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2024.10.19
その1週間前には最高人民会議(国会に相当)を開いて憲法を改定した。その内容は公表されていないが、「統一」という表現を削除し、領土に関する条項を新設した可能性がある。2024年1月に行われた最高人民会議において、金正恩総書記は「今日、80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言し、また、北朝鮮憲法から「和解や統一の相手であり同族だという既成概念を完全に消し去る」ことが必要だと主張していた。また2023年末の朝鮮労働党中央委員会総会では、「韓国とは同族関係でなく、敵対的な国家関係」だと述べていた。
韓国との統一は建国以来北朝鮮の国家目標であり、金正恩総書記の爆弾発言は直ちに信用されなかったが、今回の最高人民会議での憲法改定は金総書記が本気であることを示唆している。
さらに金総書記は、韓国を「第一の敵対国」「不変の主敵」として教育することなども求めている。詳しくは不明であるが、これらについても北朝鮮はすでに決定したか、その方向に向かって進みつつある。
北朝鮮の韓国に対する姿勢が著しく挑発的になったのは、北朝鮮内部の変化も深くかかわっている。
金日成は北朝鮮建国の父であり、「偉大なる首領様」と尊称されるなど、その権威は絶大であった。ところが、2019年頃から変化が表れた。労働新聞の2019年3月の記事は孫の金正恩が書簡で「もし偉大さを強調するなどといって、首領(最高指導者)の革命活動や風貌を神格化すれば、真実を隠すことにつながる」との考えを表したことを伝えた(朝日新聞2020年5月22日)。労働新聞のこの報道は金日成の立場に変化が生じていることを示す最初の兆候であった。さらに2020年5月20日付の同新聞は「縮地法の秘訣」と題した記事で、抗日パルチザン時代の縮地法について霊的な技術を言ったものではないとして金日成・金正日時代の解釈とは異なる見解を伝えた。「縮地」とは道教の思想で、この術を使えば地中に隠れたり、あるいは、地面自体を縮めることで距離を接近させ、瞬間移動を行うことができるという教えであり、金日成と金正日はこれを使えると北朝鮮では言ってきた。
そして、金日成の肖像や銅像が公の場から撤去され始めた。これは以前の常識からすればありえないことである。北朝鮮の指導者は金日成から始まり、次はその子の金正日、さらにその次は金正日の子の金正恩と続いてきた。金正日は父の金日成に付き従って指導者となったが、映画鑑賞などが趣味の好き者であり、その権威は金日成には到底及ばなかった。さらに金正恩は年若くして指導者となり、経験は乏しい。北朝鮮を率いていけるか、疑問に思われていた。
金正恩はこの常識を覆し始めた。金日成の偶像崇拝をやめた(完全にはやめていない可能性もある)のに続いて、金日成の生誕年である1912年を元年とする「主体年号」の使用もやめてしまった。2024年10月13日付からは西暦だけを公に使用するようになった。11日夜に北朝鮮外務省が出した「重大声明」では主体年号も明記されていたが、12日夜の金与正(キム・ヨジョン)党副部長の談話発表以後は西暦だけが記されていた。
金総書記が自信をつけたのは2つの理由があると思う。1つは世界にとってはなはだ遺憾なことだが、核兵器および弾道ミサイルの開発・配備である。
北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルを開発・配備し、米国を攻撃することも可能になっていると自負している。このような軍事力は金正日のもとで開発をはじめ、金正恩の時代になって完成させたものである。これに比べると金日成時代には韓国と戦争したが、中国の助けがなければ負けていた。金日成時代にはそれでも強がりを言っていたが、核もミサイルもまだ保有していなかったのは明らかであり、北朝鮮の軍事力は米国などに敵うものでなかった、というのが金正恩総書記の考えであろう。
他の1つの理由はロシアとの関係で自信を深めたことである。ウクライナ侵攻がきっかけとなり、北朝鮮はロシアから弾薬などの提供を求められ、これに応じた。ウクライナでは北朝鮮製兵器の残骸が各処に転がっているという。
