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2014.01.30

有無相通ずる日韓両国

1月24日、キヤノングローバル戦略研究所のホームページに掲載されたもの。

「日韓関係は最悪の状態に落ち込んでおり、両国の首脳が直接会って話し合うこともない。昨年末には、安倍首相が靖国神社に参拝したことに関し朴槿恵大統領が強い言葉で批判した。
また、これと相前後して、南スーダンで国連の平和維持活動に参加している日韓両国の部隊の間で銃弾の貸し借りが行われたことが波紋を巻き起こした。それは、内戦が激化し、各国の部隊にも危険が及んでくる状況の中で、一方の部隊が他方に対し暫時銃弾を融通するという、ささやかな協力であったが、韓国政府のスポークスマンが、万が一の事態に備えるためであったと説明しつつも、「銃弾は不足していなかった」と言ったので様子がおかしくなった。その後の混乱のなかで韓国国防部では、「韓国軍が銃弾の提供を自衛隊に頼んだことは忘れてほしい」という発言まで出たそうである。
しかし、経済面で日本と韓国は深く結び付き、双方とも利益を得ている。日韓間の貿易を例に取ってみると、韓国は日本から昨年、6百億ドル近く輸入しており、これは同国の総輸入の約1割にあたる。
しかるに、韓国から日本への輸出は350億ドル弱で、輸入よりかなり少ない。このことを理由に、韓国は日本を必要としているが、日本は韓国を必要としていないとか、日本がその輸出を止めれば韓国は困ると言わんばかりの議論があるが、それは手前勝手な議論である。
韓国が日本から輸入している主な品目は、第1位が鉄鋼板、第2位が半導体、第3位がプラスチック製品であり、以下、平板ディスプレイ製造用装置、半導体製造装置、合金銑鉄および古鉄、鋼板製品およびその他の鉄鋼製品、船舶海洋構造物および部品、ガラス製品、基礎油粉となっている。日常生活では使わない品名が並んでいるが、要するに、最終消費財は少なく資材、部品、設備が圧倒的に多い(ジェトロ「日韓経済関係に関する基礎資料」2009年 その後数字は多少変わっているが、傾向は変わらない)。
韓国が必要とするモノや設備を日本が提供しているのは事実であるが、それは両国間貿易の一部分にすぎない。日本も韓国から輸入しており、おたがいに必要としている。つまり両国は有無相通じているのである。
しかもその態様は、必要か否かという観点では測れない。韓国の輸入については、どの国から調達してもよいのであるが、品質や価格を考慮して日本から輸入している。つまり経済的に有利だからそうしているのである。一方、日本も、韓国に売るのが利益になるので輸出している。
そもそも、貿易を行なう主体は両国の企業であり、何を輸入・輸出するべきか、両国の企業が一番よく知っている。開発援助、あるいは産業振興策などがからめば違ってくることもあるが、どちらの国の企業も、何がもっとも自社にとって有利なことかを厳密に判断し、取引を行なう。この結果が輸出入の数字となって現れるのであり、数字のバランスが取れていてもいなくても、双方は利益を得ているのである。
また、経済のグローバル化が著しく進展した現在、二国間の貿易が黒字か赤字かはあまり意味を持たなくなっている。韓国も日本も、また、中国、EU、米国などもそれぞれの利益を拡大するために貿易を行なっており、そのなかで、部分的に不均衡な数字が出てきてもたいした意味はない。日本との関係で赤字の韓国は中国との関係は逆で、大幅な黒字になっている。
以上は貿易の基本であり、だれでも知っているはずのことである。国民感情に訴える政治問題は話題になりやすいし、注意が向きがちであるが、おたがいに利益を得ているということは重要なことであり、そのことは大事にしたいものである。
日韓両国は古くから有無相通じてきた。とくに古代においては、日本が朝鮮(具体的な国名は別であるが、ここではそう総称する)から知識や技術を輸入した。中国を訪れた日本人僧侶が先に行っていた朝鮮人僧侶に助けてもらったこともあった。どちらがどれだけ他方を助けてきたか、量的な比較は困難であろうが、日本が助けてもらったことは少なくない。
日韓両国の首脳には、両国の間に存在する、物的な面でも、知的な面でも有無相通じてきた関係を十分考慮し、さらに発展させてもらいたい。そのため、いわゆる歴史問題も含めすべての問題について、無条件に、冷静に話し合ってもらいたい。日韓両国が協力すれば地域のためにも世界のためにも大きな力を発揮できる。
この小稿を書き終えようとした時に、対馬の寺院から盗まれ韓国で発見された後、現在は韓国文化財庁の管理下にある仏像の日本への返還を求める訴訟が韓国の市民団体によって提起されたという報道に接した。このように冷静な姿勢が今後の日韓関係の改善に資するものと信ずる。」

