど一定の範囲内で役に立ってきたが、シンガポールでの初の米朝首脳会談以降は米朝間で直接折衝することになり、韓国が第三者的役割を果たす余地はほとんどなくなった。

 客観状況が変化しただけではない。韓国は米国に対して米国が評価しないことをしてきたのではないか。具体的には「段階的措置」、「体制保証」、「戦争終結宣言」、それに「制裁の緩和」など北朝鮮の米国に対する要求を韓国は支持してきた。支持したというより、むしろ積極的に勧めたのではなかったか。

 これらのうち、「体制保証」と「戦争終結宣言」はもはや話題にも上らなくなっている。残る「段階的措置」と「制裁の緩和」について、文大統領は米国を説得するか、それとも北朝鮮を説得するか選択しなければならないのであり、今回のトランプ大統領との会談結果を見ると、文大統領は今後も金委員長の主張を受け入れるようトランプ大統領に説得を試みる考えのようである。

 一方、金正恩委員長は文在寅大統領の仲介努力を有効と見ているか、疑わしい。シンガポール会談までは頼りにしてきたが、今やトランプ大統領は文大統領の説得を受け入れないことがはっきりしてきた。その分だけ金委員長は文大統領に頼らなくなっていているのではないか。金委員長が、すでに約束しているソウル訪問をなかなか実行しようとしないのもそのためではないか。

 文大統領があいかわらず金委員長の代弁をしているのは残念なことである。文大統領は、韓国国会でも北朝鮮寄りの姿勢を厳しく批判されているという。

 文大統領として今後必要なことは、基本的にはトランプ大統領の立場から金委員長を説得することであろう。
 トランプ大統領は「包括的非核化」を目指すとしているが、条件次第では例外的に部分的措置を受け入れることがありうる。カギとなるのは米国世論を代表する議会であり、また、核問題の研究者であろう。具体的には、寧辺の濃縮施設の廃棄というような個別の問題でなく、あくまで包括的な非核化計画を前提とする「段階的措置」でなければならないだろう。たとえば、北朝鮮が保有する核をすべて米側に示しつつ、その廃棄は「段階的」に進めることが考えられる。

2019.04.12

北朝鮮の重要会議と人事一新

 さる2月末、米朝第2回首脳会談が物別れに終わったことを受け、北朝鮮では党と国家の重要会議が開かれ、また、金正恩委員長以下の指導体制が一新された。

 まず、朝鮮労働党の中央委員会政治局拡大会議が9日、次いで中央委員会総会が翌日開催された。

 金委員長は政治局拡大会議では「党および国家的に早急に解決し、対策を立てなければならない問題」についての分析を示したと北朝鮮メディアが報道した。その内容を知りたいところだが、公表されていない。

 中央委員会総会では、米朝首脳会談について説明し、そのうえで、「制裁で我々を屈服させられると誤解している敵対勢力に深刻な打撃を与えるべきだ」と述べた。
この発言は、非核化の達成まで制裁を緩和しようとしない米国に対抗する姿勢を示したものだと受け止められた。金委員長が米国に対抗する姿勢を変えていないことは注目されたが、米国との関係、とくにトランプ大統領に対する認識は変えていないと見られる。核とミサイルの実験中止以前であれば、米国に反発するときは軍事的に挑発的な姿勢を示すことが多かったが、今回はそのような挑発的言及はなかったからである。

 金委員長が党と国家の最重要会議を開催して米朝首脳会談を総括したのは、トランプ大統領との会談に臨む方針を変更するためでなく、維持することが目的であり、そのことについてあらためて党と国家の意思を固めておこうとしたものと推測される。逆に、対米交渉方針を変更しなければならないと認識しているのであれば、党と国家の最重要会議を大々的に開催することなどしないだろう。

 金委員長が維持しようとしている対米交渉方針の要点は次のとおりだと思われる。ただし、今後検証が必要である。

〇核とミサイルの実験停止は維持しつつ。経済発展を重点的に進める。

〇完全な非核化の目標は変えないが、現状では段階的に非核化を進める。北朝鮮の安全保障のためにはそれ以上はできない。

〇北朝鮮側での段階的非核化の実施に応じて米側に制裁の緩和を求める。

〇米国はあくまで制裁を緩和しない可能性があるが、北朝鮮国民には忍耐を求める。

 党中央委員会総会の翌日(11日)に開催された北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)では金正恩委員長を支える指導体制が一新された。その中では次の人事が注目された。

 崔竜海(チェ・リョンヘ)党副委員長が高齢の金永南(キム・ヨンナム)の後任として最高会議常任委員長に選出された。崔竜海は金正恩委員長によって登用された人物で、イエスマンである。

