オピニオン
2019.04.18
金正恩委員長は、ハノイでのトランプ大統領との会談において「北朝鮮は寧辺の核施設を廃棄し、米国はそれと引き換えに制裁を緩和ないし廃止する」という取引が成立すると予想していたことは誤りであったと悟ったのであろう。ハノイでの首脳会談後、李容浩外相に異例の記者会見を開き、北朝鮮の考えをあらためて説明させていた経緯がある。
今回の演説で、金委員長は「米国との間で信頼関係が欠けている現段階では、北朝鮮として、安全保障上、すべての核をさらけ出し、包括的に交渉の俎上に載せることはできない」ということを前面に押し出した。この考えは分かりやすく、各国から理解されやすい、米国に対して段階的非核化を説得するのに効果的だとみているのであろう。
これに対し、米国はあくまで「包括的非核化」であるが、金委員長は、米国がその考えを改めれば第3回の首脳会談に応じるとする一方、北朝鮮としては非核化の大方針は変えない姿勢を示し、また、トランプ委員長と「立派な関係を維持している」と述べている。金委員長は、今年いっぱいを期限とするなど、米国の対応いかんでは以前の敵対状況に立ち返ることも辞さないことを示唆しているが、基本的には硬軟両様でトランプ大統領と対話を続け、なんとか妥協して合意を成立させたい考えだと思われる。
また、北朝鮮は、対米交渉と並行して第三国に対しても自らの主張の正当性をアピールしようとしている。とくに、中国とロシアであり、中国については昨年から今年にかけ金委員長が4回も訪中した。
ロシアとの連携は遅れていたが、4月24日、金委員長はウラジオストックを訪問し、プーチン大統領と初めての会談を行うことになったという。
中国とロシアは北朝鮮にとって数少ない理解者であり、制裁についても一部の緩和ならば北朝鮮を支持している。金委員長は、中ロ両国が今後の対米交渉について力強い味方になると見ているのである。
「段階的非核化」を目標とする北朝鮮の基本方針は中ロに対してのみならず、その他の国に対しても分かりやすく、理解されやすい。北朝鮮は今後、各国の支持まで獲得するのは簡単でないが、理解を求めるためにアピールを強めるだろう。外務次官の崔善姫(チェ・ソンヒ)を最高人民会議で国務委員に抜擢したのはそのためだと思われる。
一方、「包括的非核化」を求める米国の主張は、核問題、特に検証の専門家からすれば絶対的に必要であるが、分かりにくいのが難点である。北朝鮮との交渉にたずさわっている米国の高官からも、「包括的非核化」の必要性を本当に理解しているか疑問に思われる発言で出てくるのが現実であり、トランプ大統領にとって金委員長が打ち出した新方針はなかなかの難物になると思われる。
なお、韓国の文在寅大統領は、平壌で最高人民会議が開催されているのと同時期に訪米してトランプ大統領と話し合い、北朝鮮との関係の打開を図ったが、トランプ大統領から好意的な反応は得られなかった。しかも、金委員長からは、「(米朝関係の)仲裁者や促進者のふるまいをせず、民族の利益を擁護する当事者になるべきだ」と厳しく批判された。これでは文大統領の立つ瀬がないが、金委員長の新方針には韓国に期待することを当面止めるということも含まれていたように思われる。
北朝鮮の対米非核化交渉新方針
北朝鮮では4月9日から労働党と国家の最重要会議が開催され、12日には金正恩委員長が演説を行い対米交渉などに関する方針を語った。労働党の会議は拡大政治局会議と中央委員会総会であり、国家の方は最高人民会議(国会に相当)であった。金正恩委員長は、ハノイでのトランプ大統領との会談において「北朝鮮は寧辺の核施設を廃棄し、米国はそれと引き換えに制裁を緩和ないし廃止する」という取引が成立すると予想していたことは誤りであったと悟ったのであろう。ハノイでの首脳会談後、李容浩外相に異例の記者会見を開き、北朝鮮の考えをあらためて説明させていた経緯がある。
