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2015.02.13

ウクライナの停戦合意とロシアの立場

ウクライナ東部問題に関するウクライナ、ロシア、フランス、ドイツの首脳会談は16時間という異例の長さとなったが、2月12日、ようやく合意に達して終了した。昨年9月5日にいったん停戦について合意したが、それは守られなかった。今回の合意は2月15日の午前零時を以て停戦するということ自体は明確であるが、ウクライナ政府と親ロシア派の境界線やウクライナ東部の自治など不明確であり、今回の合意が遵守される保証はなく、戦闘が再開する可能性は排除しえない。
ウクライナにとって最大の問題は、親ロシア派に対するロシアからの武器や兵員などの越境軍事協力を中止することについてロシアから明確な約束を取り付けられなかったことである。多数の民間人犠牲者を出している東部ウクライナでの戦闘を停止することは重要な合意であり、そのことにケチをつけるのではないが、ロシアからの軍事協力問題は交渉して打開が図れるような問題でなかった。ウクライナと米欧が、ロシアからの越境を明確に認識し、中止を要求しても、ロシアはそのようなことをしていないと言い張ってきた。これは主権国家としての体面に関わることであり、そういう他ない。このような姿勢は今後もくすぶり続けるだろう。停戦が遵守されている限りは表面化しないとしても、何らかの理由で情勢が再度不安定化するとその問題が表面化することは必至である。
あえて今次会議の状況を想像してみると、ロシアは越境軍事協力を中止すべきであるという要求を突き付けられてもそれには直接答えず、「米国はウクライナに対して武器を供与すると言っている。そのような脅迫の下でロシア系住民の安全は著しく脅かされている」「ウクライナ政府がロシア系住民の声を聴こうとしないこと、自治を認めないことが問題だ」などと反論したものと思われる。もちろん、ウクライナ側から見れば、これはロシアの言い逃れ、論点をそらすことに他ならないが、独仏などとしてはロシアの言い分を完全に否定することは困難であっただろう。つまり、ロシアは越境しているか否かの議論を表面上戦わせることは回避しつつ、実質面でウクライナ側の弱点を突こうとしたのである。
ともかく、ロシアは越境軍事協力について何も約束しないで停戦を実現させ、米国のウクライナへの武器供与や制裁強化の脅しも肩透かしで逃れた。しかも、9月5日以来拡大した親ロシア派の支配地域をウクライナ政府の管理下にもどすこともせず、一種の緩衝地帯としたことは会談の成果であった。逆にウクライナにとってはそれだけ不満であったが、停戦を実現しなければならないという大きな必要性の前には、ロシアに対する要求を控えざるをえなかったと思われる。マラソン会談終了後のプーチン大統領の笑顔とポロシェンコ・ウクライナ大統領の苦虫をかみつぶしたような表情は対照的であった。
 独仏がこのような合意で手を打たなければならなかったのは、ロシアとの対立が激化し、ウクライナの紛争が米ロの代理戦争になると双方の犠牲があまりにも大きくなり、ひいては自国の利益も損なわれることになる恐れがあったからであろう。そしてウクライナは、EUからの支援の継続と引き換えに不満を抑えざるをえなかったものと思われる。今次会談と並行してIMFの対ウクライナ追加支援が発表されたのは象徴的である。大局的に見れば、ウクライナがEUに接近する姿勢は2年くらい前とははるかに明確になり、もはや動かしがたくなっている。ウクライナにもこのような認識があるからこそ今回の合意についての不満を抑制することができたと考えられる。
 今次第2の合意においては、プーチン大統領はたしかに笑顔で会談を締めくくることができた。「一本取った」とも言われているが、はたしてロシアの立場が改善されたか、疑問である。石油価格の下落などによるロシア経済の停滞は一向に改善されていないし、西側による制裁はまだ継続している。プーチン大統領にとって、親ロシアからの援助要請、それに対するロシア軍部の同情と援助要求は今後も悩ましい問題であり続けると思われる。プーチン大統領は捨て身の技で一本決めたが、決勝戦ではなかったはずである。

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