2018 - 平和外交研究所 - Page 29
2018.03.02
文氏は、また、「不幸な歴史であればあるほど、その歴史を記憶し、その歴史から学ぶことだけが本当の解決だ」、「日本は人類普遍の良心で歴史の真実と正義に向き合うことができなければならない」、「本当の反省と和解の上で、共に未来へ進むことを願う」とも述べた。
これに対し、菅官房長官は「(文在寅大統領は)最終的かつ不可逆的な解決を確認したにもかかわらず言及した。内容は日韓合意に反するものであり、全く受け入れられず極めて遺憾」と反論・批判した。
文大統領の発言は、多くの日本人を「また日本批判か」とうんざりさせるものである。また、慰安婦問題について文氏はかねてから問題発言を繰り返していたので、菅官房長官の発言はもっともな面があるが、ほんとうは、「文大統領の発言は日韓合意に反する」とまで踏みこまず、ただ「日韓双方が合意に従い解決を図っていくことが肝要」とだけ発言するのがよかった。
文大統領は、日本側が言っていない「終わった」という言葉を選んで発言しており、韓国内向けであることは明らかだ。また、文氏は「私は日本に特別な扱いを求めない」と発言している。ようするにこの二つの発言で、韓国としては日韓合意を否定しないという意味を込めているのである。
文氏は歴代大統領として初めて、演説を日本統治時代に独立運動家らが捕らえられたソウルの西大門刑務所跡の歴史館で行った。いわゆるポピュリストである文氏は、この演出でさらに国内世論にアピールしようとしたのだろう。来る6月に予定されている選挙のこともあろう。
日本としては、このような文氏の演説にもちろん賛同できない。文氏の姿勢は日本にとって友好的でないが、それよりもっと注意すべきことがありそうだ。
文大統領は今回のオリンピックに際して南北融和を進めることができたと自信を深めている。とくに、米国との関係であるが、南北合同チームの結成など北朝鮮のオリンピック参加を受け入れることについて、当初、米国は韓国の行動を危険視し、米国の北朝鮮政策と齟齬をきたさないよう注文まで付けていたが、実際には、問題は生じなかったどころか、韓国の仲介でペンス副大統領が金与正氏との会談に応じるところまでこぎつけた。韓国が希望する南北関係の改善を米朝関係につなげていくことが実現しそうになったのである。この会談は最終段階でキャンセルされたが、この経緯を通じて、文大統領は北朝鮮の非核化問題で米国と足並みがそろっていることに自信をつけたと思われる。
そして文氏は、米国は安倍首相が言うような姿勢ではない、むしろ自分(文氏)との共通点が多いと思い始めたのではないか。
文氏は、3月1日、あらためてトランプ大統領に電話し、米国のオリンピックへの協力に感謝するとともに、近く、韓国から北朝鮮へ特使を派遣することを説明している。これに対し米側から特に否定的な反応は出ていない。
3・1記念と相前後してジュネーブの国連欧州本部でも動きがあった。人権理事会ハイレベル会合での堀井学外務大臣政務官による演説である。
そのなかで堀井政務官は慰安婦問題に言及し、次の諸点を述べた。
① 日韓合意は,国と国との約束であり、たとえ政権が代わったとしても責任をもって実施されなければならない。
② 国連の女子差別撤廃委員会で2月22日、韓国政府代表団の鄭鉉栢(チョンヒョンベク)・女性家族相が旧日本軍の慰安婦について「性奴隷」との表現を使ったことに関し、「性奴隷」という言葉は事実に反するので使用すべきではないというのが日本側の考えであり、この点は日韓合意の際に韓国側とも確認していた。
③ 日本の軍や官憲によるいわゆる「強制連行」を確認できるものはない。故吉田清治氏が、「日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした」という虚偽の事実を捏造して発表し、当時、日本の大手新聞社の一つにより、事実であるかのように大きく報道されたことにより、国際社会にも広く流布された。しかし、これは、後に、完全に想像の産物であったことが証明されている。この大手新聞社自身も、後に、事実関係の誤りを認め、正式にこの点につき読者に謝罪している。
