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2022.01.28
ウクライナをめぐって欧米諸国とロシアの対立が先鋭化している。米国防総省はロシア軍がウクライナ国境で昨年10月末以来軍事圧力を強め、10万人に及ぶ部隊を結集させていることを問題視し、約8500人の米軍部隊に派遣に備えた警戒態勢を取るよう命じたと1月24日に発表した。
米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領をけん制するとともに、ウクライナのゼレンスキー大統領に対しては、ロシアがウクライナに侵攻した場合、米国と同盟・友好国は「断固として対応する」方針を表明するなどウクライナの安全を確保していく姿勢を示している。
ウクライナが恐れているのは、東部の国境を越えてロシア軍が侵攻してくることである。この問題については2014年3月のロシアによるクリミア併合の影響が尾を引いており、またウクライナの内政が絡んでいるため複雑な状況になっている。主な経緯をまとめてみた。
ウクライナ東部のドンバス地方(ドネツィク州とルハーンシク(ルガンスクとも表記される)州)は、その約3割が親ロシア派勢力の占拠下にあり、クリミアの併合に至る過程と並行して、親ロシア派はロシアへの併合を求め、そのため「国民投票」を呼びかけてきた。この要求は実現しなかったが、東部ではウクライナ政府支持派と親ロシア派の暴力的な衝突が起こり、西欧諸国による仲介で休戦が成立してもまた戦闘状態に陥るという悪循環を繰り返してきた。この間、累計で約1万4000人にのぼる死者が出たという。
そもそもウクライナはソ連の崩壊後、NATOへの加盟を目指したこともあったが、地政学的にロシアと欧州に挟まれており、ロシアを過度に刺激しないよう「非同盟」の方針を取ってきた。しかし、ロシアがクリミアを併合するなど侵略的な姿勢を強めるなかでウクライナの新大統領に就任したペトロ・ポロシェンコは実業家で政治経験も豊かな人物であり、西側に接近し、ロシアとは対決する姿勢を鮮明にした。同大統領のもとでウクライナ議会は「非同盟」を捨て、NATO への加盟を追求していくこと、そしてそれが可能になるための状況を作り出していくことを確認する法案を圧倒的多数で可決し、2015年 5 月、「ウクライナ国家安全保障戦略」が採択された。ロシアはこれに強硬に反対した。
2019年2月、次期大統領選の直前であったが、ポロシェンコ大統領は憲法を改正し、将来的なNATO(北大西洋条約機構)加盟を目指す方針を明記した。
しかし、3~4月の大統領選でポロシェンコは新人のタレント候補ウォロディミル・ゼレンスキーに惨敗した。ポロシェンコ氏は就任後、「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥の領袖が政治・経済を牛耳るなど蔓延する腐敗を解消すると声明していたが一向に実現せず、自らが保有する製菓大手のロシェン社を手放すという公約も実行しなかった。また、ポロシェンコ側近による軍備関連の汚職事件も露見した。一方、家庭向けのガス料金が2018年11月に引き上げられるなど、国民生活は悪化し不満が蓄積し、ポロシェンコは国民の支持を失った。ウクライナ国民は、古株の政治家たちに強い不信感を抱き、政治経験のない者に期待するようになっており、NATOとの加盟交渉を始めるよりも、エリートの特権や腐敗を根絶することを望んでいるという。
このようなウクライナの政治状況を見越してか、東部における親ロシア勢力による停戦違反が相次ぎ、政府軍との対立が激化している。ゼレンスキー大統領にとって頼みの綱はやはり米国であり、2021年に入ると2~3か月に1回くらいの頻度でバイデン大統領と電話会談を行い、ウクライナへの「揺るぎない支持」を取り付けてきた。
さらにゼレンスキー大統領は訪米し、8月30日にバイデン大統領と対面で会談。ドンバス地方における親ロ派勢力との7年にわたる武力紛争の終結に向け、和平交渉への米国のさらなる関与を要望した。これに対し、バイデン氏は、米国は「ロシアの侵略に直面するウクライナの主権と領土保全にしっかりと関与し続ける」と表明したという。
