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2015.09.10

安保法制案を強行採決すべきでない

 参議院特別委員会における安全保障関連法案の審議は山場を迎えているが、強行採決すべきでない。次の理由からだ。

 審議においては、法案の内容、とくに条文に即した質疑は驚くほど少ない。これは質問する側と答える側両方の責任である。また、質問と答弁で繰り返されるのは、「政府はどう考えるか」と「政府は○○しない」ということであり、それは政府の政策、方針の質疑にすぎず、法案の内容が適切か否かとは別の問題である。
 典型的な例は、法案には他国の領土で自衛隊が武力侵害を排除することが明記されているのに、政府は「自衛隊が外国領に派遣されることは絶対ない」と答弁し、それ以上、たとえば法案の記載と政府答弁が矛盾してることなどへ質疑が進まないことである。法律は一政府の見解を超えて普遍的な意味を持つ。持たなければならない。現政府が○○という考えであっても次の政府は異なる考えで対応することは避けられない。

 集団的自衛権の行使を認めることは憲法違反だと圧倒的多数の学者が判断しており、また一般の国民も強い疑問を抱いている。このことを軽視したり、無視したりしてはならない。政治家は、学者は政治に責任を持たないなどと傲慢に構えてはならない。

 わが憲法は、日本が国際紛争に巻き込まれることを厳禁している。これは敗戦という苦痛に満ちた経験を経て作られた根本原則であり、政府の見解で解釈を変更してはならない。「非戦闘地域」に限っての「後方支援」であれば紛争に巻き込まれないというのは机上の空論だ。このように姑息な手段を用いて憲法の禁止をかいくぐってはならない。

 日本の安全を確保するためにはどうしても米軍に軍事的・あるいは「自衛的」に協力する必要があると政府が考えるならば、憲法を改正し、また、日米安保条約を改正することを提議し、国民的議論を経て国家として判断しなければならない。

 我が国は「自衛」であれば憲法に抵触しないという解釈を始め、さらに「自衛」の内容を一定程度拡大してきた。それは国民にも理解され、受け入れられたが、今回の法制案は拡大しすぎであり、「自衛」の理論は破たんしている。つまり、これまで吹いてきた「自衛」という風船は膨らませすぎて破裂している。

以下は当研究所HPに掲載した安保法制関連の論考の一覧である。ご参考まで。

2015.07.15
そもそも「安保法案」とは?(国際貢献編)
2015.07.13
そもそも「安保法案」とは?(日本の防衛編)
2015.06.16
(再掲)安保法制改正案が憲法違反の理由
2015.06.08
安保法制改正案は憲法違反の疑いが濃厚
2015.06.04
6月1日の安保法制審議もかみ合わなかった
2015.06.01
「存立危機事態」と「武力攻撃事態」・国会での質疑に問題あり
2015.05.17
ガイドライン再改定で日米同盟はどう変わる?
2015.04.30
安倍首相の訪米 2015年4月
2015.04.28
(短文)日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定
2015.04.09
機雷除去の是非
2015.03.23
安保法制‐「自衛」か「紛争に巻き込まれない」か
2015.03.15
安全保障関連法案‐国連決議を条件にするべきだ
2015.01.29
自衛隊は邦人を救出出来るか
2015.01.16
グローバルな日米同盟?
2015.01.12
安全保障に関する法律改正
2014.12.12
安倍政権の安全保障政策
2014.12.10
安倍政権の外交安全保障
2014.11.14
集団的自衛権 行使は人道的措置に限って
2014.11.07
機雷除去について誤解が生じつつある
2014.10.23
「イスラム国」空爆と「保護する責任」
2014.10.20
日米防衛指針の中間報告2
2014.10.05
日米防衛指針の中間報告
2014.09.29
シリア空爆と集団的自衛権
2014.09.12
<集団的自衛権を考える>日本人母子が乗る米艦艇は防護できる?「事例編」
2014.09.07
<集団的自衛権を考える>武力行使ができるのはどんな時?「基礎編」
2014.07.27
集団的自衛権の閣議決定を急いだ理由
2014.07.02
集団的自衛権に関する閣議決定ではイラク戦争参戦は避けがたい
2014.06.21
集団安全保障へ参加する?
2014.06.11
集団的自衛権-わが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある場合とは
2014.06.10
集団的自衛権に関する1972年の政府見解
2014.06.09
集団的自衛権論議-他国の領域へ自衛隊を派遣しない
2014.06.05
PKOと多国籍軍への参加
2014.05.16
安保法制懇の報告-グレーゾーン

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