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2021.08.16

タリバーンによるアフガニスタン全土の掌握

 アフガニスタンの首都カブールに迫っていた反政府勢力タリバーンは、8月15日中に大統領府を掌握した。アフガニスタン全土がタリバーンの手に落ちたわけである。ただし、米英などは自国民の脱出支援のために兵士を派遣しており、カブール空港など一部地域に残っている。

 日本政府も大使館の職員を国外に退避させることにしており、退避に関し米国などと協議中である。

 カブールの陥落は予想以上に早かった。タリバーンは15日朝までにカブールを包囲し、アフガニスタン政府と協議する姿勢を示していたが、数時間後に大統領府が占拠されてしまった。そうなったのは、ガーニ大統領が混乱を望まず、自ら国外へ退去したからであったようだ。タリバーンの政治部門トップのバラダル幹部が、首都占拠後のビデオ声明で、「このような形での勝利は想定外だった」と述べたのはそのような事情であったことを示唆している。

 カブール国際空港では国外脱出を求める人々が押し寄せ、飛行機の周りをとりまいており、米軍が威嚇発砲をしたと伝えられている。多少の混乱は避けがたいかもしれないが、外国人のカブールからの脱出が円滑に進むことを切望する。

 ブリンケン米国務長官は15日のCNNテレビで、米大使館員らの退避に追い込まれたアフガンの現状をベトナム戦争末期のサイゴン(現ホーチミン)陥落になぞらえる見方に対し「サイゴンとは違う」と強調したという。その根拠は何かよく分からないが、米国は「負けた」と言われ続けるだろう。また、無責任だとも批判されるだろう。米国の立場が悪くなるのは避けがたい。

 米軍の撤退は、トランプ前政権とタリバーンとの2020年2月の和平合意に基づくものである。バイデン大統領はこの合意を引き継ぎ、今年4月、米同時多発テロから今年の9月11日で20年になるのに合わせ、米軍を完全撤退させると表明し、5月から撤収作業を始めていた。

 これまで米国もNATOや日本もアフガニスタンの軍・警察力の強化に協力してきたが、タリバーンの本格的攻勢がはじまるとそれはもろくも崩れてしまった。現実として受け止めるほかないが、米国がアフガニスタンの兵力をどのように評価していたか。米軍が撤退しても持ちこたえられると見ていたのかも問題になりうる。

 今後どうなるかが問題であり、まず、タリバーン政権を各国が承認するかが問われる。英国のジョンソン首相は早くも15日、英メディアに「どの国にも、タリバーンを二国間で(正統な政府として)承認してほしくない」「志を同じくする国同士はできる限り、統一された立場であるべきだ」と牽制した。

 カギとなるのは、アフガニスタンの新政権がテロリストや過激派をかくまったり、支援するかどうかである。通常そんなことは新しい政権に対して問わないが、20年前に米軍が打倒したのはタリバーンであり、その時はテロと過激派の脅威と戦うことに国際的な理解があった。今般カブールを奪回したタリバーンにはその懸念はないか。国際的には信頼はないと見るべきだろう。

 タリバーンにはそのような懸念を払しょくしてもらいたい。前述のバラダル幹部は、「国の安全と幸福を実現できるか、我々は試されることになる」と語っている。国際社会の見方を気にしているとも解せられる言葉である。

 中国とロシアはタリバーンに対し融和的であろう。ロシアは今後も大使館をカブールに残すと説明しているが、1980年代はタリバーンの敵であった。その後遺症は今も残っているだろう。

 新しい政権がもっとも頼りにしそうなのは、イランと中国である。中国は、さる7月末、タリバーンの代表団を受け入れ、王毅外相が会見している。今後、タリバーン政権と中国が接近する公算は大きい。

 しかし、タリバーン政権が中国に求めることは、経済支援と、安保理など国際社会においてタリバーン政権を支持することである。これはどちらも中国にとって大きな負担となる。また、中国の新疆ウイグル問題もある。タリバーン政権はまちがいなく、ウイグルのイスラムを支持する。中国とタリバーン政権は最初は互恵の関係にあろうが、中長期的には疑問が相次いで出てくる。

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