平和外交研究所

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2014.02.08

百田氏発言と米国の批判

NHK経営委員の百田尚樹氏が東京都知事選の応援演説で米軍による原爆投下や東京大空襲を批判し「東京裁判は大虐殺をごまかすための裁判だった」などと述べたと伝えられている。応援演説の場であったため正確な表現を確かめることは困難であるが、日本の新聞のみならず米国でもそのように報道されており、それに基づいて米国務省がコメントしたのに対し百田氏は反論していないようだ。報道内容は正しいものと考える。
百田氏の発言と相前後して、NHKの籾井会長による慰安婦問題に関する発言があり、昨年末の安倍首相による靖国神社参拝以来、先の大戦についての日本人の認識が問われる行動が相ついだ。
安倍首相の靖国神社参拝と百田氏の発言について米国は否定的なコメントを発表し、籾井発言についてはとくにそうしなかったが、慰安婦問題についての米国の考えはすでに明確になっており、どの問題であれ、いわゆる歴史問題について日本から時折出てくる、日本だけが責められるべきでないという趣旨の主張には批判的である。
百田発言については、朝日新聞によると、「米国務省の報道官は7日、「不合理な示唆だ。日本の責任ある立場の人々は地域の緊張を高めるようなコメントを避けることを望む」と反論した。米タイム誌(電子版)が7日、在日米国大使館の談話としてこの発言を報道。朝日新聞が米国務省に確認したところ、同じ文言の反論を国務省報道官名で回答した。」と少々わかりにくいが、要するに、米国は百田発言に対して否定的である。
引用された米タイム誌は、次のように述べている。
In the clearest signal yet of U.S. unhappiness with the rightward tilt of Japan’s political
leadership – and by extension, Prime Minister Shinzo Abe — the U.S. Embassy in Tokyo condemned
charges by a top official at Japan’s national public broadcaster that Americans fabricated war crimes
against Japanese leaders during World War II in order to cover up American atrocities.
“These suggestions are preposterous. We hope that people in positions of responsibility in Japan and
elsewhere would seek to avoid comments that inflame tensions in the region,” an embassy spokesman
said early Friday.
この英文は朝日新聞の報道より強烈である。とくに、米大使館のスポークスマンが百田氏の主張をcondemnしたと表現している点である。辞書ではcondemnは「強く非難する」などと訳されており「強く」に注目すべきであるが、それでも足りないくらい強い言葉であり、「断罪する」に近い意味である。「外交辞令を弄す」と揶揄される傾向のある外交官のコメントについて記者(Kirk Spitzer)はそのような強烈な言葉を使って伝えているのであり、よほどのことであると見なければならない。
百田氏の演説と米側の反応のいずれが正しいか。あきらかに米側の反応のほうが正しい。百田氏の演説は日本人からも支持されないと思う。それは一方的で、日本が戦争したことは悪くなかったと開き直ろうとする姿勢さえ感じさせるものである。
百田氏のような発言は日本国の利益を損ねる。日本政府にとっても有害である。言うまでもないが、日本の安全は日米安保条約によって保たれているが、それが信頼できるものであるためには日米両国が冷静に、合理的に行動することが必要であり、先の戦争において日本が行ったことは悪くなかったという趣旨の主張はもっとも有害であり、日米間の信頼関係を損なう。百田氏のような発言が日本で執拗に繰り返されれば米国が感情的に反発する恐れもあることに早く気付くべきである。

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2014.02.07

ソチ・オリンピックの陰にある政治問題

2月6日付のSIPRI(ストックホルム国際平和研究所)レポートは、ソチ・オリンピックを成功させるためプーチン政権は500億ドル以上の投資を行ない、4万人もの警備員を投入しているが、すでに深刻な政治・国際問題が発生し、オリンピックが成功しても後に禍根が残るであろうという、Neil Melvin研究員のレポートを掲載している。

