朝鮮半島
2018.04.12
一方、韓国を訪問中の河野外相は11日、文在寅大統領、康京和外相と相次いで会談した。拉致問題については、河野外相は康外相に対し、「27日に予定されている南北首脳会談の場でぜひ取り上げていただきたい」と求めたが、康氏は「現段階でどんな問題を議題にするかはわからない」と回答した。ただし、これは韓国側の説明だ。日本側ではこの点について説明していないことを見ると、日本側が期待していた「議題にする確約」は得られなかったらしい。
ともかく、日本が拉致問題について米国および韓国の協力を求めるのは当然だし、日本政府の努力を積極的に評価したい。
しかし、日本は、拉致問題の解決について米韓に協力を求めるだけで足りない。日本自身の解決努力が第一に必要である。日本が自ら解決の努力をしてこそ、第三国に協力を求めることができる。
しかるに、政府は総論的、あるいは原則論的に努力するとは言うが、実際どのような努力をしているのか。見えないし、日本政府は説明しない。安倍首相は、拉致被害者の家族に、「日本としては、何よりも大切な拉致問題が置いていかれては決してならない。日本の立場を改めて説明する」と述べたが、日本政府自身としてどのように努力しているのかについては説明しなかったのではないか。
日本政府には、拉致問題を解決できないのは北朝鮮側に責任があるという考えもあるだろう。我々としても、北朝鮮がこの解決のためどのような努力をしているのかよくわからないが、かりに、北朝鮮が何もしていなくても日本は自ら努力すべきである。
具体的には、二つの疑問がある。
一つは、拉致問題に関する「特別調査」の結果について、日本と北朝鮮の立場が違っている。北朝鮮は特別調査の結果を日本側に伝えたと主張しているが、日本側は受け取っていないという。この立場の違いを解消するのが先決である。拉致については機微な問題があるが、調査結果を提供した、いや、受け取っていないというのは事務的なことであり、一刻も早く解消すべきである。
第二は、横田めぐみさんの「遺骨」についても日本と北朝鮮の立場は異なっている。北朝鮮から提供された「遺骨」は横田めぐみさんのものではないと日本政府は判断したが、その根拠とされたDNA鑑定については、日本においても、疑義が提出されている。しかし、日本政府は鑑定の信頼性にまで踏み込んだ説明をしていない。また、鑑定をした専門家に対するアクセスをシャットアウトしているともいわれている。
ともかく、日本政府はこの点についても立場の相違を解消するため努力すべきである。
日本が自ら努力しているか否かは、米国や韓国にとっても重要なはずである。どちらも外交的な儀礼は欠かさず、丁寧に対応するだろうが、日本が自助努力をしているか、注視していることは間違いない。
拉致問題を日本として解決する必要がある
安倍首相は、4月17,18日にトランプ大統領と会談し、拉致問題の解決に向け協力を求める。日米間ではすでに事前の折衝が行われており、米政府の高官は、米朝首脳会談で日本人の拉致問題を提起することになっていると述べたという。ただし、別の高官は、協議での優先順位には差があると述べたともいう。米国にとって北朝鮮の非核化が最優先課題であることは明らかだ。一方、韓国を訪問中の河野外相は11日、文在寅大統領、康京和外相と相次いで会談した。拉致問題については、河野外相は康外相に対し、「27日に予定されている南北首脳会談の場でぜひ取り上げていただきたい」と求めたが、康氏は「現段階でどんな問題を議題にするかはわからない」と回答した。ただし、これは韓国側の説明だ。日本側ではこの点について説明していないことを見ると、日本側が期待していた「議題にする確約」は得られなかったらしい。
ともかく、日本が拉致問題について米国および韓国の協力を求めるのは当然だし、日本政府の努力を積極的に評価したい。
しかし、日本は、拉致問題の解決について米韓に協力を求めるだけで足りない。日本自身の解決努力が第一に必要である。日本が自ら解決の努力をしてこそ、第三国に協力を求めることができる。
しかるに、政府は総論的、あるいは原則論的に努力するとは言うが、実際どのような努力をしているのか。見えないし、日本政府は説明しない。安倍首相は、拉致被害者の家族に、「日本としては、何よりも大切な拉致問題が置いていかれては決してならない。日本の立場を改めて説明する」と述べたが、日本政府自身としてどのように努力しているのかについては説明しなかったのではないか。
