2014 - 平和外交研究所 - Page 53
2014.05.16
具体的には、「我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊を継続する場合」(事例5)と「海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行なう場合」(事例6)であり、これらの場合においては従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができないことがあるとの考えに立ち、「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」と指摘されている。この表現はかなり慎重な文言になっているが、衣の下の鎧になっていないか。
このような問題については、大きく言って二つの側面から検討を加える必要がある。一つは、現存の関連法令はこれまで政治的対立の影響をあまりにも強く受け、現実の事態に対処できない内容になっていることであり、この観点からは法令を改正したり、整備したりすることが必要になる。
もう一つの側面は、この2つの事例が尖閣諸島に対する中国の無体な主張と行動を想定し、報告書が指摘している「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」とは自衛隊の行動を想定しているかである。
これは率直に言って大きな意味を持つ。事例5や6のようなことが日本の安全にとって問題であることに異論はないであろうが、そうだからと言って自衛隊が対処することは危険極まりない。中国側は、日本が先に軍事行動を起こすことを手ぐすね引いて待っている可能性がある。もちろん中国と言っても一枚岩でなく、そのような強硬論もあれば、あくまで話し合いで解決すべきだという意見もあろうが、日本が先に軍事行動を起こすのを待つということを方針としていることは当然ありうる。
与党は今後、安保法制懇がいう「具体的な行動」を検討するのであろうが、このことを軽視してはならない。中国側の行動は事例5のように軍事行動の一環であっても、日本への攻撃でなく、日本の秩序や主張の無視で止まっている。分かりやすく言えば、中国は嫌がらせをしているのであり、日本はそれに相応した対応をするべきであり、相手が、こちらの軍事行動を誘発しようと挑発してきてもそれに乗ってはならない。嫌がらせや、挑発に乗ってこちらから軍事行動を起こすと、世界の世論は中国に就くであろう。米国は安保条約を適用できなくなるのではないか。
冷戦時、米ソ両国軍はおたがいにすさまじい嫌がらせを行なった。しかし、その域から出ることはなく、嫌がらせにふさわしい対処でとどめた。それは過去のことであり、現在の日本の法令でどのような嫌がらせが可能か、これは難問であるが、少なくとも自衛隊が行動するのは愚の骨頂であり、これらの事例においてはあくまで海上保安庁を強化することにより対処すべきである。
安保法制懇の報告ーグレーゾーン
5月15日、安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書が提出された。取り上げられている問題は集団的自衛権に限らない。いくつかの論点があるが、報道では今後与党での検討はいわゆるグレーゾーンに関する問題から始められるそうである。具体的には、「我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず、徘徊を継続する場合」(事例5)と「海上保安庁等が速やかに対処することが困難な海域や離島等において、船舶や民間人に対し武装集団が不法行為を行なう場合」(事例6)であり、これらの場合においては従来の憲法解釈や法制度では十分に対応することができないことがあるとの考えに立ち、「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」と指摘されている。この表現はかなり慎重な文言になっているが、衣の下の鎧になっていないか。
このような問題については、大きく言って二つの側面から検討を加える必要がある。一つは、現存の関連法令はこれまで政治的対立の影響をあまりにも強く受け、現実の事態に対処できない内容になっていることであり、この観点からは法令を改正したり、整備したりすることが必要になる。
もう一つの側面は、この2つの事例が尖閣諸島に対する中国の無体な主張と行動を想定し、報告書が指摘している「わが国が具体的な行動を採ることを可能とする憲法解釈や法制度を考える必要がある」とは自衛隊の行動を想定しているかである。
これは率直に言って大きな意味を持つ。事例5や6のようなことが日本の安全にとって問題であることに異論はないであろうが、そうだからと言って自衛隊が対処することは危険極まりない。中国側は、日本が先に軍事行動を起こすことを手ぐすね引いて待っている可能性がある。もちろん中国と言っても一枚岩でなく、そのような強硬論もあれば、あくまで話し合いで解決すべきだという意見もあろうが、日本が先に軍事行動を起こすのを待つということを方針としていることは当然ありうる。
