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2015.04.07

イランと米欧の核協議

イランとP5+1の核協議は、予定を大幅に越えて8日間行われ、4月2日に「枠組み合意」に達した。非常に困難な交渉であったが、米国のケリー国務長官を含め各国の代表が最後まで自ら交渉するなど異例の努力を払った結果である。
 枠組み合意の内容は、現在イランが保有している低レベルの濃縮ウラン(医療用などに使われる)10トンは、将来高濃縮される危険があるので300キロに削減する、ウランを濃縮する遠心分離機の数は1.9万から3分の1弱に減少させる、今後残される遠心分離機は第1世代のものに限定する、兵器級濃縮ウランを製造できる設備は破壊するか、国外へ撤去する、使用済み燃料はイラン国外へ搬出する、イランは使用済み燃料の再処理をしない、などイランの核能力を大幅に制限しており、おそらく現段階では最善の合意、イランにとっては最も厳しい制限となっている。

 しかし、イランとP5+1の核協議で最も懸念されることは、このような合意が本当に実行されるかである。イランは核兵器不拡散条約(NPT)の加盟国であり、核の平和利用について国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることになっているが、過去においては、査察が妨害され、それに対し安保理がイランに対する制裁を科すということが何回も繰り返されてきた。
 その背景には1979年のイラン革命以来の米国との確執があり、イランも米国に不信感を抱いている。この相互不信をいかに克服するかがイランの核交渉のポイントであり、さらに、それに双方の政治状況が絡んで交渉がますます困難になっている。

 今回の枠組み合意でこの問題について前進があったか、よく分からない。その中には、イランが合意を実行しなければ一部緩和してきた制裁措置をすべて元に戻すという項目も含まれている。
 IAEAの査察を強化する決め手である「追加議定書(抜き打ち査察を可能とする協定)」については、イランは「実行する」としか記載されなかった。イランはそれに署名しているが批准していなかった。今回の交渉では、決断次第で「批准する」ことを何らかの形で書き込めたはずであるが、そうしなかったのである。その理由について、イランは、批准は議会が決めることであり行政府限りではコミットできない、ということだそうだ。
 これにはさまざまな評価がありうる。ブッシュ政権で国務次官を務め、タカ派として名をはせたジョン・ボルトンなどは、今回の合意の前であったが、早くイランの原子炉を軍事力で破壊すべきであるなどと息巻いていた。このような対イラン強硬派からすれば、「追加議定書」に関する記載は不十分に見えるかもしれない。
 しかし、イランに対して軍事力の使用をいとうべきでないという姿勢にも疑問を感じる。制裁がイランにとって重荷になっていることは明確であるし、また、国際感覚があるロハニ大統領は柔軟である。ただし、最高指導者ハメネイ師の了解を得ているか否かは問題である。今回の交渉のなかで米国はそれを求めたが、結果は明確でない。
 総じて、オバマ大統領やケリー長官が精力的に取り組み、枠組み合意を成立させたのは積極的に評価してよいと思われるが、問題は6月末が期限とされている最終合意がどうなるかである。今回の枠組み合意で、満足できる内容の最終合意に一歩でも近づいたか、断定するには早すぎるであろう。

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