平和外交研究所

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2014.09.29

シリア空爆と集団的自衛権

8月8日にイラクで、また9月22日にシリアで開始された「イスラム国」に対する米国の空爆について、日本として、とくに去る7月に閣議決定した新方針との関係でどのように考えるべきか。

米国の空爆は安保理の決議がないまま行われたが、多くの国は支持を表明し、空爆直後の時点で支持国の数は40に上った。日本も支持を表明し、また難民支援や周辺国への人道支援を行なう用意があることを表明した。ロシアや中国は安保理決議がないまま空爆が開始されたことを批判したが、「イスラム国」に対する空爆自体に対しては理解していると見られている。両国ともイスラムとの関係で問題を抱えているからである。
このような状況はイラク戦争の場合と大きく異なっている。米英等有志国がイラクへの攻撃を開始したことについては、明確に賛成を表明した国は多くなかった。一つの理由は、イラクに対する攻撃を認める安保理決議が成立しなかったからである。米英などは1990年代初頭の湾岸戦争以来の諸決議で十分であるという解釈を取ったが、そのような解釈に疑問を抱いた国は少なくなかった。ともかく、戦争終了後、事後的に米英などの行動を承認する安保理決議が採択されたことは、戦争開始時の安保理決議は十分でなかったことをあらためて示した。
しかし、この安保理決議の有無は決定的な理由でなかったようである。「イスラム国」への空爆の場合は、それを認める安保理決議はなかったことを米国自身も明言している。にもかかわらず圧倒的な賛成が得られたのである。その理由は、「イスラム国」の蛮行により現地の少数民族が迫害され、無辜のジャ―ナリスや法律家がむごたらしく殺害されていることを重大視し、対応が必要と各国が考えたからであろう。つまり、すさまじい人道問題を起こしている原因を除去することに各国が賛同したからである。
米国は、今次空爆を国連憲章51条に基づく「集団的自衛権の行使」であると主張している。「イスラム国」によりイラクが武力攻撃を受けて危機的な状況に陥り、米国に空爆を要請したので自衛権行使の要件を満たしているように見える。そうであれば、安保理決議はなくても武力行使は可能であり、安保理には事後的に報告すれば足りる。
これは、「イスラム国」に対する空爆の場合、もっとも適切な理論構成であるように思われるが、このような理論構成が広く行なわれることについては不安を覚える。たとえば、1991年の湾岸戦争の場合はイラクがクウェートに侵攻したので集団的自衛権行使の要件である武力攻撃があったことは明らかである。しかし、実際にはそういう解釈、つまり国連憲章51条に基づく行動なので安保理決議は必要でないという解釈は米国も取らず、あくまで安保理決議の成立に努めた。それは正しいことであったと考える。もし、集団的自衛権の理論を持ちだすならば、一般的にいわゆる多国籍軍の場合も安保理決議は要らないということになるであろうが、はたしてそれは適切な解釈であろうか。
集団的自衛権を広く適用することは、国連のあり方についても問題がある。国連はたしかに不完全で、拒否権があるために期待に応じた働きができないのは事実であり、先日のオバマ大統領の国連総会での演説もそのことについての苦渋に満ちた考えが述べられていた。しかし米国といえども安保理を軽視したり無視しようとはしていない。やはり、国際紛争は安保理を中心に解決を図るべきであろう。集団的自衛権の考えを安易に持ち出すと安保理の機能を完全に無視することにつながるおそれがある。
今回の「イスラム国」に対する空爆に多数の国が直ちに賛同したのは、国際社会として一刻の猶予もならない人道問題が発生しているからであり、このことは集団的自衛権の行使の観点でも参考とすべきである。すなわち、国連憲章51条の集団的自衛権の行使は、はなはだしい人権・人道侵害を除去する場合に限るのがよいのではないか。人道侵害はどのような侵略の場合にも起こっているという反論があるかもしれないが、国連では人道法が徐々に整備され、非人道的とは、「無差別、過度の、市民に対する侵害」など概念的な整理が進んでおり、概念的混乱は心配しなくてよいだろう。「イスラム国」への空爆は、集団的自衛権と人道問題との関連を検討するよい機会になったのではないか。