与党は今後、安保法制懇がいう「具体的な行動」を検討するのであろうが、このことを軽視してはならない。中国側の行動は事例5のように軍事行動の一環であっても、日本への攻撃でなく、日本の秩序や主張の無視で止まっている。分かりやすく言えば、中国は嫌がらせをしているのであり、日本はそれに相応した対応をするべきであり、相手が、こちらの軍事行動を誘発しようと挑発してきてもそれに乗ってはならない。嫌がらせや、挑発に乗ってこちらから軍事行動を起こすと、世界の世論は中国に就くであろう。米国は安保条約を適用できなくなるのではないか。
冷戦時、米ソ両国軍はおたがいにすさまじい嫌がらせを行なった。しかし、その域から出ることはなく、嫌がらせにふさわしい対処でとどめた。それは過去のことであり、現在の日本の法令でどのような嫌がらせが可能か、これは難問であるが、少なくとも自衛隊が行動するのは愚の骨頂であり、これらの事例においてはあくまで海上保安庁を強化することにより対処すべきである。
2014.05.15
一方、中国では解放軍報、新華社電、人民日報などがすでに報道している。香港や外国に本部がある新聞・テレビには、連日のごとく解説者がインタビューに答え、あるいは論評を加えているものがある。
たとえば、5月6日の多維新聞(米国に本部)は、消息筋からの情報として要旨つぎの解説を行なっている。
「今回の中ロ合同演習については、かなり以前から中国側がロシア側に話を持ちかけていたが、ロシア側はいたずらに米国や日本を刺激したくないので中国からの誘いになかなか乗ってこなかった。中ロ両国が合同演習に原則合意したのは2月25日頃であったが、それからも中ロ両国は慎重な構えを崩さず、演習場所については「上海付近」としか言わなかった。
しかし、ウクライナ危機が発生し、また、オバマ大統領のアジア4カ国訪問が確定したことにより、習近平は合同演習が中ロ両国の利益にかなうと判断し、また、オバマ大統領の日本など歴訪に対する反撃としても有効なので、プーチン大統領に対し尖閣諸島の付近で演習を行なうことを提案した。これに対し、それまで慎重であったプーチン大統領も欣然と習近平主席の提案を受諾し、しかも予定されている上海訪問の際にロシアの編隊を連れていくというお土産まで用意した。」
このような情報が正確か、現在のところ判断困難である。実際に演習が行なわれると日本側でも当然その地点を確認するであろうから、一部についてはまもなく分かってくるであろう。演習が開始するのは、プーチンがアジア信頼醸成措置会議に出席するため訪中(上海)する5月20日と同日とも言われている。
中国側では意図的に本件を大きく報道している可能性があるが、誇張気味であっても、中国の尖閣諸島に関する日本との我慢比べの方針に沿っているのであろう。
中ロ合同軍事演習
中国海軍が5月末に予定しているロシア海軍との合同軍事演習については、日中の報道ぶりにかなりの隔たりがある。日本では一部のメディアがそのことを報道しているが、それも大きなスペースではないし、新聞テレビは全体としてほとんど取り上げていない。一方、中国では解放軍報、新華社電、人民日報などがすでに報道している。香港や外国に本部がある新聞・テレビには、連日のごとく解説者がインタビューに答え、あるいは論評を加えているものがある。
たとえば、5月6日の多維新聞(米国に本部)は、消息筋からの情報として要旨つぎの解説を行なっている。
「今回の中ロ合同演習については、かなり以前から中国側がロシア側に話を持ちかけていたが、ロシア側はいたずらに米国や日本を刺激したくないので中国からの誘いになかなか乗ってこなかった。中ロ両国が合同演習に原則合意したのは2月25日頃であったが、それからも中ロ両国は慎重な構えを崩さず、演習場所については「上海付近」としか言わなかった。
しかし、ウクライナ危機が発生し、また、オバマ大統領のアジア4カ国訪問が確定したことにより、習近平は合同演習が中ロ両国の利益にかなうと判断し、また、オバマ大統領の日本など歴訪に対する反撃としても有効なので、プーチン大統領に対し尖閣諸島の付近で演習を行なうことを提案した。これに対し、それまで慎重であったプーチン大統領も欣然と習近平主席の提案を受諾し、しかも予定されている上海訪問の際にロシアの編隊を連れていくというお土産まで用意した。」
このような情報が正確か、現在のところ判断困難である。実際に演習が行なわれると日本側でも当然その地点を確認するであろうから、一部についてはまもなく分かってくるであろう。演習が開始するのは、プーチンがアジア信頼醸成措置会議に出席するため訪中(上海)する5月20日と同日とも言われている。
中国側では意図的に本件を大きく報道している可能性があるが、誇張気味であっても、中国の尖閣諸島に関する日本との我慢比べの方針に沿っているのであろう。
2014.05.14
(及川さん)今回、学内の人文科学研究所主催という形で、下記のイベントを企画しました。対外的にもオープンな企画で、事前の申し込みも特に必要ありませんので、ご関心とお時間がありましたら、ぜひご参加下さい。
第1部は、翰光監督の映画『亡命』(ダイジェスト版)を上映します。
すでに9日の東大でのイベントでご覧になっておられる方もいらっしゃると思います。今回は、上映会第二弾です!
