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2019.05.08

なぜ中国企業はBrexitを恐れないか

 中国企業のファーウェイは英国ケンブリッジ郊外Sawstonに400人規模の工場を建設するという。当初は研究開発目的に限られるが、いずれ業務を拡大し、この地を中心に英国各地へ進出するとも言われている。

 日本のホンダや日産はBrexitを目前に控えた英国からの撤退を発表して話題になったばかりである。日本企業だけでない。独BMWも生産休止を決めたし、英国自身の自動車最大手であるジャガー・ランドローバーは4500人を削減したという。生産停止と工場閉鎖はまったく同じでないが、英国のEUからの離脱の影響が及んでいる点では大きな違いはない。

 日本企業とは逆に、中国企業は英国への進出を強めている。経緯的には、2015年10月に習近平中国主席が英国を訪問した際に結ばれた総額400億ポンド(約7兆4千億円)の契約の履行なのであろう。 

 英中接近の傾向は習主席の訪英前から目立っていた。メイ首相の前任者であったキャメロン首相は中国との関係増進に熱心であり、習近平主席の英国訪問の約半年前(2015年の3月)、英国は中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表目した。英国は米国から慎重に対応するようくぎを刺されていたにもかかわらず、そうしたのであった。英国の決定がきっかけとなり、他の欧州諸国が雪崩を打って参加したことは記憶に新しい。習主席の訪英は英中関係進展の象徴となり、習氏は英国で「両国関係は黄金時代に入った」と宣言した。

 英国側に問題がないわけではない。習主席の訪英の際合意された、英国が進める原子力発電事業への中国からの投資は、英国はそこまでやるのかという印象を各国に与えた。後に、メイ首相も見直しすると表明している。

 ファーウェイについても英国の安全保障上の理由から反対する声があり、英国政府も一枚岩でない。メイ首相は5月1日、ファーウェイに関する国家安全保障会議の討議内容を漏らしたとして、ウィリアムソン国防相を解任した。問題になったのは、英国がファーウェイに対し次世代通信規格「5G」ネットワーク構築への参入を制限付きで認める方針だという報道であった。

 英国がEUから離脱することは、日本企業と同様中国企業にとっても懸念材料なはずであるが、それを補うメリットがあるのだろう。それはなにか。ファーウェイにとってはグローバルに事業を展開する上で英国は重要な拠点となるのであろう。その背景には中国政府と英国政府との関係強化があり、ファーウェイにとって中国政府は力強い後ろ盾になっている。

 ファーウェイは米国からにらまれている。米司法省はさる1月末、同社と創業者任正非の娘で同社最高財務責任者(CFO)兼副会長の孟晩舟被告を、銀行詐欺、通信詐欺、司法妨害のほか、米通信機器大手Tモバイルから技術を盗もうとした罪で起訴した。

 しかし、任正非は意気軒昂であり、「アメリカに押しつぶされるなどあり得ない」とBBCに語っている。それは口先だけの強がりではない。ファーウェイは中国政府の方針に従って行動しているのであり、庇護を受けるのは当然だという認識がある。

 ファーウェイは、中国で何かと話題になる国有企業でなく、私企業である。各国では、任正非が以前解放軍の軍人であったことを理由に、中国政府の影響が強いと見られている。その通りだが、そのような事情がなくても中国政府と中国の私企業の関係は密接であり、やはり中国の「国家資本主義」の一環と見るべきである。

 ファーウェイが日本やドイツの企業のようにBrexitを恐れないのは、損を被っても経営には響かない、また、損失以上に利益を得られるという認識があるからであろう。

 ファーウェイによる英国への投資拡大に協力した英中両国政府とも非常にしたたかである。英国は、米国の強い警戒心にもかかわらず中国と関係改善をすれすれのところまで進めようとしている。日本におけるイメージと違って、英国には本件以外のところでも、日本などにはまねできない大胆なところがある。

 中国については、発展途上にある欧州との関係が今後どのように展開していくか注目されるが、そのなかで、ファーウェイのような「私企業」をどのように見るべきか、WTO改革においても問われなければならない。

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