この堀井政務官の演説は、①と②はともかく、③には問題がある。吉田氏の証言が誤りであり、新聞報道も誤報であったのは確認されているが、この誤報により「日本軍の関与について誤ったことが国際社会に広く流布された」というのは日本政府が現政権の下で言い始めた誤った主張である。今までこの点は何回も非公式に問題になったが、吉田証言は一つの材料に過ぎないこと、それ以上の意味はないことはすでに確認されている。吉田証言は国際的に大きな問題になっていないのだ。
国際社会が同情しているのは慰安婦が悲惨な境遇の下に置かれていたことであり、日本政府がそれに対しどう対処するかを各国は注目しているのである。にもかかわらず、「日本軍による強制はなかった」と国連などで主張すべきだというのは一部の研究家などのこだわりにすぎない。日本政府がこのようなこだわりを今後も続け、国際社会が問題にしていないことに焦点を当てて論じ続けると、問題の焦点をずらそうとしていると国際社会から非難を受けるおそれがある。
韓国政府は、日韓合意を軽視するという大きな過ちを犯している。そういう時だからこそ、日本政府には賢明にふるまってもらいたい。しかるに、日本政府が力説していることは、過ちではないが、国際的にはズレている。一刻も早く正しい道に戻ってもらいたい。
すくなくとも、堀井演説が国際的にどのように受け止められたか、日本政府は冷静にフォローし、今後の政策に反映すべきである。
文在寅大統領の3・1記念演説と堀井学政務官演説
韓国の文在寅大統領が3月1日、日本の植民地支配に抵抗して1919年に起きた「3・1独立運動」の記念式典で行った演説が注目された。とくに、慰安婦問題について、「加害者である日本政府が『終わった』と言ってはならない。戦争当時にあった反人道的な人権犯罪行為は『終わった』という言葉で隠すことはできない」と強調した点である。文氏は、また、「不幸な歴史であればあるほど、その歴史を記憶し、その歴史から学ぶことだけが本当の解決だ」、「日本は人類普遍の良心で歴史の真実と正義に向き合うことができなければならない」、「本当の反省と和解の上で、共に未来へ進むことを願う」とも述べた。
これに対し、菅官房長官は「(文在寅大統領は)最終的かつ不可逆的な解決を確認したにもかかわらず言及した。内容は日韓合意に反するものであり、全く受け入れられず極めて遺憾」と反論・批判した。
文大統領の発言は、多くの日本人を「また日本批判か」とうんざりさせるものである。また、慰安婦問題について文氏はかねてから問題発言を繰り返していたので、菅官房長官の発言はもっともな面があるが、ほんとうは、「文大統領の発言は日韓合意に反する」とまで踏みこまず、ただ「日韓双方が合意に従い解決を図っていくことが肝要」とだけ発言するのがよかった。
文大統領は、日本側が言っていない「終わった」という言葉を選んで発言しており、韓国内向けであることは明らかだ。また、文氏は「私は日本に特別な扱いを求めない」と発言している。ようするにこの二つの発言で、韓国としては日韓合意を否定しないという意味を込めているのである。
文氏は歴代大統領として初めて、演説を日本統治時代に独立運動家らが捕らえられたソウルの西大門刑務所跡の歴史館で行った。いわゆるポピュリストである文氏は、この演出でさらに国内世論にアピールしようとしたのだろう。来る6月に予定されている選挙のこともあろう。
日本としては、このような文氏の演説にもちろん賛同できない。文氏の姿勢は日本にとって友好的でないが、それよりもっと注意すべきことがありそうだ。
文大統領は今回のオリンピックに際して南北融和を進めることができたと自信を深めている。とくに、米国との関係であるが、南北合同チームの結成など北朝鮮のオリンピック参加を受け入れることについて、当初、米国は韓国の行動を危険視し、米国の北朝鮮政策と齟齬をきたさないよう注文まで付けていたが、実際には、問題は生じなかったどころか、韓国の仲介でペンス副大統領が金与正氏との会談に応じるところまでこぎつけた。韓国が希望する南北関係の改善を米朝関係につなげていくことが実現しそうになったのである。この会談は最終段階でキャンセルされたが、この経緯を通じて、文大統領は北朝鮮の非核化問題で米国と足並みがそろっていることに自信をつけたと思われる。
そして文氏は、米国は安倍首相が言うような姿勢ではない、むしろ自分(文氏)との共通点が多いと思い始めたのではないか。
文氏は、3月1日、あらためてトランプ大統領に電話し、米国のオリンピックへの協力に感謝するとともに、近く、韓国から北朝鮮へ特使を派遣することを説明している。これに対し米側から特に否定的な反応は出ていない。
