平和外交研究所

2015年12月

2015.12.28

(短文)中国軍の規律は低いのではないか‐『解放軍報』などの指摘

 中国軍の改革、とくに制度面の改革については12月15日に「(短文)中国軍の改革」で紹介した。
 軍の改革は難航しているようだ。以下は中国語新聞の記事の要点(海外と香港に本拠地があるものが主)だが、その中には中央軍事委員会の機関紙『解放日報』が含まれている。信ぴょう性は高い。

 習近平は11月24~26日、中央軍事委員会改革工作会議で軍の構造改革を打ち出すとともに、腐敗、お山の大将主義、地方の割拠、冗官、戦闘力の欠如などを指摘し、克服を呼びかけた。

 中国軍は現状では期待に応えられないからだ。軍の改革には抵抗する勢力がいる。解放軍は生活の場であり、30万人の削減が実行されると彼らの全生活が奪われるので抵抗する。
 軍の規律は低下している。緊張感がなく、軍におれば降格はない、昇進の速度が違うだけと安心しきっている者がいる。
 指導者の中に、「上に政策あれば、下に対策あり」を決め込む者がいる。(注 これは専制君主の圧政に人民が抵抗することを意味する、昔から言い古された言葉である)

 『解放軍報』は次のように指摘している(タイトルは「改革を直視し、最低限の紀律に違反してはならない」 中国共産党新聞網12月18日が転載)。
「すべての党幹部は自問すべきである。政治規律を守っているか。妄りに中央を批判(妄議中央)していないか。軽率な批判をしていないか。政治の噂をまき散らしていないか。みだりに幹部を抜擢したり、兵を動かしたりしていないか。自分の周囲だけを見ていないか。公私の区別をしているか。軍の財産を横流し(変売軍産)していないか。単位の物品を隠匿していないか。やたらと金を使って(突撃花銭)いないか。部下の問題に対して知らぬ顔を決め込んでいないか。改革の秘密を漏らしていないか。
 もしそのようなことがあれば、直ちに停止し、是正しなければならない。さもないと、規律違反から法律違反に進み、やめようと思った時には手遅れになる。」

 軍の改革に対する抵抗があまりに激しいので、范長龍中央軍事委員会副主席は習近平に対し、改革の実行を2カ月遅らせることを提案した。

 軍の改革は戦争があれば進む。米国もロシアもそうであった。中国軍は過去数十年戦争をしなかったために堕落している。鄧小平が軍の改革に成功したのは中越戦争があったからだ。

 軍の改革は2020年に完成するのが目標だが、習近平が実現できるのは一部分だけだろう。

2015.12.26

慰安婦問題に関する韓国との交渉

 慰安婦問題について岸田外相は週明けに訪韓する。日韓間の交渉は大詰めを迎えている印象がある。
 両国を悩ませてきたこの難問が最終的に解決されることを望みたいが、注目点を挙げておこう。

 第1に、日韓両国が合意に達するとして、その合意は文書に記載されなければならない。文書にならない合意は、残念ながら、慰安婦問題を解決したことにはならない。なぜならば、文書に明記されない合意は将来両政府間で異なる解釈を生むからだ。つまり、日本政府が「A」と合意したと言っても、韓国政府は「B」に合意したのだということになる危険が大きいのだ。

 第2に、合意文書には、慰安婦問題は将来二度と問題にしないことを韓国政府が明確に約束しなければならない。しかし、韓国における政府と裁判所の関係にかんがみてこれが果たして可能か、非常に疑問だ。李明博前大統領が慰安婦問題について日本側に善処を求めるようになったのは、韓国の憲法裁判所がそうすべきだと促したからではなかったか。

 第3に、元慰安婦が強くこだわり、日本政府に求めてきた「日本政府による公的補償」については、どのような解決になるのか見えてこない。「新しい基金」を作って償いをするそうだが、日本側はこれと、安倍首相のわび状をもって公的な補償だと主張するのかもしれない。
 元慰安婦は従来からそのようなものでは解決にならないと強く主張してきたが、「新しい基金」は日本で設置されるものであり、その法的性格を韓国側で決定するわけにはいかない。つまり、それが公的な補償か否か、また、それにどこまで近いかなどは、結局は、日本側の説明を受け入れざるを得ない。
 もし、あくまで受け入れないのであれば、かつての「アジア女性基金」による償いの場合と同様の結果になる。

