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2017.06.19

中国軍の改革

 中国では現在軍の改革が行われている。核兵器の開発(初実験は1964年)、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発(配備は1980年代の中葉)、兵員の百万人削減(これも1980年代の中葉)などとも比べられる大きな出来事だ。習近平主席の肝いりで進められているが、今回の改革には複雑な問題が絡んでおり、期待通りの成果があげられるか。とくに軍事能力をどの程度向上させられるか、不確実なことも少なくない。

 改革の主要点は、大きく言って、制度再編と軍の浄化である。
 制度改革の一つは、日本軍や国民党軍と戦っていたとき以来の軍の中枢機能を現在の必要性に応じて編成替えすることだ。具体的には、参謀、装備、兵站(兵員・物資の輸送などのロジスティックス)、および共産党の軍内支部(総政治部)が「四大総部」として並んでいたが、そのうち参謀(総参謀部)を特に強化した。他の三つは、「装備発展部」、「 後勤保障部」、「政治工作部」となった。格下げになったと言われており、これらの総部が持っていた機能のうち一部は11の他の機関に振り当てられた。
要するに新体制では、軍の中枢機能が15の機関に再配分されたのだ。そのような制度改正が軍の近代化と能力向上に寄与するか、不明である。中央軍事委員会のコントロールを強化する意味合いがあるとも言われている。
 また、中国は7つの大軍区に分けられていたが、これを5大軍区に再編した。これも中央の力を強くするのが目的だろう。軍区はもともと軍閥や○○方面軍から発しており、独立性が強かった。
 さらに、兵員数を30万人削減した。この結果兵員定数は約200万人となる。現在、新しい職場へ振替が行われている。
 
 軍の浄化のために行われたのが「反腐敗運動」であり、これについては元中央軍事委員会副主席2名の摘発などすでにかなりの成果が上がっているが、軍内の状況は複雑で反腐敗運動はまだ継続されている。ごく最近も13の省において武装警察(国内の治安維持が任務)で摘発が行われており、さる6月1日には前政治委員の許耀元大将が拘束された。
 軍における反腐敗運動については当研究所HPの2015年12月15日付「中国軍の改革」、2017年2月6日付「中国軍の改革―反腐敗運動はいまだ進まず」なども参照願いたい。

 軍の浄化のためのもう一つの施策が「有償業務」の廃止である。「有償業務」は抗日戦争を戦っていたとき以来軍内で広くおこなわれてきた習慣である。中国以外では、何のことかよくわからないだろう。たとえば、医官が外部で治療を施し、それに対する報酬をえれば「有償業務」となる。日本の自衛隊病院でも自衛隊員のみならず、一般人も有償で診察・治療を受けることができるので中国軍と似ているが、自衛隊についてはこのような業務は例外的であり法律の根拠もある。
 中国では、具体的には、通信、人材育成、文化体育、倉庫、科学研究、接客、医療、建築技術、不動産有償貸与、修繕など10業種は正規に認められており、そのほか、民兵の装備の修理、幼児教育、新聞の出版、農業の副業、運転手の訓練なども有償で行われていると言う。
 「通信」とは民間のために通信を代わって行うことだとすれば、日本の感覚ではとんでもないことをしているように思われる。
 「倉庫」とは何か。民間のために物資を有償で保管することと聞こえるが、こんなことをしていてよいのか?
 「幼児教育」とは一体何事か、という感じの問題である。

 中国軍は一方で核兵器やICBMをもちながら、このようにとてもプロの軍とは思えないことをしているのが実情だ。しかし、中国の指導者は以前からそれではいけないという認識であり、たとえば習近平の前任の胡錦濤も盛んに軍の専門化、つまりプロ化が必要だと主張していた。

 習近平政権下で「有償業務」の廃止が決定されたのは2015年11月であった。その結果、2016年11月末現在で、40%の有償業務が廃止されたと言う。
 残っているのは、不動産業、農業、接客業(ホテル業など)、医療、科学研究などで現在それらを廃止する計画が策定中である。
 しかし、これで軍のプロ化はほんとうに達成されるか。最初の1年間で40%達成したというのはかなりの実績のように聞こえるが、形を変えて残っていないか。今後も順調に有償業務の廃止が進むか。疑問の念は簡単に払しょくできない。
(当研究所HP 2017年4月15日付「中国軍における「有償業務」の廃止」)

 軍の改革が完成するのは2020年とされている。つまり、今秋の中国共産党第19回全国代表大会(19全大会)以降も継続されるのである。

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