2018 - 平和外交研究所 - Page 15
2018.07.17
ポンペオ国務長官による3回目の平壌訪問(7月6~7日)後は、とくにその感が強くなった。
ポンペオ長官は、金英哲副委員長との会談は、「誠実で生産的な話し合いだった」「(非核化は)複雑な問題だが、かなり詳細に次のステップについて話し合った。ほぼすべての分野で進展があった。」「北は完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)にコミットすると再度約束した」などと、ほぼ全面的に肯定的評価していることを示した。国務長官としての立場上、「会談はうまくいかなかった」と言えないのは当然だが、そのことを差し引いても、同長官は北朝鮮を信頼しているようである。
一方、北朝鮮メディアは、「北朝鮮は、今月27日の朝鮮戦争休戦協定65周年を契機に政治的な戦争終結宣言を行う問題や、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産中断を実証するミサイルエンジン燃焼実験場の閉鎖、朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨返還を巡る実務協議の開始などを提起した」「双方は、互いの信頼と尊重に基づき、段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ。(米韓が発表した合同軍事演習の一部延期は)我々が実施した核実験場の不可逆的な廃棄と比べものにならない」「米国は一方的で強盗のような非核化の要求をしてきた」「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」などと、概して批判的な報道・論評を行った。「非核化への我々の意思が揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」とも付言した。
ポンペオ長官は、金正恩委員長のトランプ大統領あて親書を預かって帰国した。それを読んだトランプ氏は7月12日、自身のツイッターで親書を公開し、「とてもすてきな手紙だ。(米朝交渉は)素晴らしく進展している!」とつぶやいた。親書で正恩氏は、「(トランプ氏の)精力的で並外れた努力に深く感謝する」「シンガポールで我々が署名した共同声明は、本当に意義深い旅の始まりだった」「新しい未来の朝米関係を開こうという、私と大統領閣下の強い意思、誠実な努力と比類なきアプローチは必ずや実を結ぶと私は固く信じている」と述べている。
正恩氏の書簡の内容はポンペオ長官の説明と平仄があっており、北朝鮮メディアの報道・論評だけが非常に違っている。常識的には、金委員長の書簡やポンペオ長官の説明のほうが重要だが、北朝鮮メディアは、北朝鮮内部に存在する不満をさらけ出す形で、今後の交渉を有利に導こうとする北朝鮮政府の考えを代弁して可能性もある。注目すべきは次の諸点だ。
「非核化への我々の意思が、揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」というのは一種のブラッフであり、これで米側が影響されることはないだろう。あまり賢明な言葉とは思われない。
「米朝双方は段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ」というのは、北朝鮮のメディアが繰り返していることだ。そういいたい気持ちは分からないではないが、そもそもそれは不可能であり、北朝鮮がそう言えば言うほど米国は北朝鮮の「非核化」の決意を疑うことになるだろう。現在米朝で協議していることは北朝鮮の「非核化」であり、それに匹敵すること、たとえば、米国の「非核化」は問題になっていない。問題になっている米韓合同演習や在韓米軍は北朝鮮の「非核化」に比べるとはるかに簡単なことであり、米朝双方が一つ一つ片付けていけば、米側の「球」はたちまち枯渇してしまうだろう。要するに、北朝鮮の「非核化」のためには、米側で一つの措置を講じれば北朝鮮側ではその何十倍もの数の措置が必要となる。これを不平等と言っても意味はない。
「米国は一方的に強盗のような要求をしてきた」というが、これも「非核化」のために必要な「検証」の実態にかんがみると、仕方がないことである。「検証」のための「査察」は、本来、他人が家に入り込んできて「裸になってください」と言われるようなことなのである。これについては、稿を改めて説明する。
「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」と北朝鮮は言うが、米国は、「北朝鮮の非核化が実現してから、あるいはそれと同時に平和条約を締結したい。安全の保証(security guarantees)も与えたい」という考えなのであろう。
米朝両国はシンガポールの共同声明で「朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努力する」ことを約した。平和体制の構築は、そのように努力して実現すべきものであり、そのうちの一部を切り出して交渉するようなことでないと米国は考えているのではないか。
以上のように一つ一つ北朝鮮メディアの言い分を見ていけば、賛成できることはあまりない。しかし、理屈はどうあろうと、目標を達成するには交渉が一方的な形にならないよう工夫する必要がある。そういう意味では、たとえば、平和宣言などは妥協の余地がありそうだ。
北朝鮮メディアの論評は政府の考えを代弁しているか