日本政府には、拉致問題を解決できないのは北朝鮮側に責任があるという考えもあるだろう。我々としても、北朝鮮がこの解決のためどのような努力をしているのかよくわからないが、かりに、北朝鮮が何もしていなくても日本は自ら努力すべきである。
具体的には、二つの疑問がある。
一つは、拉致問題に関する「特別調査」の結果について、日本と北朝鮮の立場が違っている。北朝鮮は特別調査の結果を日本側に伝えたと主張しているが、日本側は受け取っていないという。この立場の違いを解消するのが先決である。拉致については機微な問題があるが、調査結果を提供した、いや、受け取っていないというのは事務的なことであり、一刻も早く解消すべきである。
第二は、横田めぐみさんの「遺骨」についても日本と北朝鮮の立場は異なっている。北朝鮮から提供された「遺骨」は横田めぐみさんのものではないと日本政府は判断したが、その根拠とされたDNA鑑定については、日本においても、疑義が提出されている。しかし、日本政府は鑑定の信頼性にまで踏み込んだ説明をしていない。また、鑑定をした専門家に対するアクセスをシャットアウトしているともいわれている。
ともかく、日本政府はこの点についても立場の相違を解消するため努力すべきである。
日本が自ら努力しているか否かは、米国や韓国にとっても重要なはずである。どちらも外交的な儀礼は欠かさず、丁寧に対応するだろうが、日本が自助努力をしているか、注視していることは間違いない。
2018.04.04
韓国は「朝鮮半島の非核化」を主張している。「北朝鮮の非核化」に反対しているのではないが、それは一部の問題であると考えているのだろう。文在寅大統領が示した「包括的かつ段階的な方法」は「朝鮮半島の非核化」問題である。
これまで、韓国は「北朝鮮の非核化」に関われないできた。北朝鮮が、この問題は米国だけが相手であるとして韓国の関与を拒否してきたからである。米国だけが相手だというのは、朝鮮戦争以来の経緯からして北朝鮮に脅威を与えているのは米国だけであり、米国からの脅威に対抗するため核やミサイルを開発しているという考えに基づいていた。
実際、多国間協議の場で北朝鮮の代表と同席することになった韓国代表が話し合いを持ちかけても北朝鮮側はかたくなに拒否し続けた。
また、韓国は米国からも冷たくあしらわれてきた。文在寅大統領になってから韓国に対する米国の信頼はいっそう低下し、韓国が南北関係を改善しようとする姿勢を見せるのに対し、非核化問題については余計なことをするなと言わんばかりのサインを送っていた。
ところが、金正恩委員長が対外協調姿勢を取り始めてから状況が一変し、韓国は「北朝鮮の非核化」の舞台に突然躍り出ることとなった。
北朝鮮が変化したのは、制裁がかつてないほど強化され、経済に著しい悪影響が生じる恐れが出てきたことと、核とミサイルの開発が進展し、金委員長の言葉では、ほぼ完成に近づいたことが理由であった。そして、金委員長は、それまでの韓国に対する拒否方針をかなぐり捨て、一転して韓国に抱き着き、突破口を開いたのである。平昌オリンピックはそのために格好の舞台となった。
一方、米国が求めているのは、「北朝鮮の非核化」であり、「韓国の非核化」は問題でなくなっている。米国はかつて韓国内に核兵器を保有していたが、冷戦終結後の1991年に撤去したので、韓国内には核兵器は存在しない。その意味では、米国にとって「北朝鮮の非核化」でも「朝鮮半島の非核化」でも同じことになっているのである。
ただし、そういうと第2回目の関連記事で述べたように、「核の傘」の問題があるから、「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」はやはり違うという指摘が出るかもしれないが、それは物事の反面しか見ない議論であることは前述した。
しかし、米国が「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」とを明確に区別しているか、よくわからない。2005年9月の6者協議共同声明は、「6者は、6者会議の目標は、平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化であることを一致して再確認した」と謳った。6者とは、北朝鮮、韓国、日本、中国、米国およびロシアであり、米国も「朝鮮半島の非核化」として扱うことに同意したのである。