2022年1月19日、バイデン大統領は就任1年を迎えての記者会見で、「私の推測では、ロシアはウクライナに侵攻するだろう。プーチン大統領は何かしなければならないはずだ」と述べ、また、プーチン氏が西側諸国を「試す」行為をすれば、「深刻で高い代償」を払うことになるだろうと警告した。だがこれらの発言に加えて「小規模な侵攻」であれば、代償も小規模にとどまる可能性を示唆した。
この発言はウクライナにおいてさざ波を作り出した。ゼレンスキー大統領は20日、「小規模な侵攻などない」と反発した。
バイデン大統領は釈明したかったのであろう。1月27日、ゼレンスキー大統領に電話し、ロシアがウクライナに侵攻した場合、米国は断固とした対応を取る用意があるとあらためて表明した。また、ロシアの軍備増強による圧力が高まる中、ウクライナ経済を支えるため米国は追加のマクロ経済支援を検討していると伝えた。
「小規模侵攻」発言はこれで一応収まったかに見えるが、NATO加盟問題が落着したのではない。ロシアがウクライナとの国境付近に大軍を配置させているのは、ロシアの安全保障上必要だという理由からである。ロシアは昨年12月、米欧との協議において、ウクライナなど旧ソ連諸国にNATOを拡大させない確約を求め、国境周辺での攻撃型兵器の配備や軍事演習の停止などを盛り込んだ「安全の保証」に関する条約案を提示し、米国とNATOに書面での回答を求めた。
1月26日、米国とNATOは、NATOの不拡大は拒否し、軍事演習の制限などでは交渉の余地を残す内容の回答を行ったと発表した。
ゼレンスキー大統領は困難な立場にある。個人的には米国やEU諸国のみならず、ロシアとも友好関係を回復し、東部の親ロシア勢力と何らかの形で妥協し、国内問題に専念したいだろうが、NATOへの加盟問題が決着しない限り、米国やEUとロシアの対立に巻き込まれるのは不可避である。そうすると東部問題は今後も厄介な火種となって残る。そしてウクライナ国内は米欧とロシアの対立と無関係ではありえない。総じて、米ロの激しいつばぜり合いが続く中、ウクライナが安定を取り戻すのは容易でなさそうである。
ウクライナ・米国・ロシア
ウクライナをめぐって欧米諸国とロシアの対立が先鋭化している。米国防総省はロシア軍がウクライナ国境で昨年10月末以来軍事圧力を強め、10万人に及ぶ部隊を結集させていることを問題視し、約8500人の米軍部隊に派遣に備えた警戒態勢を取るよう命じたと1月24日に発表した。
米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領をけん制するとともに、ウクライナのゼレンスキー大統領に対しては、ロシアがウクライナに侵攻した場合、米国と同盟・友好国は「断固として対応する」方針を表明するなどウクライナの安全を確保していく姿勢を示している。
ウクライナが恐れているのは、東部の国境を越えてロシア軍が侵攻してくることである。この問題については2014年3月のロシアによるクリミア併合の影響が尾を引いており、またウクライナの内政が絡んでいるため複雑な状況になっている。主な経緯をまとめてみた。
ウクライナ東部のドンバス地方(ドネツィク州とルハーンシク(ルガンスクとも表記される)州)は、その約3割が親ロシア派勢力の占拠下にあり、クリミアの併合に至る過程と並行して、親ロシア派はロシアへの併合を求め、そのため「国民投票」を呼びかけてきた。この要求は実現しなかったが、東部ではウクライナ政府支持派と親ロシア派の暴力的な衝突が起こり、西欧諸国による仲介で休戦が成立してもまた戦闘状態に陥るという悪循環を繰り返してきた。この間、累計で約1万4000人にのぼる死者が出たという。
そもそもウクライナはソ連の崩壊後、NATOへの加盟を目指したこともあったが、地政学的にロシアと欧州に挟まれており、ロシアを過度に刺激しないよう「非同盟」の方針を取ってきた。しかし、ロシアがクリミアを併合するなど侵略的な姿勢を強めるなかでウクライナの新大統領に就任したペトロ・ポロシェンコは実業家で政治経験も豊かな人物であり、西側に接近し、ロシアとは対決する姿勢を鮮明にした。同大統領のもとでウクライナ議会は「非同盟」を捨て、NATO への加盟を追求していくこと、そしてそれが可能になるための状況を作り出していくことを確認する法案を圧倒的多数で可決し、2015年 5 月、「ウクライナ国家安全保障戦略」が採択された。ロシアはこれに強硬に反対した。
