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2014.12.16

南シナ海に対する中国の主張を米国はどう見ているか

THEPAGEに12月16日、掲載されたバージョン

「米国務省は今月初め、南シナ海での中国の「九段線」の主張について、「国際海洋法に合致していない」と報告書で発表しました。この報告書は、実は重要な意味を持つものです。それはどうしてなのでしょうか。報告書の内容と合わせてみていきましょう。

■南シナ海で領有権争いする中国
我が国の領土である尖閣諸島について領有権を主張する中国は、南シナ海の島嶼についてフィリピン、ベトナム、マレイシア、台湾などとも争いを起こしています。
フィリピンは、2013年1月、中国を相手に仲裁裁判に訴えました。仲裁裁判は2国間で争いがある場合、紛争当事国、この場合はフィリピンと中国がこの裁判について合意し、裁判官を選任して行われます。このような方法は紛争を平和的に解決するのに適していますが、中国は仲裁に同意しないという姿勢を取っており、2014年12月7日に「仲裁裁判所には管轄権がない」とする文書を公表しました。正式の仲裁裁判拒否宣言です。
一方、ベトナムもこの直後、南シナ海の一部島嶼に対する権利を改めて主張し、ベトナムとしても仲裁裁判を求める考えを示しました。今後、フィリピンの場合と同様予備的な調査が行われることになるでしょう。フィリピンやベトナムがこのような行動を取った背景には、中国の南シナ海での活動の再活発化があります。

■第三国の領土紛争に介入しない米国
米国はこれまで第三国間の領土紛争に介入しないという方針でしたが、国務省の海洋国際環境科学局は12月5日付で、南シナ海に対する中国の「九段線」の主張(筆者注 南シナ海のほぼ全域を点線で囲み、中国の権利を主張したもの)は根拠が乏しく、「国際海洋法に合致していない」とする報告書を発表しました。この報告書は極めて重要ですが、日本では選挙の影響などのためかその重要性が正しく伝えられていません。一部には、米国が中国にその主張の不十分な点を補うよう促しているというような報道がありますが、それはこの報告書の趣旨でありません。
この報告書は、これまで種々の機会に表明された中国の主張を綿密に調べ上げ、国連海洋法条約など国際海洋法に照らして適切な主張であるか、判断しています。具体的には次のような指摘をしています。
○南シナ海全域、いわゆる「九段線」で囲まれる海域に対する中国の主張は国際海洋法に合致しない(does not accord with the international law of the sea)。
○中国による九段線の主張は、その範囲内の島嶼に対する領有権主張なのか、他国との境界線のことか、歴史的経緯の主張なのか明確でない。
○中国で出版されている種々の地図は正確さ、明確さ、一貫性を欠き、中国の主張の性格と範囲(nature and scope)は不明確である。
○中国の歴史的理由に基づく主張は、国際法で使われる、「公開の、周知の(notorious)、実効支配」の3基準に照らして成り立たない。
○歴史的理由に基づく主張よりも、海洋法条約で定められた沿岸国の主権に基づく権利の方が優先すると同条約は明記している。

■米報道官の説明
この報告書をもって米国の方針が変わったと言えるか微妙です。報告書の目的は、「国家による海洋に関する主張や境界を精査(examine)し、国際法との整合性を評価(assess)することである」「この検討は、その中で取り上げられていることに関する米国政府の見解(view)を示すが、主張されていることを受け入れることを必ずしも反映しない」と記されています。つまり、国際法に合致しているか否かの判断はするが、政治的に特定国の主張に加担するのではない、という意味でしょう。
しかし、米国政府として違法だと判断しておきながら、政治的には中立の態度を取れるでしょうか。12月10日の国務省における記者ブリーフでは、これまでの米国政府の「第三国間の領土紛争においていずれかの国に加担することはしない」という方針と一貫していないのではないかという質問が出ました。もっともだと思います。

これに対しサキ報道官は、「これはただの報告書である、80もおこなった法的な検討の一つである、、、」と苦しげに答え(注 他にも多くのケースについて法的検討が行われていることを言っているのでしょう)、その答えでは満足しない記者が、「しかし、この報告書は東南アジア諸国の利益に味方(favor)している」とたたみかけたので、同報道官は「それは非常にテクニカルなものであり、政治的なものでない(they are very technical, they’re not political)」とだけ述べ、後は従来からの米第三国間の領土紛争に介入しないという米国政府の方針は不変であることを繰り返すのがやっとでした。答えになっていない説明です。

■公式の文書で断言した意味
米国政府が公式の文書で中国の南シナ海に対する主張は国際法に合致しないと断言したことの意味は大きいと思います。米国がそれでも中立的態度を取るならば、フィリピンやベトナムが、「米国政府は中国の主張を違法だと判断しておきながら、東南アジア諸国を支持しないのは理解に苦しむ」というような疑問を呈する可能性もあります。さらに、違法だと判断しておきながら中立的態度を取るのは、「不作為により違法行為国を味方することになる」という議論を誘発するかもしれません。これに対して米国政府は明快な説明ができるでしょうか。
米国務省の報告書は尖閣諸島の関連でも重要な意味合いがあります。同諸島に関する中国の主張についても米国は法的な整合性を検討しているのでしょうか。もししていないのであれば、日本政府は米国政府に対し、中国の主張の違法性を明らかにするよう求めるべきではないでしょうか。米国政府は尖閣諸島の防衛が安保条約上の義務であることを確認していますが、同諸島に対する中国の主張が国際法に違反しているという法的解釈を下せば、それに劣らない強力な援軍となるからです。





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