3・1記念と相前後してジュネーブの国連欧州本部でも動きがあった。人権理事会ハイレベル会合での堀井学外務大臣政務官による演説である。
そのなかで堀井政務官は慰安婦問題に言及し、次の諸点を述べた。
① 日韓合意は,国と国との約束であり、たとえ政権が代わったとしても責任をもって実施されなければならない。
② 国連の女子差別撤廃委員会で2月22日、韓国政府代表団の鄭鉉栢(チョンヒョンベク)・女性家族相が旧日本軍の慰安婦について「性奴隷」との表現を使ったことに関し、「性奴隷」という言葉は事実に反するので使用すべきではないというのが日本側の考えであり、この点は日韓合意の際に韓国側とも確認していた。
③ 日本の軍や官憲によるいわゆる「強制連行」を確認できるものはない。故吉田清治氏が、「日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした」という虚偽の事実を捏造して発表し、当時、日本の大手新聞社の一つにより、事実であるかのように大きく報道されたことにより、国際社会にも広く流布された。しかし、これは、後に、完全に想像の産物であったことが証明されている。この大手新聞社自身も、後に、事実関係の誤りを認め、正式にこの点につき読者に謝罪している。
この堀井政務官の演説は、①と②はともかく、③には問題がある。吉田氏の証言が誤りであり、新聞報道も誤報であったのは確認されているが、この誤報により「日本軍の関与について誤ったことが国際社会に広く流布された」というのは日本政府が現政権の下で言い始めた誤った主張である。今までこの点は何回も非公式に問題になったが、吉田証言は一つの材料に過ぎないこと、それ以上の意味はないことはすでに確認されている。吉田証言は国際的に大きな問題になっていないのだ。
国際社会が同情しているのは慰安婦が悲惨な境遇の下に置かれていたことであり、日本政府がそれに対しどう対処するかを各国は注目しているのである。にもかかわらず、「日本軍による強制はなかった」と国連などで主張すべきだというのは一部の研究家などのこだわりにすぎない。日本政府がこのようなこだわりを今後も続け、国際社会が問題にしていないことに焦点を当てて論じ続けると、問題の焦点をずらそうとしていると国際社会から非難を受けるおそれがある。
韓国政府は、日韓合意を軽視するという大きな過ちを犯している。そういう時だからこそ、日本政府には賢明にふるまってもらいたい。しかるに、日本政府が力説していることは、過ちではないが、国際的にはズレている。一刻も早く正しい道に戻ってもらいたい。
すくなくとも、堀井演説が国際的にどのように受け止められたか、日本政府は冷静にフォローし、今後の政策に反映すべきである。
2018.02.26
厳密にいえば、現憲法で禁止されているのは連続の3選であり、ロシアのプーチン大統領のように、国家主席を2期務めた後、いったん他人に譲れば、その後、再び国家主席に選出されること、つまり3選は可能であったが、今般、「連続3選の禁止」も撤廃することとしたのである。これにより、習近平体主席としては、姑息な方法は使わずに、10年を超して、つまり第2期目以降も最高指導者であり続けることが可能となる。
経緯的には、昨年秋の第19回中国共産党大会で党の指導体制が決定された際、習近平主席の後継者を選ばなかったときから習近平体制の長期化の動きが始まっていたのだが、なぜ、このような改正をするのか。
中国は急速に発展しているが、一言でいえば、まだ「小康状態にある」というのが中国の基本認識であり、習近平総書記は、2020年に「小康社会の全面的実現」を掲げている。「小康状態」とはまだ先進国になりきっていない状態と考えてよい。
習近平主席が第1期目に直面した問題は内外ともにあまりにも多かった。習氏は従来の官僚主義的な党政の在り方に不満で、横断的に問題を扱う「小組」を多数作って強い権限を与え、また、言論統制と腐敗取り締まりの2本の鞭を駆使しながら、諸改革を進めてきた。この結果、国務院の地位は低下した。共産党も習氏から見れば官僚主義的であり、とくに中央宣伝部や地方の党委員会のあり方には強く不満であったようだ。
習近平政権は第1期目の5年間、改革の成果を上げた。失脚に追い込んだ「虎」、つまり、大物も少なくなかった。しかし、問題の根は深く、習近平主席のもとで権力をふるっていた、現職の房峰輝総参謀長や、言論取り締まりのかなめである「インターネット安全情報化小組」を牛耳り、「インターネットの皇帝」と呼ばれてきた魯煒宣伝部副部長も失脚した。
