平和外交研究所

3月, 2017 - 平和外交研究所 - Page 3

2017.03.22

(短文)日露2+2

 日本とロシアの外務・防衛閣僚級協議(2プラス2)が3月20日、東京で開催された。
 2プラス2は、米国との間では歴史が古く、ほぼ毎年開催されている。日本にとってこれに次ぐのは豪州との2プラス2であり、2007年に始まり、これもほぼ毎年開かれている。
 ロシアとの間では、2013年、安倍首相とプーチン大統領との合意に基づき初めて2プラス2が開催された。その時議題となったのは部隊間交流、演習へのオブザーバーの相互派遣、アデン湾での共同訓練、サイバー攻撃への対処などであった。
 しかし、次の年にクリミア併合が起こり、そのため2プラス2は開かれなくなっていた。
 ロシアは日本だけでなくほかの国とも類似の協議を行っているが、いずれもクリミア併合の影響を受け開催されなくなっており、再開するのは今回の日ロ協議が初めてだそうだ。
 
 今回日本がロシアとの2プラス2を開催することとしたのは、日ロ間の信頼醸成を強化し、ひいては平和条約問題への地ならしとなることを期待してのことだろう。今回の協議でこの問題がどの程度話し合われ、進展したか。発表では、北朝鮮の核・ミサイル問題については双方が連携する方針で一致したが、ロシア側は北朝鮮を念頭に置いた米国のミサイル防衛(MD)システムに懸念を表明し、日本側はロシアの北方領土へのミサイル配備に抗議したそうだ。
 このような意見の違いは今回の協議開催前から予想されていたことであり、新味はない。それより大事なことは安倍晋三首相とプーチン大統領の会談を来月下旬、ロシアで行うことを確認したことであった。
 要するに、今回の2プラス2を開催したことの意義は、両国間の信頼関係を強化することもさることながら、首脳会談のおぜん立てをすることにあったようだ。
 米国でトランプ新政権が発足したことにより米ロ関係が改善される可能性が出てきた。このようなことも日露間での首脳会談や2プラス2を後押ししている。
2017.03.21

(短文)中国の議会(全人代)の民主化度合

 中国の全国人民代表大会(全人代)は3月5日から15日まで開催され、全体としては政府が描いたシナリオ通りに事が運び、2017年の国内総生産(GDP)成長率目標を「6・5%前後」とする政府活動報告や予算などが採択された。
 
 中国の全人代はもともと民主主義国家の議会とはまったく異なり、政府の活動を承認することだけが役割であった。つまり、全人代は中国も民主的だという体裁を示すための行事に過ぎなかったが、いつまでもそれだけではもたなくなり、ある程度は国民に発言させ、それを吸収することが必要になってきた。しかし、問題はどの程度そのような民主化が進んだかである。

 さる3月8日、当研究所HPの「(短文)中国の全国人民代表大会(議会)と国内の不満」では、李克強首相の「政府活動報告」は民衆の不満を取り上げているが、それは一部の問題に過ぎず、腐敗、不公平な資源配分、数字偏重の経済成長、環境悪化、失業など本当に深刻な問題は表に出していないという『多維新聞』(米国に本拠がある中国語の新聞)記事を紹介した。
 
 また、比較的客観的な報道で知られている香港の『明報』紙は、今次全人代で最高法院と最高検察院が行った報告に関し、上海社会科学院応用経済研究所の張泓銘研究員が、報告は昨年国民の関心を集めた3つの案件を完全に無視し、一言も触れていない、それで「法治」と言えるか、と発言したことを報道している。
 第1は、「雷洋」なる人物が買春の容疑で逮捕され拘留中に死亡した事件で、警察により撲殺された疑いがあったが、検察は「軽微」な問題として関与した5人の警察官を不起訴処分とした。
 第2は、長老による比較的自由な発言で知られていた『炎黄春秋』誌への党・政府の介入に関し、雑誌社側は裁判所に訴えたが、受理を拒否された案件だ。
 第3は、山東建築大学の鄧相超教授が毛沢東批判を行ったのに対し、左派勢力から攻撃され山東省政府から参与の地位を解かれ、さらに学校の前で「鄧相超を打倒せよ」を叫ぶデモが行われた件である。