経緯はともかく、米国の現在の立場は何か。また、来る米朝首脳会議で米国はどのような立場で臨むだろうか。
米国にとって最重要課題の「北朝鮮の非核化」を達成できるのであれば、「朝鮮半島の非核化」として扱ってもよいと考えるかもしれない。前述の共同声明はそのことを示唆しているが、核の傘、在韓米軍の撤退、在韓米軍に対する査察などはほんとうに受け入れる姿勢があるか、疑問なしとしない。「朝鮮半島の非核化」は、米国は表立って反対していないが、本当は受け入れ難い面があるのではないか。
さらに、米朝対話を成功させるという目的からすれば、変数の多い「朝鮮半島の非核化」より「北朝鮮の非核化」に焦点を絞り、関連する「韓国の非核化」問題、すなわち、在韓米軍に対する査察やその撤退問題はその枠内で処理するのが得策である。
核の傘問題は、韓国のみならず、北朝鮮にもありうることとして見直すべきである。私見では、この問題を「朝鮮半島の非核化」に含めると、米朝間の対話は先へ進めなくなると思う。
米国には、これまでの方針、すなわち、2005年の6者協議から変化していない考えも依然として有力である。そんな中にあってトランプ大統領はどのような考えで臨むのか。これが最大の不透明要因かもしれない。
「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か―米韓の相違
「北朝鮮の非核化か朝鮮半島の非核化か」シリーズの第3回。北朝鮮の非核化問題について各国の立場は一致していない。韓国は「朝鮮半島の非核化」を主張している。「北朝鮮の非核化」に反対しているのではないが、それは一部の問題であると考えているのだろう。文在寅大統領が示した「包括的かつ段階的な方法」は「朝鮮半島の非核化」問題である。
これまで、韓国は「北朝鮮の非核化」に関われないできた。北朝鮮が、この問題は米国だけが相手であるとして韓国の関与を拒否してきたからである。米国だけが相手だというのは、朝鮮戦争以来の経緯からして北朝鮮に脅威を与えているのは米国だけであり、米国からの脅威に対抗するため核やミサイルを開発しているという考えに基づいていた。
実際、多国間協議の場で北朝鮮の代表と同席することになった韓国代表が話し合いを持ちかけても北朝鮮側はかたくなに拒否し続けた。
また、韓国は米国からも冷たくあしらわれてきた。文在寅大統領になってから韓国に対する米国の信頼はいっそう低下し、韓国が南北関係を改善しようとする姿勢を見せるのに対し、非核化問題については余計なことをするなと言わんばかりのサインを送っていた。
ところが、金正恩委員長が対外協調姿勢を取り始めてから状況が一変し、韓国は「北朝鮮の非核化」の舞台に突然躍り出ることとなった。
北朝鮮が変化したのは、制裁がかつてないほど強化され、経済に著しい悪影響が生じる恐れが出てきたことと、核とミサイルの開発が進展し、金委員長の言葉では、ほぼ完成に近づいたことが理由であった。そして、金委員長は、それまでの韓国に対する拒否方針をかなぐり捨て、一転して韓国に抱き着き、突破口を開いたのである。平昌オリンピックはそのために格好の舞台となった。
一方、米国が求めているのは、「北朝鮮の非核化」であり、「韓国の非核化」は問題でなくなっている。米国はかつて韓国内に核兵器を保有していたが、冷戦終結後の1991年に撤去したので、韓国内には核兵器は存在しない。その意味では、米国にとって「北朝鮮の非核化」でも「朝鮮半島の非核化」でも同じことになっているのである。
ただし、そういうと第2回目の関連記事で述べたように、「核の傘」の問題があるから、「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」はやはり違うという指摘が出るかもしれないが、それは物事の反面しか見ない議論であることは前述した。
