オピニオン
2016.07.06
南シナ海の調査をしたのは英国の東インド会社(EIC 1600年設立)やフランスの東インド会社(1604年設立)であり、EICは平戸に1604年商館を設置しており、17世紀の初頭には南シナ海にとどまらず、東シナ海から、さらに我が国まで行動範囲を拡大していた。それだけ航海能力があったからであり、当時彼らが世界で最もよく南シナ海の情勢を把握していたと思われる。
調査結果を示す海図が現存している。EICは18世紀の終わりころから専門の水路測量学者に南シナ海の実情を調査させ、1821年に南シナ海の海図を出版した。この海図はインターネット上で閲覧可能である(”A Geographical Description of the Spratly Islands and an Account of Hydrographic Surveys Amongst those Islands”で検索可能)。
これより以前、17世紀の初期に作られていた南シナ海の海図があり、現在は英オクスフォード大学のポドリアン図書館に保存されている。南シナ海の地図としてはこちらのほうがむしろ有名であり、2014年に米紙(ウォールストリート・ジャーナル)が報道したので広く知られているが、日本ではあまり注意されなかったようだ。
残念ながらこの地図の制作者は不明だが、やはりEICが関係していた可能性がある。この地図がカバーしているのは、北東は日本から、南はチモール島までであり、南シナ海も東シナ海も含んでおり、中国の泉州港からこの海域の主要港との間の方位と距離が示しているのが特徴だ。ビル・ヘイトンの『南シナ海』によれば、この地図は「南シナ海の歴史に対する見かたをがらりと変えた」といわれるほど歴史資料として価値があったらしい。
航行の目的地までの方位と距離に関する情報として東インド会社が製作した地図が活用されたのであろう。アジアのことについて英国やフランスの情報が頼りにされたのだが、当時の歴史的状況に照らせば自然なことだった。
ポドリアン図書館の地図は中国との関係を詳しく説明しているが、それは取引上の便宜によることであり、地図の制作者は一方で広大な海域を範囲に収めつつ、他方で、中国の泉州港を経由する貿易の便宜を考慮していた。
領土問題が起こるのはもっと後のことである。中国領土の範囲について、18世紀以来の中国の資料は一貫して海南島を最南端としていた。
(短文)南シナ海に関し東インド会社の資料が物語ること
あまり語られないことだが、英国やフランス(英国人やフランス人というほうが適切かもしれないが)は17世紀からスプラトリー諸島(南沙諸島)を知っていた。もちろん、地元の漁民は彼らが関係する限りにおいて状況をよく知っていただろうが、英国やフランスは外来者であったために調査が必要であり、またその結果比較的系統だって南シナ海の実情を知ることになったと思われる。南シナ海の調査をしたのは英国の東インド会社(EIC 1600年設立)やフランスの東インド会社(1604年設立)であり、EICは平戸に1604年商館を設置しており、17世紀の初頭には南シナ海にとどまらず、東シナ海から、さらに我が国まで行動範囲を拡大していた。それだけ航海能力があったからであり、当時彼らが世界で最もよく南シナ海の情勢を把握していたと思われる。
調査結果を示す海図が現存している。EICは18世紀の終わりころから専門の水路測量学者に南シナ海の実情を調査させ、1821年に南シナ海の海図を出版した。この海図はインターネット上で閲覧可能である(”A Geographical Description of the Spratly Islands and an Account of Hydrographic Surveys Amongst those Islands”で検索可能)。
これより以前、17世紀の初期に作られていた南シナ海の海図があり、現在は英オクスフォード大学のポドリアン図書館に保存されている。南シナ海の地図としてはこちらのほうがむしろ有名であり、2014年に米紙(ウォールストリート・ジャーナル)が報道したので広く知られているが、日本ではあまり注意されなかったようだ。
残念ながらこの地図の制作者は不明だが、やはりEICが関係していた可能性がある。この地図がカバーしているのは、北東は日本から、南はチモール島までであり、南シナ海も東シナ海も含んでおり、中国の泉州港からこの海域の主要港との間の方位と距離が示しているのが特徴だ。ビル・ヘイトンの『南シナ海』によれば、この地図は「南シナ海の歴史に対する見かたをがらりと変えた」といわれるほど歴史資料として価値があったらしい。
航行の目的地までの方位と距離に関する情報として東インド会社が製作した地図が活用されたのであろう。アジアのことについて英国やフランスの情報が頼りにされたのだが、当時の歴史的状況に照らせば自然なことだった。
ポドリアン図書館の地図は中国との関係を詳しく説明しているが、それは取引上の便宜によることであり、地図の制作者は一方で広大な海域を範囲に収めつつ、他方で、中国の泉州港を経由する貿易の便宜を考慮していた。
領土問題が起こるのはもっと後のことである。中国領土の範囲について、18世紀以来の中国の資料は一貫して海南島を最南端としていた。
2016.07.01
予想される英国とEUとの交渉はどうなるか。英国はEUを離脱しても欧州の大国であり、NATOはもちろん、その他の分野でも果たす役割は大きい。移民・難民についても英国の歴史的責任は大きく、結局はEUともよく協力していかなければならない。英国の国際社会における地位や重要性は低下するとみられているが、英国の外交力は今後も健在だ。中国との接近は注目すべきだ。日本にとっても今後の英国の役割をどのように考えるか検討が必要だ。