全体的に、中国の諸改革は今後も強力に進めていかなければならないという認識であろう。また、その背景には、鄧小平亡き後中国は発展したが、党と政の機構が官僚主義化したことへの批判があった。たとえば、かつては共産党幹部の養成機関であった共産主義青年団(共青団)に対して習氏は厳しく批判的であり、予算を削減している。また、習氏は、共青団出身であった胡錦濤前主席の統治に対しても批判的である。
このような状況において、習近平氏自身と支持者たちは、過去30年近い間に形成されてきた統治機構を改革するとともに、最高指導者の在り方にも手を加え、強い指導者である習氏を既定の10年より長く国家主席とするのがよいとの判断に立ち至ったものと思われる。
しかし、習近平氏は毛沢東や鄧小平のような特別の人物でない。経験も比較にならない。習氏が言えばだれもが賛成するわけではない。実際、3選禁止の撤廃には習近平体制の絶対化を許すとして批判的な意見もあったという。当然である。
習近平主席が3選可能になると、次のような問題が発生する危険がある。
第1に、毛沢東に対する批判であった「個人崇拝」に陥ることである。最近中国のテレビで、習氏を「人民の領袖(りょうしゅう)」と形容する論評が流れたという。毛沢東は「偉大な領袖」であり、習近平はそこまでいわれているのではないが、近づきつつあると見られているのだ。
第2に、習氏自身、口やかましく「法治」の重要性を説いてきたが、主席の3選を認めるために憲法改正をするのであれば、結局法の支配は軽視していることになる。中国では環境問題はじめ生活の全分野で多数の法律が作られており、日本などの企業でもそれを順守するのに苦労しているのは事実であれが、共産党が支配する中国では肝心のところでは「法治」はあり得ない。今回の憲法改正問題はそのような中国をあらためて象徴していると思われる。
大きく見れば、中国は今後もさらに強大な国家となるよう邁進していく。そのために、共産党独裁の甲冑に身を固めた官僚支配を継続する。民主化や言論の自由は引き続き厳しく規制する。そして腐敗にまみれた支配層の既得権益を召し上げ、その浄化を図る。全国を通じ、中央と地方の指導者の入れ替えを大胆に断行する。
これらの方策には、一定の長所もあるが、今後経済成長はスローダウンし、政治問題の隠れ蓑にはなりえない。中国は憲法改正の意図に反して、今後かえって不安定化するのではないか。
習近平中国主席の3選
中国は憲法を改正して国家主席の3選を可能にした。3月5日から始まる全国人民代表大会(全人代 日本の国会に近い)を準備している共産党の二中全会(第2回中央委員会全体会議)においてその趣旨の憲法改正案が承認された。厳密にいえば、現憲法で禁止されているのは連続の3選であり、ロシアのプーチン大統領のように、国家主席を2期務めた後、いったん他人に譲れば、その後、再び国家主席に選出されること、つまり3選は可能であったが、今般、「連続3選の禁止」も撤廃することとしたのである。これにより、習近平体主席としては、姑息な方法は使わずに、10年を超して、つまり第2期目以降も最高指導者であり続けることが可能となる。
経緯的には、昨年秋の第19回中国共産党大会で党の指導体制が決定された際、習近平主席の後継者を選ばなかったときから習近平体制の長期化の動きが始まっていたのだが、なぜ、このような改正をするのか。
中国は急速に発展しているが、一言でいえば、まだ「小康状態にある」というのが中国の基本認識であり、習近平総書記は、2020年に「小康社会の全面的実現」を掲げている。「小康状態」とはまだ先進国になりきっていない状態と考えてよい。
習近平主席が第1期目に直面した問題は内外ともにあまりにも多かった。習氏は従来の官僚主義的な党政の在り方に不満で、横断的に問題を扱う「小組」を多数作って強い権限を与え、また、言論統制と腐敗取り締まりの2本の鞭を駆使しながら、諸改革を進めてきた。この結果、国務院の地位は低下した。共産党も習氏から見れば官僚主義的であり、とくに中央宣伝部や地方の党委員会のあり方には強く不満であったようだ。