○プーチン政権が投下した資本はこれまでのどの冬季オリンピックより多額であるが、汚職、ネポティズム(縁故主義)、無能などのため、現地の経済はほとんど潤っていない。ソチ内外の村落は強制的に移住させられ、労働者は苛酷な待遇を強いられ、環境は破壊されており、現地の人たちの間には不満が高じている。
○ソチは紛争に明け暮れている北コーカサス地方にあり、プーチン政権は安全確保のため厳しい取り締まりを行なっている。その結果、紛争地域で続けられてきた対話と交渉は影を潜め、弾圧が強化されている。また、ロシアのかつての植民地政策によって引き起こされたサーカシアとの国境紛争に火をつける結果となっている。
○ロシアの警備隊は、安全対策として南オセチアで防御壁、監視カメラおよび国境検問所を設置したが、これらの措置はグルジアでの紛争を激化させている。
○この1月、ロシア政府はテロ対策と称して、ロシアと隣接するアブハジア地方との間で争いの対象となっている地域をソチ周辺の安全地帯に含めると発表した。これに対し、グルジア政府とNATOの事務総長はロシアの国境拡大に深刻な懸念を表明している。
○オリンピックは無事過ごせるかもしれないが、このままでは将来、地元の人々の不満がさらにひどくなり、暴力に転じる恐れがある。この地域で永続的な平和を実現するには地元の真のニーズにあった包括的・政治的なアプローチが必要である。

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2014.02.06

台湾人意識

昨年(2013年)末台湾を訪問し、友人に助けてもらって何人かの要人との面会が実現した。非常に限られた範囲の会話であり、安易に一般化すべきでないが、台湾では「中国人」と区別して「台湾人」でありたいと考える人が増えていることが強く印象に残った。
昨年8月初旬に実施された(発表は8月12日)台湾の世論調査によると、「台湾人と呼ばれたいか、それとも中国人と呼ばれたいか」という質問に対して、82.3%が「台湾人」と答え、「中国人」と回答したのはわずかに6.5%であった。
この調査は、2012年4月に設立された「台灣指標調查研究股份有限公司」、略して「台灣指標民調」、英文の略語はTISRによって行なわれたものである。この会社が設立される以前は、テレビ局や雑誌(「遠見雑誌」)などによって2003年から調査が行なわれており、TISRの調査は会社設立以前(2003年以降)のデータと比較が可能となっている。ただし、質問の仕方がまったく同じかなど、確かめる必要はある。
TISRによる世論調査はかなり客観性を追求しようとしていることが窺われる。台湾人の帰属意識については、同じ調査で、「台湾人96.5%」「中華民国人85.3%」「中華民族74.1%」「アジア人72.3%」「華人69.8%」「中国人43.5%」「中華人民共和国人7.5%」という結果になっている。全部足すと100%をはるかに超えるのは、複数の回答をしてもよいことになっていたからであるが、台湾人は複数の帰属意識を持っているので、このように質問するのは事実をそのまま反映させるのに有効である。この複数回答は政治的にも興味深い内容を含んでおり、本格的な研究に値するが、今日はこの問題に入らない。
この調査にはもう一つ、「台湾人とよばれたいか、中国人と呼ばれたいか」という質問があり、複数の回答は認めず、二者択一的に回答するよう求めていた。これはよく考えた結果であると思う。「台湾人」であり、また同時に「中国人」であるという認識を持つ人は多数いるので、前段のようにそれを調査結果に反映させることができ、客観的である。しかし、その帰属意識は「一つの中国」論や、共産党や国民党の主張など政治の影響を受けている。他方、後者の質問のように複数の帰属意識を持つ者に対しても選択を強要してどちらがよいかを選ばせるのは、政治や経済の影響はともかく、心理的、文化的にはどちらがよいか態度表明を求めるものであり、まさにこの点は台湾問題のカギであり、台湾人のほんとうの感情を反映させるには有効な方法であると思われる。
ちなみに、この質問の直訳は「台湾人、中国人の呼称のうちより感情があるのはどちらかを問われると(当詢及民衆対台湾人、中国人哪種称呼比較有感情時、、、」であった。
さらに、この世論調査は、この質問に対して「台湾人」と答えた者が2003年には61.5%であったのが、2013年は上記のように82.3%に増加していることを指摘している。これまた興味深い事実であり、なぜ増加したのかが問われる。
中台関係を大きく変化させたのは中台経済関係の進展であるが、この関係で2003年から2013年の間にはさほど変わったことはなさそうである。
一方、政治的には、2003年は第1期陳水扁政権の後半で、スキャンダルなどが噴出したことが台湾人の意識に影響し、台湾人であることを表に出すのに抵抗が生まれていた可能性がある。
他方、2013年は国民党が民進党から政権を奪い返して間がない時点であり、その意味ではむしろ「中国人」意識が強まっても不思議でないと考えると、上記に紹介した世論調査の結果は逆になっている。もしそうだとすれば、それはいかなる理由によるのか。このようなことも含め、台湾人の意識変化には今後一層の注意を払う必要性がありそうである。今回あった台湾の人たちも、この調査結果に強い関心を示しつつ、その背景理由については格別の説明はなかった。

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