しかし、米国が「北朝鮮の非核化」と「朝鮮半島の非核化」とを明確に区別しているか、よくわからない。2005年9月の6者協議共同声明は、「6者は、6者会議の目標は、平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化であることを一致して再確認した」と謳った。6者とは、北朝鮮、韓国、日本、中国、米国およびロシアであり、米国も「朝鮮半島の非核化」として扱うことに同意したのである。
経緯はともかく、米国の現在の立場は何か。また、来る米朝首脳会議で米国はどのような立場で臨むだろうか。
米国にとって最重要課題の「北朝鮮の非核化」を達成できるのであれば、「朝鮮半島の非核化」として扱ってもよいと考えるかもしれない。前述の共同声明はそのことを示唆しているが、核の傘、在韓米軍の撤退、在韓米軍に対する査察などはほんとうに受け入れる姿勢があるか、疑問なしとしない。「朝鮮半島の非核化」は、米国は表立って反対していないが、本当は受け入れ難い面があるのではないか。
さらに、米朝対話を成功させるという目的からすれば、変数の多い「朝鮮半島の非核化」より「北朝鮮の非核化」に焦点を絞り、関連する「韓国の非核化」問題、すなわち、在韓米軍に対する査察やその撤退問題はその枠内で処理するのが得策である。
核の傘問題は、韓国のみならず、北朝鮮にもありうることとして見直すべきである。私見では、この問題を「朝鮮半島の非核化」に含めると、米朝間の対話は先へ進めなくなると思う。
米国には、これまでの方針、すなわち、2005年の6者協議から変化していない考えも依然として有力である。そんな中にあってトランプ大統領はどのような考えで臨むのか。これが最大の不透明要因かもしれない。
2018.04.02
「韓国は米国の核の傘の下にない」というのではないが、韓国は、必要な場合、米国はかならず核で守ってくれるか、不安を抱えている。
この問題は両国間の同盟条約の文言に基本的な原因がある。すなわち、米韓相互防衛条約第2条では、韓国はその防衛に米国の協力を得ることになっているが、脅威が発生した場合はまず米国と「協議」することになっており、米国が自動的に行動することにはなっていないのである。
ちなみに、日米安保条約にも「協議」についての条項はある(日米安保条約第4条)が、米韓条約とは違って「随時協議」することになっているだけであり、韓国の「脅威」とは意味合いがかなり異なる。
このほか、米韓条約の場合は、米韓両国は「武力攻撃を抑止するための力を維持・発展させる」ことが決められている(第2条後段)一方、日米安保条約の場合は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持し発展させる」と規定されているなど違いもあり、その解釈次第で米韓で想定されている抑止力は必ずしも弱くないと言えるだろう。
ともかく、韓国側では、北朝鮮が盛んに核・ミサイルの実験をするにともない、米国の義務を強固にしたいという気持ちが強くなり、米国に対し、2016年5月には核兵器の「共同管理」を要望し、8月には第三国からの核の脅威に「核の傘を必ず提供するという確実な保障」を求めたが、米国はいずれの要望も断った。
「共同管理」は米国と欧州諸国との間で部分的に行われているが、それはNATOのもとであり、韓国に米国が認めることはあり得ない。
「核の傘を提供するという確実な補償」も、米国はその核政策に反するので、韓国の要望を断ったのは仕方がないことであった。
「朝鮮半島の非核化」の場合は、北朝鮮についても厄介な問題がありうる。かりに、北朝鮮が非核化に同意することになれば、韓国だけでなく、北朝鮮についても実は類似の問題が出てきうるからである。
北朝鮮はかつて中国およびソ連と軍事同盟条約を結んでいたが、ソ連崩壊後、ソ連(ロシア)との条約は失効した。しかし、中国との条約は今日も有効である。と言っても、冷戦終結後の国際情勢は大きく変化し、この条約はすでに形骸化しているとの見方もあるほどである。しかし、それは中国政府の公式の見方ではなく、同条約第2条の、「両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」といういわゆる参戦条項は厳然と残っており、この条約に基づいて中国は北朝鮮に核の傘を提供する義務があると解釈可能だろう。
今のところ、北朝鮮が中国の核の傘の下にあるということは議論されないが、北朝鮮が非核化した場合にはこの問題が出てくる可能性があり、そうなると、韓国に対する米国の核の傘以上に扱いにくい問題となるだろう。
