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2015.09.24

安保関連法改正後の防衛体制と違憲問題

 安保関連法の改正案は9月19日未明、参議院で可決され、成立しました。これによってどのような変化が生じてくるのか。改正直後で今後のことを占うには材料が不足していますが、これまでに明らかになっていることから言えることを整理してみました。
 大きく言って、自衛隊など我が国の防衛体制がどうなるかということと、憲法違反問題はどうなるかという2つの視点があります。
 まず、自衛隊の任務は大幅に拡大することになりますが、自衛隊自体はそれに応じて強化されるでしょうか。
 一般に、新しい法律が成立すると、履行するのに必要な予算措置が講じられます。資金の手当てがなければ何もできないからです。今回の改正についても、防衛省としては、当然、自衛隊の任務が拡大するのに応じて予算の増額を要求するでしょうが、それを実現することは簡単ではありません。
 最大の問題は、改正法案の審議過程でしばしば現れた、法律の内容と政府側の答弁の食い違いです。具体的には、改正法では、自衛隊の活動範囲は日本の領域と「周辺地域」に限られず、世界に広がりました。それに応じて措置を講じると巨額の予算増と大幅な人員増が必要になります。
一方、政府は、自衛隊が海外へ派遣されるのは極めて限定されたケースだ、他国の領域に派遣されることは絶対ないなどと答弁しており、その方針によれば予算と人員の大幅な増加は必要でないということになるでしょう。今後、予算と人員の決定はどちらを基準に行なわれるのでしょうか。
 また、予算に内在する複雑な事情も考慮する必要があります。新しい法律が成立したと言っても、その費用はできるだけ既存の予算の中でやりくりして手当てするのが常識です。自衛隊の場合も他の経費を節約することが求められるでしょう。
一方、自衛隊の任務が重くなるに伴い入隊する人が少なくなるような事態になれば、待遇面の改善が必要となり、機能を維持するだけで経費が多くなるという問題もあります。
 さらに、防衛予算については、5年間の総額について一定限度の枠が設定されています。具体的には、中期防衛力整備計画(2014年度~18年度)で防衛費の総額をおおむね23兆9700億円の枠内に抑えることになっています。
改正された法律にしたがって任務を遂行できるよう自衛隊を強化するには、以上のようにあまりにも不安定要因が多いので、具体的な結論を出すのに新たな論争が生じる可能性があります。仮定の話ですが、改正法にしたがって自衛隊を強化できなければ法律は絵に描いた餅になりかねません。

もう一つの視点が、憲法違反の疑いの濃い法律に対して国民がどう向き合うかです。政府・与党にはこのような問題は存在しないでしょうが、あらためて説明するまでもなく、安保関連法案について憲法学者や内閣法制局のOBを含め大多数の専門家が憲法違反であるとの判断を示しました。改正法案を支持したのは防衛体制を強化すべきだという観点からであり、正面から憲法違反でないと論じたのではなかったと思います。
また、国民の過半数が改正法案に反対していたのは憲法違反を危惧していたからでしょう。関連法の改正は成立しましたが、国民と専門家による反対、疑問は今後日本の政治において大きな問題であり続けるのではないでしょうか。
法律が憲法に違反しているか否かを審査・決定するのは最高裁判所ですので、その判断を求めることも考えられます。しかし、それですべてではありません。法律の合憲性について国民が意見を表明するのは当然です。
「国民の意見」はどのように表明されるか簡単でないのは事実ですが、国会で議決したことだけが国民の意思だというわけにはいきません。形式的に民主主義のルールに従っているから問題ないとみなすのが危険なことは、かつてナチスの例で世界が経験したことです。世論調査も、また人々がさまざまな形で表明する意見も尊重されるべきです。国会前のデモでは非常に多くの人が、自発的に、法案に反対の声を挙げました。

改正法のどこに憲法違反の疑いがあるか、主な点を示しておきます。
その一つは武力攻撃・存立危機事態法第3条4項の「存立危機事態においては、存立危機武力攻撃(集団的自衛権の行使の対象となる攻撃で、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの」です)を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない。」と、第4条1項の「国は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため、武力攻撃事態等及び存立危機事態において、我が国を防衛し、国土並びに国民の生命、身体及び財産を保護する固有の使命を有することから、前条の基本理念にのっとり、組織及び機能の全てを挙げて、武力攻撃事態等及び存立危機事態に対処するとともに、国全体として万全の措置が講じられるようにする責務を有する。」という規定です。
今回多くの法改正が行われましたが、ほとんどすべては自衛隊の任務を拡大するものであり、「○○できる」という形で記載されています。しかしこの2つの規定は、存立危機事態が認定されれば、国家は「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図る」ことを義務づけ、しかも「組織及び機能の全てを挙げて、武力攻撃事態等及び存立危機事態に対処するとともに、国全体として万全の措置が講じられるようにする責務を有する」ときわめて重い義務を課しているのです。自衛隊は、存立危機攻撃を受けた外国へ行かなければこの義務は果たせないでしょう。つまり、国際紛争に巻き込まれることを禁じた憲法に違反する可能性が高くなるのです。
一方、安倍首相は、自衛隊が他国の領土へ派遣されることは絶対にない、と答弁していますが、これは、国の義務として法律に記載されていることと明らかに矛盾していると思います。
 
もう一つの憲法違反は、新しい国際支援法(テロ特措法およびイラク特措法を恒久法化したもの)が、「非戦闘地域」で、かつ、「後方支援(本法では「協力支援活動」と呼んでいる)」であれば外国での紛争に巻き込まれないという前提の下に自衛隊が各国に協力することを可能にしていることです。この前提についても、「非戦闘地域」と「戦闘地域」の区別は困難だ、「後方支援」であっても敵対行為とみなされるのが国際常識だ、という有力な反論や疑問が提出されているのは当然だと思います。
 安保関連法案の改正は国会での結論がすでに出たことであり、政府・与党としては今後も争点になるとは考えないのかもしれませんが、一件落着とはとても思われません。国民としては以上の問題点を含め、今後の安全保障関連の法整備のありかたについて熟慮を重ねる必要があるのではないでしょうか。

(9月21日THEPAGEに掲載)

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