平和外交研究所

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2016.11.14

(短評)朴槿恵大統領に対する退陣要求

 11月12日、ソウル市で朴槿恵大統領の退陣を要求する大規模なデモが起こった。主催者側は100万人が参加したと言い、警察側の発表は26万人だったが、その後ソウル市は126万人と発表した。警察とソウル市の発表数字が大きく異なるのは不可解だが、それはさておくこととしよう。
 朴槿恵大統領の犯した過ちは何か。朴大統領は10月25日発表した談話で、友人のチェ・ソンシル氏を信頼して公務についてもアドバイスを受けたことを認め、「就任後、一定期間、一部の資料について意見を聞いたことはあるが、青瓦台及び補佐体系が完備されてからはやめた」と語った。
 韓国で問題になっているのはこれだけでない。「チェ・ソンシル氏は秘書官を大統領府に送り込み、彼らはほかの人が朴大統領に接近するのを困難にした。機密の文書がチェ・ソンシル氏に渡された。文化とスポーツに関する財団を作り、それに企業が拠出するよう圧力をかけた。チェ氏の娘の大学入学や馬術競技のためにサムスン電子にカネを出すよう働きかけた。「コリア体操」が採用されることに決まっていたのを「ヌルプム体操」に変更させた。朴大統領は人形のように操られている」などとも報道されている。文書のコピーや朴大統領が体操をしている映像もついている。セウォル号が沈没した際に大統領の所在が数時間不明であったことなどもあらためて蒸し返されている。
 しかし、朴大統領がこれらについて実際指示、要請あるいは圧力をかけたかどうかは明確でない。他の人が言っていることは、朴大統領に関する限り「疑惑」に過ぎないようだ。
 今回のデモは2008年の牛肉輸入の再開に対する抗議デモと比較されるが、その時、デモの対象は「牛肉の輸入再開」というのは明確な事実であった。しかし、今回、デモの対象である朴大統領の責任は明確になっていない。よく調査した結果、退陣を迫られるほどのことでないということになるかもしれない。
つまり、大統領の責任がはっきりしないのに最大126万ともいわれる数の人が、デモに参加していることに違和感を覚えるのだ。
 実際にデモに参加している人たちが言っていることを聞くと、経済状況、財閥の支配、教育などへの不満が混じっている一方、朴槿恵大統領の犯した過ちについての指摘はあまりにも抽象的だと思う。
野党もこぞって朴槿恵大統領の退陣を要求しているが、政治的な駆け引きの感じがある。

 韓国は日本にとって重要な国だ。だから本当の姿を知りたい。今回の朴大統領の退陣要求について、根拠があるか、ないか。韓国の特徴が出ていないか。あれこれ考えたのもそのためだ。
 朴大統領自身はどのように受け止め、また、どのように乗り切ろうとしているのか。朴大統領は事件が明るみに出て以来、韓国民が知りたいと思うことにすべて答えているわけではないが、過ちを起こしたことは率直に認め、検察の調査にも応じると言った。対応は速く、丁寧であった。低姿勢の印象もあった。
 朴大統領は首相の人事についても野党の要求に応じる姿勢であり、与野党が一致する人物であれば受け入れる、権限も広く認めると言っている。これに対し野党は、大統領から移譲される権限の範囲が明確でないという理由で首を縦に振っていないが、全体的に朴大統領はかなり譲歩しているのではないか。
 大統領自身は退陣するのか、これだけ国民の支持を失えば政権の維持は困難だとする声もよく聞くが、はたしてそうか。大統領の責任が明確になっていない以上辞職しないで何らかの妥協策を見出すべく頑張るのが筋だと思うが、いずれにしても今回の事件が終息するにはまだ時間が必要なようだ。