要するに、「朝鮮半島の非核化」の場合に、核の傘は韓国だけでなく北朝鮮についても問題となりうるのだ。
しかるに、このように複雑な核の傘問題をトランプ大統領と金委員長だけで解決できるとは到底思えない。両首脳の能力のためではなく、核の傘の問題は専門的な見地から慎重に扱わなければ混乱に陥るからである。そのように考えると、「朝鮮半島の非核化」はますます米朝首脳会談の目標とすべきでないのである。
「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か-核の傘
「北朝鮮の非核化」か「朝鮮半島の非核化」か。後者であれば米国が韓国に与えている「核の傘」も協議の対象になるとよく指摘される。これは常識的な見方だが、一歩踏み込んでみると核の傘については複雑な面がある。「韓国は米国の核の傘の下にない」というのではないが、韓国は、必要な場合、米国はかならず核で守ってくれるか、不安を抱えている。
この問題は両国間の同盟条約の文言に基本的な原因がある。すなわち、米韓相互防衛条約第2条では、韓国はその防衛に米国の協力を得ることになっているが、脅威が発生した場合はまず米国と「協議」することになっており、米国が自動的に行動することにはなっていないのである。
ちなみに、日米安保条約にも「協議」についての条項はある(日米安保条約第4条)が、米韓条約とは違って「随時協議」することになっているだけであり、韓国の「脅威」とは意味合いがかなり異なる。
このほか、米韓条約の場合は、米韓両国は「武力攻撃を抑止するための力を維持・発展させる」ことが決められている(第2条後段)一方、日米安保条約の場合は「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持し発展させる」と規定されているなど違いもあり、その解釈次第で米韓で想定されている抑止力は必ずしも弱くないと言えるだろう。
ともかく、韓国側では、北朝鮮が盛んに核・ミサイルの実験をするにともない、米国の義務を強固にしたいという気持ちが強くなり、米国に対し、2016年5月には核兵器の「共同管理」を要望し、8月には第三国からの核の脅威に「核の傘を必ず提供するという確実な保障」を求めたが、米国はいずれの要望も断った。
「共同管理」は米国と欧州諸国との間で部分的に行われているが、それはNATOのもとであり、韓国に米国が認めることはあり得ない。
「核の傘を提供するという確実な補償」も、米国はその核政策に反するので、韓国の要望を断ったのは仕方がないことであった。
「朝鮮半島の非核化」の場合は、北朝鮮についても厄介な問題がありうる。かりに、北朝鮮が非核化に同意することになれば、韓国だけでなく、北朝鮮についても実は類似の問題が出てきうるからである。
北朝鮮はかつて中国およびソ連と軍事同盟条約を結んでいたが、ソ連崩壊後、ソ連(ロシア)との条約は失効した。しかし、中国との条約は今日も有効である。と言っても、冷戦終結後の国際情勢は大きく変化し、この条約はすでに形骸化しているとの見方もあるほどである。しかし、それは中国政府の公式の見方ではなく、同条約第2条の、「両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」といういわゆる参戦条項は厳然と残っており、この条約に基づいて中国は北朝鮮に核の傘を提供する義務があると解釈可能だろう。
今のところ、北朝鮮が中国の核の傘の下にあるということは議論されないが、北朝鮮が非核化した場合にはこの問題が出てくる可能性があり、そうなると、韓国に対する米国の核の傘以上に扱いにくい問題となるだろう。
要するに、「朝鮮半島の非核化」の場合に、核の傘は韓国だけでなく北朝鮮についても問題となりうるのだ。
しかるに、このように複雑な核の傘問題をトランプ大統領と金委員長だけで解決できるとは到底思えない。両首脳の能力のためではなく、核の傘の問題は専門的な見地から慎重に扱わなければ混乱に陥るからである。そのように考えると、「朝鮮半島の非核化」はますます米朝首脳会談の目標とすべきでないのである。
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