平和外交研究所

2014 - 平和外交研究所 - Page 81

2014.02.02

バルカン室内管弦楽団と柳澤寿男氏

バルカン室内管弦楽団の平和祈念コンサートが今年の5月末から約1カ月の間に日本各地とボスニアの首都サラエボで開催される。この楽団は日本人指揮者の柳澤寿男氏によってバルカン半島の諸民族の和解と共栄を願って設立されたもので、これまで年に1~2回、バルカン半島の主要都市やウィーン、ニューヨーク、それに日本各地でもコンサートを行なってきた。この楽団にはセルビア人、アルバニア人、マケドニア人、ボスニア人、ギリシャ人、スロベニア人、ブルガリア人、ルーマニア人、トルコ人が参加している。
バルカン半島では諸民族の対立が激しく、お互いの交流はきわめて限られており、複数の民族が参加する行事はほとんどないので、この管弦楽団は例外的存在である。
バルカン半島は、14世紀から約500年間、オスマントルコにより侵略・占領されて国土は荒廃し、ヨーロッパの繁栄から取り残されただけでなく、第一次世界大戦勃発のきっかけとなったサラエボ事件に象徴される「ヨーロッパの火薬庫」という不名誉な綽名をつけられる状況に陥っていた。
第二次大戦後、一時期は安定を取り戻したこともあるが、それも長続きせず、8つの民族の対立が激化し、ついには民族ごとの共和国に分裂してしまった。その間激しい武力衝突から大量の難民が発生し、また、西側諸国との対立も生じて1999年、NATO軍の爆撃を受けるに至り、コソボやベオグラードは文字通り完膚なきまで叩きのめされた。その後、バルカン半島、とくに西バルカンでは国連の強い関与の下でようやく秩序が回復したが、長年にわたる諸民族の抗争と国土荒廃はこの地域の人々に深い傷跡を残しており、現在も異なる民族は対立状態にあり、お互いに敵視しあうことも少なくない。
このように対立する諸民族の音楽家を集めて演奏会を催すことなどバルカンの常識ではほぼ不可能に近いが、柳澤氏は類まれな行動力でそれを実現しコンサートを開いている。そのため柳澤氏は家族を日本に残したまま1年の約半分をコソボの首都プリシュティナで過ごしており、停電がしばしば発生し、冬は室内の水も凍結する過酷な環境と戦いながら各国政府との交渉、コンサートの準備、費用の工面などを自ら行っている。
私はかつて大使としてベオグラードで勤務したことがあり、バルカンの特殊な政治状況にはいささかの認識があり、諸民族の和解と共栄のため、多大の犠牲を払って活躍している柳澤氏の献身的努力に満腔の敬意を抱いている。
日本はバルカンとは遠く離れているが、NATOによる爆撃終了直後から西バルカン諸国の回復、復興に協力してきた。とくに、コソボやセルビアで柳澤氏や日本のNGOが音楽を通じて、あるいは難民を助けて献身的な努力を続け、現地の人々や政府から厚く感謝されていることは日本人の誇りである。
同氏の指揮するバルカン室内管弦楽団による今回の日本各地(東京、下諏訪、名古屋、金沢)およびサラエボでの公演が成功することを念じ、また、皆様にもお力を貸していただきたいと願っている。
公演予定は次のとおりである。
5月29日 東京都千代田区:紀尾井ホール
5月31日および6月1日 長野県下諏訪町:下諏訪総合文化センター
6月4日 愛知県名古屋市:愛知県芸術劇場コンサートホール
6月6日 石川県金沢市:石川県立音楽堂
6月20日 ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国:サラエボ国立劇場

2014.01.31

国有企業幹部の転職

中国の国有企業の幹部が民間に転職して、高給取りになることについて、1月28日付の『企業観察報』が報道している。主要点を拾って見た。

報道のきっかけとなったのは「中国联通(中国聯合通信有限公司 通信業者)」の李剛副総裁が「華翔联信(携帯電話会社)」に移ったことであった。
このような場合「転職代(転会費)」を払うのが一般的である(注 野球のポスティングに似ており、それを受け取るのは国有企業である)。
2013年に「山東黄金集団公司」の会長兼党委書記であった王建華は「紫金鉱業」へ移って年収500万元余(8500万円余)を得た。
過去2年の間に、500人以上の国有企業の幹部が民間に移った。安徽省だけでも2013年中に70人が移っている。
民間が国有企業の幹部を受け入れるのは、専門的知識の他、人的関係が広いためである。
中国人民大学公共管理学院院長助理,組織与人力资源研究所の劉昕教授によれば、国有企業の幹部が転身する原因は5つある。
第1に、国有企業の発展性が乏しいことであり、副社長はなかなか正社長になれない。
第2に、国有企業では内部の問題で消耗し、政治が多過ぎる。経営の腕を発揮できず、いやになることが多い。
第3に、個人として政府に対し就職に関する要望を提出できない。
第4に、高収入の誘惑である。
第5に、一部の幹部が国有企業において不正を働いたことが発覚するのを恐れ、事前に離職する場合がある。