29日は、第1、第2部の全体はもちろんですが、第2部のみのご参加も大歓迎です。
第2部は、天安門事件後に逮捕・投獄を経てアメリカに亡命した知識人、友人の陳破空さんが、今回ニューヨークから来日されるのに合わせた講演会です。陳破空さんは、昨年『赤い中国消滅』(扶桑新書)を刊行されました。今月は文春新書、今後は幻冬舎新書と出版予定も続き、ご活躍が注目されている方です。
今回は、翰光監督のご好意により、映画『亡命』の特別バージョンとして本編では公開されなかった陳破空さんのインタビューもあわせて上映する予定です。
なお、すでに報道もありますので、皆様ご存知の通りと存じますが、3日北京で、徐友漁さん、浦志強さんたちが、事件25周年記念の研究会を開催したことを理由に、現在、刑事拘留されています。とても厳しい状況です。
日本をはじめ、世界的にも注視され、支援の輪が広がっています。日本からのアピールについて、ご案内が重複している場合はお許しください。
最新情報として、本日18時のNHKニュースでの報道を、以下でご覧頂けます。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140513/k10014417281000.html
29日の企画では、本件に関する最新情報の共有を含めて、みなさまとも議論できればと考えています。
ご参加を心よりお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 及川淳子
************ ご案内 *************
【映画と講演の集い】
天安門事件25周年によせて――活動家たちは今
【日時】2014年5月29日(木)14:45~17:30(最長18時まで)
【会場】日本大学文理学部 3号館3507教室
アクセス:http://www.chs.nihon-u.ac.jp/access/
キャンパスマップ:http://www.chs.nihon-u.ac.jp/about_chs/campus_map/
(3507教室は、3号館5階、エレベータ右手の大教室です)
【主催】日本大学文理学部人文科学研究所総合研究
「近現代におけるナショナリズムと歴史認識への各国の対応に関する研究」班
(代表:小浜正子・中国語中国文化学科教授)
【プログラム】
第一部 14:45~16:10
主旨説明(小浜正子) 講演者紹介(及川淳子・文理学部非常勤講師)
翰光監督講演「越境者・亡命者が語る近現代中国」(日本語)
映画『亡命 Outside the Great Wall』上映(ダイジェスト版、40分)
(16:10~16:20 休憩)
第二部 16:20~17:30
陳破空氏講演「My Story~民主化運動から亡命まで」(中国語、逐次通訳)
質疑応答、討論
このご案内は、転送大歓迎です!
ご関心のありそうな方に、ご案内頂けましたら嬉しいです。
天安門事件25周年 映画と講演の集い
及川淳子さん(研究分野は現代中国の言論空間。現在は、法政大学客員学術研究員、桜美林大学北東アジア総合研究所客員研究員、日本大学文理学部非常勤講師。著書『現代中国の言論空間と政治文化――「李鋭ネットワーク」の形成と変容』(御茶の水書房、2012年)など)から次の案内が来ています。転送歓迎ということですので掲載しました。(及川さん)今回、学内の人文科学研究所主催という形で、下記のイベントを企画しました。対外的にもオープンな企画で、事前の申し込みも特に必要ありませんので、ご関心とお時間がありましたら、ぜひご参加下さい。
第1部は、翰光監督の映画『亡命』(ダイジェスト版)を上映します。
すでに9日の東大でのイベントでご覧になっておられる方もいらっしゃると思います。今回は、上映会第二弾です!
29日は、第1、第2部の全体はもちろんですが、第2部のみのご参加も大歓迎です。
第2部は、天安門事件後に逮捕・投獄を経てアメリカに亡命した知識人、友人の陳破空さんが、今回ニューヨークから来日されるのに合わせた講演会です。陳破空さんは、昨年『赤い中国消滅』(扶桑新書)を刊行されました。今月は文春新書、今後は幻冬舎新書と出版予定も続き、ご活躍が注目されている方です。
今回は、翰光監督のご好意により、映画『亡命』の特別バージョンとして本編では公開されなかった陳破空さんのインタビューもあわせて上映する予定です。
なお、すでに報道もありますので、皆様ご存知の通りと存じますが、3日北京で、徐友漁さん、浦志強さんたちが、事件25周年記念の研究会を開催したことを理由に、現在、刑事拘留されています。とても厳しい状況です。
日本をはじめ、世界的にも注視され、支援の輪が広がっています。日本からのアピールについて、ご案内が重複している場合はお許しください。
最新情報として、本日18時のNHKニュースでの報道を、以下でご覧頂けます。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140513/k10014417281000.html
29日の企画では、本件に関する最新情報の共有を含めて、みなさまとも議論できればと考えています。
ご参加を心よりお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。 及川淳子
************ ご案内 *************
【映画と講演の集い】
天安門事件25周年によせて――活動家たちは今
【日時】2014年5月29日(木)14:45~17:30(最長18時まで)
【会場】日本大学文理学部 3号館3507教室
アクセス:http://www.chs.nihon-u.ac.jp/access/
キャンパスマップ:http://www.chs.nihon-u.ac.jp/about_chs/campus_map/
(3507教室は、3号館5階、エレベータ右手の大教室です)
【主催】日本大学文理学部人文科学研究所総合研究
「近現代におけるナショナリズムと歴史認識への各国の対応に関する研究」班
(代表:小浜正子・中国語中国文化学科教授)
【プログラム】
第一部 14:45~16:10
主旨説明(小浜正子) 講演者紹介(及川淳子・文理学部非常勤講師)
翰光監督講演「越境者・亡命者が語る近現代中国」(日本語)
映画『亡命 Outside the Great Wall』上映(ダイジェスト版、40分)
(16:10~16:20 休憩)
第二部 16:20~17:30
陳破空氏講演「My Story~民主化運動から亡命まで」(中国語、逐次通訳)
質疑応答、討論
このご案内は、転送大歓迎です!
ご関心のありそうな方に、ご案内頂けましたら嬉しいです。
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