習近平政権は第1期目の5年間、改革の成果を上げた。失脚に追い込んだ「虎」、つまり、大物も少なくなかった。しかし、問題の根は深く、習近平主席のもとで権力をふるっていた、現職の房峰輝総参謀長や、言論取り締まりのかなめである「インターネット安全情報化小組」を牛耳り、「インターネットの皇帝」と呼ばれてきた魯煒宣伝部副部長も失脚した。
全体的に、中国の諸改革は今後も強力に進めていかなければならないという認識であろう。また、その背景には、鄧小平亡き後中国は発展したが、党と政の機構が官僚主義化したことへの批判があった。たとえば、かつては共産党幹部の養成機関であった共産主義青年団(共青団)に対して習氏は厳しく批判的であり、予算を削減している。また、習氏は、共青団出身であった胡錦濤前主席の統治に対しても批判的である。
このような状況において、習近平氏自身と支持者たちは、過去30年近い間に形成されてきた統治機構を改革するとともに、最高指導者の在り方にも手を加え、強い指導者である習氏を既定の10年より長く国家主席とするのがよいとの判断に立ち至ったものと思われる。
しかし、習近平氏は毛沢東や鄧小平のような特別の人物でない。経験も比較にならない。習氏が言えばだれもが賛成するわけではない。実際、3選禁止の撤廃には習近平体制の絶対化を許すとして批判的な意見もあったという。当然である。
習近平主席が3選可能になると、次のような問題が発生する危険がある。
第1に、毛沢東に対する批判であった「個人崇拝」に陥ることである。最近中国のテレビで、習氏を「人民の領袖(りょうしゅう)」と形容する論評が流れたという。毛沢東は「偉大な領袖」であり、習近平はそこまでいわれているのではないが、近づきつつあると見られているのだ。
第2に、習氏自身、口やかましく「法治」の重要性を説いてきたが、主席の3選を認めるために憲法改正をするのであれば、結局法の支配は軽視していることになる。中国では環境問題はじめ生活の全分野で多数の法律が作られており、日本などの企業でもそれを順守するのに苦労しているのは事実であれが、共産党が支配する中国では肝心のところでは「法治」はあり得ない。今回の憲法改正問題はそのような中国をあらためて象徴していると思われる。
大きく見れば、中国は今後もさらに強大な国家となるよう邁進していく。そのために、共産党独裁の甲冑に身を固めた官僚支配を継続する。民主化や言論の自由は引き続き厳しく規制する。そして腐敗にまみれた支配層の既得権益を召し上げ、その浄化を図る。全国を通じ、中央と地方の指導者の入れ替えを大胆に断行する。
これらの方策には、一定の長所もあるが、今後経済成長はスローダウンし、政治問題の隠れ蓑にはなりえない。中国は憲法改正の意図に反して、今後かえって不安定化するのではないか。
2018.02.22
米朝のハイレベル、しかもナンバー2どうしとも言われるレベルの会談は実現しなかったが、会談が合意されていたことの意義は米朝両国にとっても、また、日本にとっても大きい。
米国では、北朝鮮に対する圧力を強化することについて異論はないが、対話についてはトランプ大統領自身さまざまな発言をし、時には金正恩委員長との会談に前向きであることを示唆していた。それはあくまで米側の発言に過ぎなかったが、今回は両国間の「合意」であった点が違っている。かつて、米国は北朝鮮と合意したことはあったが、元大統領(クリントン氏とカーター氏)の訪朝などに関してであり、現役のナンバー2どうしの会談が合意されたことはなかった。
トランプ政権が北朝鮮との対話に向けて一歩踏み出したことは明らかである。これまでペンス副大統領は対話に後ろ向きであると見られてきたが、今後、北朝鮮との対話についてトランプ政権全体がより積極的になる可能性があると考えておくべきであろう。ペンス氏は今回のアジア訪問中、毎日トランプ大統領と連絡を取っていたと説明するなど、政権の一体性に気を使っていた。
なお、ペンス副大統領は帰国後「対話と会談は異なる」などと述べて従来の方針に変わりはないことを強調しているが、「対話」であれ「会談」であれ内容次第であり、この言い訳には大した意味はない。
今回の会談をキャンセルしたのは北朝鮮であり、その理由として北朝鮮側が挙げたのは、ペンス氏がアジア訪問中に、北朝鮮に対し厳しい追加制裁を科すことを表明したり、脱北者と面会したりしたことなどだそうだ。このほか、ペンス副大統領は、北朝鮮に長く抑留され、釈放後死亡した米人学生の家族を同伴させるなど、訪問の初めから北朝鮮に強い姿勢を見せていた。