2014.01.30

有無相通ずる日韓両国

1月24日、キヤノングローバル戦略研究所のホームページに掲載されたもの。

「日韓関係は最悪の状態に落ち込んでおり、両国の首脳が直接会って話し合うこともない。昨年末には、安倍首相が靖国神社に参拝したことに関し朴槿恵大統領が強い言葉で批判した。
また、これと相前後して、南スーダンで国連の平和維持活動に参加している日韓両国の部隊の間で銃弾の貸し借りが行われたことが波紋を巻き起こした。それは、内戦が激化し、各国の部隊にも危険が及んでくる状況の中で、一方の部隊が他方に対し暫時銃弾を融通するという、ささやかな協力であったが、韓国政府のスポークスマンが、万が一の事態に備えるためであったと説明しつつも、「銃弾は不足していなかった」と言ったので様子がおかしくなった。その後の混乱のなかで韓国国防部では、「韓国軍が銃弾の提供を自衛隊に頼んだことは忘れてほしい」という発言まで出たそうである。
しかし、経済面で日本と韓国は深く結び付き、双方とも利益を得ている。日韓間の貿易を例に取ってみると、韓国は日本から昨年、6百億ドル近く輸入しており、これは同国の総輸入の約1割にあたる。
しかるに、韓国から日本への輸出は350億ドル弱で、輸入よりかなり少ない。このことを理由に、韓国は日本を必要としているが、日本は韓国を必要としていないとか、日本がその輸出を止めれば韓国は困ると言わんばかりの議論があるが、それは手前勝手な議論である。
韓国が日本から輸入している主な品目は、第1位が鉄鋼板、第2位が半導体、第3位がプラスチック製品であり、以下、平板ディスプレイ製造用装置、半導体製造装置、合金銑鉄および古鉄、鋼板製品およびその他の鉄鋼製品、船舶海洋構造物および部品、ガラス製品、基礎油粉となっている。日常生活では使わない品名が並んでいるが、要するに、最終消費財は少なく資材、部品、設備が圧倒的に多い(ジェトロ「日韓経済関係に関する基礎資料」2009年 その後数字は多少変わっているが、傾向は変わらない)。
韓国が必要とするモノや設備を日本が提供しているのは事実であるが、それは両国間貿易の一部分にすぎない。日本も韓国から輸入しており、おたがいに必要としている。つまり両国は有無相通じているのである。
しかもその態様は、必要か否かという観点では測れない。韓国の輸入については、どの国から調達してもよいのであるが、品質や価格を考慮して日本から輸入している。つまり経済的に有利だからそうしているのである。一方、日本も、韓国に売るのが利益になるので輸出している。
そもそも、貿易を行なう主体は両国の企業であり、何を輸入・輸出するべきか、両国の企業が一番よく知っている。開発援助、あるいは産業振興策などがからめば違ってくることもあるが、どちらの国の企業も、何がもっとも自社にとって有利なことかを厳密に判断し、取引を行なう。この結果が輸出入の数字となって現れるのであり、数字のバランスが取れていてもいなくても、双方は利益を得ているのである。
また、経済のグローバル化が著しく進展した現在、二国間の貿易が黒字か赤字かはあまり意味を持たなくなっている。韓国も日本も、また、中国、EU、米国などもそれぞれの利益を拡大するために貿易を行なっており、そのなかで、部分的に不均衡な数字が出てきてもたいした意味はない。日本との関係で赤字の韓国は中国との関係は逆で、大幅な黒字になっている。
以上は貿易の基本であり、だれでも知っているはずのことである。国民感情に訴える政治問題は話題になりやすいし、注意が向きがちであるが、おたがいに利益を得ているということは重要なことであり、そのことは大事にしたいものである。
日韓両国は古くから有無相通じてきた。とくに古代においては、日本が朝鮮(具体的な国名は別であるが、ここではそう総称する)から知識や技術を輸入した。中国を訪れた日本人僧侶が先に行っていた朝鮮人僧侶に助けてもらったこともあった。どちらがどれだけ他方を助けてきたか、量的な比較は困難であろうが、日本が助けてもらったことは少なくない。
日韓両国の首脳には、両国の間に存在する、物的な面でも、知的な面でも有無相通じてきた関係を十分考慮し、さらに発展させてもらいたい。そのため、いわゆる歴史問題も含めすべての問題について、無条件に、冷静に話し合ってもらいたい。日韓両国が協力すれば地域のためにも世界のためにも大きな力を発揮できる。
この小稿を書き終えようとした時に、対馬の寺院から盗まれ韓国で発見された後、現在は韓国文化財庁の管理下にある仏像の日本への返還を求める訴訟が韓国の市民団体によって提起されたという報道に接した。このように冷静な姿勢が今後の日韓関係の改善に資するものと信ずる。」

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