金正恩総書記は2023年9月ロシアの極東地域を訪問し、4年前の訪問時とは比較にならない熱烈な歓迎を受けた。当初、それは表面的なことにすぎないと高をくくる見方が多かったが、北朝鮮は兵器および兵員を提供し、ロシアは北朝鮮への依存を強めているのは事実のようである。ロシアがウクライナとの関係で劣勢にあるのかどうか、それは知らないが、ウクライナ戦争は北朝鮮の立場を一気に高めたのである。
ゼレンスキー・ウクライナ大統領は10月中旬、ベルギーでEU・ヨーロッパ連合の首脳会議に出席したあとの記者会見で、1万人規模の北朝鮮兵がロシアで訓練されていることを把握していると述べた。すでに数千の北朝鮮兵がロシアとウクライナの国境付近に配備されているとも、また一部の北朝鮮兵は脱走しているともいわれている。
これらの出来事とほぼ同時期、プーチン大統領は、さる6月19日に北朝鮮と締結した新条約「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准のためにロシア国会に提出した。その第4条は、露朝いずれかが武力侵攻を受け、戦争状態に陥った場合、「遅滞なく、保有するあらゆる手段で軍事的、その他の援助を提供する」としている。冷戦時代の軍事同盟の復活を意味するものであるといわれている。
金正恩総書記がロシアとの関係で自信をつけていることは明らかである。北朝鮮が韓国を相手にしないという態度を取り始めたことも自信の表れであろう。北朝鮮の立場からすれば、いまや軍事面で世界的な影響力を持ち始めている北朝鮮として、韓国との関係にいつまでもかかずらわっていたくない。北朝鮮は核保有国である。その実態にふさわしいのは分裂国家という半人前でなく、独立した強国であると考えているのではないか。
1年前と比べ、北朝鮮の行動は一層過激になっているが、目指すべき方向は変わっておらず、北朝鮮の力を認めてくれるロシアとの関係を最重要視しつつ、金日成の権威にとらわれない金正恩のリーダーシップを確立すること、韓国との統一問題にかかずらわない独立国家を樹立することであり、その半ばは達成している、ないし達成しつつあるとみなしているのではないか。
一方、中国とはこれまでの関係を維持するにとどめるのではないかと推測される。韓国メディアなどでは、金正恩総書記が中国を「宿敵」と呼んだなどと報道されているが、北朝鮮と中国の関係は複雑である。今後の推移を見届ける必要があろう。
北朝鮮が最近挑発的行動を強めている 2024年秋
北朝鮮は2024年10月15日、韓国とつながる京義線と東海線の南北連結道路と鉄道を爆破し通行不能にした。その1週間前には最高人民会議(国会に相当)を開いて憲法を改定した。その内容は公表されていないが、「統一」という表現を削除し、領土に関する条項を新設した可能性がある。2024年1月に行われた最高人民会議において、金正恩総書記は「今日、80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言し、また、北朝鮮憲法から「和解や統一の相手であり同族だという既成概念を完全に消し去る」ことが必要だと主張していた。また2023年末の朝鮮労働党中央委員会総会では、「韓国とは同族関係でなく、敵対的な国家関係」だと述べていた。
韓国との統一は建国以来北朝鮮の国家目標であり、金正恩総書記の爆弾発言は直ちに信用されなかったが、今回の最高人民会議での憲法改定は金総書記が本気であることを示唆している。
さらに金総書記は、韓国を「第一の敵対国」「不変の主敵」として教育することなども求めている。詳しくは不明であるが、これらについても北朝鮮はすでに決定したか、その方向に向かって進みつつある。
北朝鮮の韓国に対する姿勢が著しく挑発的になったのは、北朝鮮内部の変化も深くかかわっている。
金日成は北朝鮮建国の父であり、「偉大なる首領様」と尊称されるなど、その権威は絶大であった。ところが、2019年頃から変化が表れた。労働新聞の2019年3月の記事は孫の金正恩が書簡で「もし偉大さを強調するなどといって、首領(最高指導者)の革命活動や風貌を神格化すれば、真実を隠すことにつながる」との考えを表したことを伝えた(朝日新聞2020年5月22日)。労働新聞のこの報道は金日成の立場に変化が生じていることを示す最初の兆候であった。さらに2020年5月20日付の同新聞は「縮地法の秘訣」と題した記事で、抗日パルチザン時代の縮地法について霊的な技術を言ったものではないとして金日成・金正日時代の解釈とは異なる見解を伝えた。「縮地」とは道教の思想で、この術を使えば地中に隠れたり、あるいは、地面自体を縮めることで距離を接近させ、瞬間移動を行うことができるという教えであり、金日成と金正日はこれを使えると北朝鮮では言ってきた。