2014.09.24

尖閣諸島に中国は何をしようとしているのか

THEPAGEに9月24日掲載されたもの。

「日本政府が尖閣諸島を国有化したのは2年前の9月でした。中国はこのことを問題視する発言をしていますが、中国はそれ以前の2008年頃から尖閣諸島の海域に公船を派遣するようになり、2010年9月には中国の漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりする事件を起こしました。それ以降も中国船は同海域への侵入を繰り返しています。日本政府が尖閣諸島を購入したのは、中国のこのような行動に対する日本国内の反発が過激にならないよう予防するためであり、法的には日本の中での所有権移転でした。
しかし、中国政府は国有化の真の意味について理解を示さず、日本政府の措置は日中関係を損なったという非難だけを一方的に繰り返していますが、国有化がなぜ日中間の問題になるのか日本国民は理解に苦しんでいます。中国の出方については慎重に見極める必要がありますが、中国共産党による専制支配という、日本などとは全く異なる政体であることが根本的な原因と思われます。
中国の公船による尖閣諸島海域への侵入状況は時ともにかなり変化し、今年は2013年と比べると回数はほぼ半減する傾向で推移してきました。しかし、中国の態度が変わったのではなさそうです。この間、中国は南シナ海でフィリピンやベトナムと対立する事件を起こしており、そのことが東シナ海での行動に影響を及ぼしていた可能性があります。また、東シナ海では中ロ両国による海上合同演習や、中国機による自衛隊機への異常接近などが過去数カ月間に起こっています。
9月7日から8日にかけて、中国海警局の公船が日本の排他的経済水域に入って調査を行なっているのが発見されました。国連海洋法によれば、他国の経済水域内で調査することは可能ですが、沿岸国の同意が必要です。中国の船はそのような同意を得ていませんでしたので、海上保安庁の巡視船が「同意のない調査は認められない」と注意しましたが、中国船は注意を無視して調査を継続しました。
さらに10日には同じく中国海警局の公船4隻が、20日には3隻が尖閣沖の日本の領海に侵入しています。2年前の国有化に時期を合わせて行動し、中国は強い姿勢であることを印象付けようとしたのでしょう。
 東シナ海や南シナ海での中国の行動は、「海警」など公船が単独で他国の海域へ侵入してくる場合と漁船との連携プレーの場合があります。漁船は武器を備えていることもあり、乗組員はいわゆる「海上民兵」である可能性があります。民兵は正規軍としての人民解放軍および国内の治安維持のための武装警察とともに中国の「武装力」を構成する3要素の一つであり、海上に配置された民兵は年間を通じて国境線や海上境界線でパトロール勤務をすることになっています。
 中国は、正規軍を動かすことには慎重であり、尖閣諸島では自衛隊が先に行動を起こすのを待ち構えています。いざとなった時に、防衛のためにやむをえず反撃したと言える形にしたいからでしょう。先に漁船を派遣するのも中国政府としての立場を説明しやすくするためと思われます。
 尖閣諸島に対して中国は、領有権をめぐって問題があることを日本に認めさせ交渉に持ち込むため、日本が音を上げるまで公船による侵入を繰り返そうとしています。航空機による異常接近、無人機の飛行、近海での海上軍事演習、さらには海洋調査などもそのような戦略の一環でしよう。また、それらに関する情報を中国国内に繰り返し流すことによって「中国が尖閣諸島を実効支配している」とアピールする狙いもあるようです。
 これは虚構であり、尖閣諸島を実効支配しているのは日本です。日本としては今後もこれが脅かされないよう海上保安庁を中心にしっかり対応していくことが肝要です。
 日本政府は国際法を重視・尊重しており、中国にもそうすることを求めています。国際司法裁判所での解決については、中国政府はそれを求めないという立場です。日本政府は中国が提訴するなら受けて立つという方針のようですが、さらに踏み込んで国際司法裁判所での解決が望ましいことを明確に表明すべきだと思います。第三国から理解を得るためにもそうすることが望まれます。」

2014.09.19

東アジアの安全保障を高める諸原則

2日目のZermatt Roundtableでプレゼンしたこと。テーマは、「お互いに受け入れ可能な原則に基づいて安全保障の枠組みを構成する」

東シナ海、南シナ海での紛争は緩和されていない。激化している面もある。昨日の議論で、冷戦的思考を脱却するべきだとの指摘があった。その通りだが、東アジアでは冷戦は終わっているか。冷戦の定義によるが、共産主義対自由世界という意味では終わっていない。中国は共産党の支配である。共産党支配がいいとか悪いとかいうのではない。共産党の支配と民主主義ではどうしても違いが出ることがある。しかし、重要なことは、「中国とその他」という対立にならないようにすることである。共産主義対民主主義という図式は取り除けないが、「中国とその他」の対立にはならないようにしなければならない。中国も韓国や日本も同じ地域の国家であり、共通にしなければならないことがたくさんある。
双方が受け入れ可能な原則がすでにあれば問題を解決したのも同然であるが、実際にはそのような状況ではなく、受け入れ可能な原則とは何かを探っていかなければ内らない。安全保障の関係では一般的な原則とオペレーショナルな原則がある。
一般的な原則としては、紛争は平和的に解決しなければならず、武力に訴えてはならないことがまず挙げられる。これは国連憲章で明確に定められており、また、日中間では平和友好条約で同じことが定められている。
具体的には、国際司法裁判所(ICJ)で解決を求めるというのが国際的に確立されたルールである。調停や仲裁もある。尖閣諸島について中国が領有権を主張するならば、ICJに出ていけばよいではないか。日本政府はそのことを決めたわけではないようだが、中国政府は拒否していると理解している。両方ともICJで解決を求めるべきだ。それが最も公平な解決方法だ。
オペレーショナルな規則としては海上での行動規範が重要である。ASEANと中国の間では現在行動宣言しかないが、行動規範に高めるべきである。中国と日本の間では緊急時の連絡体制の話し合いを行ってきたが、中断されたままであり、早期に再開すべきである。両国にとって利益だからである。米中では事故が起こった場合に協議することになっているが、これをルールに高めるべきでないか。かつて米ソ間でチキンレースがしばしばおこり、事故にもなったが、INCSEA協定が結ばれ、紛争は激減したと聞いている。これは米中や日中間でも当てはまるのではないか。ルールを作ると守る方が損をするという人もいるが、狭い了見である。
アジアの安全保障については、ASEANとARFが一定の積極的な役割を果たしている。欧州に比べるとまだまだ弱体であるが、ASEANも成長しつつある。それに日中韓、さらには米国が加わり協議をするASEANプラスは貴重な機会であり、有用だ。中国もそれを積極的に活用することを期待している。
シャングリラ対話は中国の軍と諸外国の代表などが直接話し合える重要な場であり、各国ともそれを重視していることを中国からのハイレベルの参加者がいるこの場で話しておきたい。

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