英国のEU離脱-その1
東洋経済オンラインに6月27日、「英国のEU離脱と中国への接近」の一文を寄稿した。要点は以下の通りだ。予想される英国とEUとの交渉はどうなるか。英国はEUを離脱しても欧州の大国であり、NATOはもちろん、その他の分野でも果たす役割は大きい。移民・難民についても英国の歴史的責任は大きく、結局はEUともよく協力していかなければならない。英国の国際社会における地位や重要性は低下するとみられているが、英国の外交力は今後も健在だ。中国との接近は注目すべきだ。日本にとっても今後の英国の役割をどのように考えるか検討が必要だ。
2016.06.30
3日間に2回の中ロ首脳会談であり、しかも、プーチン大統領の北京滞在は24時間に満たなかった。プーチン大統領がこのような日程をよく受け入れたものだと思う。
中国側はプーチン大統領の訪問を、時間は短かったが「公式訪問」と位置付けた。そうすると派手な歓迎行事が可能となるからだろう。また25日には、中国が力を入れているアジアインフラ投資銀行の第1回年次総会を北京で開くというお膳立てまでした。プーチン大統領としてAIIB総会への出席という目的が加われば訪中しやすくなるからではなかったか。
中国はなぜそのような行動に出たのか。それは、中国が国際的な活動の中心であることを示し、中国の国際的重要性をアピールしようとしたためだろう。このような発想は他の国にもあるが、中国には特に強い。
中国が激しく動いている背景には、南シナ海での紛争に関しフィリピンが申し立てていた国際仲裁裁判の決定が7月12日に下ることがあるが、本論ではそのことはさておいて、中国とロシアが密接に協力し合っていることが日本にどのような影響があるかに注目した。
中国側からロシア側に対して共同行動を持ちかけることが多く、ロシア側はそれに対して、いわば「お付き合いしている」という感じである。先般、我が国の領海・接続水域付近で中ロ両国による艦船が通過したのも類似の例だった。さらに以前には、東シナ海の尖閣諸島に近いところで合同演習を行ったこともある。中ロ両国は事実上同盟関係にあるという人もいるが、中国からの願い事はできるだけ応じるというのがロシアの方針らしい。
ロシアの海軍はわが海上自衛隊とも一定の友好関係にあるが、政治の影響を受けるのは避けがたい。一方、太平洋地域においてロシア海軍は中国海軍と利益を異にすることもあるが、最近は協力的行動が目立っている。
ロシアとして、現在の最大問題は米国への対抗であり、ロシアと米国の関係は「新冷戦」と呼ばれることもあるほど低調だ。ロシアはそのためにも中国と協力することを基本方針にしており、単に「お付き合いしている」という程度のことではなくなっているようだ。このような状況のなかでロシアは日本との交渉に熱を入れられるだろうか。少なくとも日本はロシアをめぐる国際情勢には十分な注意が必要だ。
(短評)日ロ交渉と国際情勢
中ロ両国が緊密な関係を誇示している。習近平主席とプーチン大統領はウズベキスタンの首都タシケントで開かれた上海協力機構首脳会議の前日(6月23日)に会談したばかりであったが、25日、北京に移動して再度会談した。3日間に2回の中ロ首脳会談であり、しかも、プーチン大統領の北京滞在は24時間に満たなかった。プーチン大統領がこのような日程をよく受け入れたものだと思う。
中国側はプーチン大統領の訪問を、時間は短かったが「公式訪問」と位置付けた。そうすると派手な歓迎行事が可能となるからだろう。また25日には、中国が力を入れているアジアインフラ投資銀行の第1回年次総会を北京で開くというお膳立てまでした。プーチン大統領としてAIIB総会への出席という目的が加われば訪中しやすくなるからではなかったか。
中国はなぜそのような行動に出たのか。それは、中国が国際的な活動の中心であることを示し、中国の国際的重要性をアピールしようとしたためだろう。このような発想は他の国にもあるが、中国には特に強い。
中国が激しく動いている背景には、南シナ海での紛争に関しフィリピンが申し立てていた国際仲裁裁判の決定が7月12日に下ることがあるが、本論ではそのことはさておいて、中国とロシアが密接に協力し合っていることが日本にどのような影響があるかに注目した。
中国側からロシア側に対して共同行動を持ちかけることが多く、ロシア側はそれに対して、いわば「お付き合いしている」という感じである。先般、我が国の領海・接続水域付近で中ロ両国による艦船が通過したのも類似の例だった。さらに以前には、東シナ海の尖閣諸島に近いところで合同演習を行ったこともある。中ロ両国は事実上同盟関係にあるという人もいるが、中国からの願い事はできるだけ応じるというのがロシアの方針らしい。
ロシアの海軍はわが海上自衛隊とも一定の友好関係にあるが、政治の影響を受けるのは避けがたい。一方、太平洋地域においてロシア海軍は中国海軍と利益を異にすることもあるが、最近は協力的行動が目立っている。
ロシアとして、現在の最大問題は米国への対抗であり、ロシアと米国の関係は「新冷戦」と呼ばれることもあるほど低調だ。ロシアはそのためにも中国と協力することを基本方針にしており、単に「お付き合いしている」という程度のことではなくなっているようだ。このような状況のなかでロシアは日本との交渉に熱を入れられるだろうか。少なくとも日本はロシアをめぐる国際情勢には十分な注意が必要だ。
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