 第4に、韓国政府が日本政府による公的補償についての考えを受け入れる、つまり、公的補償をしないということを受け入れることにしたのであれば、韓国政府の英断であり、交渉をそのように導いた日本政府は称賛に値する。
 しかし、韓国政府は、慰安婦問題は1965年の請求権協定で解決されていないとの立場であり、その立場を変更することになるが、そんなことは本当にできるのか。
 しかも、韓国政府は、将来国際的にこの問題が取り上げられた場合、日本政府だけでなく韓国政府も非難を浴びる可能性がある。むしろ、日本政府に同調した韓国政府が主に責められることも考えられる。韓国政府はそれに耐えられるか。

 今回の交渉ではこれらの諸問題をクリアした上で合意されることを望みたいが、カギとなるのは日本側が取る措置が公的補償か否かであり、それを迂回しては真の解決は実現しないだろう。

 しかし、今回の合意が無意味だというのではない。日韓両政府が慰安婦問題の解決について正式に合意したことはかつてなかったことである。今回の合意は限定的な効果しかないとしても、それなりに政治的な意義はあろう。
 慰安婦問題が両国以外で、国際的に取り上げられる可能性は残るが、その場合でも日本政府だけでなく、日韓両政府が共同して対処できる。これも大きな効果だ。
 今回の解決の積極的意義を生かすためにも、合意を文書で明確に示すことは絶対的に必要だ。それがないとせっかくの合意も一時的な政治ショーになってしまう危険がある。
 産経前ソウル支局長に対する裁判で無罪判決が出たこと、徴用工の問題で韓国政府は自国内で解決を図る方針としていることなど韓国側は態度を軟化させている兆候があるようにも見える。また、水面下ではそのような結果を生み出すのに交渉があったかもしれない。だからといって慰安婦問題の解決が容易になっていると考えるのは危険だ。最終的な解決と、現状で可能な現実的解決とをはっきりと区別した上で合意が達成されることが肝要である。

2015.12.25

「円借款」や「無償援助」は終了 対中国ODAの現状は?

 中国が世界第2の経済大国となり、経済協力の受益国から供与国となっている今日、日本がまだ経済協力を継続していることを疑問視する意見が多くなっているが、残っているのは、環境面での技術協力と小規模のいわゆる「草の根」援助だけであり、これらも援助でなく対等の立場に立った協力になりつつある。

 THE PAGEにこの関係の一文を寄稿した(12月25日)。
 「中国に対するODA(政府開発援助)が1979年に開始されたのは、直接的には中国が文化大革命の混乱期を脱し、改革開放政策に転じたことが契機でしたが、そもそも日本として中国に援助を供与することになったのは、中国が日本と歴史的関係が深く、また、アジアの平和と安定を維持するのに中国の発展が不可欠だと考えられたからでした。
 さらに、先の日中戦争で中国に多大の損害を与えてしまったことに対する償いの気持ちを持っていた国民も多かったでしょう。
 しかし、それから30年以上が経過する間に中国は長足の発展を実現し、今や世界第2の経済大国になり、被援助国ではなくなり、逆に多くの国に対して援助を供与するようになっています。
日本から中国に対するODAは以下に述べる援助の種類によって多少事情が異なりますが、最も多い時にはインドネシアと一二を争う額に達していましたが、その後は中国の経済発展に伴い減少しました。現在もなお一定程度継続されているので疑問の声が上がることがありますが、中国へのODAはひところに比べれば非常に少なくなっており、終了の方向にあります。

 そもそもODA(政府開発援助)とは何でしょうか。「資金や技術を開発途上の国に対して公的資金を用いて供与すること」というのが政府による説明ですが、貿易と比べるとODAの特色がわかりやすいでしょう。貿易は売り手と買い手の間で商業として、つまり価格が合意されれば成立するのに対し、ODAは開発途上国にとって、無償での資金援助や低い金利などのように商業ベースより有利な条件で供与が行われます。
 なぜそうするかと言えば、開発途上国は通常の商業的条件では必要な資金や技術を獲得する力が弱いからであり、また、開発途上国が発展しなければ世界の平和と安定は維持できないからです。

 ODAには3つの形態があります。
 第1は、供与した資金が返済されないもので、「無償資金協力」あるいは「贈与」と呼ばれています。
 第2は、供与した資金が返済されるもので、「有償資金協力」と呼ばれています。日本の場合、通常日本円を供与するので「円借款」とも呼ばれています。
 第3は、資金でなく技術が供与される「技術協力」です。

 中国に対するODAは1979年から開始され、2013年度まで累計で次の通り供与されました。金額的に有償資金協力が突出して多いのは、インフラ建設など大型のプロジェクトに供与されるからです。
有償資金協力               約3兆3,164億円
無償資金協力                  1,572億円
技術協力                    1,817億円
総額                   約3兆6000億円以上