2016.11.02

(短文)韓国警備艇と中国漁船の衝突

 10月7日、仁川市の西方の海上で、中国漁船が取り締まりに当たっていた韓国の高速警備艇に体当たりして沈没させる事件が発生した。警備艇に乗っていた隊員は救助された。
 11月1日、やはり仁川沖で、違法操業を取り締まっていた韓国の警備艇5隻が中国漁船に対し機関銃で600~700発銃撃した。警備艇の規模は3千~1千トンであった。韓国側の発表では、違法操業の中国船2隻を拿捕するため警備員が中国船に乗船していたところ、周辺にいた30隻の中国漁船が威嚇してきたので警備員の安全のために警告射撃を行った由。

注 この海域では時折、類似の事件が起こっている。北朝鮮と中国の船が衝突したこともあった。
2016.11.01

(短評)朴槿恵韓国大統領の窮状

 朴槿恵大統領が私人に秘密文書を渡していたことが発覚し、韓国内で猛烈な批判が起こっている。同大統領の支持率は危険な水準まで落ちているそうだが、いくつか考えておきたいことがある。
 第1に、大統領に退陣を要求するデモはまことに激しい。帰国した同大統領の「友人の女性」、チェ・スンシル氏はデモ隊と取材記者の洪水で押しつぶされそうになり、脱げた靴を履きなおす余裕もないくらいだ。しかし、これまで判明していることと比べ、この批判の波は大きすぎはしないか。
 「ミル」という財団の設立に際して大統領府が不正に便宜を図ったのではないかという疑惑はたしかに浮かんでいる。問題があったことを裏付けるいくつかの関連事実も挙げられている。
 しかし、朴槿恵大統領がチェ・スンシルに「操られている」ということについては、父親同士からの関係で、かつ、新興宗教の影響があったことなど様々なことが言われているが、疑問だ。私は韓国政治に全く縁がなく、朴槿恵大統領の肩を持つわけではないが、同大統領は強い人だと思う。孤独であったことも自叙伝からうかがわれるが、そんな時、枕元に置いてある中国の古典を見ていたそうだ。四書五経のような有名な本ではない。普通の人は知らない古典だ。そのような人が、親しい友人であり、父親が宗教家であるとはいえ、チェ・スンシル氏の「操り人形」になるか。中国の古典の例は否定するほどの根拠でないが、簡単に「操り人形」説を信じるわけにいかない。
 第2に、朴槿恵大統領は秘密文書を渡したことを認め、謝罪した。また、チェ・スンシルも大きな罪を犯したことを自認した。どちらも謝罪するのが非常に早かった。それで批判を抑えられると思ったのか。実際にはそのような効果はあげられなかったようだが、早々と謝罪したことは一種の政治的ジェスチャーのような気もする。
 さらに、朴槿恵大統領はチェ・スンシルに近い側近の秘書官3名を更迭した。チェ・スンシルが送り込んだとも言われている秘書官で、評判は悪かったそうだ。
 ともかく、朴槿恵大統領の動きは速い。これは韓国に特有のことか。前任の李明博大統領は、野田首相が慰安婦問題についてなかなか動かないので激怒した。
 第3に、外交面でチェ・スンシルの影響は認められるか。今のところは、そのようなことはなさそうだ。外交と言えば、朴槿恵政権の初期においては日本に対する厳しい姿勢が目立った。しかし、今から約1年前から韓国の外交姿勢は日本に友好的・協力的になった。急展開したと言っても過言でないだろう。初期も後期も朴槿恵大統領自身の考えであったと思う。少なくとも、チェ・スンシルが一定の影響力を行使したという形跡は皆無であろう。

 以上3つの疑問は、部分的には断定して書いたが、基本的にはさらに検証すべきことだ。前任の李明博大統領、さらにその前の廬武鉉大統領とは逆に、朴槿恵大統領は任期の後半において親日的な姿勢を見せている。だんだんよくなってきたのだ。知人との関係で確かに過ちを犯したが、日韓関係に悪影響が及ばないことを願いたい。
 

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