ペンス氏は、米国は従来からの強い姿勢は変えない範囲内であれば北朝鮮代表と会ってもよいとみていた可能性はある。北朝鮮に対して考えを軟化したと取られたくなかったということである。
しかし、このことは両刃の剣であり、米側が強い姿勢を見せるのに北朝鮮が会談に応じることは北朝鮮として弱みを見せることになるので、キャンセルしたのではないか。
ようするに、米朝は実際に会談になる前から一種の突っ張り合いをしているのである。米朝の接触はこれからも行われるだろうが、そこから先へ進めるかは、この突っ張り合いをどのようにして超えられるかにかかっている。
日本にとっての意味合いは、第一に、「北朝鮮と対話をすべきでない」という姿勢を続けることは、米国との連携も危うくなることである。日本としては、米国が北朝鮮と接触しようとする場合も米国を助け、協力すべきである。
第二に、北朝鮮に関して日本政府からは建前の話しか聞こえてこないが、実質的に北朝鮮との関係を進め日朝間の懸案を解決する必要性がさらにいっそう高まっていることである。
ペンス副大統領と金与正氏との会談取り消し
平昌オリンピックのために訪韓したペンス米副大統領は北朝鮮の金与正氏(金正恩委員長の実妹)と会談することが合意されていたが、会談開始の2時間前に北朝鮮側がキャンセルを申し出たため実現しなかった。米国務省の報道官によって発表されたことである。会談場所は韓国大統領府(青瓦台)、会談の日時は10日午後に予定されていた。米朝のハイレベル、しかもナンバー2どうしとも言われるレベルの会談は実現しなかったが、会談が合意されていたことの意義は米朝両国にとっても、また、日本にとっても大きい。
米国では、北朝鮮に対する圧力を強化することについて異論はないが、対話についてはトランプ大統領自身さまざまな発言をし、時には金正恩委員長との会談に前向きであることを示唆していた。それはあくまで米側の発言に過ぎなかったが、今回は両国間の「合意」であった点が違っている。かつて、米国は北朝鮮と合意したことはあったが、元大統領(クリントン氏とカーター氏)の訪朝などに関してであり、現役のナンバー2どうしの会談が合意されたことはなかった。
トランプ政権が北朝鮮との対話に向けて一歩踏み出したことは明らかである。これまでペンス副大統領は対話に後ろ向きであると見られてきたが、今後、北朝鮮との対話についてトランプ政権全体がより積極的になる可能性があると考えておくべきであろう。ペンス氏は今回のアジア訪問中、毎日トランプ大統領と連絡を取っていたと説明するなど、政権の一体性に気を使っていた。
なお、ペンス副大統領は帰国後「対話と会談は異なる」などと述べて従来の方針に変わりはないことを強調しているが、「対話」であれ「会談」であれ内容次第であり、この言い訳には大した意味はない。
今回の会談をキャンセルしたのは北朝鮮であり、その理由として北朝鮮側が挙げたのは、ペンス氏がアジア訪問中に、北朝鮮に対し厳しい追加制裁を科すことを表明したり、脱北者と面会したりしたことなどだそうだ。このほか、ペンス副大統領は、北朝鮮に長く抑留され、釈放後死亡した米人学生の家族を同伴させるなど、訪問の初めから北朝鮮に強い姿勢を見せていた。
ペンス氏は、米国は従来からの強い姿勢は変えない範囲内であれば北朝鮮代表と会ってもよいとみていた可能性はある。北朝鮮に対して考えを軟化したと取られたくなかったということである。
しかし、このことは両刃の剣であり、米側が強い姿勢を見せるのに北朝鮮が会談に応じることは北朝鮮として弱みを見せることになるので、キャンセルしたのではないか。
ようするに、米朝は実際に会談になる前から一種の突っ張り合いをしているのである。米朝の接触はこれからも行われるだろうが、そこから先へ進めるかは、この突っ張り合いをどのようにして超えられるかにかかっている。
日本にとっての意味合いは、第一に、「北朝鮮と対話をすべきでない」という姿勢を続けることは、米国との連携も危うくなることである。日本としては、米国が北朝鮮と接触しようとする場合も米国を助け、協力すべきである。
第二に、北朝鮮に関して日本政府からは建前の話しか聞こえてこないが、実質的に北朝鮮との関係を進め日朝間の懸案を解決する必要性がさらにいっそう高まっていることである。
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