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朝鮮半島

2018.06.21

金正恩委員長はなぜ足しげく中国へ行くのか

金正恩委員長はトランプ大統領との会談の前、3月末と5月初めに訪中し、さらに会談から1週間後の6月19日にも訪中した。
 金委員長は2011年末に北朝鮮の指導者となって以来6年数か月間、一度も中国を訪問していなかった。中国側は訪中を求めていたと思われるが、金委員長はなかなか腰を上げようとしなかった。一方この間には、習近平主席がソウルを訪問するなど、北朝鮮として不愉快な出来事もあった。
 ところが、米国大統領との会談がセットされると、金委員長はがらりと態度を変え、訪中した。しかも3回立て続けであった。
 
 なぜ金委員長はそのように変わったのか。米国との非核化交渉に関して中国から支援を得たことに謝意を表明すること、今後のさらなる協力を要請すること、米国との交渉を有利に運ぶために中国との連携を強化すること、などの目的があったのであろう。

 なかには、中国の影響力が強いことを指摘する意見もある。金委員長は中国の言いなりになっていると言わんばかりのコメントもある。しかし、実態は逆であり、金委員長のイニシャチブによるところが大きいと思われる。

 金委員長としては様々な思いがあったものと推測されるが、朝鮮半島の戦争状態を終わらせることに関して、習主席に対し釈明をしたいとの気持ちがあったかもしれない。中国は朝鮮戦争に参加した当事国であり、中国抜きには戦争状態を終わらせることはできないが、4月末の南北首脳会談の板門店宣言には、中国の参加は不可欠と考えていないと誤解される恐れのある表現があったからである。

 しかし、金委員長にはもっと大きな理由があったと思われる。金委員長は、非核化した後、韓国や米国、さらには日本からの経済面での協力がはじまり、増大していくことが予想される中で、北朝鮮としての自主性を失ってはならない、中国のように独自の考えを維持しつつ経済発展していくべきだと考えたのではないか。
 つまり、北朝鮮が中国に急接近したのは、一種のアイデンティティ・クライシスが強くなってきたからではないか。北朝鮮はよく「自主性」を口にするが、それはアイデンティティ維持への願望である。

 朝鮮半島の平和が実現すれば、次は半島の統一問題が浮上してくる。北朝鮮として、韓国や米国からの経済支援を受けつつ、アイデンティティを失わないで韓国と交渉することが必要となる。そうでなければ、北朝鮮は経済力がはるかに大きい韓国に飲み込まれてしまう。

 金委員長は訪中のたびに経済発展の参考となる施設を訪れている。今回も農業研究施設を視察し、栽培管理の最新技術を見学した。農業研究施設は5月の訪中視察団も訪れた場所であり、北朝鮮は中国の農業技術に強い関心を示している。

 北朝鮮が、経済発展のために、一方では韓米日の協力を期待しつつ、他方で中国からの支援をも重視しているのはある意味当然だが、北朝鮮としてのアイデンティティ維持への強い思いは、今後、様々な場面で表面化してくると思われる。

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