 このうち「無償資金協力」の大部分(「一般無償資金協力」と言います)は2006年に、「有償資金協力」は 2007年に新規供与が終了しており、現在残っているのは「技術協力」といわゆる「草の根・人間の安全保障」と呼ばれる限定的な無償資金協力だけです。

つぎに、それぞれの種類のODAとは具体的にどのようなものかを見ていきましょう。
 「無償資金協力」は人間の生活に密着した事業のために供与されます。たとえば、病院、浄水場、学校などです。中国では北京に建設された「日中友好病院」が有名です。

「有償資金協力」では資金はいずれ返済されますが、市場における金利よりも低金利で、かつ返済期間が長期です。普通の商業借款よりどのくらい有利かについては計算する方法が国際的に定められており、「贈与分(グラントエレメント」として表示されます。
この種の資金協力は道路、空港、鉄道、発電所といった大型経済インフラや医療・環境分野のインフラ整備のために使用されます。具体的例は上海浦東国際空港、北京-秦皇島鉄道拡充、杭州-衢州高速道路、天生橋水力発電事業、上海宝山インフラ整備など多数に上ります。
 
「技術協力」は、途上国の人々に対する技術の普及あるいはその水準の向上を目的として行われる協力であり、研修員の受け入れ、専門家の派遣、機材の供与などが含まれます。
 2013年度は20億1800万円実施されました。

 「草の根・人間の安全保障無償資金協力」は学校校舎の建設・補修、日本語教材の供与、医療器具など「草の根」レベルで、つまり,開発途上国で活動するNGO(現地のNGO及び国際的なNGO)、地方公共団体、教育機関、医療機関等の非営利団体などに供与されます。
金額的には比較的小規模で、1件の供与限度額は,原則1,000万円以下です。全体の資金規模は2013年度が2億8400万円と少額ですが、実行が早く、また、地域の生活に密接なため高く評価されています。

1979年に開始されて以降、中国に対するODAは、中国の改革・開放政策の推進、そして経済発展に貢献し、日中友好関係の主要な柱の一つになっています。
また、日本企業の中国における投資環境の改善や日中の民間経済関係の進展にも大きく寄与しました。
中国側はこれに対し感謝の気持ちを十分表明しないなどと言われたことがありましたが、それは一部において一時的に起こったことであり、中国政府は様々な機会に評価と感謝の気持ちを表明しています。また、中国国民の間でも日本による経済協力は広く知られるようになっており、感謝されています。
外務省のホームページ「日本のODAプロジェクト 中国 対中ODA概要」には、ODAで建設された湖南省の救急センターである母親が緊急手術を受け無事出産することができ、保健院の方々とともに日本国政府、日本国民に感謝している逸話が掲載されています。
 現在も中国に供与されているODAは「技術協力」と「草の根・人間の安全保障無償資金協力」だけであることは前述しましたが、具体的には日本国民の生活に直接影響する分野で実施されています。たとえば、PM2.5や黄砂など環境問題について日中両国は協力を強化しており、日本からのODAはその一環として活用されています。また、かつてのSARSなど感染症や食品の安全等についてもODAが活用されています。
 一方、技術協力については、新たな協力のあり方として、日中双方が適切に費用を負担する方法を導入することについて両国間で合意されており、今後段階的に実施に移される予定です。そうなると中国側の負担は増加していくでしょう。
 このように見ていくと、中国に対するODAはやがて対等の協力に取って代わられることとなると思います。」

 なお、中国は1972年の国交正常化共同声明で、日本に対する賠償を放棄した。中国に対するODAの供与はそれに代わるものだという考えが表明されることがあるが、それは日本政府の考えでなく、大平正芳首相 (当時) は、「より豊かな中国の出現が、よりよき世界に繋がる」と中国に対する協力の考えを説明していた(1979年12月)。
 また、賠償の関係では、大平首相は国会で次のように答弁していた。「賠償につきまして、中国は賠償を請求しないということが決められたわけでございます。したがって、賠償とか賠償にかかわるものとか、そういう考え方に立脚して日中関係を考えることは正しくない、また中国の意図でもないと私は考えております」
(日中共同声明の第 5項「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」)

 しかし、政治的には微妙な面があり、中国側は対中ODAにはそのような意味合いがあると述べることがある。2000年5月に来日した唐外相は日本記者クラブでの講演で、「中国に対するODAは、戦後賠償に代わる行為である」と述べていた。

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