今回の演説で、金委員長は「米国との間で信頼関係が欠けている現段階では、北朝鮮として、安全保障上、すべての核をさらけ出し、包括的に交渉の俎上に載せることはできない」ということを前面に押し出した。この考えは分かりやすく、各国から理解されやすい、米国に対して段階的非核化を説得するのに効果的だとみているのであろう。
これに対し、米国はあくまで「包括的非核化」であるが、金委員長は、米国がその考えを改めれば第3回の首脳会談に応じるとする一方、北朝鮮としては非核化の大方針は変えない姿勢を示し、また、トランプ委員長と「立派な関係を維持している」と述べている。金委員長は、今年いっぱいを期限とするなど、米国の対応いかんでは以前の敵対状況に立ち返ることも辞さないことを示唆しているが、基本的には硬軟両様でトランプ大統領と対話を続け、なんとか妥協して合意を成立させたい考えだと思われる。
また、北朝鮮は、対米交渉と並行して第三国に対しても自らの主張の正当性をアピールしようとしている。とくに、中国とロシアであり、中国については昨年から今年にかけ金委員長が4回も訪中した。
ロシアとの連携は遅れていたが、4月24日、金委員長はウラジオストックを訪問し、プーチン大統領と初めての会談を行うことになったという。
中国とロシアは北朝鮮にとって数少ない理解者であり、制裁についても一部の緩和ならば北朝鮮を支持している。金委員長は、中ロ両国が今後の対米交渉について力強い味方になると見ているのである。
「段階的非核化」を目標とする北朝鮮の基本方針は中ロに対してのみならず、その他の国に対しても分かりやすく、理解されやすい。北朝鮮は今後、各国の支持まで獲得するのは簡単でないが、理解を求めるためにアピールを強めるだろう。外務次官の崔善姫(チェ・ソンヒ)を最高人民会議で国務委員に抜擢したのはそのためだと思われる。
一方、「包括的非核化」を求める米国の主張は、核問題、特に検証の専門家からすれば絶対的に必要であるが、分かりにくいのが難点である。北朝鮮との交渉にたずさわっている米国の高官からも、「包括的非核化」の必要性を本当に理解しているか疑問に思われる発言で出てくるのが現実であり、トランプ大統領にとって金委員長が打ち出した新方針はなかなかの難物になると思われる。
なお、韓国の文在寅大統領は、平壌で最高人民会議が開催されているのと同時期に訪米してトランプ大統領と話し合い、北朝鮮との関係の打開を図ったが、トランプ大統領から好意的な反応は得られなかった。しかも、金委員長からは、「(米朝関係の)仲裁者や促進者のふるまいをせず、民族の利益を擁護する当事者になるべきだ」と厳しく批判された。これでは文大統領の立つ瀬がないが、金委員長の新方針には韓国に期待することを当面止めるということも含まれていたように思われる。
2019.04.16
とくに重要なのは、国際法の順守を中国に求めること、またそのための方策いかんである。この観点で誰もが思い浮かべることは南シナ海での中国の行動と国際仲裁判決の無視であろうが、南シナ海の問題は台湾や尖閣諸島とも共通点がある。中国はいずれについても「古くから中国の領土である」と主張しているが、その主張に根拠がないことは、南シナ海については国際仲裁裁判が判断を下している。
南シナ海と東シナ海はあい接して一つの海域を構成しており、台湾はその中間に位置している。南シナ海、東シナ海それに台湾の法的状況は基本的に同様である。中国は1992年、恣意的に「領海法」を制定してこれらを中国領であるとしたが、かりに国際裁判になれば、南シナ海と同様法的根拠はないという判断が下るだろう。