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2014.01.29

習近平の外交部人事

多維新聞(1月26日)は、外交部関係の一大人事異動について次のように報道している。

香港の雑誌報道によれば、楊潔篪前外相・国務委員は任期中職員の汚職を放任し、外交部内で規律違反がしばしば発生したことを問われ、引責辞職した由。李克強首相は外交部党委員会拡大生活会(注 「生活会」は批判・自己批判する会)に出席し、外交部に対し各方面から責任を問う声が上がっていることを明らかにし、「当面の問題を解決しなければならない。外交に関係する条件(注 外交人員のことか)、施設、保証(注 待遇のことか)は最も優れているが、政治素質、プロ素質、作風修養方面では問題が少なくない云々」と手厳しい発言をしたそうである。
また、広東の週刊誌『南方周末』は1月23日、次のような記事を掲載した。
「外交部の数百人に上る退職・休職幹部が、ここ十年来、非合法の投資案件に関わった。外交部の老幹部から成る顧問団はリベートや高額の利息の誘惑に負け、「緑源公司」に外交部の職員から1.5億元に上る資金を集めさせた。顧問団には局長級以上の元職員が含まれている」
「江沢民は総書記になって以来一貫して外交部を掌握してきた。銭其琛、唐家璇、李肇星、楊潔篪など歴代の外相は全員江沢民派である」
「最近、外交部内の江沢民派の勢力は弱体化している。外交部内は大幅に入れ替えられた。2014年1月9日発布されたマンパワー・社会保障部が発出した国務院工作人員の任免に関する通知によれば、王超商務部副部長(次官)が外交部副部長に転出、外交部部長助理の張明が副部長に昇格し、宋涛副部長は解任となる。王超は外交部で欧州関係、翻訳および文書事務を担当する。翟隽は駐仏大使に転出(注 すでに着任している)前駐仏大使の孔泉は党中央外事弁公室の副主任となる」
「従来外交部は特別で外交官だけで人事が行われていたが、一連の新人事は、他と交わらせ(掺沙子)、「近親繁殖」は許さないという習近平の考えによるものである」

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2014.01.28

中国人研究者の対日報道批判

「日本新華僑報」という在日中国人のサイトがある。日本のことをよく知っている中国人たちの目でいろんな分野の中国の報道や雑誌記事を転載しているので大変参考になる。「中国の軍事支出には中国の原則がある」という文章などは、「中国の国防費は主に、「必要に応じた支出」「整然とした優先順位」「抑制的な増加」の原則に基づいて決定される」など中国軍の宣伝に近いものも掲載(軍事科学院国防政策研究センター研究員が書いた一文の転載)しているので、注意して読む必要があるが、それはどこの国のメディアについても多かれ少なかれ言えることであろう。

香港の『大公報』紙が1月25日に、日本新華僑報が前日(24日)に転載した、ある一文について報道した。この文章は中国メディア大学の講師兼「察哈尔学会」の研究員である趙新利が書いたものである。ややこしい説明になったが、要するに、趙新利の文章を日本新華僑報が転載し、そのことについて大公報が報道したのである。
大公報の報道によれば、中国のメディアには読者を刺激するために、対日報道において「過度に解読したり、一部分だけを取り出して論じるきらいがあり(中国媒体对日报道有过度解读和断章取义之嫌)、一部の評論はさらに、あきらかに言語の暴力を使っている(部分评论文章还出现明显的“语言暴力)、言語、文化、立場などの原因で誤読が生じることがあるが、中日間ではさらに、捏造された虚偽のニュースがしばしば流れている(除了因语言、文化、立场等原因引发的误读之外,中日之间还经常出现捏造的假新闻)。
これはまことに冷静な指摘であり、胸のすくような率直さが感じられる。また、大公報の記事も冷静である。これが中国人の読者に広く伝わることを期待したい。

「察哈尔学会」とは何か。これは2009年に設立されたNGOで、本部は河北省尚義県察哈尔の「牧場」に置かれている(注 なぜ「牧場」かは分からない)。これは「公共外交」を研究し、また、伝播することに努めており、「官産学」協力の一種である。設立総会の主席は全国政治協商会議外事委員会副主任の韓方明博士が勤めた。以上は「中国網」の説明である。

なお、日本新華僑報のサイトで大公報が報道した記事を探してみたが、どうも見つからなかった。そういうことは私自身の恥になる可能性が大きいので普通は言わないが、ITについてはいろんなことがあるのであえて記しておく。

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