そして、金日成の肖像や銅像が公の場から撤去され始めた。これは以前の常識からすればありえないことである。北朝鮮の指導者は金日成から始まり、次はその子の金正日、さらにその次は金正日の子の金正恩と続いてきた。金正日は父の金日成に付き従って指導者となったが、映画鑑賞などが趣味の好き者であり、その権威は金日成には到底及ばなかった。さらに金正恩は年若くして指導者となり、経験は乏しい。北朝鮮を率いていけるか、疑問に思われていた。
金正恩はこの常識を覆し始めた。金日成の偶像崇拝をやめた(完全にはやめていない可能性もある)のに続いて、金日成の生誕年である1912年を元年とする「主体年号」の使用もやめてしまった。2024年10月13日付からは西暦だけを公に使用するようになった。11日夜に北朝鮮外務省が出した「重大声明」では主体年号も明記されていたが、12日夜の金与正(キム・ヨジョン)党副部長の談話発表以後は西暦だけが記されていた。
金総書記が自信をつけたのは2つの理由があると思う。1つは世界にとってはなはだ遺憾なことだが、核兵器および弾道ミサイルの開発・配備である。
北朝鮮は核兵器や弾道ミサイルを開発・配備し、米国を攻撃することも可能になっていると自負している。このような軍事力は金正日のもとで開発をはじめ、金正恩の時代になって完成させたものである。これに比べると金日成時代には韓国と戦争したが、中国の助けがなければ負けていた。金日成時代にはそれでも強がりを言っていたが、核もミサイルもまだ保有していなかったのは明らかであり、北朝鮮の軍事力は米国などに敵うものでなかった、というのが金正恩総書記の考えであろう。
他の1つの理由はロシアとの関係で自信を深めたことである。ウクライナ侵攻がきっかけとなり、北朝鮮はロシアから弾薬などの提供を求められ、これに応じた。ウクライナでは北朝鮮製兵器の残骸が各処に転がっているという。
金正恩総書記は2023年9月ロシアの極東地域を訪問し、4年前の訪問時とは比較にならない熱烈な歓迎を受けた。当初、それは表面的なことにすぎないと高をくくる見方が多かったが、北朝鮮は兵器および兵員を提供し、ロシアは北朝鮮への依存を強めているのは事実のようである。ロシアがウクライナとの関係で劣勢にあるのかどうか、それは知らないが、ウクライナ戦争は北朝鮮の立場を一気に高めたのである。
ゼレンスキー・ウクライナ大統領は10月中旬、ベルギーでEU・ヨーロッパ連合の首脳会議に出席したあとの記者会見で、1万人規模の北朝鮮兵がロシアで訓練されていることを把握していると述べた。すでに数千の北朝鮮兵がロシアとウクライナの国境付近に配備されているとも、また一部の北朝鮮兵は脱走しているともいわれている。
これらの出来事とほぼ同時期、プーチン大統領は、さる6月19日に北朝鮮と締結した新条約「包括的戦略パートナーシップ条約」を批准のためにロシア国会に提出した。その第4条は、露朝いずれかが武力侵攻を受け、戦争状態に陥った場合、「遅滞なく、保有するあらゆる手段で軍事的、その他の援助を提供する」としている。冷戦時代の軍事同盟の復活を意味するものであるといわれている。
金正恩総書記がロシアとの関係で自信をつけていることは明らかである。北朝鮮が韓国を相手にしないという態度を取り始めたことも自信の表れであろう。北朝鮮の立場からすれば、いまや軍事面で世界的な影響力を持ち始めている北朝鮮として、韓国との関係にいつまでもかかずらわっていたくない。北朝鮮は核保有国である。その実態にふさわしいのは分裂国家という半人前でなく、独立した強国であると考えているのではないか。
1年前と比べ、北朝鮮の行動は一層過激になっているが、目指すべき方向は変わっておらず、北朝鮮の力を認めてくれるロシアとの関係を最重要視しつつ、金日成の権威にとらわれない金正恩のリーダーシップを確立すること、韓国との統一問題にかかずらわない独立国家を樹立することであり、その半ばは達成している、ないし達成しつつあるとみなしているのではないか。
一方、中国とはこれまでの関係を維持するにとどめるのではないかと推測される。韓国メディアなどでは、金正恩総書記が中国を「宿敵」と呼んだなどと報道されているが、北朝鮮と中国の関係は複雑である。今後の推移を見届ける必要があろう。
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