 これらの案件の説明は、おそらく全貌が伝わっていないために、それほど深刻な問題でないという印象をもたれるかもしれないが、中国のインターネットで広く伝えられ、全国的に関心を集めた。
 その意味では、最高法院・検察院報告についての議論にも、全人代を民主化したいという願いが表れているようだが、張泓銘研究員自身は自己の発言があまり広がることに困惑気味であると『明報』は伝えている。要するに、この研究員もいったんは発言したが、政治問題化するのを警戒しているのである。驚くことではないが、全人代民主化の途はやはり遠いようだ。


2017.03.20

(短文)中国の戦略的行動は韓国にも向いている

 
 THAADの韓国配備をめぐって韓国と中国の関係が悪化している。その影響は中国から韓国への旅行にも表れ、中国の国家観光局(中国国家旅游局)は3月15日から韓国への団体観光旅行を全面的に停止してしまった。韓国の『ハンギョレ新聞』や『朝鮮日報』などが関連の報道を行っている。
 『ハンギョレ新聞』の取材に対し北京の各旅行社は、「国家観光局の指示により韓国行きのツアーをすべて停止した。もしどうしても行きたければ、自分で航空券やホテルの手配をするしかない。中国はどこでも同じ扱いになっている。韓国への旅行について旅行社に問い合わせがくれば、他の場所にしたほうがよいと勧めている。各旅行社では韓国関係の要員を日本や東南アジアへ向けている」と回答した由。
 韓国の済州島は中国人に人気がありこれまで年間3百万の旅行者が訪れていた。今年も韓国のある旅行社は、3月11日までは毎日90人受け入れていたが、12日以降ゼロになったと嘆いているそうだ。

 中国の国家観光局は、「部」(日本の省庁)でなく、一ランク下の国務院直属機関であり(税関、体育総局、統計局などと同列)、国務院の決定した方針を実施する機関であるが、観光市場を拡大させるための戦略計画の策定、各国の観光関連機関との協議、中国に設立する各国の観光事務所の審査と認可などを行う。また、海外に観光局の事務所を設置する。
 中国政府は中国人の出入国に対して強い影響力を持っており、それを背景に国家観光局の権限は日本の観光庁(国土交通省の外局)と比べはるかに大きいと見てよいだろう。

 中国は戦略的行動、すなわち、目標を立てその実現のために資源、手段を集中的に投入することが得意である。中国共産党は不利な条件の下で日本や国民党と戦うのにそうすることが必要だったのだ。
 目標が大きすぎると達成は困難になるが、明確に、しかも達成可能な目標であれば、成功する可能性が高くなる。トランプ大統領に「一つの中国」を認めさせたのは成功した例であった。
 韓国への旅行客を禁止ないし制限するのは何を目標としているのか。THAADの配備を止めさせようとしていることは容易にうかがわれるが、それは戦略的行動に適しているか疑問である。韓国としては米国との関係、さらには北朝鮮との関係から、中国が嫌がっても引き下がるわけにはいかないだろうからである。
 目標を達成できなければ中国のしたことはいやがらせに終わる危険が高い。いたずらに韓国民を刺激することにもなる。

 なお、中国は2014年、テロの脅威が理由で中国人がフィリピンへ渡航するのを自粛するよう勧告していた。実際には、アキノ前大統領の時代、フィリピンが南シナ海問題について国際仲裁裁判所へ提訴したことに反発し、フィリピンへ圧力を加えるためではないかと言われていた。
 しかるに、中国は2016年10月、ドゥテルテ大統領が訪中したのをきっかけに勧告を解除した。同大統領はアキノ前大統領と違って対中関係を重視する姿勢をとっている。中国はそのような姿勢を積極的に評価したのではないか。

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