 核問題交渉役のトップで、第2回米朝首脳会談にも同行した金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長の地位は不変である。

 李容浩(リ・ヨンホ)外相と崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が国務委員に選ばれた。
 李外相はハノイの首脳会談後異例の記者会見を行い、北朝鮮の非核化方針を説明した人物である。
 崔外務次官は金委員長の下で目覚ましく昇進を続けてきた。北朝鮮の高官として異例の率直な発言をすることがあり、今後も段階的非核化方針を対外的に発信するものとみられる。

 おりしも、トランプ米大統領は11日、ホワイトハウスで行われた韓国の文在寅大統領との会談冒頭で記者団に対し、金正恩委員長との3回目の首脳会談は「あり得る」と語った。トランプ氏は金委員長に対してハノイ会談後も好感を抱いている趣である。
2019.04.11

EU・中国首脳会議

 4月9日、ブラッセルでEU-中国首脳会議が開催され、EUからユンカー欧州委員会委員長およびトゥスク欧州理事会議長、中国から李克強首相等が出席し、会議後に共同声明が発表された。

 EU・中国首脳会議は毎年開催されているが、今年は、中国の進出により欧州が分断されつつあるとEU側が神経をとがらせる中で行われただけに注目されていた。

EUと中国との間のイシューは日本と中国との間でもほぼ同じであり、今次首脳会議の結果は日本にとっても参考となる。日中間では政治状況によって首脳会議が開かれたり、取り消されたりするが、EUは28カ国からなるので中国との関係はさほど変動しない。日本はEUを通じて中国に働きかけることが可能であり、したがって、日本とEUの定期首脳会議は日中関係の観点からも有益である。

 なお、EUは今回の首脳会議に臨むにあたって3月12日付で、今後の対中政策の基本となる”EU-China – A strategic outlook”という戦略文書を採択しており、EUとしてはこの文書に基づいて今次首脳会議を行った。
 以下は同日付のEURACTIVの報道である。

〇EU側は首脳会議前日になっても共同声明案に合意していなかった。ほとんどすべてのEU加盟国が反対しており、EUとしては共同声明が出せなく打ても仕方がないと考えていた。
しかし、中国側は共同声明の発出にこだわり、その日の夕刻に修正案を提示してきたのでようやく合意が成立した。

〇2大イシューの一つである、中国が外資企業に対し技術移転を義務付けていることについては、中国側をはじめてそのようなことがあることを公式に認めた。合意された文言は、「技術移転を強制してはならないことに合意した“both sides agree that there should not be forced transfer of technology”」であった。中国側は一定程度譲歩したが、EU側には、合意だけでは不十分であり、担保するメカニズムがないという者もいる。
〇もう一つの大問題である市場アクセスについては、「中国市場における障壁を除去するため、2020年の首脳会議までに、より透明性のあるプロセスにすべきである」とされた。

〇投資についても来年の首脳会議までに包括的な投資協定を締結することが合意された。この問題は長年議論されてきたことであり、中国は今回の首脳会議に臨むにあたって期限を設定することに難色を示していた。

〇補助金については、李克強首相は「競争的分野(補助金のない分野?)では公正な競争を支持する。また、補助金が問題になる分野では、レイオフ状態の労働者および農業を含め、EUとWTOの枠内で協力する」と述べた。最後に、「産業補助金(industrial subsidies)についてはWTOの改革に関するEU・中国作業部会での検討を踏まえ国際的なルールを強化するために議論を加速する」ことが合意された。
〇ルールに従った国際的システム(rules-based international system 南シナ海での国際法順守問題など)については、中国側とEU側の立場の乖離は完全には解消されなかったが、「国連を中心に、国際関係に関する国際法と基本的な規範を尊重する」ことで合意が成立した。
(注 前述の戦略文書(EU-China – A strategic outlook)では、
China’s maritime claims in the South China Sea and the refusal to accept the binding arbitration rulings issued under the United Nations Convention on the Law of the Sea affect the international legal order and make it harder to resolve tensions affecting sea.
と直接的に中国の国際法違反、国際仲裁判決の無視を批判していた。)

〇5G、Huawei問題を含むサイバー犯罪については、首脳会議に先立ってEU各国が懸念を表明していたが、実際にはあまり議論されなかったようだ。ユンカー委員長はこの問題について、「詳しい議論は行われなかった」とコメントした。李克強首相は、「推定無罪の原則が守られるべきである。5Gに関係している中国企業でスパイ行為を問われているところはない」と述べた。

〇人権擁護については、普遍的、不可分で、相互依存的であることが確認され、今後、2国間あるいは国連において議論を継続していくという一般的な合意に終わった。

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