日中関係は現在良好になっている。官民の交流も増えている。そのような状況で日中両国が話し合う場合、見解が対立していることはお互いに話題にしたくないだろうが、国際法の順守を中国に求めることは、世界のため、また、中国自身のためにも必要なことであり、日本として時々の状況に応じて持ち出したり、引っ込めたりしてはならないが、現実にどのように扱うかはデリケートな問題であり、慎重な扱いが必要である。
日本としては中国の問題について米国と共通の立場を確認することが必要である。トランプ政権は何かにつけオバマ政権時代の方針を覆すが、南シナ海や台湾についてはオバマ時代よりもいっそう強く中国に国際法の順守を求めている。「自由の航行作戦」を継続しているのはそのためである。
今月末から3か月間に安倍首相はトランプ大統領と3回も会談をする可能性があり、中国との関係について意見交換するよい機会となる。
米国だけでない。EUも最近中国に対する警戒心を強めており、日本としてはEUとも米国と同様対中姿勢を確認し合うべきである。
おりしも、フィリピンの領有するスプラトリー(南沙)諸島のパグアサ島周辺では多数の中国漁船がフィリピン漁船の操業を妨げている。2016年6月に就任したドゥテルテ・フィリピン大統領は、中国との友好関係を重視し、国際仲裁判決を事実上棚上げにすることに応じたが、3年もたたずして、中国の拡張的行動に悩まされる結果になったのである。
台湾の関係では、これまで慣例的に守られてきた台湾と中国大陸との中間線を越えて中国の軍機が台湾側に侵入してきた。
5月初めには、世界保健機関(WHO)の年次総会が開かれる。中国は台湾を完全に排除しようとするだろう。
習近平政権は台湾の統一を実現するのに躍起となっており、これら以外にも様々な手を打ってくるだろう。
日米欧がこれらの問題について連携を強めることは喫緊の課題である。
日米首脳会談と中国
安倍首相の訪米日程は4月26〜27日を軸に調整中という。トランプ大統領との会談が実現すれば、政治面では北朝鮮に対する対応が主要な議題となるだろうが、中国との関係も話し合うべきである。とくに重要なのは、国際法の順守を中国に求めること、またそのための方策いかんである。この観点で誰もが思い浮かべることは南シナ海での中国の行動と国際仲裁判決の無視であろうが、南シナ海の問題は台湾や尖閣諸島とも共通点がある。中国はいずれについても「古くから中国の領土である」と主張しているが、その主張に根拠がないことは、南シナ海については国際仲裁裁判が判断を下している。
南シナ海と東シナ海はあい接して一つの海域を構成しており、台湾はその中間に位置している。南シナ海、東シナ海それに台湾の法的状況は基本的に同様である。中国は1992年、恣意的に「領海法」を制定してこれらを中国領であるとしたが、かりに国際裁判になれば、南シナ海と同様法的根拠はないという判断が下るだろう。
日中関係は現在良好になっている。官民の交流も増えている。そのような状況で日中両国が話し合う場合、見解が対立していることはお互いに話題にしたくないだろうが、国際法の順守を中国に求めることは、世界のため、また、中国自身のためにも必要なことであり、日本として時々の状況に応じて持ち出したり、引っ込めたりしてはならないが、現実にどのように扱うかはデリケートな問題であり、慎重な扱いが必要である。
日本としては中国の問題について米国と共通の立場を確認することが必要である。トランプ政権は何かにつけオバマ政権時代の方針を覆すが、南シナ海や台湾についてはオバマ時代よりもいっそう強く中国に国際法の順守を求めている。「自由の航行作戦」を継続しているのはそのためである。
今月末から3か月間に安倍首相はトランプ大統領と3回も会談をする可能性があり、中国との関係について意見交換するよい機会となる。
米国だけでない。EUも最近中国に対する警戒心を強めており、日本としてはEUとも米国と同様対中姿勢を確認し合うべきである。