北朝鮮メディアの報道と論評は、以前は北朝鮮政府の考えそのものとみなして差し支えなかったが、米朝両国が首脳会談開催に向けて動き出して以来必ずしもそうではなくなってきた。我々としては、報道や論評をそのまま受け取るのではなく、言外の意味を読み、また、少し時間をかけその後の状況を合わせてみなければ真相は分からなくなってきている。ポンペオ国務長官による3回目の平壌訪問(7月6~7日)後は、とくにその感が強くなった。
ポンペオ長官は、金英哲副委員長との会談は、「誠実で生産的な話し合いだった」「(非核化は)複雑な問題だが、かなり詳細に次のステップについて話し合った。ほぼすべての分野で進展があった。」「北は完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)にコミットすると再度約束した」などと、ほぼ全面的に肯定的評価していることを示した。国務長官としての立場上、「会談はうまくいかなかった」と言えないのは当然だが、そのことを差し引いても、同長官は北朝鮮を信頼しているようである。
一方、北朝鮮メディアは、「北朝鮮は、今月27日の朝鮮戦争休戦協定65周年を契機に政治的な戦争終結宣言を行う問題や、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産中断を実証するミサイルエンジン燃焼実験場の閉鎖、朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨返還を巡る実務協議の開始などを提起した」「双方は、互いの信頼と尊重に基づき、段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ。(米韓が発表した合同軍事演習の一部延期は)我々が実施した核実験場の不可逆的な廃棄と比べものにならない」「米国は一方的で強盗のような非核化の要求をしてきた」「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」などと、概して批判的な報道・論評を行った。「非核化への我々の意思が揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」とも付言した。
ポンペオ長官は、金正恩委員長のトランプ大統領あて親書を預かって帰国した。それを読んだトランプ氏は7月12日、自身のツイッターで親書を公開し、「とてもすてきな手紙だ。(米朝交渉は)素晴らしく進展している!」とつぶやいた。親書で正恩氏は、「(トランプ氏の)精力的で並外れた努力に深く感謝する」「シンガポールで我々が署名した共同声明は、本当に意義深い旅の始まりだった」「新しい未来の朝米関係を開こうという、私と大統領閣下の強い意思、誠実な努力と比類なきアプローチは必ずや実を結ぶと私は固く信じている」と述べている。
正恩氏の書簡の内容はポンペオ長官の説明と平仄があっており、北朝鮮メディアの報道・論評だけが非常に違っている。常識的には、金委員長の書簡やポンペオ長官の説明のほうが重要だが、北朝鮮メディアは、北朝鮮内部に存在する不満をさらけ出す形で、今後の交渉を有利に導こうとする北朝鮮政府の考えを代弁して可能性もある。注目すべきは次の諸点だ。
「非核化への我々の意思が、揺らぎかねない危険な局面に直面することになった」というのは一種のブラッフであり、これで米側が影響されることはないだろう。あまり賢明な言葉とは思われない。
「米朝双方は段階的かつ同時の行動によって誠意を示すべきだ」というのは、北朝鮮のメディアが繰り返していることだ。そういいたい気持ちは分からないではないが、そもそもそれは不可能であり、北朝鮮がそう言えば言うほど米国は北朝鮮の「非核化」の決意を疑うことになるだろう。現在米朝で協議していることは北朝鮮の「非核化」であり、それに匹敵すること、たとえば、米国の「非核化」は問題になっていない。問題になっている米韓合同演習や在韓米軍は北朝鮮の「非核化」に比べるとはるかに簡単なことであり、米朝双方が一つ一つ片付けていけば、米側の「球」はたちまち枯渇してしまうだろう。要するに、北朝鮮の「非核化」のためには、米側で一つの措置を講じれば北朝鮮側ではその何十倍もの数の措置が必要となる。これを不平等と言っても意味はない。
「米国は一方的に強盗のような要求をしてきた」というが、これも「非核化」のために必要な「検証」の実態にかんがみると、仕方がないことである。「検証」のための「査察」は、本来、他人が家に入り込んできて「裸になってください」と言われるようなことなのである。これについては、稿を改めて説明する。
「米側は緊張緩和と戦争防止に不可欠な朝鮮半島の平和体制構築の問題に一度も言及しなかった」と北朝鮮は言うが、米国は、「北朝鮮の非核化が実現してから、あるいはそれと同時に平和条約を締結したい。安全の保証(security guarantees)も与えたい」という考えなのであろう。
米朝両国はシンガポールの共同声明で「朝鮮半島において持続的で安定した平和体制を築くため共に努力する」ことを約した。平和体制の構築は、そのように努力して実現すべきものであり、そのうちの一部を切り出して交渉するようなことでないと米国は考えているのではないか。
以上のように一つ一つ北朝鮮メディアの言い分を見ていけば、賛成できることはあまりない。しかし、理屈はどうあろうと、目標を達成するには交渉が一方的な形にならないよう工夫する必要がある。そういう意味では、たとえば、平和宣言などは妥協の余地がありそうだ。
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