2019年2月、次期大統領選の直前であったが、ポロシェンコ大統領は憲法を改正し、将来的なNATO(北大西洋条約機構)加盟を目指す方針を明記した。
しかし、3~4月の大統領選でポロシェンコは新人のタレント候補ウォロディミル・ゼレンスキーに惨敗した。ポロシェンコ氏は就任後、「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥の領袖が政治・経済を牛耳るなど蔓延する腐敗を解消すると声明していたが一向に実現せず、自らが保有する製菓大手のロシェン社を手放すという公約も実行しなかった。また、ポロシェンコ側近による軍備関連の汚職事件も露見した。一方、家庭向けのガス料金が2018年11月に引き上げられるなど、国民生活は悪化し不満が蓄積し、ポロシェンコは国民の支持を失った。ウクライナ国民は、古株の政治家たちに強い不信感を抱き、政治経験のない者に期待するようになっており、NATOとの加盟交渉を始めるよりも、エリートの特権や腐敗を根絶することを望んでいるという。
このようなウクライナの政治状況を見越してか、東部における親ロシア勢力による停戦違反が相次ぎ、政府軍との対立が激化している。ゼレンスキー大統領にとって頼みの綱はやはり米国であり、2021年に入ると2~3か月に1回くらいの頻度でバイデン大統領と電話会談を行い、ウクライナへの「揺るぎない支持」を取り付けてきた。
さらにゼレンスキー大統領は訪米し、8月30日にバイデン大統領と対面で会談。ドンバス地方における親ロ派勢力との7年にわたる武力紛争の終結に向け、和平交渉への米国のさらなる関与を要望した。これに対し、バイデン氏は、米国は「ロシアの侵略に直面するウクライナの主権と領土保全にしっかりと関与し続ける」と表明したという。
2022年1月19日、バイデン大統領は就任1年を迎えての記者会見で、「私の推測では、ロシアはウクライナに侵攻するだろう。プーチン大統領は何かしなければならないはずだ」と述べ、また、プーチン氏が西側諸国を「試す」行為をすれば、「深刻で高い代償」を払うことになるだろうと警告した。だがこれらの発言に加えて「小規模な侵攻」であれば、代償も小規模にとどまる可能性を示唆した。
この発言はウクライナにおいてさざ波を作り出した。ゼレンスキー大統領は20日、「小規模な侵攻などない」と反発した。
バイデン大統領は釈明したかったのであろう。1月27日、ゼレンスキー大統領に電話し、ロシアがウクライナに侵攻した場合、米国は断固とした対応を取る用意があるとあらためて表明した。また、ロシアの軍備増強による圧力が高まる中、ウクライナ経済を支えるため米国は追加のマクロ経済支援を検討していると伝えた。
「小規模侵攻」発言はこれで一応収まったかに見えるが、NATO加盟問題が落着したのではない。ロシアがウクライナとの国境付近に大軍を配置させているのは、ロシアの安全保障上必要だという理由からである。ロシアは昨年12月、米欧との協議において、ウクライナなど旧ソ連諸国にNATOを拡大させない確約を求め、国境周辺での攻撃型兵器の配備や軍事演習の停止などを盛り込んだ「安全の保証」に関する条約案を提示し、米国とNATOに書面での回答を求めた。
1月26日、米国とNATOは、NATOの不拡大は拒否し、軍事演習の制限などでは交渉の余地を残す内容の回答を行ったと発表した。
ゼレンスキー大統領は困難な立場にある。個人的には米国やEU諸国のみならず、ロシアとも友好関係を回復し、東部の親ロシア勢力と何らかの形で妥協し、国内問題に専念したいだろうが、NATOへの加盟問題が決着しない限り、米国やEUとロシアの対立に巻き込まれるのは不可避である。そうすると東部問題は今後も厄介な火種となって残る。そしてウクライナ国内は米欧とロシアの対立と無関係ではありえない。総じて、米ロの激しいつばぜり合いが続く中、ウクライナが安定を取り戻すのは容易でなさそうである。
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