平和外交研究所

ブログ

オピニオン

2017.09.19

ミャンマーとロヒンギャ

 ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問が、イスラム教徒のロヒンギャ問題で窮地に立たされている。ニューヨークでは国連総会の開催をひかえた9月18日、ロヒンギャ問題に関する閣僚レベルの非公式会合が開催され、スー・チー氏に暴力を止めさせるよう善処を求める意見が相次いだ。批判的な発言が多かったらしい。同女史はミャンマーの民主化のため軍政権下で抵抗を続け、ノーベル平和賞を受賞しているが、その返還を求める署名がネット上で集められている。同じノーベル平和賞受賞者のマララ氏は、スー・チー氏がロヒンギャ問題について黙していると非難した。

 ミャンマーには約100万人のロヒンギャがいるが、その地位は極めて不安定である。ミャンマー人からは差別的な待遇を受けており、不満から暴力行為に走る場合もあり、人権侵害問題が起こっている。ミャンマー国軍によるロヒンギャへの組織的迫害があるとも指摘されている。2015年春に数千人のロヒンギャ難民がどの国からも拒否され海上をさまよった事件は世界的に有名になった。オバマ大統領は2016年9月、訪米したスー・チー氏に対しロヒンギャ問題の解決を促した。
 ミャンマーには少数民族が多数存在し、全人口の3分の1を占めているが、これらはすべてミャンマー国籍を持つミャンマー人である。しかし、ロヒンギャはミャンマー国籍を持たず、この中に含まれていない。ミャンマー政府はロヒンギャをミャンマー国内の少数民族と認めず、バングラデシュからの難民と位置付けており、「(不法移民の)ベンガル人」という呼称を用い続けているのである。
 
 スー・チー氏は手をこまねいていたわけではない。2016年8月には、アナン元国連総長を長とする特別諮問委員会を設置し、1年後の8月24日、同委員会は最終報告書を公表した。同報告は、ミャンマーが世界最多の無国籍者を抱えると指摘し、ミャンマー政府に国籍法を改正し、ロヒンギャが国籍を取得できる制度に改めるよう求めている。移動の自由も認めるよう勧告している。アナン委員長が、「実行の責任は政府にある」と述べたのに対し、スー・チー氏は「政府全体で勧告を推進する枠組みを作る」と答えたという。
 しかし、報告書公表の翌日には、ロヒンギャとみられる武装集団が警察施設などを襲撃した事件が起こり、治安当局が掃討作戦を行った。
 事態は急を要する。スー・チー氏は国連総会を欠席し、9月19日に同国で演説し、その中で国連の調査を受け入れる用意があることも示唆した。

 ミャンマーでは、かねてから民主化勢力、軍、少数民族(ロヒンギャは含まれない)が三つ巴状態にあった。軍事政権下では民主化勢力対軍の対立だけが目立っていたが、民主化が実現すると、少数民族問題の解決なくして真の民主化は実現しないことが明らかになり、国民の間の不満が高まった。
 アウン・サン・スー・チー国家顧問はさる3月30日、民主的な政権が生まれてからの1年を回顧してテレビ演説し、「国民の期待ほどには発展できなかった」と認め、さらに、「私の努力が十分でなく、もっと完璧にこなせる人がいるというなら身を引く」とまで述べていた。
そのような状況の中で、ロヒンギャ問題が悪化し、風雲急を告げる事態になってきた。政府としては、特別諮問委員会の勧告に従い必要な措置を実行していかなければならないが、不満を募らせているミャンマー国民のロヒンギャを見る目は冷たい。その背景には、さらに、国民の大部分が仏教徒であるという事情もある。
 しかし、スー・チー氏に代わりうる指導者はいそうもない。なんとしてでも同最高顧問の下で改革を進める必要がある。国際社会もスー・チー氏を支持し、また、必要な援助を提供する必要がある。

アーカイブ

検索

このページのトップへ

Copyright©平和外交研究所 All Rights Reserved.