おりしも、フィリピンの領有するスプラトリー(南沙)諸島のパグアサ島周辺では多数の中国漁船がフィリピン漁船の操業を妨げている。2016年6月に就任したドゥテルテ・フィリピン大統領は、中国との友好関係を重視し、国際仲裁判決を事実上棚上げにすることに応じたが、3年もたたずして、中国の拡張的行動に悩まされる結果になったのである。
台湾の関係では、これまで慣例的に守られてきた台湾と中国大陸との中間線を越えて中国の軍機が台湾側に侵入してきた。
5月初めには、世界保健機関(WHO)の年次総会が開かれる。中国は台湾を完全に排除しようとするだろう。
習近平政権は台湾の統一を実現するのに躍起となっており、これら以外にも様々な手を打ってくるだろう。
日米欧がこれらの問題について連携を強めることは喫緊の課題である。
2019.04.04
「多国籍軍」への自衛隊派遣については日本国憲法違反の疑いが濃厚である。政府は、派遣されるのは司令部であり、また、安全な地域だから日本のPKO原則に照らして問題ないとの趣旨の説明をしているが、「平和維持活動(PKO)」と「多国籍軍」は異なる性質の活動であり、PKOは紛争が終結した後の活動として国連で承認されているが、「多国籍軍」についてはそのような承認はなく、紛争の状態について意見が分かれる。この区別は極めて重要である。
安全か否かは極めて微妙な問題であり、安定的に安全であればPKOになる。シナイ半島ではPKOでなく、多国籍軍であるということは安定的に安全でないことを意味している。また、情勢は比較的短期間に変化しうる。
イラク戦争の際、日本は戦争が行われている地域の付近にまで自衛隊の部隊を派遣し、米軍への物資輸送など後方活動に従事させたが、戦争に参加はしなかったと説明した。この説明は国際的には通らない恐れが大きい。
日本国民は「多国籍軍」へ関与する覚悟があるのか、あらためて問われる。
以上は要点だけである。詳しい説明は当研究所HPの「2019.02.11 自衛隊の多国籍軍への派遣」、「2018.09.19 多国籍軍への自衛隊派遣」、「2014.06.21 集団安全保障へ参加する?」、「2014.06.05 PKOと多国籍軍への参加」などを参照されたい。
シナイ半島多国籍軍への自衛隊員派遣
日本政府は4月2日の閣議でシナイ半島で活動する多国籍軍への自衛官2名の派遣を決定した。これは改正安保法により可能となった「国際連携平和安全活動」として初めてのケースである。「多国籍軍」への自衛隊派遣については日本国憲法違反の疑いが濃厚である。政府は、派遣されるのは司令部であり、また、安全な地域だから日本のPKO原則に照らして問題ないとの趣旨の説明をしているが、「平和維持活動(PKO)」と「多国籍軍」は異なる性質の活動であり、PKOは紛争が終結した後の活動として国連で承認されているが、「多国籍軍」についてはそのような承認はなく、紛争の状態について意見が分かれる。この区別は極めて重要である。
安全か否かは極めて微妙な問題であり、安定的に安全であればPKOになる。シナイ半島ではPKOでなく、多国籍軍であるということは安定的に安全でないことを意味している。また、情勢は比較的短期間に変化しうる。
イラク戦争の際、日本は戦争が行われている地域の付近にまで自衛隊の部隊を派遣し、米軍への物資輸送など後方活動に従事させたが、戦争に参加はしなかったと説明した。この説明は国際的には通らない恐れが大きい。
日本国民は「多国籍軍」へ関与する覚悟があるのか、あらためて問われる。
以上は要点だけである。詳しい説明は当研究所HPの「2019.02.11 自衛隊の多国籍軍への派遣」、「2018.09.19 多国籍軍への自衛隊派遣」、「2014.06.21 集団安全保障へ参加する?」、「2014.06.05 PKOと多国籍軍への参加」などを参照されたい。
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